2019年版開発協力白書 日本の国際協力

開発協力トピックス2

「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた取組の推進

「自由で開かれたインド太平洋(FOIP:Free and Open Indo-Pacific)」は、法の支配を含むルールに基づく国際秩序の確保、航行の自由、紛争の平和的解決、自由貿易の推進と自立的・持続可能な成長を通じて、インド太平洋を「国際公共財」として自由で開かれたものとすることで、この地域における平和、安定、繁栄の促進を目指していく構想です。

アジア太平洋からインド洋を経て中東・アフリカに至るインド太平洋地域は、世界人口の半分を有し、国際社会の活力の中核といえます。この地域に平和と繁栄をもたらすためには、①国際スタンダードに基づいた質の高いインフラの整備などを通じた地域の連結性を強化しつつ、②自立的かつ持続可能な成長の後押しを通じて経済的繁栄を追求するとともに、③海賊やテロといった繁栄を阻害する要因を取り除き、平和と安定を確保する努力が必要です。日本はODAも戦略的かつ効果的に活用しつつ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて様々な国と連携しながら具体的な取組を進めてきました。

日本の支援を通じて建設されたカンボジアのシハヌークビル港(写真:JICA)

日本の支援を通じて建設されたカンボジアのシハヌークビル港(写真:JICA)

フィリピン沿岸警備隊に供与した多目的船(写真:JICA)

フィリピン沿岸警備隊に供与した多目的船(写真:JICA)

「自由で開かれたインド太平洋」は、2016年8月に安倍総理大臣が初めて提唱し、多くの国・地域がこのビジョンに共鳴しています。たとえば、2019年6月のASEAN首脳会議では「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」が採択され、連結性や海洋をめぐる協力などが協力分野として明記されました。日本はこのASEAN自身のビジョンであるAOIPを全面的に支持し、「自由で開かれたインド太平洋」とのシナジー(相乗効果)を追求していく考えです。また、2019年8月に横浜で開催されたTICAD7では、アフリカの首脳などが「自由で開かれたインド太平洋」のイニシアティブを「好意的に留意する」との文言が成果文書に盛り込まれました。今後も、米国や豪州、インド、欧州諸国、そして「自由で開かれたインド太平洋」の実現にとって極めて重要な地域である東南アジアといった様々なパートナーと緊密に連携しながら重層的な協力関係を強化していきます。

2019年に日本が議長国を務めたG20大阪サミットでは、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を中国やインドなどの新興ドナー国を含むG20の首脳で承認しました。これは開放性、透明性、経済性、債務持続可能性といった重要な要素を含んでおり、「自由で開かれたインド太平洋」実現のための重要な基礎となる質の高いインフラ整備の国際スタンダードになるものです。同原則の実践は開発途上国における膨大なインフラ需要に応える上で、質・量両面で貢献するものであり、日本は各国と協力して、同原則を推進し、持続可能な成長を促進していく考えです(詳細は特集「質の高いインフラで世界を結ぶ」および「質の高いインフラ」を参照)。

日本の最近の取組としては、たとえば、バングラデシュ南東部のマタバリにおいて多目的商業港建設への支援を決定しました。これは、周辺国との物流の活性化を図り、バングラデシュが中所得国になるための経済成長に貢献するものです。また、マダガスカルでは、幹線道路の2橋架(きょうか)について、架け替えによる2車線化を行うことにより輸送能力の改善を図り、同国における物流の活性化を実現していきます。さらにジブチでは、首都と北部のタジュラ市の間の海上輸送能力向上のため、季節風が吹く時期でも運航可能なフェリーや港湾施設の整備を行っており、持続可能な発展のための経済社会基盤整備に寄与することが期待されます。このほか、インド太平洋地域のハブとして重要なASEAN地域において、日本は東西経済回廊および南部経済回廊の連結性強化に向けた取組を進めており、カンボジアのシハヌークビル港開発、ラオスの国道9号線橋梁(きょうりょう)改修、ミャンマーのティラワ経済特区開発などを着実に進めています。

「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、経済発展の妨げとなる海賊、テロ、大量破壊兵器の拡散、自然災害、違法操業などへの対策も必要です。途上国に対する法制度整備支援・能力構築支援といった人づくり・ルールづくりや、海上交通の安全確保の観点も踏まえた、沿岸国への巡視船や沿岸監視レーダー機材の供与、各国の海上保安機関職員に対する研修、日本の専門家の各国への派遣などを通じた海上法執行・海洋状況把握能力などの強化も重要な取組です。その一例として、フィリピンでは高速ボートをはじめとする機材供与や、供与した機材を活用した研修や海上訓練などの技術協力を行うことで、様々なODAスキームを活用し、沿岸警備隊を総合的に支援し、海上法執行能力の強化に貢献しました(詳細は「海洋」を参照)。

日本およびこの地域の安定と繁栄は、透明性の高いルールに支えられ、様々な人・物・知恵が活発に行き交う「自由で開かれたインド太平洋」の存在なくしてはあり得ません。そのためにも、日本はこれからも様々な支援を活用し、「自由で開かれたインド太平洋」の実現のため、引き続き、考え方を共有するすべての国々や地域とともに取組を加速させていきます。

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