2017年版開発協力白書 日本の国際協力

(6)科学技術・イノベーション促進、研究開発

情報通信技術(ICT)の急速な発展により、研究開発のグローバル化やオープン化が進む中で、科学技術・イノベーションは本質的に変化しています。

国際社会においては、2030年までに経済・社会・環境をめぐる広範な課題の統合的な解決が求められるSDGsの実施においても、科学技術・イノベーションを駆使した国際協力が重視されています。こうした中、より戦略的でより積極的な科学技術外交の取組が求められています。

< 日本の取組 >

日本の優れた科学技術を外交に活かすため、2015年に岸輝雄東京大学名誉教授が初の外務大臣科学技術顧問(外務省参与)に就任し、外務大臣のアドバイザーとして、国際協力・グローバル課題への貢献における日本の科学技術の活用に向け、助言や提言を行う役割を果たしています。

SDGsが実施段階に移る中、外務大臣科学技術顧問は2017年5月、今後の国際協力において科学技術・イノベーション(STI)を通じてSDGs達成にどのように貢献できるかという観点から科学技術外交推進会議がとりまとめた「未来への提言:科学技術イノベーションの『橋を架ける力』でグローバル課題の解決を~SDGs実施に向けた科学技術外交~の4つのアクション」を、岸田外務大臣(当時)に提出しました。提言では、イノベーションを通じた未来像の提示、データ活用による課題解決、世界レベルでの官民連携、人材育成の重要性を強調しました。こちらの提言の内容は、同年5月に開催された第2回国連STIフォーラムや関連行事、また、同年7月の国連経済社会理事会「持続可能な開発のためのハイレベル政治フォーラム(HLPF)」における岸田外務大臣(当時)によるプレゼンテーションにも反映されました。

このほか、日本の科学技術外交の主な取組としては、ODAと科学技術予算を連携させた地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPSが2008年に始まり、2017年までに世界47か国において125件の共同研究プロジェクトが採択されています。

また、日本は、工学系大学支援を強化することで人材育成への協力をベースにした次世代のネットワーク構築を進めています。マレーシアでは、1982年から進めてきた「東方政策」注6の集大成として、日本型工学教育を行う高等教育機関であるマレーシア日本国際工科院(MJIIT:Malaysia-Japan International Institute of Technology)が設立され、日本はこのMJIITに対し、教育・研究用の資機材の調達と、教育課程の整備を支援しています。また、日本は日本国内の27大学および2研究機関と連携し、カリキュラムの策定や日本人教員派遣などの協力も行っています。

ほかにもタイに所在する国際機関であるアジア工科大学(AIT:Asian Institute of Technology)は、工学・技術部、環境・資源・開発学部等の修士課程および博士課程を有するアジア地域トップレベルの大学院大学であり、同大学に対する日本の拠出金は、日本人教官が教鞭をとるリモートセンシング(衛星画像解析)分野の学科の学生に対する奨学金として支給されており、アジア地域の宇宙産業振興の要となる人工衛星を用いたリモートセンシング分野の人材育成に貢献しています。

エジプトでは、日本は2008年から、日本型の工学教育の特長を活かした「少人数、大学院・研究中心、実践的かつ国際水準の教育提供」をコンセプトとする公的な大学「エジプト日本科学技術大学(E-JUST:Egypt-Japan University of Science and Technology)」の運営を支援しています。日本国内の15大学が協力して教職員を現地に派遣し、講義・研究指導やカリキュラム作成を支援してきており、オールジャパンの体制で、アフリカ・中東地域に日本の科学技術教育を伝えていくことを目指しています。

さらに、日本は開発途上国の社会・経済開発に役立つ日本企業の技術を普及するための事業も実施しています。この事業は、日本の民間企業が持つ高度な技術力や様々なノウハウを相手国に普及させる後押しをするものとして期待されています。

用語解説
地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム
(SATREPS:Science and Technology Research Partnership for Sustainable Development)
日本の優れた科学技術とODAとの連携により、環境・エネルギー、生物資源、防災および感染症といった地球規模課題の解決に向けた研究を行い、その研究成果の社会実装(研究成果を社会に普及させること)を目指し、開発途上国および日本の研究機関が協力して国際共同研究を実施する取組。外務省および国際協力機構(JICA)が文部科学省、科学技術振興機構(JST)および日本医療研究開発機構(AMED)と連携し、日本側および相手国側の研究機関・研究者を支援している。

  1. 注6 : 東方政策は、1981年にマハティール・マレーシア首相(当時)が日本の発展の経験や労働倫理、経営哲学等を学ぶことを目的として提唱したマレーシアの人材育成政策。
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