(1) 1990年7月に発足したフジモリ政権は、前政権下でのインフレ昂進、国際社会での信用失墜や景気後退による経済危機及びテロによる社会不安等に対処すべく、経済面では構造調整政策(財政収支改善によるインフレ抑制を柱とする)の断行により経済安定化を図る一方、国営企業の民営化を推進し、内政面では、テロ対策、行政改革に着手した。フジモリ大統領は、95年4月に行われた大統領選挙において、治安状況の好転、インフレ抑制等の実績が評価され、64%の圧倒的な得票率により再選され、貧困対策、インフラ整備を重点課題として取り組んでいる。96年8月には、大統領の3選を可能にする憲法解釈法が国会で可決された。
(2) 外交面では、フジモリ政権は、対外債務問題等への対応のために先進国・国際機関との関係を強化してきたほか、近年はアジアとの経済関係を強化し、98年より正式にAPECに参加した。長年エクアドルとの間で続いていた国境問題は、98年10月和平合意に達し、99年5月ブラジリア合意が発効し、最大の外交課題が解決された。
(3) 経済面では、主要産業のGDPに占めるシェアは、製造業、サービス、農業の順に大きいが、労働人口の34%は農業部門に従事している。農業は、農地がアンデス山脈を中心とした山岳地帯に多いため(海岸部は砂漠となっている)、規模が小さく生産性も低い。世界でも有数の鉱物資源国であり、銀、銅、鉄鉱石をはじめ各種の鉱産物を産し、これらは主要輸出産品となっている。また、水産資源にも恵まれており魚粉は重要な輸出品となっている。工業では、輸入代替型の製造業が多く、繊維製品を除いて総じて輸出競争力に乏しい。
(4) フジモリ政権の下で財政の健全化、インフレ抑制等で一定の成果を上げ(98年インフレ率6.1%)、93年以来安定した経済成長を持続してきたが、エル・ニーニョ現象、アジ
(参考1)主要経済指標等
- | 90年 | 95年 | 96年 | 97年 | |
人口(千人) | 21,662 | 23,819 | 24,288 | 24,371 | |
名目GNP | 総額(百万ドル) | 25,149 | 55,019 | 58,671 | 63,672 |
一人当たり(ドル) | 1,160 | 2,310 | 2,420 | 2,610 | |
経常収支(百万ドル) | -1,384 | -4,303 | -3,607 | - | |
財政収支(百万ニュー・ソル) | -434 | -1,778 | 3,602 | - | |
消費者物価指数 | 100 | 1,601 | 1,755 | 1,901 | |
DSR(%) | 10.7 | 16.1 | 35.2 | 30.9 | |
対外債務残高(百万ドル) | 20,064 | 30,850 | 29,342 | 30,496 | |
為替レート(年平均、1USドル=ニュー・ソル) | 188 | 2,253 | 2,453 | 2,664 | |
分類(DAC/国連) | 低中所得国/- | ||||
面積(千㎞2) | 1,280.0 |
(参考2)主要社会開発指標
- | 90年 | 最新年 | 90年 | 最新年 | ||
出生時の平均余命 (年) |
63 | 68(97年) | 乳児死亡率 (1000人当たり人数) |
82 | 40(97年) | |
所得が1ドル/日以下 の人口割合(%) |
- | 5歳未満児死亡率 (1000人当たり人数) |
116 | 52(97年) | ||
下位20%の所得又は 消費割合(%) |
4.9(94年) | 4.4(96年) | 妊産婦死亡率 (10万人当たり人数) |
300(80-90年平均) | 280(90-97年平均) | |
成人非識字率(%) | 15 | 11(97年) | 避妊法普及率 (15-49歳女性/%) |
46(80-90年平均) | 64(90-98年平均) | |
初等教育純就学率 (%) |
95 | 91(96年) | 安全な水を享受しうる 人口割合(%) |
61(88-90年平均) | 66(96年) | |
女子生徒比率 (%) |
初等教育 | - | 49(96年) | 森林面積(1000km2) | 679 | 676(95年) |
中等教育 | - | 48(96年) |
ア、ロシア、ブラジル等の通貨危機による外貨流入の減少、主要鉱産物の国際価格下落などにより、98年の経済成長率は0.7%にとどまっている。また、民営化収入に支えられ外貨準備高は十分な水準にあるものの、自由化政策の維持もあって、貿易赤字が増大する傾向にあることから、輸出力強化が課題となっている。
(5)治安情勢については、92年センデロ・ルミノソ(SL)、トゥパク・アマル革命運動(MRTA)等テロ組織の指導者逮捕等により活動は下火となっていたが、96年12月、我が国大使公邸をMRTAが襲撃する事件が発生した。97年4月、人質となっていた72人のうち1名の死者を出したが、残る人質は解放され、事件は終結した。その後、ペルーで大規模なテロ活動は起きていない。こうした犯罪の一因に、貧困問題の存在が指摘されており、社会的・地域的格差の解消とともに、約450万人の最貧困層への対策がペルー政府の社会政策上最大の懸案となっている。
(6)ペルーは中南米では我が国の最初の外交関係を結んだ国であり、メキシコに次ぐ歴史を有する移住国である。現在、約10万人の日系人・日本人移住者が在住している。99年5月には、ペルー移住百周年記念式典が行われ、清子内親王殿下が出席された。またそれに先立ち、5月にフジモリ大統領が大統領として10度目の訪日を行った。96年8月及び97年5月には橋本総理(当時)がペルーを訪問している。ペルーと我が国の貿易は、我が国の輸入超過が続いており(97年実績では、我が国の輸出3.4億ドル、輸入5.5億ドル)、ペルーは我が国の重要な鉱物資源供給国であると同時に、我が国はペルーの主要輸出相手国(97年第4位)となっている。
(1)我が国は、ペルーに対し、我が国との伝統的友好関係、日系人・日本人移住者の存在を踏まえ、フジモリ政権下における90年以降の経済の持続的成長及び貧困撲滅への改革努力を評価し、国際社会と協調しつつ積極的な協力を行っている。
我が国のペルーに対する経済協力は、民生向上のための上下水道整備、教育、保健・医療等の社会分野での協力、灌漑施設整備、農業技術移転等の農業分野での協力、道路、港湾整備を中心としたインフラ整備への協力と幅広い分野で実施しており、ペルーの経済発展及び貧困対策に貢献している。また、我が国は、同国においてDAC新開発戦略の考え方を具体的行動を以て重点的に実施していくこととしている。
98年2月、対ペルー経済協力総合調査団の派遣を実施し、ペルー側との政策対話を踏まえ、以下の分野を我が国援助の重点分野としている。
(イ)貧困対策
都市と地方の所得格差是正や農村開発が大きな課題であることを踏まえ、農業生産のインフラおよび生産方法の近代化支援を重点として、資金協力を通じた給水・小規模灌漑に関わるインフラ整備等の協力、零細農民への資金貸付等の協力を検討する。基礎的生活基盤整備は、今後も上下水道整備支援を中心とした協力を推進する。また、非合法なコカ栽培に対する代替作物の栽培については、日米コモン・アジェンダの観点からも引き続き協力を行う。
(ロ)社会セクター支援
初等教育就学率、識字率ともに都市・農村間及び男女間の格差が大きいことを踏まえ、現職教員の再訓練・研修、教材・教育機材整備等を支援する。妊産婦及び幼児の死亡率が高いことから、母子保健、家族計画の推進とともに、保健・医療施設への機材供与や医療従事者の育成に関する協力を重視する。
(ハ)経済インフラ整備
運輸(道路、空港、港湾)、電力、通信・放送等の経済インフラ整備は、地方への対応も念頭に置きつつ積極的に協力する。また、農林水産業の体質強化・改善、輸出の主要な担い手である鉱山開発及び石油・天然ガス等エネルギー開発が重要であるとともに、新しい分野として観光開発も重視していく。
(ニ)環境保全
ペルーでは94年12月に国家環境審議会が設立され、一元的な環境行政が動き出したところである。持続可能な開発を進める上で環境保全は不可欠であり、我が国はISD構想(21世紀に向けた環境開発支援構想)に基づき、大気・水質汚染対策及び廃棄物処理、産業公害対策等の公害問題対策や温暖化等の地球環境問題対策を中心とした支援を進める。また、ペルーにおいて、エル・ニーニョ現象による被害対策への協力の検討が必要である。
(2)有償資金協力については、90年以降、貿易、金融、厚生等の分野におけるセクターローンを実施していたが、ペルーの多様な開発ニーズに対し質・量ともに支援を強化するため、96年より原則として毎年円借款を供与することを決定した。最近の実績としては、水力発電等の大型プロジェクトのほか、上下水道整備や灌漑施設整備、零細農家支援など貧困層が直接裨益する案件に対して円借款を供与している。
無償資金協力については、近年保健・医療、教育等の分野における一般プロジェクト無償のほか、食糧増産援助、文化無償、ノンプロジェクト無償等の協力を行っている。
また、草の根無償スキームに基づく支援を積極的に実施しており、95年の選挙に際しての機材供与、日米コモン・アジェンダの枠組みにおける麻薬代替作物への支援等を行っている。尚、近年、同国の個人所得水準の向上により経済協力の中心を有償資金協力に移行しつつある。
技術協力では、小規模企業対策、環境対策、保健・医療などの分野を中心とする研修員受入れ、第三国研修等を中心に協力を実施している。開発調査については、運輸、鉱工業、環境等の分野を中心に協力実績があり、98年からは「全国観光開発マスタープラン作成調査」等を実施している。
(1)我が国のODA実績 |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 贈 与 | 政府貸付 | 合 計 | |||
無償資金協力 | 技術協力 | 計 | 支出総額 | 支出純額 | ||
94 95 96 97 98 |
26.79(49) 37.22(56) 28.65(51) 16.17(42) 45.83(57) |
9.81(18) 12.78(19) 13.65(24) 11.40(30) 12.15(15) |
36.60(67) 50.00(76) 42.30(75) 27.58(72) 57.97(72) |
95.44 18.15 17.52 15.38 26.46 |
17.96(33) 16.14(24) 14.07(25) 10.84(28) 22.16(28) |
54.56(100) 66.14(100) 56.37(100) 38.42(100) 80.14(100) |
累計 | 353.02(26) | 280.87(21) | 633.90(47) | 880.87 | 725.38(53) | 1,359.27(100) |
(注)( )内は、ODA合計に占める各形態の割合(%)。
(2)DAC諸国・国際機関のODA実績
国際機関、ODA NET |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | うち日本 | 合 計 | ||||||||||
95 96 97 |
|
|
|
|
|
66.1 56.4 38.4 |
319.8 277.7 364.2 |
DAC諸国、ODA NET |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | その他 | 合 計 | ||||||||||
95 |
|
|
|
|
|
-11.1 1.5 -6.9 |
108.1 132.1 124.2 |
(3)年度別・形態別実績 |
(単位:億円) |
年度 | 有償資金協力 | 無償資金協力 | 技術協力 | ||||||||
90年度 までの 累計 |
538.51億円
|
208.25億円)
|
282.51億円
|
||||||||
91 | 546.20億円
|
52.63億円
|
17.02億円
|
||||||||
92 | 126.90億円
|
25.07億円
|
13.60億円
|
||||||||
93 | 327.13億円
|
35.07億円
|
8.36億円
|
||||||||
94 | 84.82億円
|
39.02億円
|
7.01億円
|
||||||||
95 | 317.74億円
|
36.38億円
|
8.86億円
|
||||||||
96 | 620.81億円
|
36.80億円
|
9.85億円
|
||||||||
97 | 426.17億円
|
26.92億円
|
7.89億円
|
||||||||
98 | 38.37億円
|
21.81億円
|
11.95億円
|
||||||||
98年度 までの 累計 |
3,026.65億円 | 481.95億円 | 367.05億円
|
(注)1.「年度」の区分は、有償資金協力は交換公文締結日、無償資金協力及び技術協力は予算年度による。(ただし、96年度以降の実績については、当年度に閣議決定を行い、翌年5月末日までにE/N署名を行ったもの。)
2.「金額」は、有償資金協力及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベースによる。
3.84年度から90年度までの有償資金協力及び無償資金協力実績の内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/b_v/odawp/index.htm)
(参考1)98年度までに実施済及び実施中のプロジェクト方式技術協力案件
案 件 名 | 協力期間 |
水産加工センター(84)(86) 鉱山保安技術育成(81)(83) 電気通信訓練センター(81)(83)(84)(85) 地域精神衛生向上(84)(85)(86)(95) 野菜流通改善計画 酸化鉱処理 SENATI南部地区職業訓練センター(90) 野菜生産技術センター 地震防災センター パイタ漁業訓練センター(95) 家族計画・母子保健(95) |
76.10~84.10 |
(参考2)98年度実施開発調査案件
案 件 名 |
カニェテ川水資源総合開発計画調査(第1年次) |
(参考3)98年度実施草の根無償資金協力案件
案 件 名 |
低所得者向け住宅建設促進計画 |