2023年版開発協力白書 日本の国際協力

5 欧州地域

ロシアによるウクライナ侵略は、ウクライナおよび周辺国における人道状況の悪化や、ウクライナの経済・社会の不安定化をもたらしています。また、世界的にグローバル・サプライチェーンの混乱をもたらし、人々が尊厳を持って生きるための基盤をなす食料およびエネルギー安全保障、自由で開かれた貿易体制の維持強化といった、国際社会全体に関わる新たな課題を浮き彫りにしています。このような複合的な危機による影響は、日本にとって決して対岸の火事ではなく、日本国民の生活や日本企業のビジネスにも深刻な影響を及ぼしています。

日本は、ロシアのウクライナ侵略という暴挙を断固として認めることなく、ウクライナおよびその周辺国に対する支援を進めていくことが必要との一貫した立場に立ち、ロシアによるウクライナ侵略の開始直後から、G7を始めとする国際社会と連携した取組を行ってきています。また、ウクライナの復旧・復興についても、官民一体となった支援をさらに推進すべく、2024年2月に開催した日・ウクライナ経済復興推進会議を含め、取組を進めています。

過去に共産主義体制にあった中・東欧、旧ソ連の多くの国々は、現在、市場経済に基づいた経済発展に取り組んでいます。日本は、欧州諸国を、人権、民主主義、市場経済、法の支配などの基本的価値を共有する重要なパートナーと認識しており、経済インフラの再建や環境問題などへの取組を支援しています。また、欧州連合(EU)を始めとする欧州所在の国際機関との間で、対話・協力の継続・促進や人的ネットワークの構築を通じ、総合的な関係強化を図ってきています。

●日本の取組

■ウクライナおよび周辺国に対する支援

(総論)

越冬支援として日本が供与した発電機の視察を行う岸田総理大臣(2023年3月22日)(写真:内閣広報室)

越冬支援として日本が供与した発電機の視察を行う岸田総理大臣(2023年3月22日)(写真:内閣広報室)

2024年1月7日、ウクライナを訪問し、ウクライナへの大型電力関連機材の供与式に出席する上川外務大臣

2024年1月7日、ウクライナを訪問し、ウクライナへの大型電力関連機材の供与式に出席する上川外務大臣

2023年3月、岸田総理大臣はウクライナを訪問し、ロシアによるウクライナ侵略による被害などの状況を直接視察するとともに、ゼレンスキー・ウクライナ大統領と首脳会談を行い、日本および日本が議長を務めるG7として、ウクライナ国民に対する日本の揺るぎない支援と連帯を伝えました。岸田総理大臣は、2022年から進めてきた総額約16億ドルの人道・財政支援に加え、ロシアによる侵略から1年の機会に、改めてウクライナへの連帯を示すべく約55億ドルの追加財政支援と4.7億ドルの新たな二国間支援などを行うことを決定し、今後、これらの支援を着実に実施し、地雷対策、がれき処理、電力を含む生活再建など様々な分野でウクライナを支えていくと述べました。

日本が議長国として主催した5月のG7広島サミットでは、セッション2でウクライナ情勢について議論が行われ、岸田総理大臣から、中長期的なウクライナの復旧・復興に関して、官民一体となった取組が不可欠であると述べました。さらに、セッション8「ウクライナ」ではゲストとしてゼレンスキー大統領も加えて、改めて議論が行われました(G7広島サミットの詳細は第Ⅰ部2を参照)。

6月には、林外務大臣(当時)がロンドンで開催された英国・ウクライナ政府共催のウクライナ復興会議に出席して力強く復興支援を実施するとのメッセージを発信し、カホフカ水力発電所のダム決壊による洪水の被害を受けた人々への緊急人道支援として、食料、水・衛生、保健等に対する500万ドルの支援を決定したこと、また、今後JICAを通じた大型水槽や浄水装置等の機材供与やNGOを通じた緊急人道支援を実施していく旨を表明しました。

9月6日には、岸田総理大臣が、ルーマニアの首都ブカレストで開催された「三海域イニシアティブ首脳会合」にビデオ・メッセージを発出し、中・東欧およびバルト諸国の連結性の強化を通じて、強く繁栄し、結束した欧州の実現に貢献する本取組を支持していく旨を表明しました。

同月9日には、林外務大臣(当時)がウクライナを訪問しました。日本の民間企業の代表者が同行し、ウクライナ側要人と意見交換を行い、復旧・復興に向けた日・ウクライナの連携を確認しました。ウクライナ訪問前に林外務大臣(当時)はポーランドを訪れ、ラウ外務大臣との2023年3度目となる会談を行い、官民一致したウクライナ復興への取組のためにも、地理的・歴史的背景から多くの民間企業が復興に関与しているポーランドと連携していくことで一致しました。

日本は、今後の復旧・復興フェーズにおいて、支援を本格化させていく中で、多岐の分野にわたる支援を迅速かつ着実に実現していくため、11月1日にJICAウクライナ事務所を再開しました。

11月20日には、辻󠄀外務副大臣および岩田経済産業副大臣が、ウクライナの復旧・復興に関心の高い日本企業関係者の参加を得て、経済ミッションとしてウクライナを訪問しました。辻󠄀外務副大臣および岩田経済産業副大臣は、同行した日本企業関係者と共に、シュミハリ・ウクライナ首相を含むウクライナ政府要人への表敬を行ったほか、ウクライナ経済省、商工会議所および雇用者連盟関係者等との意見交換を行いました。訪問に際しては、日本企業関係者とウクライナ側関係者とのマッチングが行われ、ウクライナ復興に向けた両国企業間の協力について、積極的な意見交換が行われました。

12月6日には、ゼレンスキー・ウクライナ大統領も参加したG7首脳テレビ会議において、岸田総理大臣から、日本として今回新たに人道および復旧・復興支援を含む10億ドル規模の追加支援を決定した旨を表明しました。G7首脳は、引き続きウクライナ支援を強力に推進していくことで一致しました。

2024年1月7日には、上川外務大臣がウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領およびシュミハリ首相への表敬を行ったほか、クレーバ外務大臣と会談し、ウクライナと共にあるという日本の立場は決して揺るがないことを直接伝達しました。

2024年2月19日には、日本とウクライナ双方から政府およびビジネス関係者等が参加して、東京で日・ウクライナ経済復興推進会議が開催され、両国間で緊密に連携し、官民一体となった復旧・復興の取組をさらに力強く推進していくことを確認しました。

引き続き、日本として、復旧・復興分野を含め、ウクライナを強力に支援すべく、取組を進めていきます。

(人道支援)

ロシアによるウクライナ侵略開始以降、日本は、ウクライナおよび周辺国に総額76億ドルの人道、財政、食料、復旧・復興支援を行っているほか、2023年12月には10億ドル規模の追加支援を決定しました。

人道支援のうち越冬支援として、2023年2月に、国連プロジェクト・サービス機関(UNOPS)を通じて約55万ドルの緊急無償資金協力を行い、ウクライナ国家警察に対して反射材およびカイロを供与しました。また、3月に岸田総理大臣がウクライナを訪問した際に表明した支援を具体化する取組の一つとして、ウクライナ市民に電気、熱、水を供給するための熱電併給設備への電力供給を回復・強化することを目的に、国連開発計画(UNDP)に7,000万ドルを拠出しました。6月6日に、ウクライナ南部でカホフカ水力発電所のダム決壊による洪水被害が発生したことを受けて、日本は、同月20日、国連世界食糧計画(WFP)、国連児童基金(UNICEF)、国際移住機関(IOM)、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて、食料、水・衛生、保健等の分野で合計500万ドルの緊急無償資金協力を決定しました。23日には、JICAの支援を通じて、浄水装置約160台、排水ポンプ約30台、ポリタンク4,000個、水槽21個を供与すること、国土交通省が供与を決定した安全ロープ8,000メートルと吸着剤3,000枚も輸送することを発表しました。ウクライナが2回目の厳冬期を迎える前の9月には、ウクライナ政府に対して、UNDPを通じ、大型変圧施設2基を供与したほか、2024年1月に上川外務大臣がウクライナを訪問した際には、500万人以上が裨(ひ)益することが見込まれる、UNDPを通じた大型変圧器7基の輸送支援、JICAおよびUNDPを通じたガスタービン発電機5基の供与を行いました。破壊されたエネルギー・インフラ施設を支援することで、ウクライナの人々が冬を乗り越えるための電力や暖房供給の回復・強化に寄与します。

(復旧・復興支援)

日本は、ウクライナの今後の安定を見据え、復旧・復興の前提となる地雷対策・がれき処理、電力等の基礎インフラ整備を含む生活再建、農業生産回復・産業振興、民主主義・ガバナンス強化等の分野で、早期の段階から同国の復旧・復興を支援してきています。2023年3月には、この方針に基づいて、「緊急復旧計画」および「緊急復旧計画フェーズ2」として総額755.1億円の無償資金協力を実施することを決定しました。

2月、ウクライナの民主主義強化に資する支援として、首都キーウにおいて、ウクライナ公共放送局(PBC)への放送機材の引渡し式が実施されました。また3月には、キーウにおいて、ウクライナの基幹産業である農業の生産力回復を図り、もって世界で主要な食料生産国である同国の経済安定化に貢献し、ひいては世界規模の食料供給改善にも寄与する支援の一環として、ウクライナ政府に対し、JICAを通じ、ひまわりおよびとうもろこし種子を供与する式典が実施されました。9月には、ウクライナ訪問中の林外務大臣(当時)が臨席する中、ウクライナ非常事態庁(SESU)に対して、地雷や不発弾処理に必要とされるクレーン付きトラック24台の供与式が行われました。11月には、ウクライナ訪問中の辻󠄀外務副大臣および岩田経済産業副大臣が臨席する中、SESUに対して、日本製地雷探知機(ALIS)50台および車両40台の供与式が行われました。

今後、2024年2月の復興会議の経緯を踏まえ、官民一体となった支援を進めていきます。

(財政支援)

ロシアの侵略による経済的影響を軽減するため、日本は、ウクライナの緊急の短期的な資金ニーズへの支援を実施しています。2023年には、法改正により、世界銀行が行うウクライナ向け融資の信用補完を可能とし、総額55億ドルの財政支援を表明しました。また、G7議長国として、G7各国の合意を取りまとめIMF支援プログラムに道筋をつけるとともに、当面の流動性確保のため世銀融資の利払いスケジュールを工夫するなどの取組も実施しました。

(ポーランド、モルドバ支援)

ロシアによるウクライナ侵略の長期化により、周辺国への負荷も長期化しています。日本は、周辺国の負担を軽減し、ウクライナへの人道、復旧・復興支援を効果的に行う観点から、周辺国に対しても支援を行っています。

2023年3月、岸田総理大臣は、ウクライナに続いて、約100万人のウクライナからの避難民を受け入れているポーランドを訪問し、ドゥダ・ポーランド大統領およびモラヴィエツキ同国首相とそれぞれ会談し、ウクライナに対する軍事および人道支援の拠点として最前線で対応するポーランドとの間で、戦略的パートナーシップに基づき、ロシアによるウクライナ侵略への対応を含め、二国間および国際場裡(り)での協力を強化することを確認しました。モラヴィエツキ首相との会談において、岸田総理大臣は、事態の長期化により増加しているポーランドを含む周辺国の負担を軽減し、ウクライナへの人道、復旧・復興支援を効果的に行う観点から、ポーランドに直接ODAを供与することを決定した旨を述べました。ポーランドには、国際機関やNGOを通じ、ウクライナ避難民への復興住宅支援や社会統合促進事業などの人道支援や、ウクライナ避難民児童の通学バスの供与等を行い、長期化するウクライナ避難民の生活を支援しています。

また、264万人の人口に対して、ウクライナからの11万人の避難民を受け入れているモルドバに対しては、4月、国際復興開発銀行(IBRD)に対して供与した円借款(600億円)を活用して約8,336万ドルを世界銀行に設置されたグローバル譲許的資金ファシリティ(GCFF)に拠出し、そのうち約1,700万ドルがモルドバ政府による金利支払い負担軽減のために活用されました。さらに7月には、モルドバの社会、経済をより強靱(じん)なものとするため、135億円の円借款を供与することを決定しました。

10月には上川外務大臣が、第4回モルドバ支援閣僚級会合にビデオ・メッセージで参加しました。上川外務大臣は、モルドバ支援にあたっても、日本がこれまで「女性・平和・安全保障(WPS)」の考えの下、国連女性機関(UN Women)への資金拠出を通じ、ロシアのウクライナ侵略により影響を受けるモルドバの脆(ぜい)弱な立場の人々、特に女性および女児の支援に一貫して取り組んできたこと、また、これからも支援を続けていく旨を述べました。

■西バルカン地域支援
公共交通の利用促進を目的とした交通教育の取り組み「交通すごろく」に参加するボスニア・ヘルツェゴビナのこどもたち(写真:株式会社アルメック)

公共交通の利用促進を目的とした交通教育の取り組み「交通すごろく」に参加するボスニア・ヘルツェゴビナのこどもたち(写真:株式会社アルメック)

西バルカン諸国注17は、1990年代の紛争の影響で改革が停滞していましたが、ドナー国・国際機関などの復興支援および各国自身による改革の結果、復興支援の段階から卒業し、現在は持続的な経済発展に向けた支援が必要な段階にあります。結束する欧州を支持する日本は、EUなどと協力しながら開発協力を展開しており、「西バルカン協力イニシアティブ」注18(2018年)の下、同諸国がEU加盟に向けて必要とする社会経済改革などを支援しています。

セルビアでは、民間セクター開発、環境保全、経済社会サービスの向上を重点事項として、質の高い経済成長を促進する支援を行っています。2020年11月から実施している「ベオグラード市公共交通改善プロジェクト」では、市民の主要な移動手段である公共交通(バス、トラム、トロリーバス)の運行の効率化や運賃収受改善等に向けた取組を通じ、市公共交通部の能力強化を行い、同市が目標とする環境に優しい公共交通システムの構築を目指しています。また、西部のシド市では、発生源分別、廃棄物の減量化を含む3R(Reduce=廃棄物の発生抑制、Reuse=再利用、Recycle=再資源化)の推進を通じて中小自治体における効率的で持続可能な一般廃棄物管理のモデルを確立し、広域廃棄物管理システムを推進することを目的とした「廃棄物管理能力向上プロジェクト」を実施しています。

北マケドニアでは2017年以降、「持続可能な森林管理を通じた、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)能力向上プロジェクト」を実施しています。同プロジェクトで得られた知見を活用し、コソボおよびモンテネグロに対しても、森林火災などの自然災害リスクを削減するための「国家森林火災情報システム(NFFIS)とEco-DRRによる災害リスク削減のための能力強化プロジェクト」を実施しています。

また、日本は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて脆弱な保健・医療体制を強化することを目的に、2020年以降、アルバニア、ウクライナ、北マケドニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モルドバ、モンテネグロの8か国に対して、総額12億円の保健・医療関連機材の供与を実施しています(北マケドニアにおける保健・医療分野への支援については「案件紹介」を参照)。

案件紹介9

北マケドニア

SDGs3

地域ニーズに応えるきめ細かな支援
保健・医療分野における草の根・人間の安全保障無償資金協力プロジェクト(計20件)
草の根・人間の安全保障無償資金協力(2021年~2023年)

西バルカン地域の多民族国家である北マケドニアは、面積が九州の3分の2ほどの小さい国で、首都スコピエを中心に開発が進んでいます。しかし、地方では教育、保健、環境分野等の社会インフラ整備のための予算が不足し、地域間格差が課題となっています。日本は、持続可能で包摂的な発展を支援するため、1996年から2023年までの27年間に、北マケドニア全土で計177件、総額890万ユーロ以上の草の根・人間の安全保障無償資金協力注1を実施してきました。このうち約8割が保健・医療分野および教育分野の協力であり、病院への医療機材供与、学校の修復等を通じ、地域住民の生活改善に貢献しています。

同国では2020年以降、新型コロナウイルス感染症の影響による経済状況の悪化や、医療体制に対する負荷の増大、医療サービスの地域格差の拡大がみられ、保健・医療体制の強化が喫緊の課題となっていました。

そこで日本は、保健・医療分野の支援を強め、2020年度以降、現在まで20件の草の根・人間の安全保障無償資金協力プロジェクトを採択し、新型コロナ対策および同国の保健・医療体制の強化を支援しています。

これまで、感染症治療を行う病院に対して、医療廃棄物処理装置を供与したほか、保健センターの救急医療サービス向上のため、医療機材一式の供与などを実施してきました。また、医療サービスの地域格差を考慮し、地方の医療関係機関に対する積極的な協力を行っています。最先端・高品質の技術を有する日本の供与製品は広く感謝されています。

日本はプロジェクトの形成、実施からフォローアップまで、現地の実施機関と密に連携し、きめ細かな支援を行っています。

草の根・人間の安全保障無償資金協力で供与した超音波診断装置を使用し診察する様子

草の根・人間の安全保障無償資金協力で供与した超音波診断装置を使用し診察する様子

注1 注87を参照。


  1. 注17 : アルバニア、北マケドニア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロの6か国。
  2. 注18 : 西バルカン諸国のEU加盟に向けた社会経済改革を支援し、民族間の和解・協力を促進することを目的とする取組。
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