2024年版開発協力白書 日本の国際協力

4 中南米地域

中南米地域は、国際場裡(り)において一大勢力を形成し、人口約6.6億人注17、域内総生産約7兆ドル注18の巨大な成長市場を有しています。その多くが自由、民主主義、法の支配等の価値や原則を日本と共有しており、外交面および経済面で、戦略上重要な地域です。鉱物・エネルギー資源や食料の供給源でもあることから、特に、世界の食料・エネルギー供給の安定が大きな課題となっている現下の情勢において、日本を含む国際社会のサプライチェーン強靭(じん)化や経済安全保障の観点からも、その重要性は増大しています。そして、中南米地域は、世界最大となる約310万人の日系人の存在、さらには、再び海を越えて日本に渡り、日本の産業を支えている日系人の存在もあり、日本との人的・歴史的な絆(きずな)が伝統的に強く、日本はこの地域と長い間、安定的な友好関係を維持してきました。

一方で、中南米地域は、気候変動、防災、保健・医療分野での脆(ぜい)弱性、貧困等、国際社会共通の課題において、引き続き大きな開発ニーズを抱えており、小島嶼(しょ)国特有の脆弱性を有する国も多く存在します。また、貧困や治安の悪さから逃れて北米を目指す移民や、政治・経済社会情勢の悪化により周辺国に流出するベネズエラ難民に加え、2021年7月に大統領が暗殺されて以降、国内の政治経済および治安状況の悪化が継続するハイチ情勢なども、地域的な課題となっています。

日本は、中南米諸国との間で、スペイン語でもポルトガル語でも「共に」を意味する「Juntos(フントス(スペイン語)/ジュントス(ポルトガル語))」をキーワードに、パートナーとしての信頼と友情を深めてきました。このような外交政策の一環として、中南米地域が強靭で持続可能な発展を実現できるよう、各国の所得水準や実情を踏まえ、ニーズに配慮した、日本ならではの支援(「質の高いインフラ」、日本の経験をいかした防災・減災、クリーンエネルギー技術、ボランティア等の技術協力による「顔の見える支援」等)を行っています。また、日本との強い絆の礎となっている日系人および日系社会を支援し、そのアセットを活用しながら、信頼に基づく人材の重層的ネットワークをさらに強化しています。

●日本の取組

中南米諸国がG20やAPECの議長を務め、国際社会をリードする「中南米イヤー」となった2024年は、中南米諸国との間で、「中南米外交イニシアティブ」に基づく外交を推進しました。「中南米外交イニシアティブ」は、海洋、ジェンダー、軍縮不拡散を始めとする、国際場裡で重要性を増す分野において連携を強化するとともに、歴史的に強固な二国間関係を補完・強化するアプローチとしての「多様なネットワーキングを駆使した外交」を展開するものです。開発協力においても「中南米外交イニシアティブ」を具体化する様々な取組を実施しました(「開発協力トピックス」も参照)。

上川外務大臣(当時)は、2024年2月にブラジルおよびパナマを訪問しました。パナマでは、価値や原則を共有する伝統的な二国間関係の強化に加え、海洋や女性といった両国が共に力を注ぐ分野での連携の強化を図ることを確認しました。2024年のG20議長国であるブラジルとの間では、国際社会における喫緊の課題への対処や、国連安全保障理事会(安保理)改革を含むグローバル・ガバナンス改革等においてさらなる連携を図ることを確認しました。また、2024年5月、岸田総理大臣(当時)は、ブラジルおよびパラグアイを訪問し、国際秩序の維持・強化から、環境保護、気候変動対策まで様々な分野における連携の重要性を確認しました。このように、日本は中南米地域との一層の関係強化に努めています。

■防災・環境問題への取組
コロンビアのヘノバ市女性コーヒー農業組合によるヘノバコーヒーの販促活動(写真:JICA)

コロンビアのヘノバ市女性コーヒー農業組合によるヘノバコーヒーの販促活動(写真:JICA)

中南米地域は、豊かな自然に恵まれる一方、地震、津波、ハリケーン、火山噴火などの自然災害に見舞われることが多く、防災の知識・経験を有する日本の支援が重要です。

地震が頻発するエクアドル、ペルー、メキシコなど太平洋に面した中南米諸国に対しては、日本の防災分野の知見をいかした支援を行っています。また、2024年には、洪水による被害があったブラジルや森林火災による被害があったボリビアに加え、ハリケーンによる被害があったグレナダ、ジャマイカ、セントビンセントおよびグレナディーン諸島に対して、JICAを通じて緊急援助物資の供与を行いました。カリブ海の国々に対しては、自然災害に対する小島嶼国特有の脆弱性を克服するための様々な支援を行っており、近年では、カリブ地域における防災政策策定能力向上を目的として、カリブ災害緊急管理機関に日本の防災専門家を派遣しています。

また、日本は、環境問題への取組として、気象現象に関する科学技術研究や生物多様性の保全、リモートセンシングを利用したアマゾン熱帯林の保全など、幅広い協力を行っています。2024年5月の岸田総理大臣(当時)のブラジル訪問時、日本とブラジルは、環境・気候変動や持続可能な開発に関する協力についての、「日・ブラジル・グリーン・パートナーシップ・イニシアティブ(GPI)」を立ち上げました。このイニシアティブの一環として、日本は、アジアの国としては初めて、アマゾンの森林破壊の防止を目的としたアマゾン基金へ拠出しました。そのほか、GPIでは、防災における協力や三角協力の推進、また、地球温暖化対策や食料の安全保障の観点からの劣化牧野の畑地転換、さらに、幅広い種類の植物を一緒に植えることで森林を再生し、森林・生態系を維持する持続可能な森林農法であるアグロフォレストリー注19等における協力の表明を行っています。

■経済・社会インフラの整備

日本は、中南米地域の経済・社会インフラ整備を進めるため、都市圏および地方における上下水道インフラの整備を積極的に行っています。2024年には、人口増に給水能力が追いつかず、また排水処理能力の不足から道路の冠水による交通渋滞や衛生環境が悪化しているグアテマラに対して、ポンプ、クレーン車等の上下水道整備関連機材の供与を決定しました。また、深刻な水不足に直面しているアンティグア・バーブーダに対して、海水淡水化装置の供与を決定しました。

ホンジュラスでは、首都テグシガルパと隣国ニカラグアを結ぶ主要国際幹線道路である国道六号線の地すべり対策を支援してきており、地すべりの拡大が見られる場所に、橋梁(りょう)を建設する協力を決定しました。

この他にも、官民連携で地上デジタル放送の日本方式(ISDB-T)注20の普及に取り組んでおり、2024年12月時点で中南米の14か国が日本方式を採用しています。日本は、日本方式を採用した国々に対して、円滑な導入に向けた技術移転や人材育成を行っています。

■保健・医療および教育分野での取組
パラグアイで障害者の自立生活の実現と社会参加促進を目指して、タンゴ・セラピーを実施するJICA専門家(写真:JICA)

パラグアイで障害者の自立生活の実現と社会参加促進を目指して、タンゴ・セラピーを実施するJICA専門家(写真:JICA)

中南米地域は医療体制が弱く、非感染性疾患、HIV/エイズや結核などの感染性疾患、熱帯病などがいまだ深刻な状態であるため、迅速で的確な診断と治療を行える体制の確立が求められています。

ボリビアでは、特に医療機材整備が喫緊の課題となっていたことから、2023年6月、日本は3億円の無償資金協力を実施することを決定し、ボリビアの国立医療機関に対して、日本の優れた医療技術を活用した医療関連機材の供与を行っています。

また、日本は、中南米各国の日系社会に対して、日系福利厚生施設への支援や研修員の受入れ、JICA海外協力隊員の派遣などを継続して実施しています。

教育分野への支援は、今も貧困が残存し、教育予算も十分でない中南米諸国にとって非常に重要です。日本は、教育は「人への投資」として重要であるとの考えの下、過去15年以上にわたり、エルサルバドルに対し数学・算数教育の技術協力を実施しているほか、新型コロナウイルス感染拡大以降、教育の質の改善と場所にとらわれない教育の場を提供する観点から、教育分野におけるデジタル化の推進を優先課題として掲げる同国に対し、デジタル教材の制作を促進する機材を供与しました。

■中米移民、ベネズエラ難民・移民支援

中米地域は、貧困や治安の悪さを原因として、米国やメキシコへの移住を目指す移民の問題を抱えています。日本は、移民発生の根本原因である貧困、治安、災害などの分野における支援を実施しています。また、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコに対し、国際移住機関(IOM)や国連世界食糧計画(WFP)と連携し、移民の自発的帰還の促進や移民流出防止、帰還移民の社会への再統合のための支援を行っています。

「中南米外交イニシアティブ」においても、移民問題への対応と、女性・平和・安全保障(WPS)を含むジェンダー平等の観点から、国連女性機関(UN Women)を通じ、パナマ、コスタリカおよびホンジュラスにおける2万人の移民女性に対してジェンダーに基づく暴力等からの保護サービスを提供しています。また、移民を受け入れるコミュニティの住民や移民、男女計3,500人を対象に、ジェンダーの視点に立った社会的結束や課題解決の重要性についてのプログラムを実施しています(WPSについては注93を参照。また、日本のWPSの取組は「WPSの推進に向けた日本の開発協力の取組」を参照)。

また、ベネズエラでは、経済・社会情勢の悪化により、2024年5月までに約777万人の難民・移民が主に周辺国に流出しました。受入れ地域住民の生活環境が悪化したり、地域情勢が不安定になるなど、十分な対応ができていないことが課題となっています。そのため、2024年10月に日本は、ベネズエラ避難民を受け入れているエクアドル、コロンビア、ブラジルおよびペルーに対し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて、難民・移民の保護強化および生活立ち上げの支援を行うことにより、難民・移民の人道支援および経済・社会的包摂を図る総額約13億円の支援の実施を決定しました。

■ハイチの治安状況悪化を受けた支援

ハイチでは、特に、2021年以降、影響力を強める武装集団による市民に対する暴力行為や誘拐が多発していますが、国内の治安改善に中心的な役割を果たすハイチ国家警察は、人員数・装備の両面において不足している状況にあります。こうした状況を受けて、2023年10月、国連安保理においてハイチ多国籍治安支援(MSS)ミッションの派遣が決定され、日本もこの決定を支持しました。

ハイチでは、武器・違法薬物流入、人身売買が横行し、非正規移民の発生も相まって、治安・人道状況の悪化が国内問題のみならず深刻な国際問題と認知されています。日本は、米国を始めとするG7や米州機構(OAS)、カリブ共同体(CARICOM:カリコム)諸国等と連携し、ハイチの治安・人道状況の改善に向けた支援を実施しています。その一環として、2023年11月、ハイチ国家警察の能力強化を目的として、国連開発計画(UNDP)と連携し、ハイチ国家警察に対する、警察車両と警察用救急車両の供与を決定しました。

■南南協力・三角協力

中南米諸国には、南南協力解説で実績を上げている国も多くあります。日本は、アルゼンチン、チリ、ブラジルおよびメキシコとの間で、三角協力解説に関するパートナーシップ・プログラムを交わしており、「中南米外交イニシアティブ」においても、三角協力による「多様なネットワーキングを駆使した外交」を展開しています。例えば、アルゼンチンと協力し、2024年も中南米において中小企業支援を実施したほか、メキシコと協力し、中米北部諸国における非伝統的熱帯果樹栽培システム導入を支援しました。チリでは、KIZUNAプロジェクト(防災人材育成)を実施しています。これは、1960年から続く日チリの防災協力を基礎に、チリを中南米地域の防災人材育成の拠点として整備するもので、日本から専門家を派遣した研修には、5年間で27か国、5,000人以上が参加しています。また、ブラジルでは、日本の長年にわたる協力の結果、日本式の地域警察制度が普及しています。その経験を活用して、現在では三角協力の枠組みで、ブラジル人専門家が中米諸国に派遣され、地域警察分野のノウハウを伝えています。そのほか、アフリカのポルトガル語圏諸国に対しても、日本とブラジルで協力し、職業訓練等の研修を実施しています。

日本は、より効果的で効率的な援助を実施するため、中南米地域に共通した開発課題について、中米統合機構(SICA)やカリコムといった地域共同体とも協力しつつ、地域全体に関わる案件の形成を進めています。

用語解説

南南協力・三角協力
南南協力とは、複数の開発途上国間で、知識、技能、資源、技術などを活用して実施される協力をいう。また三角協力とは、先進国やドナー、国際機関がこのような開発途上国間の南南協力を支援する協力をいう。

  1. 注17 : 世界銀行ホームページ(2024年12月時点) https://data.worldbank.org/indicator/SP.POP.TOTL?end=2023&locations=ZJ&start=1989
  2. 注18 : 世界銀行ホームページ(2024年12月時点) https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD?end=2023&locations=ZJ&start=1989
  3. 注19 : 樹木を植栽し、木と木の間で家畜を飼育および農作物を栽培する農林業。
  4. 注20 : 注19を参照。
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