平成20年5月
(1)総論
WTO(世界貿易機関:World Trade Organization)は、ウルグァイ・ラウンド交渉の結果1994年に設立が合意され、1995年1月1日に設立された国際機関です。WTO協定(WTO設立協定及びその附属協定)は、貿易に関連する様々な国際ルールを定めています。WTOはこうした協定の実施・運用を行うと同時に新たな貿易課題への取り組みを行い、多角的貿易体制の中核を担っています。
(2)ガットからWTOへ
1930年代の不況後、世界経済のブロック化が進み各国が保護主義的貿易政策を設けたことが、第二次世界大戦の一因となったという反省から、1947年にガット(関税及び貿易に関する一般協定)が作成され、ガット体制が1948年に発足しました(日本は1955年に加入)。貿易における無差別原則(最恵国待遇、内国民待遇)等の基本的ルールを規定したガットは、多角的貿易体制の基礎を築き、貿易の自由化の促進を通じて日本経済を含む世界経済の成長に貢献してきました。
ガットは国際機関ではなく、暫定的な組織として運営されてきました。しかし、1986年に開始されたウルグァイ・ラウンド交渉において、貿易ルールの大幅な拡充が行われるとともに、これらを運営するため、より強固な基盤をもつ国際機関を設立する必要性が強く認識されるようになり、1994年のウルグァイ・ラウンド交渉の妥結の際にWTOの設立が合意されました。
(3)WTOの特徴
WTO協定により多角的貿易体制はガット時代と比べ次のように強化されました。
(4)WTOの現状(2001年12月現在)
事務局:
ジュネーヴ(スイス)
事務局長 :
マイク・ムーア(元ニュージーランド首相)。任期は2002年8月末まで。次期事務局長(任期は2002年9月より3年間)後任はタイのスパチャイ前副首相。
事務局員 :
約500名(うち日本人3名)
加盟国:
143ヶ国・地域(EUに関しては、15の構成国に加えてEC(欧州共同体)が独自に加盟国の地位を有し、ECがその構成国を代表して交渉を行っている)。現在、ロシアなど、25ヶ国・地域が作業中。(2001年12月14日現在)
予算:
約1億2,700万ドル(2000年度)、日本の分担率7.214%(米、独に次ぎ第3位)
閣僚会議:
WTOの最高意思決定機関。少なくとも2年に1回開催。
第1回:1996年12月、シンガポールにて開催。
第2回:1998年5月、ジュネーヴにて開催。
(多角的貿易体制50周年記念会合が同時に開催されました。)
第3回:1999年11月30日-12月3日、シアトル(米国)にて開催。
第4回:2001年11月9日-13日、ドーハ(カタル)にて開催予定。
主要機関:
WTO機構図参照(PDF)
任務:
(A)WTO設立協定及び多角的貿易協定の実施・運用等
(B)多角的貿易関係に関する交渉の場及びその実施の枠組みの提供
(C)紛争解決了解の運用
(D)貿易政策検討制度の運用
(E)IMF、世界銀行及びその関連機関との協力
WTO事務局ホームページ(但し英語・仏語・西語のみ)
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(1)ラウンドとは何か
ガット締約国は過去8度にわたり、集中的に多角的交渉を行ってきました。その中でも1960年に開始された第5回交渉(ディロン・ラウンド)以降、ガットにおける多角的交渉は「○○ラウンド交渉」あるいは単に「○○ラウンド」と呼ばれています。
(「ラウンド」の公式な定義はなく、WTO次期自由化交渉が「○○ラウンド」と呼ばれるかどうかも現時点では決まっていませんが、このページでは便宜上「新ラウンド」という表現を用いています。)
交渉の通称 | 交渉期間 | 参加国・地域数 | |
第1回交渉 | 1947年 | 23ヶ国・地域 | |
第2回交渉 | 1949年 | 13ヶ国・地域 | |
第3回交渉 | 1951年 | 38ヶ国・地域 | |
第4回交渉 | 1956年 | 26ヶ国・地域 | |
第5回交渉(ディロン・ラウンド) | 1960年-1961年 | 26ヶ国・地域 | |
第6回交渉(ケネディ・ラウンド) | 1964年-1967年 | 62ヶ国・地域 | |
第7回交渉(東京ラウンド) | 1973年-1979年 | 102ヶ国・地域 | |
第8回交渉(ウルグァイ・ラウンド) | 1986年-1994年 | 123ヶ国・地域 |
(解説)ディロン、ケネディはそれぞれの交渉の提唱者(ディロン米国務長官、ケネディ米大統領)。東京、ウルグァイはそれぞれの交渉が開始された会議の開催地。
初期の交渉では専ら締約国の関税引下げが対象でしたが、次第に関税以外の貿易関連ルールの必要性が高まりました。ケネディ・ラウンド以降、そうしたルールが定められるようになり、ウルグァイ・ラウンドでは、前述した通り、WTO協定(WTO設立協定及びその附属協定)が作成されました。
(2)「合意済み課題」と新ラウンド
WTO協定の中には、将来の交渉や協定見直し等について明文の規定をおいているものがあります。例えば、農業協定第20条は「加盟国は(中略)実施期間(注:1995年に開始する6年間)の終了の1年前にその過程を継続するための交渉を開始することを合意する」と規定しており、サービス貿易一般協定第19条1は「加盟国は(中略)世界貿易機関協定が効力を生ずる日(注:1995年1月1日)から5年以内に引き続き交渉のラウンドを開始し、その後も定期的に行う」と規定しています。その他、閣僚会議での決定等を含め、既に開始が合意されている将来の交渉や見直しを「合意済課題(ビルト・イン・アジェンダ)」といいます。
日本やECなどは、農業やサービス分野の交渉が行われる機会に、他の分野も含めた包括的な交渉を開始することを提唱して、第2回WTO閣僚会議(98年5月)に臨みました。これに対し米国やカナダは、「合意済課題」以外にも広範な分野の交渉を行うことは支持するものの、包括的な交渉よりは幾つかの分野を特定して交渉の対象とするべきであるとの立場で、また、多くの途上国は、新たな分野の交渉を行うよりもまず既存の協定や合意の実施の徹底を図るべしとの考えで、第2回閣僚会議に臨みました。
(3)第2回ジュネーヴ閣僚会議での決定
第2回WTO閣僚会議で採択された閣僚宣言では、新ラウンド交渉の開始に関する具体的な決定はなされませんでしたが、第3回閣僚会議で決定を行えるように、一般理事会が定期的に特別会合を開催して、「WTOの作業計画(十分広範な更なる自由化を含む)」及び「作業計画の組織及び運営(作業の範囲、構成及び時間的枠組みを含む)」についての勧告を提出する、という表現で、WTO新ラウンド交渉の準備プロセスを開始することを決定しました。
第2回閣僚宣言(英文/和文仮訳)
電子商取引に関する宣言(英文/和文仮訳)
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新ラウンド交渉の範囲について、ジュネーヴ閣僚宣言は第9パラグラフにおいて次のように規定しています。
一般理事会の作業計画は、以下を含むものとする。
(a)次の事項に関する勧告
(i)加盟国によって提起されるものを含む、既存の協定及び決定の実施に関する問題
(ii)既にマラケシュにおいてマンデートが与えられた交渉の予定通りの開始を確保すること
(iii)その他の既存の協定及びマラケシュにおいて採択された決定で既に規定されている将来の作業
(b)シンガポールにおいて開始された作業計画に基づくその他のあり得べき将来の作業に関する勧告
(c)後発開発途上国に関するハイレベル会合のフォローアップに関する勧告
(d)加盟国間の多角的貿易関係に関して加盟国から提案され、合意されるその他の事項の検討の結果による勧告
(解説)
(a)
(i)WTO協定(WTO設立協定及びその附属協定)や、その後WTOにおいて合意された事項が着実に実施されているか、もし実施されていない事項があるならばどのようにすればよいかという問題です。
(ii)農業協定やサービス貿易一般協定に規定されている将来の交渉のように、WTO協定を採択したマラケシュ閣僚会合(1994年4月)において将来交渉を行うことが決定されているものです。
(iii)その他、例えば貿易関連知的所有権協定の見直しのように、WTO協定で既に定められている作業(協定の一部見直し等)です。
(b)1996年12月にシンガポールで開催された第1回WTO閣僚会議において、「貿易と投資」「貿易と競争政策」「政府調達の透明性」のそれぞれに関する作業部会が設置され、また、貿易の円滑化に関する調査と分析作業が開始されました。
(c)1997年10月に開催された後発開発途上国(国連が指定した48ヶ国)支援のためのハイレベル会合を受け、後発開発途上国に対する支援をどうするか等の問題です。
(d)上記以外にも、加盟国が提起するいかなる事項(例えば、鉱工業品の関税交渉や、既存協定の見直しでこれまでに合意されていないもの等)も、一般理事会で合意されれば新ラウンド交渉の範囲として作業計画の勧告に含めることが可能です。
新ラウンドの交渉対象分野については、上述の通り、一般理事会特別会合において議論されることになります。既に交渉の対象となっている分野や今後対象となり得る分野の例としては下記が挙げられます。(下記以外にも加盟国が提起する分野は一般理事会の決定を得て交渉対象とすることが可能です。)
(1)交渉開始が既に合意済みの分野(ビルト・イン・アジェンダ)
(2)関税引き下げ交渉
(3)その他の分野
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