(1) 「アパルトヘイト(人種隔離)」に基づく人種差別政策が従来行われていたが、94年4月に南アフリカ史上初めて黒人を含む全人種の参加の下で総選挙(制憲議会選挙及び州議会選挙)が実施された。同選挙の結果、アフリカ民族会議(ANC)が第一党となり、また同年5月に開催された新議会においてマンデラ大統領が選出され、人種間の融和を図ることを目的に主要三党からなる国民統一政権が発足した。95年11月には地方選挙が実施され、96年5月には新憲法が採択された。同年6月に国民党(NP)が連立政権を離脱したものの、マンデラ大統領の国民和解路線の下で政治的安定が維持された。99年6月には第二回目の総選挙が実施され、ANCが約三分の二の議席を占め、ムベキ副大統領が新大統領に選出された。今後の課題として、国民融和の実現と国内格差是正、失業問題への対応、黒人貧困層の生活環境改善等が存在する。
(2) 外交面では、南部アフリカ及び他のアフリカ諸国との政治的連帯を通じた協力関係の強化、国連等の国際機関への参加を通じた平和・民主主義・人権擁護への貢献の重視、我が国をはじめとする先進諸国との協力関係の維持、アジア諸国や中東諸国等との新たな経済関係の強化を目指している。また、南部アフリカ開発共同体(SADC)諸国との地域協力・連帯を重視し、98年より非同盟運動の議長国を務めることとなった。更に、ムベキ大統領は「アフリカの再生」を標榜しており、アフリカの経済開発や、アフリカにおける紛争予防と平和・民主主義の達成に向けての南アの役割は、今後益々重要になりつつある。
(3) 経済面では、第一次産業が12%、第二次産業が31%、第三次産業が57%を占めているが、近年は鉱業の比率が減少を続け、商業、金融・保険が拡大している。南アのGDPはサハラ以南アフリカ全体の約45%を占めており、圧倒的な経済力を有する同国の経済発
(参考1)主要経済指標等
- | 90年 | 95年 | 96年 | 97年 | |
人口(千人) | 35,914 | 41,457 | 37,643 | 40,604 | |
名目GNP | 総額(百万ドル) | 90,410 | 130,918 | 132,455 | 130,151 |
一人当たり(ドル) | 2,520 | 3,160 | 3,520 | 3,210 | |
経常収支(百万ドル) | 2,065 | -2,756 | -1,715 | -1,931 | |
財政収支(百万ランド) | -10,457 | -23,465 | -28,563 | -28,129 | |
消費者物価指数(90年=100) | 100.0 | 168.6 | 182.8 | 197.1 | |
DSR(%) | - | 9.8 | 11.8 | 12.8 | |
対外債務残高(百万ドル) | - | 25,358 | 26,050 | 25,222 | |
為替レート(年平均、IUSドル=ランド) | 2.58732 | 3.62709 | 4.29935 | 4.60796 | |
分類(DAC/国連) | 高中所得国/- | ||||
面積(千㎞2) | 1,221.0 |
(参考2)主要社会開発指標
- | 90年 | 最新年 | - | 90年 | 最新年 | |
出生時の平均余命 (年) |
62 | 65(97年) | 乳児死亡率 (1000人当たり人数) |
67 | 48(97年) | |
所得が1ドル/日以下の 人口割合(%) |
- | 23.7(93年) | 5歳未満児死亡率 (1000人当たり人数) |
88 | 65(97年) | |
下位20%の所得又は 消費割合(%) |
3.3(93年) | 2.9(93-94年) | 妊産婦死亡率 (10万人当たり人数) |
83(80-90年平均) | 230(90-97年平均) | |
成人非識字率(%) | - | 18(95年) | 避妊法普及率 (15-49歳女性/%) |
48(80-90年平均) | 69(90-98年平均) | |
初等教育純就学率 (%) |
- | - | 安全な水を享受しうる 人口割合(%) |
- | 59(96年) | |
女子生徒比率 (%) |
初等教育 | - | 49(96年) | 森林面積(1000km2) | 45 | 85(95年) |
中等教育 | - | 54(96年) |
展は南部アフリカをはじめアフリカ全体の発展にとり重要な役割を果たしている。
政府は、最大の課題である人種間の社会経済格差の是正のため、復興開発計画(RDP)による黒人等の生活水準・地位向上を目指している。また、96年6月には、新たに、投資インセンティブの導入、財政赤字の削減、徴税の強化、為替管理の段階的緩和、公営企業の民営化、賃金上昇の緩和等を通じ、経済成長と雇用の拡大を同時に達成するとの包括的なマクロ経済政策(GEAR)を打ち出した。しかし、白人層と黒人層の経済格差は依然として大きく、国造りの上での大きな制約となっている。
(4) 我が国は、南アフリカの国内改革の進展を踏まえ、同国との関係を正常化した。96年4月には池田外務大臣(当時)、99年1月には橋本前総理がそれぞれ同国を訪問し、95年7月にはマンデラ大統領、98年4月及び10月にはムベキ副大統領がそれぞれ来日しており、要人の往来も活発である。また、98年4月のムベキ副大統領訪日時に、外相レベルで政治、経済、文化、人的交流、科学技術等多様な分野に関する協議を行うことを内容とする「日・南ア・パートナーシップ・フォーラム」の設置に合意し、これを受け、99年1月の橋本前総理の訪問時に第一回フォーラムを開催し、協力の具体化を進めている。
貿易関係については、我が国は南アフリカから非鉄金属、石炭、鉄鋼、鉄鉱石等を輸入(98年輸入額23億2,240万ドル)し、南アフリカに対し自動車部品、一般機械、鉄鋼等を輸出(同輸出額17億6,676万ドル)しており、サハラ以南アフリカ諸国の中で第一位の貿易相手国となっている。
(1) 我が国は、アパルトヘイトの犠牲者である南アの黒人層の自立を支援するため、90年度より国際機関を通じた資金協力、草の根無償資金協力、国際機関を通じた研修員受入等により、南アの黒人社会支援を行ってきた。
(2) 94年4月の総選挙実施を受けたマンデラ新政権発足は、民主的、平和的に新体制への移行を成功させた象徴的なケースとして高く評価し、我が国は、94年7月、その後2年間でODA3億ドルに加え、輸銀融資5億ドル及び貿易保険枠5億ドルからなる対南ア支援策を発表した。
また、アパルトヘイト撤廃後の貧困撲滅と黒人の地位向上を目指した経済社会改革を支援するため、99年6月のムベキ大統領就任時に、過去5年間の我が国の支援実績(総
額約15億ドル)を踏まえ、以下に基づき、今後とも十分な規模の支援を継続することを表明した。
(1)無償資金協力
さしあたり今後1年間に2千万ドルを念頭に供与し、貧困問題の深刻な旧ホームランド地域の保健・教育分野における案件検討を緊急に開始する。
(2)有償資金協力
今後も社会インフラ整備の援助を中心に検討していく。
(3)輸銀融資
総額3,700万ドル相当円のアンタイドローン(物資、役務の調達先を援助供与国に限定しない借款)につき99年7月にも貸付契約を調印予定。また、中小企業向けアンタイドローンにつき、1億ドル相当円程度を目途に、前向きに検討し、99年8月に調査団を派遣予定。
(4)貿易保険
今後優良な案件があれば、従来と同様引き受けを実施する。
具体的な援助については、有償資金協力では、96年4月経済・社会インフラ整備のための初の円借款を供与したほか、社会インフラ部門での援助を実施している。無償資金協力では、97年6月に、人種間格差が極めて大きい南アの医療事情に鑑み、貧困黒人層に裨益する医療機材整備のため、初の一般無償資金協力を実施した。また、草の根無償資金協力によるNGO支援等も積極的に実施している。技術協力では、人的資源、開発計画、農業等の分野で研修員受入、開発調査等の協力を実施している。
(3) 我が国は、南ア支援が南ア自身の民主化及び経済発展に資するのみならず、南部アフリカ地域、ひいてはアフリカの開発問題全体にも資するとの認識の下、98年12月に経済協力政策協議を行い、TICAD IIの成果に基づくフォローアップに関し議論を行うとともに、我が国の今後の対南アフリカ支援の重点分野として、人造り、基礎教育、保健・医療、中小企業振興、環境及び南部アフリカへの地域協力への取組みを確認した。また、99年8月には第2回政策協議を行い、協力実施にあたっての課題等について率直な意見交換を行い、両国間の相互理解を深めた。今後は、こうした重点分野の下、国造りを担う人材の育成や貧困層に対する支援を中心に積極的な支援を実施していく方針である。
(1) 我が国のODA実績 |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 贈 与 | 政府貸与 | 合 計 | |||
無償資金協力 | 技術協力 | 計 | 支出総額 | 支出純額 | ||
94 95 96 97 98 |
0.62(20) 1.18(27) 1.54(21) 2.23(8) 13.76(45) |
2.48(80) 3.16(73) 5.76(79) 5.93(21) 4.98(16) |
3.10(100) 4.34(100) 7.30(100) 8.16(28) 18.75(61) |
- - - 20.75 12.08 |
-(-) -(-) -(-) 20.75(72) 12.08(39) |
3.10(100) 4.34(100) 7.30(100) 28.91(100) 30.82(100) |
累計 | 20.46(26) | 25.12(32) | 45.59(58) | 32.83 | 32.83(42) | 78.41(100) |
(注)( )内は、ODA合計に占める各形態の割合(%)。
(2) DAC諸国・国際機関のODA実績
DAC諸国、ODA NET |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 | 1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | その他 | 合計 |
95 |
米国 107.0 米国 73.0 米国 104.0 |
オランダ 44.5 オランダ 37.6 スウェーデン 41.1 |
英国 23.9 スウェーデン 33.2 英国 38.8 |
ドイツ 22.9 英国 30.9 オランダ 35.9 |
デンマーク 22.9 デンマーク 30.0 デンマーク 35.7 |
4.3 7.3 28.9 |
318.5 311.9 415.0 |
国際機関、ODA NET |
(支出純額、単位:百万ドル) |
暦年 |
1位 | 2位 | 3位 | 4位 | 5位 | その他 | 合計 |
95 |
CEC 59.2 CEC 37.0 CEC 68.3 |
UNICEF 2.2 UNDP 3.5 UNDP 5.3 |
UNHCR 1.9 UNHCR 2.7 UNHCR 3.1 |
UNTA 0.7 UNICEF 2.3 UNICEF 2.3 |
UNFPA 0.6 UNFPA 1.1 UNTA 1.9 |
2.8 2.6 1.3 |
67.5 49.1 82.2 |
(3) 年度別・形態別実績 |
(単位:億円) |
年度 | 有償資金協力 | 無償資金協力 |
技術協力 |
||
90年度 までの 累計 |
なし |
0.15億円 内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照 |
なし |
||
91 |
なし |
0.31億円 草の根無償(8件) (0.31) |
0.05億円
|
||
92 | なし |
0.41億円 草の根無償(11件) (0.41) |
0.13億円 |
||
93 |
なし |
0.81億円 草の根無償(17件) (0.81)
|
|
||
94 | なし
|
0.87億円 草の根無償(24件) (0.87) |
0.41億円
|
||
95 | なし |
1.77億円 草の根無償(42件) (1.77) |
2.22億円
|
||
96 |
78.31億円 クワンデベレ給水計画 (30.97) |
2.12億円 草の根無償(46件) (2.12) |
4.08億円
|
||
97 | 62.30億円
都市通勤鉄道近代化計画 (62.30) |
18.25億円 南アフリカ柔道連盟柔道器材供 |
5.54億円
|
||
98 | 60.84億円
地方社会インフラ整備計画 |
11.83億円 草の根無償(38件) (2.20) |
4.05億円
|
||
98年度 までの 累計 |
201.45億円 |
36.54億円 |
16.47億円
|
(注)1.「年度」の区分は、有償資金協力は交換公文締結日、無償資金協力及び技術協力は予算年度による。(ただし、96年度以降の実績については、当年度に閣議決定を行い、翌年5月末日までにE/N署名を行ったもの。)
2.「金額」は、有償資金協力及び無償資金協力は交換公文ベース、技術協力はJICA経費実績ベースによる。
3.90年度から90年度までの無償資金協力実績の内訳は、1997年版のODA白書参照、もしくはホームページ参照
(http://www.mofa.go.jp/mofaj/b_v/odawp/index.htm)
(参考1)98年度実施草の根無償資金協力案件
案 件 名 |
WDBマイクロクレジット原資供与計画 独立選挙委員会(IEC)東ケープ州支部選挙教育支援計画 独立選挙委員会(IEC)ノーザン州支部選挙教育支援計画 独立選挙委員会(IEC)北ケープ州支部選挙教育支援計画 ESST有権者教育のための教材供与支援計画 ムプマランガ州西部パケ診療所建設支援計画 クワムフランガ教員センター施設拡充計画 ジョジニ教員リソース・センター建設計画 EMSCEP理教科教員能力向上計画 ゼンゼレ裁縫・木工訓練機材供与計画 シャングリラ四肢障害者自立支援計画 東ケープ州農村部共同生産組合活動支援計画 バール・キャリア・カレッジ電気・機械技師養成支援計画 エクパカメーニ研修センター職業訓練工房建設計画 ンカディメン小学校校舎増築計画 マラピヤネ教員センター施設拡充計画 モチャ小学校校舎増築計画 ニャンガゼジズウェ職訓センター支援計画 クーラ・ムシカ小学校校舎増築計画 ノーザン州北部教育環境改善計画(ブトゥワンガゼブ小学校) テープ・エイドー盲人のための教育機材供与計画 ノーザン州北部教育環境整備計画(バナナ小学校) ノーザン州北部教育環境整備計画(ブラカンジャニ小学校) プリンセス・ダイアナ・モハウ児童ケア・センター施設整備計画 オープン・ハンズ基金女性所得向上プロジェクト機材供与計画 マイクロ企業家育成を通じた女性の所得創出支援事業 地域訓練基金職業訓練機材供与計画 ノーザン州北部教育環境改善計画(テンジェニ小学校) ウエラニ基金女性所得向上のための養鶏プロジェクト支援計画 ノーザン州北部教育環境改善計画(カラーバ小学校) ノーザン州エイズ予防教育支援計画 ライト・トゥ・ホープ基金小・中学校教員訓練用機材供与計画 ジャイラー地域プロジェクト女性の職業訓練事業支援計画 FURNICOL家具製造訓練事業支援計画 クワハフォンテン裁縫訓練用機材供与計画 エテンベニ職訓センター訓練機材整備計画 ノーザン州女性組合裁縫訓練機材供与計画 サンシャイン・センター協会傷害児介護訓練計画 |