(2)債務問題への取組
公的金融による支援は、開発途上国が債務として受け入れた資金を有効に活用する場合、経済成長に大きく貢献しますが、供与時点では予想し得なかった事情等によって返済が困難となり、過剰に債務を抱えてしまった場合には、途上国の持続的成長を阻害する要因となり得ます。本来は、債務国自身が改革努力などを通じて、自ら解決しなければならない問題ですが、過大な債務が途上国の発展の足かせになっている場合、国際社会による対応が必要になります(新型コロナの流行を受けた途上国債務問題への対応については、開発途上国の債務問題への対応を参照)。
2005年のG8グレンイーグルズ・サミット(英国)では、重債務貧困国(HIPCs)*が、IMF、国際開発協会(IDA)およびアフリカ開発基金に対して抱える債務を100%削減するという提案であるマルチ債務救済イニシアティブ(MDRI:Multilateral Debt Relief Initiative)が合意されました。最貧国の債務問題に関しては、重債務貧困国に対する既存の国際的な債務救済イニシアティブをさらに拡充し、債権の100%削減などを行うこととした、拡大HIPCイニシアティブ注5について、これまでに39か国がその対象となっています。経済・社会改革などへの取組が一定の段階に達したという条件を満たした結果、2019年度末には、そのうち36か国で包括的な債務削減が実施されています。
また、重債務貧困国以外の低所得国や中所得国の中にも、重い債務を負っている国があり、これらの負担が中長期的な安定的発展の足かせとならないよう、適切に対応していく必要があります。2003年、パリクラブ注6において、「パリクラブの債務リストラに関する新たなアプローチ(エビアン・アプローチ)」が合意されました。エビアン・アプローチでは、重債務貧困国以外の低所得国や中所得国を対象に、従来以上に債務国の債務持続可能性に焦点を当てており、債務負担が大きく、支払い能力に問題がある国に関しては、一定の条件を満たした場合、包括的な債務救済措置がとられています。
しかし、近年、一部の低所得国においては、拡大HIPCイニシアティブやマルチ債務救済イニシアティブによる債務救済を受けたにもかかわらず、再び公的債務が累積し、債務持続可能性が懸念されています。この背景として、債務国側では、自国の債務データを収集・開示し、債務を適切に管理する能力が不足していること、債権者側では、担保付貸付等の非伝統的かつ非譲許(じょうきょ)的な貸付を含む、新興債権国や民間債権者による貸付が増加していることが指摘されています。このような状況を踏まえ、G20では、低所得国における債務透明性の向上および債務持続可能性の確保に向けた議論を行っており、とりわけ日本議長下の2019年、G20において、債務国および官民の債権者双方による協働を呼びかけ、2019年6月、福岡でのG20財務大臣・中央銀行総裁会議および大阪でのG20サミットにおいて、それぞれの具体的な取組の進展を確認することができました。
2020年4月、新型コロナの拡大による低所得国への影響に対処するため、G20およびパリクラブは、これら諸国の公的債務の支払いを2020年末まで一時的に猶予(ゆうよ)する「債務支払猶予イニシアティブ」(DSSI)に合意しました。このDSSIの支払猶予期間については、2020年10月、新型コロナの影響に引き続き対処する必要があるとの観点から、6か月間の延長が合意されました。さらに、2020年11月、G20およびパリクラブは、DSSI対象国に対する債務救済を行うにあたっての「DSSI後の債務措置に係る共通枠組」(以下、「共通枠組」)に合意しました。G20およびパリクラブは、DSSIに基づく債務の支払猶予を着実に実施するとともに、今後、「共通枠組」のもとで、DSSI対象国からの要請に基づき、必要に応じて、個別に債務救済を実施していくこととなります。
低所得国をはじめとする各国の債務持続可能性に大きく影響を与え得る要素の一つとして、インフラ投資が挙げられます。港湾、道路といったインフラ案件は額が大きく、その借入金の返済は借りた国にとって大きな負担となることがあります。インフラ案件への融資を行う場合には、貸す側も借りる側も債務持続可能性について十分に考慮することが必要です。債務持続可能性を考慮しない融資は、「債務の罠」として国際社会から批判されています。2019年のG20大阪サミットで各国首脳によって承認された「質の高いインフラ投資に関するG20原則」においては、個々のプロジェクトレベルでの財務面の持続可能性に加え、国レベルでの債務持続可能性を考慮することの重要性が盛り込まれました。また、同原則には開放性、透明性、ライフサイクルコストを考慮した経済性といった原則も盛り込まれています。G20各国は自らが行うインフラ投資においてこれらの原則を国際スタンダードとして実施すること、また融資を受ける国においてもこれらの原則が実施されるよう努めることが求められています。
●日本の取組
日本は、円借款の供与にあたって、被援助国の協力体制、債務返済能力および運営能力、ならびに債権保全策などを十分検討して判断を行っており、ほとんどの場合、被援助国から返済が行われていますが、例外的に、円借款を供与する時点では予想し得なかった事情によって、返済が著しく困難となる場合もあります。そのような場合、日本は、前述の拡大HIPCイニシアティブやパリクラブにおける合意等の国際的な合意に基づいて、必要最小限に限って、債務の繰延注7、免除、削減といった債務救済措置を講じています。2019年末時点で、日本は、2003年度以降、33か国に対して、総額で約1兆1,290億円の円借款債務を免除しています。なお、2019年に引き続き、2020年も円借款債務の免除実績はありませんでした。
日本は、G20原則の重要な要素である債務持続可能性の確保の観点からも、JICAによる研修や専門家派遣、国際機関への拠出等を通じ、途上国の財務省幹部職員の公的債務・リスク管理にかかる能力の向上に取り組んでいます。例えば、ガーナ、ザンビア等への債務管理・マクロ経済政策アドバイザー派遣、国際通貨基金(IMF)・世界銀行の各信託基金への新たな資金拠出など、債務国の能力構築に向けた支援を実施しています。
- 注5 : 1999年のケルンサミット(ドイツ)において合意されたイニシアティブ。
- 注6 : 特定の国の公的債務の繰延に関して債権国が集まり協議する非公式グループ。フランスが議長国となり、債務累積国からの要請に基づき債権国をパリに招集して開催されてきたことから「パリクラブ」と呼ばれる。
- 注7 : 債務救済の手段の一つであり、債務国の債務支払の負担を軽減するために、一定期間債務の返済を延期する措置。