世界貿易機関(WTO)

GATSケース・スタディ

平成31年3月4日

GATSケース・スタディ

(ケース1)A国の国内において支店の開設を行おうとしたら,米国の企業には認可が下りたのに,日本企業には下りなかった。
(ケース2)A国での支店開設に当たって土地を取得した際,土地取得税の控除を受けようとしたら,日本に同様な税控除がないことを理由に拒否された。

(ケース1)
GATS第2条には最恵国待遇の義務が規定されており,例えば,政治・経済情勢に基づいて関係の深い特定国を優遇することは,A国が「免除表」上に(ケース1)のような措置をとる旨明記されていない場合,A国の措置はGATS違反となる。
ただし,特定の経済統合地域(例:EU等)の加盟国間での優遇措置は認められている(第5条)。
(ケース2)
第2条に従い,A国は,免除表に記載のない限り,相互主義に基づいて日本国政府がA国と同様の措置を日本国内でA国の事業者に対してとっていないことを理由に,日本の事業者に対して最恵国待遇の供与を拒否することはできない。

(ケース3)B国においてサービスを提供しようとした際,認可や検査の基準が曖昧で,担当官により恣意的に運用されており,合理性,客観性,公平性が保たれていない。
(ケース4)B国の当局に申請を行ったが,いつまでたっても音沙汰がない。仕方がないので問い合わせたが,処理状況に関する情報も与えてくれない。

(ケース3)
GATS第6条では,加盟国の措置の内容について,その合理性,客観性,公平性が確保されることを加盟国の義務と規定しており,B国の措置はGATS違反の可能性がある。
(ケース4)
GATS第6条において,加盟国は,外国事業者からの申請に対して,合理的な期間内に申請に対する決定の内容を申請者に通知すること,また,申請者からの申請の処理状況に関する照会に対しては,不当に遅滞することなく応じることが義務付けられており,B国の措置はGATS違反となる可能性がある。
(注)国内規制に関するGATS第6条の規定は,上記のようなケースを想定しているが,規定振りが抽象的なため,より具体的な規律を求めて議論が行われている。

(ケース5)C国の当局から営業免許を得ようとしたら,他の事業者の経営を圧迫するという理由から,すべての基準を満たしているにもかかわらず免許が下りない。
(ケース6)現地を監督する日本人従業員を派遣しようとしたら,いつまでたってもビザが下りない。また,現地人を役員に入れなければならない,日本人従業員の人数が制限されているなど当局の入管,労働規制で必要な労働者が雇用できない。
(ケース7)C国に進出しようとしたら,地元企業との合弁を強制された。また,地元企業の買収は外資規制があってできない。

(ケース5)
GATS第16条第2項(a)によれば,加盟国が約束表に記載した分野において,需給調整等に基づくサービス提供者の数の制限(免許の発給件数の制限等)は禁止されており,C国の「約束表」上でこの分野が約束されているにもかかわらず留保が為されていない場合,GATS違反の可能性がある。
(ケース6)
GATS第16条第2項(d)において,(ケース5)と同様,需給調整等に基づく雇用者数の制限(現地人の雇用義務)は禁止されており,「約束表」上何らの留保も無い場合,GATS違反の可能性がある。
(ケース7)
ケース7の場合は,GATS第16上第2項(e)で禁止される拠点の形態の制限に該当する。したがって上記と同様C国がこの分野を約束し,かつ約束表上留保がなされていない場合,GATS違反の可能性がある。

(ケース8)外資系企業であるとの理由により,税金が重い,過重な行政手続を要求されるなど,地元企業と同様な取扱をD国の当局から受けていない。

(ケース8)
GATS17条では,加盟国が,その約束表に記載した分野において,加盟国のサービス提供者に対して自国の同種のサービス提供者に与える待遇よりも不利な待遇を与えることを禁じており,D国が自国約束にこの分野を約束しているにもかかわらず,約束表上留保を記載していない場合,GATS違反である可能性がある。

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