2019年版開発協力白書 日本の国際協力

第Ⅰ部 2019年の日本の開発協力
~世界を結んだ2019年、未来を紡いだ2019年~

G20大阪サミットに出席した安倍晋三総理大臣はじめ参加各国首脳および国際機関の代表たち(写真:G20大阪サミットホームページ)

G20大阪サミットに出席した安倍晋三総理大臣はじめ参加各国首脳および国際機関の代表たち(写真:G20大阪サミットホームページ)

1 世界を結んだ2019年

…国際会議を通じてリーダーシップを発揮

2019年は、日本が開発協力の分野でリーダーシップを発揮した一年となりました。6月に日本が初めて議長国を務めたG20大阪サミット、8月に6年ぶりの日本開催となった第7回アフリカ開発会議(TICAD7)を主催したほか、9月には国連で持続可能な開発目標(SDGs)採択後初めて首脳レベルが一堂に会するSDGサミットが開催され、安倍総理大臣自らが、世界が直面する開発課題やグローバルな課題について国際社会の議論をリードしてきました。

G20愛知・名古屋外務大臣会合を主催する茂木外務大臣(2019年11月)

G20愛知・名古屋外務大臣会合を主催する茂木外務大臣(2019年11月)

TICAD7開会式・全体会合で基調演説を行う安倍総理大臣(2019年8月28日)

TICAD7開会式・全体会合で基調演説を行う安倍総理大臣(2019年8月28日)

G20大阪サミット

2019年6月に開催されたG20大阪サミットは、G20メンバー国に加えて、8つの招待国、9つの国際機関の代表が参加し、まさに「世界を結ぶ」会議となりました。「世界経済、貿易・投資」、「イノベーション(デジタル経済・AI)」、「格差への対処、包摂的かつ持続可能な世界」、「気候変動・環境・エネルギー」をテーマとした各セッションにおいて、日本は議長国として、意見の対立ではなく共通点を見出すべく議論を積極的に主導し、団結して取り組んでいく姿を打ち出すことができました。

特に開発問題に関しては、各種の大臣会合でも議題として取り上げ、日本は、経済成長と格差への対処の同時達成、さらにはSDGsを中心とした開発・地球規模課題への貢献を通じて、自由で開かれた、包摂(ほうせつ)的かつ持続可能な「人間中心の未来社会」の実現を目標に掲げ、推進していく考えを発信しました。

大阪サミットの成果文書としてまとめられた「大阪首脳宣言」には、包摂的かつ持続可能な世界に向け、開発を促進し、地球規模課題に対処する取組を主導する旨が明記されました。具体的には、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」、女性のエンパワーメントの取組の加速化、質の高い教育を通じた人的資本投資、SDGs達成のための科学技術イノベーション(STI)の活用、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向けた取組および「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を含む地球環境・気候変動対策などの諸課題について、G20として一致して力強いメッセージを発信しました。

日本の議長年の集大成として、2019年11月に開催されたG20愛知・名古屋外務大臣会合では、3つのセッションのうち2つの議題を「SDGsの実現」と「アフリカ」の開発に割き、各国外相との間で率直な意見交換を行いました。その結果として、各分野における大阪サミットおよびTICAD7の成果を再確認するとともに、2020年以降の具体的な取組につなげるための「跳躍台」とすることができました。また、セッションの合間には、SDGsに関連して、地元高校生の代表者から、「教育格差の解消」に向けた新しい時代を創る若者らしい斬新な提言が提出されました。

今後、日本は、2020年11月に開催予定のG20リヤド・サミットの成功に向け、議長国であるサウジアラビアと緊密に連携していきます。

第7回アフリカ開発会議(TICAD7)

技術協力「内水面養殖再興計画策定プロジェクト」で行われたJICA専門家による研修の様子。コートジボワールの漁業を、無償資金協力、技術協力など複数の案件を通じ、漁村振興から政策助言まで一体的に支援している。(写真:JICA)

技術協力「内水面養殖再興計画策定プロジェクト」で行われたJICA専門家による研修の様子。コートジボワールの漁業を、無償資金協力、技術協力など複数の案件を通じ、漁村振興から政策助言まで一体的に支援している。(写真:JICA)

「SDGサミット2019」においてスピーチする安倍総理大臣(2019年9月)(写真:内閣広報室)

「SDGサミット2019」においてスピーチする安倍総理大臣(2019年9月)(写真:内閣広報室)

2019年8月に横浜で開催された第7回アフリカ開発会議(TICAD7)は、42名の首脳級を含むアフリカ53か国、52か国の開発パートナー諸国、108の国際機関および地域機関の代表並びに民間セクターやNGO等市民社会の代表など、10,000名以上が参加しました。「アフリカに躍進を!ひと、技術、イノベーションで。」というテーマのもと、6つの全体会合(①開会式、②民間セクター育成やイノベーションを通じた経済構造転換の加速とビジネス環境整備、③官民ビジネス対話、④持続可能で強靱な社会の深化、⑤平和と安定および⑥閉会式)と5つのテーマ別会合(①科学技術イノベーション、②人材育成・若者のための教育、③農業、④気候変動・防災、⑤ブルーエコノミー)、および4つの特別会合(①サヘル地域の平和と安定に関する特別会合、②アフリカの角及び周辺地域の平和と安定特別会合、③西インド洋における協力特別会合および④主要国際機関の長との昼食会)が開催されました。また、約140件のセミナー・シンポジウムや約100件の展示など過去最大規模の多彩なサイドイベントが開催されました。

日本は安倍総理大臣が、アフリカ側はエルシーシ・エジプト大統領(アフリカ連合(AU)議長)が共同議長を務めました。TICAD7は日本を含む国際社会とアフリカとを結ぶ国際会議として、アフリカの未来を形づくるための基盤となりました。

今回のTICAD7では、従来までのTICADとは異なり、ビジネスの促進が議論の中心になりました。TICAD史上初めて、民間企業を公式なパートナーと位置づけ、本会合で日アフリカ官民の直接対話を実施しました。その結果、第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)の2倍を超える企業(日本の団体・民間企業約300社、アフリカ・第三国の企業約100社)が参加し、首脳や閣僚と直接対話を行う貴重な機会となりました。また、参加者からは、日・アフリカ間の貿易・投資を拡大するための具体的な提案がなされ、日本の直接投資の拡大や現地における人材育成への強い期待が表明されました。

TICAD7の成果文書として採択された「横浜宣言2019」では、TICADの特徴であるアフリカのオーナーシップ、国際社会のパートナーシップ、包摂性および開放性を確認しつつ、人間の安全保障と人間開発に向け、質の高いインフラ、民間セクターによるインパクト投資、マクロ経済の安定、イノベーション、気候変動対策、防災、人材育成および制度構築における日アフリカ間の協力の重要性を確認しました。

日本は今後も、日本の強みや日本らしさを活かした取組を通じ、アフリカとの関係を強化しつつ、アフリカ自身が主導して発展できるよう、アフリカ諸国の取組を力強く後押ししていきます。

SDGサミット2019

先進国・開発途上国を問わず、すべての国に行動を求め、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現をめざすSDGsは、まさに「世界を結び、未来を紡(つむ)ぐ」ための取組です。2019年9月、国連総会の機会に、SDGs採択後初となる「SDGサミット2019」が開催され、日本からは安倍総理大臣が出席しました。

同サミットは、首脳レベルでSDGs採択以降過去4年間の取組のレビューを行い、SDGs達成に向けたモメンタムを高めることを目的として開催されました。安倍総理大臣は、G20大阪サミットやTICAD7における成果を含む過去4年間のSDGs推進の実績を共有した上で、全閣僚が参加する「SDGs推進本部」の本部長として、安倍総理大臣自身が先頭に立って、SDGsの達成に向け優れた取組を行っている企業や団体等を表彰する「ジャパンSDGsアワード」や持続可能な都市・地域づくりを目指す「SDGs未来都市」の取組をはじめ、オールジャパンでSDGsを推進してきたことを紹介しました。さらに、12月までに日本のSDGs推進の中長期戦略である「SDGs実施指針」を改定し、進化した日本の「SDGsモデル」を示す旨を述べました。

同サミットには、グテーレス国連事務総長、ムハンマド=バンデ国連総会議長、各国首脳、国際機関の長などが参加し、グテーレス国連事務総長からは、取組は進展しているものの、あるべき姿からは程遠く、取組を加速しなければならない、そのために2030年までをSDGs達成に向けた「行動の10年」とするため、①グローバルな取組、②ローカルな取組、③人々の行動(市民社会、メディア、アカデミア、若者など)が重要であるとの認識が示されました。

また、同会合の成果文書として採択された「SDGサミット政治宣言」では、①SDGs達成に向けたコミットメントとすべてのステークホルダー(関係者)が協力していく重要性を確認し、②コミットメントの進捗(しんちょく)状況に関する分析(極度の貧困、子ども・新生児死亡率削減、電気・飲料水へのアクセス向上などの分野では進展があるものの、飢餓(きが)、ジェンダー平等、貧富の格差、生物多様性、環境問題、海洋プラスチックごみ、気候変動、災害リスクの増加が続いている)を行った上で、③適切な資金動員、実施体制の強化、地域の取組強化、強靱(きょうじん)性の構築、科学技術イノベーション(STI)の活用、統計の整備などのアクションの加速化の必要性が確認されました。

日本は、SDGサミットの結果を踏まえて、SDGsの国内外での実施に向け、全力で取り組んでいく考えです。

…質の高いインフラで世界を結ぶ
2019年3月に開業したジャカルタ都市高速鉄道(MRT)の利用客。日本とインドネシアが英知を集め、時間に正確で快適なジャカルタMRTを建設し、運営維持管理のノウハウ移転や人材育成協力も行っている(詳細は「国際協力の現場から」を参照)。(写真:JICA)

2019年3月に開業したジャカルタ都市高速鉄道(MRT)の利用客。日本とインドネシアが英知を集め、時間に正確で快適なジャカルタMRTを建設し、運営維持管理のノウハウ移転や人材育成協力も行っている(詳細は「国際協力の現場から」を参照)。(写真:JICA)

ブルキナファソの首都ワガドゥグ市内においてインフラ省職員とともに無償資金協力「ワガドゥグ東南部タンソババイパス道路改善計画」の準備調査を実施する様子(写真:株式会社アンジェロセック)

ブルキナファソの首都ワガドゥグ市内においてインフラ省職員とともに無償資金協力「ワガドゥグ東南部タンソババイパス道路改善計画」の準備調査を実施する様子(写真:株式会社アンジェロセック)

バングラデシュに対する有償資金協力「カチプール・メグナ・グムティ第2橋建設及び既存橋改修計画」によって建設されたメグナ第2橋の開通式を前にした関係者による集合写真(2019年5月25日)(写真:大林組・清水建設・JFEIエンジニアリング・IHインフラシステム共同企業体)

バングラデシュに対する有償資金協力「カチプール・メグナ・グムティ第2橋建設及び既存橋改修計画」によって建設されたメグナ第2橋の開通式を前にした関係者による集合写真(2019年5月25日)(写真:大林組・清水建設・JFEIエンジニアリング・IHインフラシステム共同企業体)

「質の高いインフラ」については、G20開発作業部会やインフラ作業部会でインフラ投資がもたらす経済、環境、社会および開発面における正のインパクトの最大化を掲げる原則の策定に向け議論を重ね、①開放性、②透明性、③経済性、④債務持続可能性といった要素を含む「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を2019年6月に福岡で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議で承認した後、大阪サミットで首脳らも承認しました。

TICAD7においても、同原則を歓迎した上で、連結性強化に向けた質の高いインフラ投資に関する日本の取組として、三重点地域注1を中心とした、質の高いインフラ投資の推進、通信網・郵便網・インフラの強化・整備、アフリカ開発銀行(AfDB)との共同イニシアティブ(EPSA4注2)などによる官民連携のプロジェクトを推進していく考えを打ち出しました。債務持続可能性の確保のための取組として、延べ30か国への公的債務・リスク管理研修の実施、ガーナ、ザンビア等への債務管理・マクロ経済政策アドバイザー派遣、国際通貨基金(IMF)・世界銀行の各信託基金への新たな資金拠出など、日本が実施している債務国の能力構築に向けた技術支援を紹介しました。また、TICAD7サイドイベントとして、国土交通省主催、約180社の民間企業等で構成される団体であるアフリカ・インフラ協議会(JAIDA)とJICAとの共催、外務省協賛で、アフリカ各国およびアフリカ連合からも参加を得て「第2回日・アフリカ官民インフラ会議」が開催され、官民が連携してアフリカにおける質の高いインフラ整備を推進していくことを確認しました。

また、2019年9月にブリュッセルにおいてEUが主催した「欧州連結性フォーラム」において、安倍総理大臣とユンカー欧州委員会委員長(当時)との間で「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」と題する文書に署名し、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」を「適用し促進する」ことを確認するなど、日EU間で、質の高いインフラを含む幅広い分野での連携、連結性強化に取り組んでいます。

さらに、同年11月にタイで開催された一連のASEAN関連首脳会議を通して、安倍総理大臣は、地域のインフラ開発について開放性等の国際スタンダードの必要性を強調しつつ、日本として質の高いインフラ整備を推進していく旨を表明しました。日ASEAN首脳会議では、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」等の国際スタンダードに沿って質の高いインフラを促進し、地域の連結性を強化するため、日本の「質の高いインフラパートナーシップ」および「質の高いインフラ輸出拡大パートナーシップ」を歓迎する旨が確認されました。

また、同年12月にスペインで第14回アジア欧州会合(ASEM)外相会合が開催され、日本からは茂木外務大臣が出席しました。同会合で発出された議長声明では、「信頼でき、強靱で、持続可能で、質の高いインフラの重要性を認識」し、「連結性への投資が合意された国際原則を遵守する必要がある」旨が明記されました。


  1. 注1 : 東アフリカ・北部回廊、ナカラ回廊、西アフリカ成長の環にわたる3地域。
  2. 注2 : EPSA4(アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ(第4フェーズ)):日・AfDB共同で、2020~2022年の3年間で35億ドルを目標とする資金協力を実施するもの。
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