(5)情報通信技術(ICT)や先端技術の導入
情報通信技術(ICT)*の普及は、産業を高度化し、生産性を向上させることで、持続的な経済成長の実現に役立ちます。また、ICTは、開発途上国が抱える医療、教育、エネルギー、環境、防災などの社会的課題の解決にも貢献します。ICTの活用は、政府による情報公開を促進し、放送メディアを整備し、民主化の土台となる仕組みを改善します。このように、便利さとサービスの向上を通じた市民社会の強化と質の高い成長にとってICTは非常に重要です。
< 日本の取組 >
日本は、地域・国家間に存在するICTの格差を解消し、すべての人々の生活の質を向上させるために、ICT分野でも「質の高いインフラ投資」を推進すべく、2017年に、各国のICT政策立案者や調達担当者向けに「質の高いICTインフラ」投資の指針を策定しました。
また、開発途上国における通信・放送設備や施設の構築、およびそのための技術や制度整備、人材育成といった分野を中心に積極的に支援しています。
具体的には、日本は自国の経済成長に結びつける上でも有効な、地上デジタル放送日本方式(ISDB-T)*の海外普及活動に、整備面、人材面、制度面の総合的な支援を目指して積極的に取り組んでいます。ISDB-Tは、2017年12月現在、中南米、アジア、アフリカ各地域において普及が進み、計18か国注5で採用されるに至っており、日本はISDB-T採用国および検討国を対象としたJICA研修を毎年実施して、ISDB-Tの海外普及・導入促進を行っています。総務省においても、ISDB-Tの海外展開のため、相手国政府との対話・共同プロジェクトを通じたICTを活用した社会的課題解決などの支援を推進しています。
また、総務省では「防災ICTシステムの海外展開」に取り組んでいます。日本の防災ICTシステムを活用すれば、情報収集・分析・配信を一貫して行うことができ、住民などのコミュニティ・レベルまで、きめ細かい防災情報を迅速かつ確実に伝達することが可能です。引き続き、防災ICTシステムの海外展開を促進する支援を実施し、開発途上国における防災能力の向上等に寄与する考えです。(「防災」について、詳細はこちらを参照。)

ザンビアの高等学校で、生徒たちにパソコンの指導を行う青年海外協力隊員の小林笑さん。(写真:岡田妙子)
日本は、各種国際機関とも積極的に連携して取組を行っており、電気通信に関する国際連合の専門機関である国際電気通信連合(ITU:International Telecommunication Union)*と協力して、開発途上国に対して電気通信分野における様々な開発支援を行っています。特にサイバーセキュリティおよび防災分野における、開発途上国におけるキャパシティビルディング(人材育成)を目的として、日本は電気通信開発部門(ITU-D:ITU Telecommunication Development Sector)研究委員会の協力の下、防災およびサイバーセキュリティ分野でワークショップを開催しました。2016年9月にスイスでITU災害時通信ワークショップを開催し、日本における防災対策の経験を共有、日本の防災ICTシステム及び防災ICTの研究開発成果を紹介しました。また、ITUサイバーセキュリティワークショップ(2015年、2016年、2017年)を開催し、「ベストプラクティスの共有及び途上国における課題整理(第1回)」、「各国におけるサイバーセキュリティ訓練及びサイバーセキュリティ戦略(第2回)」、「実践的なサイバーセキュリティ及びリスク評価(第3回)」をテーマに、官民を問わず各分野の専門家を招聘(しょうへい)し、意見交換を行いました。いずれの会合も100名前後の参加者を集め、たいへん高い評価を受けました。
アジア・太平洋地域では、情報通信分野の国際機関であるアジア・太平洋電気通信共同体(APT:Asia- Pacific Telecommunity)*が同地域の電気通信および情報基盤の均衡した発展に寄与しています。2014年にはAPT大臣級会合がブルネイで開催され、同地域における「スマート・デジタルエコノミー」の創造に向けて、38の加盟国およびAPTが協力して取り組んでいくための共同声明を採択しました。
日本は、この共同声明の優先分野の一つである「キャパシティビルディング(人材育成)」を推進するため、毎年APTが実施する数多くの研修を支援しています。また、APTは2016年から若手行政官に向けた国際会議で活躍するためのスキルを磨く研修を開始し、2017年も第2回が開催され、30名が参加しました。ICTは1か国にとどまる分野ではないため、海外の様々なステークホルダーと意見を調整することが重要です。この研修を通じて、国際会議での議論、プレゼンテーション、交渉のスキル等が向上し、APT加盟国の若手行政官同士が人的ネットワークを構築し、国際協力と国際連携が一層進展することが期待されています。
また、東南アジア諸国連合(ASEAN)においては、2015年11月にASEAN首脳会議において採択された2025年までの新たな指標となるブループリント(詳細な設計)で、ICTはASEANに経済的・社会的変革をもたらす重要な鍵として位置付けられました。ICTの役割の重要性を踏まえ、同じく11月に開催されたASEAN情報通信大臣会合において、2020年に向けたASEANのICT戦略である「ASEAN ICTマスタープラン2020(AIM2020)」が策定されています。さらに、近年特に各国の関心が高まっているサイバー攻撃を取り巻く問題についても、日本はASEANとの間で情報セキュリティ分野での協力を今後一層強化することで一致しています。
こうした中、2016年、日本はサイバーセキュリティ分野における開発途上国に対する能力構築支援をオールジャパンで戦略的・効率的に行うため、関係省庁が策定した支援の基本方針がサイバーセキュリティ戦略本部に報告されました。今後、日本は同方針に沿って、当面は対ASEAN諸国を中心に積極的に支援を行っていきます。
- *情報通信技術
(ICT:Information and Communications Technology) - コンピュータなどの情報技術とデジタル通信技術を融合した技術で、インターネットや携帯電話がその代表。
- *地上デジタル放送日本方式
(ISDB-T:Integrated Services Digital Broadcasting-Terrestrial) - 日本で開発された地上デジタルテレビ放送方式で、緊急警報放送の実施、携帯端末でのテレビ受信、データ放送等の機能により、災害対策面、多様なサービス実現といった優位性を持つ。
- *国際電気通信連合
(ITU:International Telecommunication Union) - 電気通信・放送分野を担当する国連の専門機関(本部:スイス・ジュネーブ。193か国が加盟)。世界中の人が電気通信技術を使えるように、①携帯電話、衛星放送等で使用する電波の国際的な割当、②電気通信技術の国際的な標準化、③開発途上国の電気通信分野における開発の支援等を実施。
- *アジア・太平洋電気通信共同体
(APT:Asia-Pacific Telecommunity) - 1979年に設立されたアジア・太平洋地域における情報通信分野の国際機関で、同地域の38か国が加盟。APTは同地域における電気通信や情報基盤の均衡した発展を目的として、研修やセミナーを通じた人材育成、標準化や無線通信等の地域的な政策調整等を実施している。
- 注5 : ブラジル、ペルー、アルゼンチン、チリ、ベネズエラ、エクアドル、コスタリカ、パラグアイ、フィリピン、ボリビア、ウルグアイ、ボツワナ、グアテマラ、ホンジュラス、モルディブ、スリランカ、ニカラグア、エルサルバドルの18か国。(2017年12月時点)