2025年版開発協力白書 日本の国際協力

6 中央アジア・コーカサス地域

東アジア、南アジア、中東、欧州、ロシアを結ぶ地政学的な要衝に位置する中央アジア・コーカサス地域は、石油、天然ガス、ウラン、レアアースなどの豊富な天然資源を産出する重要なエネルギー輸送路に位置していることから、エネルギー安全保障の戦略的な観点からも重要な地域です。特に、2022年2月のロシアによるウクライナ侵略以降、中央アジア・コーカサス地域は、ロシアを経由しない欧州と東アジア地域との連結性の要として注目されています。

1991年の独立以降、中央アジア・コーカサス諸国は市場経済体制への移行と経済発展に向け取り組んできていますが、旧ソ連時代以来の経済インフラの老朽化や、一層の市場経済化に向けたビジネス人材の育成、保健・医療などの社会サービスを提供する体制構築等の課題を抱えています。また、内陸に位置する同地域は、地政学的に周辺の大国の影響や近隣諸国の治安の影響を受けやすく、アフガニスタンなどの紛争地域から帰還した人々の再統合に伴う社会不安が懸念されています。さらに、違法薬物などの越境取引に対する国境管理および税関手続の強化等も求められています。

高い成長と人口増を続ける中央アジア・コーカサス地域との協力は、国際的な環境が急激に変化していく中で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を維持・強化していく観点からも、重要性を増しています。

●日本の取組

ウズベキスタンに供与された、CTスキャンの視察を行う長島総理補佐官(総理特使)(当時)

ウズベキスタンに供与された、CTスキャンの視察を行う長島総理補佐官(総理特使)(当時)

「中央アジア+日本」対話・首脳会合(写真:内閣広報室)

「中央アジア+日本」対話・首脳会合(写真:内閣広報室)

日本は2004年、中央アジアの発展には地域間の協力が不可欠であるとの認識から「中央アジア+日本」対話を立ち上げました。自由で開かれた国際秩序を維持・強化するパートナーである中央アジアの平和と安定に寄与することを目的に、日本が触媒となり、中央アジア諸国が主体となった域内協力を促進しています。「中央アジア+日本」対話の枠組みで、これまでオンラインを含め10回の外相会合を行ったほか、政府関係者による高級実務者会合(SOM)やビジネス対話に加え、麻薬対策・国境管理、観光などをテーマとした専門家会合、中央アジア・コーカサスとの連結性等をテーマとした東京対話(有識者による公開シンポジウム)を実施するなど、政治や経済、人的交流を始めとする様々な分野での協力を促進しています。

2025年1月末から2月初旬にかけて、長島総理大臣補佐官(当時)は、石破総理大臣(当時)の特使として、中央アジア5か国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタンおよびトルクメニスタン)を訪問し、それぞれの国の関係者と「中央アジア+日本」対話を通じた協力や、政治、経済、文化など幅広い分野における日本と中央アジアの国々との関係について意見交換を行いました。

8月には、岩屋外務大臣(当時)がカザフスタンおよびウズベキスタンを訪問し、戦略的パートナーである両国それぞれと経済や開発協力を始めとする様々な分野において協力を強化していくことや、「中央アジア+日本」対話・首脳会合の開催に向けた協力などについて協議を行いました。

9月には、武藤経済産業大臣(当時)が中央アジア5か国との間で、第2回「中央アジア+日本」対話・経済エネルギー対話を開催し、日本が作成した中央アジア各国の「中央アジアの脱炭素化に向けたロードマップ」を各国大臣と共有するとともに、現実的なエネルギートランジションの重要性を共有しました。

12月20日、東京において、「中央アジア+日本」対話(CA+JAD、Central Asia plus Japan Dialogue)/カジャッド)・首脳会合が初めて開催され、高市総理大臣、トカエフ・カザフスタン大統領、ジャパロフ・キルギス大統領、ラフモン・タジキスタン大統領、ベルディムハメドフ・トルクメニスタン大統領、ミルジヨーエフ・ウズベキスタン大統領が参加しました。高市総理大臣から、中央アジア5か国の産業高度化・多角化を後押し、日本と中央アジアの互恵関係を強化するための「CA+JAD(カジャッド)東京イニシアティブ」の立ち上げを宣言しました。中央アジア各国首脳からは、重点協力3分野であるグリーン・強靭(じん)化、コネクティビティ、人づくりにおける日本側イニシアティブの協力・支援に対する謝意が示されました。また、日本と中央アジアの互恵的なプロジェクトを組成していくことに意欲が示され、重要鉱物を含む資源・エネルギー開発、気候変動対策、エネルギートランジション、防災、物流や運輸に関する連結性、人材育成、保健・医療分野等の重点協力3分野における日本とのさらなる協力と連携の強化について高い関心が示されました。

これらの取組とあわせ、日本は、中央アジア・コーカサス地域の自由で開かれた持続可能な開発に向け、民主主義・市場経済発展、経済・社会インフラ整備、連結性の強化、国境管理、麻薬対策などの協力を行っています。

連結性の強化や国境管理に関しては、カスピ海ルートの整備に取り組んでいます。例えば、中央アジア・コーカサス地域では各国で税関システムが異なり、国境を通過する度に煩雑な手続や検査に相当の時間を要しています。こうしたコストを低減するため、日本は、税関分野での国際協力に取り組む世界税関機構(WCO)と連携して、中央アジア・コーカサス地域の税関職員を対象とした通関の効率化につながる協力を行っています。WCOとは、小型武器等の非合法な流通を防止するための支援でも連携しています。また、グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)の枠組みで、日本を含むG7はカスピ海ルートの整備に関する協力を行っています。

人材育成に関しては、1993年以降、日本は、中央アジア・コーカサス諸国から保健、農業、教育などの分野の研修員約1万3,764人を受け入れるとともに、これら諸国に約9,260人の専門家・調査団員を派遣しています。また、市場経済移行期から、人材育成奨学計画(JDS)を通じて各国の若手行政官の日本留学を支え、JICA開発大学院連携プログラムの開講、日本人材開発センターによるビジネス人材育成などを通じて、国造りに必要な人材の育成に協力してきました。

社会サービスの提供については、これら諸国において保健・医療体制の強化や、衛生状況の改善に関する事業を進めてきました。直近の例として、ウズベキスタンでは、タシケント市において脳神経センターを建設し医療機材を整備するとともに、サマルカンド市とブハラ市の医療施設の機材を整備し、同国の脳神経疾患患者などへの高度医療サービスの提供を可能とするための借款の供与を決定しました。また、医療機材の老朽化や不足の著しいキルギスに対しては、地方での巡回医療が可能な医療コンテナ2台を供与することを決定しました。カザフスタンについては、白血病を含むがんなど、旧ソ連時代に行われた原水爆核実験の被爆の影響に苦しむ住民が多く存在する一方で、医療機材の老朽化が進み、適切な診療を受けることが困難となっていることを踏まえ、MRIやCTスキャナなどの医療機材を供与することを決定しました。タジキスタンにおいては、安全かつ安定的な給水サービスを確立できるよう、井戸、高架水槽、送排水管網を建設しています。

2023年9月のアゼルバイジャンによるナゴルノ・カラバフでの軍事行動を受けて、10万人以上の避難民がアルメニアに退避するなど、紛争による影響を受けるコーカサス地域では、これら避難民とホストコミュニティのこどもたちの抱える心的ストレスを軽減し平穏な日常生活への復帰を可能とするよう心的ケアの実施のための支援を、国連児童基金(UNICEF)を通じて行っています。

案件紹介12

タジキスタン

SDGs9

日本の技術で実現!中央アジアの大動脈を「安全・迅速」に
無償資金協力(2019年9月~2023年6月)
ドゥシャンベ-ボフタル道路におけるキジルカラ-ボフタル間道路改修計画

タジキスタンは、輸送の9割以上を道路交通に依存しています。首都ドゥシャンベとアフガニスタン国境を結ぶ幹線道路は、中央アジア地域全体の安定と繁栄においても重要な役割を担う一方で、老朽化が著しく、2車線構造は交通量増加に対応できていませんでした。そのため、特に南部の主要都市ボフタル市街地周辺では貨物車と農耕車、歩行者が混在し、慢性的な渋滞と事故の危険性が深刻な課題となっていました。

そこで日本は、将来の交通量の増加にも耐えうるよう、ドゥシャンベとボフタルを結ぶ道路の一部である、ハトロン州のキジルカラ−ボフタル間の道路(9.2kmの区間)について、既存の2車線から4車線へと拡幅し、耐久性の高い日本の技術を用いて舗装を強化する協力を開始しました。さらに、歩道や夜間照明、日本の国道で用いられる減速路面標示も導入し、地域に暮らす人々の安全な交通を確保しました。

この道路改修により、ドゥシャンベ-ボフタル間の移動時間が従来と比べて、2から3割ほど短縮され、住民の日常的な移動や貨物輸送の効率性が大幅に改善されました。現地の住民からは「市場や学校へのアクセスが容易かつ安全になった」、「歩道や街路灯の設置によって、夜間も安心して通行できるようになった」、「歩道に沿った柵が設けられたことで家畜が道路に立ち入らなくなり、事故が減った」、「道路舗装が改善されたことで車両の故障や修理頻度が低下した」といった喜びの声が聞かれています。日本は、今後も、強靭(じん)で安全なインフラ整備を通じて、タジキスタンの持続的な経済成長と人々の生活の安定を支えていきます。

工事中の道路。道路は舗装されておらず、歩道も設置されていなかった。(写真:JICA)

工事中の道路。道路は舗装されておらず、歩道も設置されていなかった。(写真:JICA)

工事終了後の道路。歩道や柵、中央分離帯、夜間照明が設置され交通の安全性が確保された。(写真:JICA)

工事終了後の道路。歩道や柵、中央分離帯、夜間照明が設置され交通の安全性が確保された。(写真:JICA)

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