(1) パプア・ニューギニア(PNG)は、太平洋島嶼国中最も広い国土と多数の人口を有し、かつ資源にも恵まれ、1975年の独立以来、域内における指導的国家の一つである。97年2月、ブーゲンビル問題解決のために傭兵を導入しようとしたチャン首相に対し、国防軍司令官が、首相の辞任を要求したため政局が混乱した(サンドライン事件)。一時職を離れたチャン首相は同年6月に職務復帰したものの、直後の総選挙で落選した。同年7月末の議会で、スケイト新首相が選出された。
ブーゲンビル問題については、スケイト新政権の成立以降、ニュー・ジーランドを仲介とした和平に向けた動きが活発化し、98年1月、「リンカーン和平合意」(恒久停戦、PNG政府軍の段階的撤退、近隣諸国による停戦監視団の派遣等)が採択され、同年4月に恒久停戦合意の署名が行われた。
99年7月にはスケイト首相が辞任し、モラウタ漁業大臣が新首相に選出されている。
(2) 外交面では、豪州及び太平洋島嶼国との協力関係重視を基本としつつも、豪州依存からの脱却を指向し、諸外国との関係緊密化へと多角化を進めてきている。同国は93年11月APECへの正式参加が認められ、太平洋島嶼国はもとより、ASEAN諸国や東アジア諸国との関係強化を図っている。
(3) 経済面では、自給自足経済と貨幣経済が混在する二重構造を有し、一次産業を主体としている。主要輸出産品は金、銅、石油、木材等であり、特に、金、銅は輸出額の約6~7割を占めている。主な貿易相手国は我が国、豪州、ドイツ、米国等である。
チャン政権下では、世銀・IMFとの経済構造調整融資でマクロ経済の健全化を目的とした財政支出の抑制、金融引き締め、通貨切り下げ、変動相場制の導入に取り組んだ。
98年は、主要輸出先であるアジア諸国が経済的に苦況に陥っている影響で、経済は低
(参考1)主要経済指標等
- | 90年 | 95年 | 96年 | 97年 | |
人口(千人) | 3,915 | 4,302 | 4,401 | 4,501 | |
名目GNP | 総額(百万ドル) | 3,372 | 4,976 | 5,049 | 4,185 |
一人当たり(ドル) | 860 | 1,160 | 1,150 | 930 | |
経常収支(百万ドル) | -75.7 | 674.1 | 313.2 | - | |
財政収支(百万キナ) | -106.65 | - | - | - | |
消費者物価指数 | - | - | - | - | |
DSR(%) | 37.2 | 20.8 | 12.7 | 15.0 | |
対外債務残高(百万ドル) | 2,594 | 2,513 | 2,354 | 2,273 | |
為替レート(年平均、1キナ=USドル) | 1.0467 | 0.7835 | 0.7588 | 0.6975 | |
分類(DAC/国連) | 低中所得国/- | ||||
面積(千㎞2) | 452.9 |
(参考2)主要社会開発指標
- | 90年 | 最新年 | - | 90年 | 最新年 | |
出生時の平均余命 (年) |
55 | 58(97年) | 乳児死亡率 (1000人当たり人数) |
56 | 61(97年) | |
所得が1ドル/日以下 の人口割合(%) |
- | - | 5歳未満児死亡率 (1000人当たり人数) |
80 | 82(97年) | |
下位20%の所得又は 消費割合(%) |
4.5(96年) | 4.5(96年) | 妊産婦死亡率 (10万人当たり人数) |
900(80-90年平均) | 370(90-97年平均) | |
成人非識字率(%) | 48 | 28(95年) | 避妊法普及率 (15-49歳女性/%) |
4(80-90年平均) | 26(90-98年平均) | |
初等教育純就学率 (%) |
73 | - | 安全な水を享受しうる 人口割合(%) |
34(88-90年平均) | 31(96年) | |
女子生徒比率 (%) |
初等教育 | 44 | 45(96年) | 森林面積(1000km2) | 360 | 369(95年) |
中等教育 | 38 | 39(96年) |
迷している。また、技術・資本等の外国への依存及び慣習的土地所有制(国土の95%は部族が所有)に起因する問題も抱えている。
(4) f我が国との間では、独立以来、友好関係を構築している。経済面では、我が国はPNGにとり第二位の貿易相手国(第一位は豪州)となっている。97年3月には日・PNG航空協定が締結され、7月に国営・ニューギニア航空の関西空港乗り入れが開始されたが、98年4月同社の経営不振のため我が国との直行便の運航は停止された。
PNGは、南太平洋フォーラム(SPF)、太平洋共同体(PC)を通じた南太平洋諸国との友好関係の維持・発展を重視、域内最大国として指導的地位にあり、我が国とは独立以来一貫して友好的な関係を維持してきている。また、近年経済改革にも努力しており、95年には貿易・投資の自由化、規制緩和、公務員数の削減等を条件に世銀の構造調整融資(358万米ドル)を受けている。最大の援助国である豪州が援助を増加させていないこともあり、我が国に対する期待が高まっている。以上を踏まえ、我が国は同国の開発ニーズに即した幅広い援助を実施している。我が国の二国間援助実績(97年までの支出純額累計)は、大洋州地域では最大の受取り国となっており、同国にとり85年以降は我が国が、豪州に次ぐ第二位の二国間ODA供与国となっている。
我が国はPNGの独立前から開発調査を実施し、独立当初より無償資金協力、研修員受入れ等の技術協力等の経済協力を実施してきている。有償資金協力については、道路・空港、エネルギー等インフラ整備、農業開発等について協力を実施している。88年度に供与された「ポートモレスビー国際空港整備計画(1)」により、空港の安全かつ効率的な運営を図るため、老朽化の著しい誘導路、ターミナルビル等の改修整備を行い、98年3月に新空港が開港した。また、95年度に供与された同計画(2)では、航空保安施設、外部電力配電施設等の整備を行っている。
無償資金協力では従来より教育、保健・医療分野及びインフラ整備を中心に援助を行ってきており、域内第一位の供与実績となっている。近年は運輸、通信等のインフラ整備に対しても供与されている。「新ラバウル(トクア)空港緊急整備計画」が96年度から2カ年にわたり実施され、火山噴火により閉鎖されたラバウル空港の代替空港として隣接するトクア空港を緊急に整備した。また、「東ニューブリテン州国営ラジオ局再建計画」が97年度から2カ年にわたり実施され、火山噴火により被災したラジオ放送局の復旧のため、スタジオ棟及び送信施設の再建並びに放送機材の整備等を行った。また98年度から2か年にわたり、「ハイランド国道ウミ橋架け替え計画」を実施し、地震等により一部が崩壊した同橋の整備を行っている。97年の旱魃被害に対し、災害緊急援助と食料援助を実施し、また、98年7月の津波災害に際して、緊急援助隊を派遣するとともに、緊急無償資金(30万ドル)及び医薬品等の緊急援助物資の供与を行った。
技術協力については、79年に青年海外協力隊派遣取り決めを締結したほか、83年にはJICA事務所も開設されるなど、技術協力実施体制は整備されている。97年度までの協力隊派遣累計実績では297名で、サモアに次ぎ域内第二位となっている。また、漁業関係をはじめとする専門家派遣、単独機材供与も頻繁に実施され、森林研究所に対するプロジェクト方式技術協力や、ポートモレスビー市首都圏下水道整備にかかる開発調査、太平洋青年招へい事業が実施されるなど多岐にわたって協力が行われている。
なお、97年2月には、プロジェクト確認調査団を派遣し、個別プロジェクトに関する協議を通じて援助重点分野、今後の援助の方向性等について意見交換を行った。
(1)我が国のODA実績 |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 贈 与 | 政府貸付 | 合 計 | |||
無償資金協力 | 技術協力 | 計 | 支出総額 | 支出純額 | ||
94 95 96 97 98 |
14.28(-) 28.71(62) 14.18(15) 16.99(35) 19.65(42) |
9.95(-) 8.65(19) 9.30(10) 10.24(21) 9.19(19) |
24.23(-) 37.36(81) 23.48(24) 27.24(55) 28.83(61) |
3.00 14.93 77.51 29.59 27.53 |
-2.40(-) 8.74(19) 72.70(76) 21.97(45) 18.44(39) |
21.83(100) 46.11(100) 96.18(100) 49.20(100) 47.27(100) |
累計 | 191.48(32) | 125.18(21) | 316.66(53) | 362.40 | 281.57(47) | 598.26(100) |
(注)( )内は、ODA合計に占める各形態の割合(%)。
(2)DAC諸国・国際機関のODA実績
DAC諸国、ODA NET |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | うち日本 | 合 計 | ||||||||||
95 96 97 |
|
|
|
|
|
46.1 96.2 49.2 |
300.5 350.3 291.9 |
国際機関、ODA NET |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | その他 | 合 計 | ||||||||||
95 |
|
|
|
|
|
0.7 0.0 -1.1 |
72.8 32.6 57.1 |
(3)年度別・形態別実績 |
(単位:億円) |
年度 | 有償資金協力 | 無償資金協力 | 技術協力 | ||
90年度 までの 累計 |
458.91億円 (内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照 |
101.95億円 内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照 |
67.12億円
|
||
91 | 66.35億円
構造調整計画 (66.35) |
18.88億円 第一次地方病院改修計画(2/2期)(91)(93)(97) |
10.30億円
|
||
92 | なし |
17.39億円 第二次地方病院改修計画(2/2期)(93) (16.41) |
10.19億円
|
||
93 | なし |
12.43億円 ゲレフ高校建設計画(1/2期)(97)(11.25) |
12.93億円
|
||
94 | なし |
20.18億円 ゲレフ高校建設計画(2/2期-1)(97) (4.13) |
6.31億円
|
||
95 | 43.09億円
ポートモレスビー国際空港 |
16.46億円 ゲレフ高校建設計画(2/2期-2)(97) (4.84) |
7.21億円
|
||
96 | なし |
17.90億円 新ラバウル(トクア)空港緊急整備計画(I期) (5.91) |
10.21億円
|
||
97 | なし |
27.06億円 新ラバウル空港緊急整備計画(国債/2期) (19.46) |
12.38億円
|
||
98 | なし |
11.00億円 ハイランド国道ウミ橋架け替え計画(国債1/2) (4.61) |
9.77億円
|
||
98年度 までの 累計 |
568.35億円 |
243.24億円 |
146.37億円
|
(注) |
1. | 「年度」の区分は、有償資金協力は交換公文締結日、無償資金協力及び技術協力は予算年度による。(ただし、96年度以降の実績については、当年度に閣議決定を行い、翌年5月末日までにE/N署名を行ったもの。) |
2. | 「金額」は、有償資金協力及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベースによる。 | |
3. | 74年度から90年度までの有償資金協力及び無償資金協力実績の内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照 (http://www.mofa.go.jp/mofaj/b_v/odawp/index.htm) |
|
(参考1)98年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
案 件 名 |
協 力 期 間 |
森林研究 森林研究計画(II) |
89.4~94.3 95.4~00.3 |
(参考2)98年度実施開発調査案件
案 件 名 |
ポートモレスビー市下水道整備計画調査(第3年次) |
(参考3)97年度実施草の根無償資金協力案件
案 件 名 |
キラキラ中学校図書館建設計画 ナムタ小学校改善計画 ワシネ水供給システム建設計画 ヴァニモ総合病院改善計画 ボロミル小学校改善計画 聖トーマス小学校改善計画 ボナラ小学校整備計画 ケビアン水供給支援計画 ヤヌンゲン職業訓練学校改善計画 クワレ橋建設計画 カリタス女子技術学校改善計画 マダン州病院無線網整備計画 カンデップ地区保健医療改善計画 ウェワク献血促進計画 ハヤビ湖小学校改善計画 フォア保健所改善計画 ニュー・アイルランド州伝染病撲滅計画 |
(参考4)豪州の対パプア・ニューギニア援助政策
二国間ODA全体の約7割(96年度)を占める主要援助国の豪州は、今世紀末までにPNGへの財政援助を全てプロジェクトまたはプログラム形式の援助に置き換えることとしており、PNG政府も92年にこれに合意した。95年には2000年までをカバーする援助協定が締結され、運輸・交通セクターの支援の重視が打ち出されている。