2018年版開発協力白書 日本の国際協力

(4)大学との連携

政府は、大学が持つ開発途上国の開発に貢献する役割、国際協力を担う人材を育成する役割、日本の援助哲学や理論を整理し、発信する役割など、援助の理論整理、実践、国民への教育還元までの援助のサイクル全般への広い知的な側面において協力し、連携を図っています。実際に、様々な大学と共同で技術協力や円借款事業、草の根技術協力事業をはじめとする事業を推進しています。

一例として、開発途上国の経済社会開発の中核となる高度人材の育成を目的に、政府は人材育成奨学計画(JDS)を活用し、途上国の若手行政官等を留学生として累計36大学で受け入れており、2018年度は新規に321名を受け入れています。

また、産学官連携によるアフリカ産業人材の育成(ABEイニシアティブ)では、日本全国の72大学129究科が研修員を受け入れています。さらに、ASEAN諸国に対しては、JICAの技術協力プロジェクトとして、アセアン工学系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net)プロジェクトを実施しており、日ASEAN大学間のネットワーク強化や産業界との連携、周辺地域各国との共同研究等を行っています。

地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)を通じて、ガボンのモワイヤン・オグエ州ランバレネ市の医学研究センター(CERMEL)で研究技術指導をしている長崎大学熱帯医学研究所の牛島由理研究員。詳細は案件紹介を参照(写真:青木 純JICA業務調整専門家)

地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)を通じて、ガボンのモワイヤン・オグエ州ランバレネ市の医学研究センター(CERMEL)で研究技術指導をしている長崎大学熱帯医学研究所の牛島由理研究員。詳細は案件紹介を参照(写真:青木 純JICA業務調整専門家)

さらに、近年、地球温暖化や感染症対策をはじめとしたグローバルな課題の脅威が急激に増してきており、その解決のために科学技術のさらなる発展が求められています。特にこれらの脅威の影響を受けやすい途上国では、地域のニーズに基づく研究開発が必要であることから、日本の優れた科学技術への期待が高まってきています。同時に、途上国の大学・研究機関等の自立的な研究開発能力の向上や持続的な活動推進体制の構築も急務となっています。このような問題意識の下、2008年から、JICAが文部科学省、科学技術振興機構(JST)、日本研究医療開発機構(AMED)と連携し「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)注8」を実施しています。SATREPSを通じ、日本と途上国の大学・研究機関の間で国際共同研究が行われています(具体例については、「国際協力の現場から」も参照。)。

こうした大学との連携は、途上国の課題解決における学術面での向上に寄与していることに加え、海外から研修員が日本の大学で研修・研究することで、日本の大学の国際化にも貢献しています。

用語解説
アセアン工学系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net:ASEAN University Network/Southeast Asia Engineering Education Development Network)
ASEANに加盟する10か国における工学分野のトップレベルの26大学と、日本の支援大学14校から構成される大学ネットワークとして、2001年に発足。東南アジアと日本の持続的な発展のために、工学分野で高度な人材を輩出するべく様々な研究・教育活動を実施してきている。このプロジェクトは、東南アジア諸国の政府や大学、本邦大学の協力の下、JICAを通じて主に日本政府が支援を行っている。

●タンザニア

アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)「修士課程およびインターンシップ」プログラムおよびザンジバル都市水道配水施設改善事業
技術協力(研修)・有償資金協力(2015年8月~2017年9月「ABEイニシアティブ」、2016年2月~2017年12月「ザンジバル都市水道配水施設改善事業」準備調査)

ザンジバル水公社による井戸の修理作業(写真:JICA)

ザンジバル水公社による井戸の修理作業(写真:JICA)

タンザニアのザンジバル諸島最大の島ウングジャ島では、財政難によって老朽化した送配水管設備が改修されず、給水量が不足し、時間給水や断水が日常化していました。そこで日本は2008年から2010年の技術協力プロジェクト「ザンジバル水公社経営基盤整備プロジェクト」において、ザンジバル水公社(Zanzibar Water Authority:ZAWA)に対して、顧客管理システムの整備や料金徴収に関する技術移転を支援し、水道料金徴収体制を確立しました。現在、ZAWAの総裁であるムーサ・ハッジ氏(Mr. Mussa Ramadhan Haji)は、同プロジェクトのフェーズ2(2011年~2015年)の際にはZAWAの顧客部長として尽力しました。同プロジェクトの実施によりZAWAの経営能力が改善され、安定した水道サービスの提供に寄与しています。

ハッジ氏は、同フェーズ2完了後の2015年にABEイニシアティブに参加し、東洋大学において、ZAWAにおける水道メーターの設置と水使用量の関係に関する研究を行い、2017年に修士号を取得しました。帰国後は一時、タンザニアの公共サービス規制局に在籍していましたが、2018年3月、ザンジバル大統領よりZAWA総裁に任命されました。

ハッジZAWA総裁は、強いリーダーシップの下、ZAWAの水道サービス向上に引き続き尽力しており、有償資金協力案件「ザンジバル都市水道配水施設改善事業」の案件形成の促進にも貢献しています。


  1. 注8 : SATREPSについては、用語解説を参照
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