(2)実績から見た主要ドナーの開発協力概要
いかなる協力がODAに該当するのか、それをどのように報告するかについては、OECD開発援助委員会(DAC)が国際的なルールを定めています。DACが定めるルールでは、ODAは、①公的機関またはその実施機関によって供与される、②開発途上国の経済開発や福祉の向上を主目的とする、③譲許的(じょうきょてき)性格を有する(有償資金協力の場合、貸付条件(金利、償還(しょうかん)期間等)が受取国にとって有利に設定されている)、の3要件を満たすものとされています。
このように、DAC諸国はDACが定めるルールに基づいて開発協力を行っていますが、主要ドナーが実施するODAの内容は国によって異なっています。ここでは、主にG7諸国を中心としたDACドナーの援助概要について2019年の実績を参考に概説します。
…主要ドナーの支援実績
2019年のDAC諸国のODA供与額(贈与相当額計上方式(GE方式))は、約1,517億2,200万ドルでした。国別実績(GE方式、DAC諸国における構成比)では、1位が米国(約334億9,200万ドル、22.1%)、2位がドイツ(約241億9,800万ドル、15.9%)、3位が英国(約193億9,300万ドル、12.8%)、4位が日本(約155億8,800万ドル、10.3%)、5位がフランス(約122億1,100万ドル、8.0%)、6位がオランダ(約52億9,200万ドル、3.5%)、7位がスウェーデン(約52億500万ドル、3.4%)、8位カナダ(約47億2,500万ドル、3.1%)、9位イタリア(約43億7,300万ドル、2.9%)とG7諸国が上位を占めています。注8

…主要ドナーの支援分野
2019年の実績では、米国、英国、カナダ、フランスおよびドイツは、教育、保健、上下水道等の社会インフラ分野へ支援を重点的に行っています。また、米国はODA全体の30%以上を人道支援・食糧援助などの緊急支援に充(あ)てています。一方で、道路や橋、鉄道、通信、電力等の経済インフラ分野では日本が1位で52.1%、次いでフランスが22.8%を占めました。日本の協力に占める経済インフラ分野での支援が大きいのは、自らの戦後の復興経験からも、途上国の持続的な経済成長を通じた貧困削減等の達成のためには、まず経済インフラを整え、自助努力を後押しすることが不可欠と考えているからです(図表I-7)。
…主要ドナーの支援地域
日本はアジア地域を中心に支援している(2019年の支出総額(以下同)の約61.1%)のに対し、米国、フランス、英国およびイタリアはサブサハラ・アフリカ向けが1位(それぞれ32.1%、30.8%、28.1%、22.8%)となっており、ドイツは中東・北アフリカ向け支援が1位(22.2%)となっています注9。また、地域別で見た主要DAC諸国からの支援実績の割合では、米国はサブサハラ・アフリカ(32.7%)、中東・北アフリカ(28.6%)、および中南米地域(29.0%)で1位となっています。大洋州ではオーストラリアが総供与額の48.2%を支援しているほか、旧ユーゴスラビア諸国やウクライナなどの欧州地域ではドイツが27.7%を占めています。このように、各国による支援重点地域は、地理的近接性や歴史的経緯等による影響も受けています(図表I-8)。

…援助形態別の実績(2018年)
援助形態別に見ると、2019年のDAC諸国全体のODA実績のうち、贈与が約87%(二国間無償資金協力:約50%、二国間技術協力:約10%、国際機関向け贈与:約26%)、有償資金協力が13%(二国間:約12%、国際機関向け:約1%)となっており、日本およびフランスを除く主要DAC諸国は、そのほとんどを贈与(無償資金協力および技術協力)の形態で実施しています(図表I-9)。
日本のODAに占める有償資金協力(円借款等)の割合が多いのは、開発を与えられたものとしてではなく、開発途上国自身の事業として取り組む意識を高めることが、効果的な開発協力のために重要との考えに基づき、途上国の人々自らによる経済成長への努力を支援することを目的としているためです。途上国側から見れば、自らが借りたお金で国の社会や経済の発展を目指した事業を行うことになり、それだけに一生懸命に事業に取り組むことにつながります。円借款事業が終了した後も、途上国の人々が自らによって事業を持続・発展的に行えるようになることを目指した協力を行っている点は、自助努力を重視する日本ならではの支援といえますし、DAC開発協力相互レビューでも、その有用性が評価されました(DAC開発協力相互レビュー対日審査を参照)。

…新興ドナーによる開発協力
伝統的に開発協力を担ってきたDAC諸国に加え、近年、経済発展を遂げた開発途上国等のOECD非加盟国、DACに参加していない中国、インド、インドネシア、サウジアラビア、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、トルコ、南アフリカ等の新しいドナー(非DAC諸国)や民間の財団などによる援助が増加しています。このような新たな開発協力の担い手による援助は、DACの統計で集計されているだけでも、非DAC諸国(DACに実績報告を行っている国のみ)による支援は計160億ドル以上、NGOによる支援は計450億ドル以上に達しています。
途上国への資金の流れを正確に把握し、限りある開発資金を効果的に活用することは国際社会で開発協力を連携して推進するためには不可欠ですが、非DAC諸国などが実施する援助の内容は、DACが作成・公表する統計ではすべてが明らかになっていないのが現状です。また、DACが定めるODAの3要件に必ずしも適合しない開発協力を行っている援助主体があること、特に、途上国向け融資について、担保付貸付等の非伝統的かつ非譲許(じょうきょ)的な貸付が行われているとの指摘もあります。
現在、OECDや様々な国際フォーラムにおいて、これらの新興ドナーによる援助や民間資金の活用を含む国際的な援助のルールや枠組みを作るための議論が行われています。日本の働きかけにより、2020年11月に開催されたOECD・DACハイレベル会合にて採択されたコミュニケでは、DACメンバー以外の開発協力の供与国に対し、透明性と説明責任を向上させるよう国際的なスタンダードや慣行を一層遵守(じゅんしゅ)するよう求める旨が盛り込まれました。日本としては、中国等、新興ドナーの援助が国際的な基準や取組と整合的な形で透明性を持って行われるように、引き続き国際社会と連携しながら働きかけていきます(新しい国際統計システムについては「開発協力トピックス」を参照。また、債務問題への取組および諸外国・国際機関との連携も参照)。

- 注8 : 詳細については、2020年版開発協力参考資料集図表「DAC諸国の政府開発援助実績(2019年)」に掲載予定。
- 注9 : 詳細については、2020年版開発協力参考資料集第3章諸外国の経済協力第3節「主要援助国・地域機関の経済協力の概要」に掲載予定。