2025年版開発協力白書 日本の国際協力

5 欧州地域

2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略は今なお継続し、ウクライナおよび周辺国における人道状況の悪化や、ウクライナの経済・社会の不安定化をもたらしています。また、世界的なサプライチェーンの混乱をもたらし、人々が尊厳を持って生きるための基盤をなす食料およびエネルギー安全保障、自由で公正な貿易体制の維持・強化といった、国際社会全体に関わる課題を浮き彫りにしています。このような複合的な危機は、日本にとって決して対岸の火事ではなく、日本国民の生活や日本企業のビジネスにも深刻な影響を及ぼしています。

日本は、ロシアのウクライナ侵略という暴挙を断固として認めることなく、ウクライナおよびその周辺国に対する支援を進めていくことが必要との一貫した立場に立ち、ロシアによるウクライナ侵略の開始直後から、G7を始めとする国際社会と連携した取組を行ってきています。また、ウクライナの復旧・復興についても、官民一体となった支援をさらに推進すべく、2024年2月に開催した日・ウクライナ経済復興推進会議を含め、取組を進めています。

日本は、市場経済に基づいた経済発展に取り組んでいる中・東欧、旧ソ連諸国を含む欧州諸国を、人権、民主主義、市場経済、法の支配などの基本的価値を共有する重要なパートナーと認識しており、経済インフラの再建や環境問題などへの取組を支援しています。また、欧州連合(EU)を始めとする欧州所在の国際機関との間で、対話・協力の継続・促進や人的ネットワークの構築を通じ、総合的な関係強化を図ってきています。

●日本の取組

■ウクライナおよび周辺国に対する支援

(総論)

「ウクライナ復興会議」において、ステートメントを行う藤井外務副大臣(当時)

「ウクライナ復興会議」において、ステートメントを行う藤井外務副大臣(当時)

ウクライナ支援は、ウクライナ、日本および世界の「未来への投資」です。日本は、2024年2月に東京で開催された日・ウクライナ経済復興推進会議において岸田総理大臣(当時)が表明した、「包摂性」、「パートナーシップ」および「知見・技術」という三つの原則に基づき、五つの行動(国際金融機関を通じた支援、ODAによる官民連携事業、ウクライナのベンチャーキャピタルに対するJICAの海外投融資など)を通じて、官民一体となって「日本ならではの貢献」を行っています。また、G7を始めとする各国および国際機関を含むパートナーと協力して、ウクライナの復旧・復興を支援しています。

2025年6月、石破総理大臣(当時)は、G7カナナスキス・サミットにおいて、日本はウクライナの産業振興を含む官民一体の復旧・復興支援を一層推進し、ウクライナ情勢について引き続き北大西洋条約機構(NATO)加盟国を含む同志国などとの連携強化を推進する旨述べました。

7月に開催されたイタリア政府・ウクライナ政府共催の「ウクライナ復興会議」において、藤井外務副大臣(当時)は、2024年の「日・ウクライナ経済復興推進会議」においてウクライナ側と取り交わした協力文書や案件のフォローアップを着実に進めてきていることを述べました。また、同復興会議の人材セッションにおいてもスピーチを行い、日本としてウクライナに対して行政官の学位取得、公共放送局の関係者への研修、復旧・復興の前提となる地雷対策分野での人材育成支援に注力してきており、国民の再統合にも貢献していると述べました。

7月および8月には石破総理大臣(当時)が、10月には高市総理大臣が、それぞれ英国・フランス・ドイツ政府の主催で開催された「ウクライナに関する有志連合オンライン首脳会合」に出席し、日本が国際社会と連携したウクライナ支援を継続し、ウクライナ、米国、欧州各国のパートナーと緊密に連携しつつ、取り組んでいく旨述べました。

(ウクライナの復興に向けた官民の取組)

2025年も、ウクライナの復興と日本企業のウクライナの復興への参画促進のための様々な取組が行われました。2025年1月には、今後のウクライナにおける国土交通分野のインフラ復興への日本企業による参画を加速させることを目的に、「日ウクライナ・国土交通インフラ復興に関する官民協議会」(JUPITeR注21)が設立されました。3月には、同協議会の取組として、国土交通省および会員企業からなる官民ミッションをウクライナへ派遣し、ウクライナのインフラ復興を担う地方・国土発展省を始め、国際開発金融機関や現地の業界団体等との間で意見交換や企業間のネットワーキングなどを行いました。

7月には、外務省、経済産業省および独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)が、日本企業関係者と共に、官民ミッションとしてウクライナを訪問し、首都キーウおよびウクライナ西部に位置するリヴィウにおいてウクライナ政府関係者やウクライナ企業との間で、復旧・復興に向けた意見交換などを実施しました。

また、農林水産省は、農林水産・食品関連企業によるウクライナ関係者の日本への招聘(へい)や、技術者のウクライナ等への派遣の取組などを支援するとともに、8月にはウクライナ経済・環境・農業省と「第4回日ウクライナ農業復興戦略合同タスクフォース」をオンラインで開催し、農業復興協力に向けた官民連携の取組について情報交換を行いました。10月には、ウクライナの農林水産・食品分野の復興に向け、より多くの日本企業の参画を促すため、農林水産省と食料・農業関連の日本企業7社による官民ミッションがウクライナを訪問し、ウクライナ経済・環境・農業省、リヴィウ市長との意見交換、ウクライナ企業とのビジネスマッチング、キーウで開催の農業・食品関係ビジネス展示会の視察などを行いました。

同月、経済産業省は、JETROおよびウクライナ経済・環境・農業省と共催で「日・ウクライナ経済復興推進フォーラム」を開催しました。日本政府から、藤井外務副大臣(当時)、加藤経済産業大臣政務官(当時)、ウクライナ政府から、カチカ欧州・欧州大西洋統合担当副首相、シビハ外務大臣、ソボレフ経済・環境・農業大臣、また特別ゲストとしてゼレンスカ大統領夫人が出席しました。加藤経済産業大臣政務官(当時)とカチカ副首相の立ち会いの下、インフラ、農業、IT分野などにおける、両国関係企業・機関の29件の協力文書の披露式を行いました。

また、国土交通省は、日本の建設現場での運用実績が豊富な遠隔施工技術をウクライナに導入すべく、10月に同技術の実証実験およびウクライナ政府関係者等を招待したデモンストレーションを首都キーウで実施するなど、人手不足を解消しつつ女性・戦傷者を含めた包摂的な復興を実現するための取組を進めています。

(人道支援、復旧・復興に向けた支援)

ウクライナ視察団によるカンボジアの地雷除去現場視察の様子(写真:JICA)

ウクライナ視察団によるカンボジアの地雷除去現場視察の様子(写真:JICA)

ロシアによるウクライナ侵略が長期化する中、戦争の被害は、エネルギー、交通インフラ、住宅・学校など、人々の生活を支えるインフラや施設にも及んでおり、ウクライナの人々は厳しい状況に置かれています。日本は、侵略が継続する中であっても、ウクライナの人々が未来を思い描けるよう、人道支援から生活再建・復旧支援、そして経済復興・産業高度化のフェーズに至る各フェーズで女性・平和・安全保障(WPS)の視点なども取り入れ、女性・こどもを含むウクライナの人々に寄り添った支援を実施しています(ウクライナにおける日本のNGOによる脆(ぜい)弱世帯への支援については「国際協力の現場から」を参照)。

例えば、日本は、日常生活を平時に近づけるための緊急復旧フェーズの支援として、電力、医療、教育、仮設インフラなど、人道状況・生活の改善につながる支援を、国際機関や日本のNGO、ウクライナおよび周辺国のNGOとも協力しながら行っています。例えば、多くのエネルギー・インフラ施設が破壊され、ウクライナ各地で大規模な停電が発生していることを受けて、日本は、発電機やソーラーランタンなどを供与してきています。破壊されたエネルギー・インフラ施設を支援することで、ウクライナの人々が冬を乗り越えるための電力や暖房供給の回復・強化に寄与しています。

また、地雷対策・がれき処理、基礎インフラ整備を含む生活再建、農業生産回復・産業振興、民主主義・ガバナンス強化などの分野でも、日本は、早期の段階から同国の復旧・復興を支援してきています。2025年2月には、総額88億円の無償資金協力「緊急復旧計画(フェーズ4)」を実施することを決定しました。本協力を通じて、ウクライナ政府に対して、(ⅰ)戦争被害からの早期回復(エネルギー分野など)、(ⅱ)包摂的な復興(地方自治体支援、経済活性化)を支援し、同国が取り組む迅速な復旧・復興を後押ししています。さらに、ウクライナの厳しい財政状況に対処し、ウクライナの復興・開発を後押しすべく、2025年4月、2024年のG7プーリア・サミットにおいてG7首脳が立ち上げに合意した「ウクライナのための特別収益前倒し融資注22」に基づき、4,719億円を限度とする円借款を供与することを決定しました。

地雷や不発弾の除去は、住民の安心・安全の確保に不可欠であるのみならず、生活、農業、産業の再建に欠くことができない復旧・復興の前提となっています。日本は、これまでに蓄積した地雷除去支援に係る知見をいかしながら、ウクライナにおける地雷・不発弾対策に対する包括的な支援を行っています。この地雷対策の加速化と復旧・復興への国際的モメンタムを高めるべく、日本は2025年10月22日および23日、東京にて「ウクライナ地雷対策会議」を主催し、「復興に向けた加速」のテーマの下で議論を主導しました。また、日本は地雷対策から安全な国土への回帰、住民の帰還などを経て、ウクライナの復興・開発までつながっていく包括的なプロセスへの日本の貢献を発信すべく、「ウクライナ地雷対策支援イニシアティブ」を表明しました。

また、日本は、民間企業の資金・技術の活用、民間企業の参画による経済の活性化を通じ、ウクライナの今後の復旧・復興を加速することを目指して、2024年4月にウクライナ・ビジネス支援事業の募集を開始しました。既存の中小企業・SDGsビジネス支援事業注23の枠組みを活用する形で、戦時下のウクライナにおいて、特に難しい情報収集、市場調査などを支援することで、事業進出初期段階におけるリスクを軽減することを目的としており、これまでに14事業が採択されました。将来的なウクライナへの投資促進を念頭に、こうした日本企業によるビジネス展開のプラン策定を支援することで、ウクライナの経済分野での発展を積極的に後押ししていきます。

日本は、引き続きG7を始めとする国際社会と連携しながら、困難に直面するウクライナの人々に寄り添った支援を実施していきます。

(ポーランド、モルドバ支援)

日本政府の支援によって裨(ひ)益した若手農家によるモルドバの小麦畑

日本政府の支援によって裨(ひ)益した若手農家によるモルドバの小麦畑

ロシアによるウクライナ侵略の長期化により、周辺国への負荷も長期化しています。日本は、周辺国の負担を軽減し、ウクライナへの人道支援、復旧・復興支援を効果的に行う観点から、周辺国に対しても支援を行っています。

ウクライナに対する軍事および人道支援の拠点として最前線で対応するポーランドには、国際機関やNGOを通じ、ウクライナ避難民への復興住宅支援や社会統合促進事業などの人道支援、ウクライナ避難民児童の通学バスや障害のあるウクライナ避難民児童のための教育機材の供与などを行い、長期化するウクライナ避難民の生活を支援しています。また、2025年2月の日・ポーランド外相会談に際し、岩屋外務大臣(当時)は、シコルスキ・ポーランド外務大臣との間で、能力構築支援の提供とビジネス・セクターの関与に重点を置いたウクライナの復旧および復興に向けた協力を含む「2025年から2029年までの日本国政府とポーランド共和国政府との間の戦略的パートナーシップの実施のための行動計画」に署名しました。

モルドバは、ウクライナから逃れてきた避難民に避難所、食料、医療サービスなどを提供しており、現在でも多くの避難民がモルドバによる支援の下で避難生活を送っています。これらの対応は、モルドバにとって大きな経済的な負担となっていることから、日本はモルドバに対し、ウクライナ侵略の影響緩和や経済危機に対する脆(ぜい)弱性の緩和に貢献する支援を行ってきています。2025年9月に行われたレチェアン・モルドバ首相(当時)との会談において、石破総理大臣(当時)は、モルドバの民主主義が守られることはかつてなく重要であり、日本として、そのために必要な協力は惜しまず、両国のパートナーシップをさらに強化させたいと発言し、農業や産業振興等の分野での支援を通じて引き続きモルドバの発展を後押ししていくと述べました。これに対し、訪日したレチェアン首相(当時)は、これまでの日本からの支援に感謝を述べました。

■西バルカン地域支援
コソボにおける大気汚染対策政策につなげるためのモニタリングの様子(写真:JICA)

コソボにおける大気汚染対策政策につなげるためのモニタリングの様子(写真:JICA)

アルバニアにおいて、草の根・人間の安全保障無償資金協力で供与されたデジタルX線撮影装置により新生児の診断をする様子(写真:ゲラルディナ妃産婦人科大学病院)

アルバニアにおいて、草の根・人間の安全保障無償資金協力で供与されたデジタルX線撮影装置により新生児の診断をする様子(写真:ゲラルディナ妃産婦人科大学病院)

西バルカン諸国注24は、1990年代の紛争の影響で改革が停滞していましたが、ドナー国・国際機関などの復興支援および各国自身による改革の結果、復興支援の段階から卒業し、現在は持続的な経済発展に向けた支援が必要な段階にあります。結束する欧州を支持する日本は、EUなどと協力しながらこれら諸国への開発協力を展開しており、「西バルカン協力イニシアティブ」注25(2018年)の下、同諸国がEU加盟に向けて必要とする社会経済改革などを支援しています。

セルビアについては、2024年に完工したニコラ・テスラ火力発電所排煙脱硫装置を始めとして、石炭から再生可能エネルギーへの移行期にあるセルビアにおける脱炭素化に向けた努力を引き続き支援していきます(セルビアにおけるスタートアップ支援については、「案件紹介」参照)。

また、日本はボスニア・ヘルツェゴビナの将来を担う人材の育成のための支援も行っています。例えば、近年では、ボスニア・ヘルツェゴビナの人々の生活の質向上を目指した医療・保健体制強化支援、EU加盟プロセスの進展に必要不可欠な国境管理能力強化支援、防災・減災に係る知見共有などを実施しています。

案件紹介11

セルビア

SDGs8 SDGs9 SDGs17

イノベーションの架け橋、日本からセルビアへ
技術協力(第1フェーズ(2022年8月~2023年2月)、第2フェーズ(2024年7月~2025年8月))
スタートアップ企業の海外展開支援に係る情報収集・確認調査(NINJA Serbiaフェーズ2)

若年層を中心とした高い失業率が課題となっているセルビアでは、サービス業中心の産業構造からの脱却を目指しており、ICT分野を含む新産業の創出を通じた国内産業の育成と雇用創出が急務とされています。これに対応すべく、セルビアでは、スタートアップとそれを取り巻く投資家、公的機関、企業などの様々なアクターがネットワークを作り、発展していくエコシステムの形成が進みつつあります。一方で、同国のスタートアップは制度面や資金調達面など、依然として多くの課題を抱えています。

こうした中、日本はアフリカで始めた「Project NINJA(Next Innovation with Japan)」をセルビアにおいても実施し、スタートアップ支援に取り組んでいます。2022年から2023年にかけて実施した調査を通じ、セルビアのスタートアップ環境がまだ黎明期(れいめいき)にあること、また、さらなる成長の鍵は海外展開にあることが明らかになりました。同結果を受け、2024年には、アジア地域を含む海外市場の分析などを通じ、セルビアにおけるスタートアップの海外展開を促進するための公的支援の在り方を検討しました。また、海外進出のきっかけ作りとして、海外進出を希望するセルビアのスタートアップ5社を対象に、当該企業の関係者を日本およびシンガポールに招聘(へい)し、ワークショップの実施や分野別のコンサルテーションを実施しました。

本件の関係者からは、「セルビアのスタートアップは、Project NINJAを通じて、海外展開戦略を練り、日本やシンガポールとのネットワークを築く好機を得ました。さらに、日本とシンガポールで生まれたイノベーションは偶然ではなく、共同ビジョンと知識への投資の結果と知ることができました。」との声が聞かれています。日本は、今後もProject NINJAを全世界に展開していくことで、各国において質の高い雇用創出の契機となるスタートアップの成長を促進し、ビジネスを通じて途上国の社会課題の解決を図ります。

科学・技術開発・イノベーション省とJICA専門家の協議の様子(写真:JICA)

科学・技術開発・イノベーション省とJICA専門家の協議の様子(写真:JICA)

東京都が主催するアジア最大級のスタートアップに関する国際会議「Sustainable High City Tech Tokyo 2025」に参加したセルビアのスタートアップ(写真:JICA)

東京都が主催するアジア最大級のスタートアップに関する国際会議「Sustainable High City Tech Tokyo 2025」に参加したセルビアのスタートアップ(写真:JICA)


  1. 注21 : Japan - Ukraine Platform on the Infrastructure Technology for Recovery and Reconstructionの略称。
  2. 注22 : ロシアの国家が有する資産が動かせないようになっていることに起因して発生する将来の「特別な収益」を返済原資として、G7がウクライナに融資を行い、ウクライナの資金ニーズに対処するG7の枠組みのこと。
  3. 注23 : 用語解説を参照。
  4. 注24 : アルバニア、北マケドニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロの6か国。
  5. 注25 : 西バルカン諸国のEU加盟に向けた社会経済改革を支援し、民族間の和解・協力を促進することを目的とする取組。
このページのトップへ戻る
開発協力白書・ODA白書等報告書へ戻る