2017年版開発協力白書 日本の国際協力

(2)防災の主流化、防災対策・災害復旧対応

世界各国で頻繁に発生している地震や津波、台風、洪水、干ばつ、土石流などの災害は、単に多くの人命や財産を奪うばかりではありません。災害に対して脆弱(ぜいじゃく)な開発途上国では、貧困層が大きな被害を受け、災害難民となることが多く、さらに衛生状態の悪化や食料不足といった二次的被害の長期化が大きな問題となるなど、災害が開発途上国の経済や社会の仕組み全体に深刻な影響を与えています。

こうしたことから、開発のあらゆる分野のあらゆる段階において、様々な規模の災害を想定したリスク削減策を盛り込むことによって、災害に強い、しなやかな社会を構築し、災害から人々の生命を守るとともに、持続可能な開発を目指す取組である「防災の主流化」を進める必要があります。

●ケニア

中古消防車再利用計画
草の根・人間の安全保障無償資金協力(2016年3月~2016年8月)

ケニアの首都ナイロビは、約390万人が居住し、人口密度も高い(5,652人/km2)大都市ですが、消防署の数は3か所と少なく、消防車の保有台数はわずか6台でした。そのため、火事が発生した際に対応が遅れてしまうこともしばしばありました。たとえば、2013年8月に、東アフリカ最大級のハブ空港を誇るジョモ・ケニヤッタ国際空港で配電盤の漏電を原因とする大規模火災が発生した際、消火活動の遅れにより、空港が全面閉鎖となる深刻な事態が発生しました。また、2014年12月の、東アフリカ最大のスラムであるキベラスラムの火災発生の際には、消火活動に時間を要し、100軒以上の家屋が被害を受け、住民5人が亡くなるなど、頻発する火災の一方で、消防体制の整備が十分ではなく、特に消防車不足に悩まされていました。

そこで日本は、草の根・人間の安全保障無償資金協力により、日本消防協会の協力も受け、ナイロビ消防本部に中古消防車4台を寄贈しました。4台のうち3台は最大2,000リットルの水を積載できる車両で、消火栓や貯水池のない火災現場でも消火活動が行えます。もう1台は化学工場の火災など水で消火できない火災発生時に出動し、薬剤による消火活動を行う化学消防自動車です。

技術支援最終日の記念写真。

技術支援最終日の記念写真。

加えて、日本消防協会から5名の日本人消防士がナイロビに派遣され、ケニア人消防隊員24名に対し、消防車に搭載されている機材の操作方法や車両の整備方法の指導を行い、また、日本式の消防士訓練も実施しました。この協力は、消防車の寄贈にとどまらず、日本で蓄積された専門家集団によるノウハウの継承(技術指導)が行われたことで、ナイロビの消防体制の底上げが行われた点で意義深いものとなりました。

< 日本の取組 >

●防災協力

日本は、地震や台風など過去の自然災害の経験で培われた自らの優れた知識や技術を活用し、緊急援助と並んで防災対策および災害復旧対応において積極的な支援を行っています。

2015年に、仙台において第3回国連防災世界会議が開催されました。これは、国際的な防災戦略について議論するために国連が主催して開かれる会議で、日本は防災に関する知見・経験を活かし、積極的に国際防災協力を推進していることから、第1回(1994年横浜)、第2回(2005年神戸)に続き、第3回会議もホスト国となりました。この会議には185の国連加盟国、6,500人以上が参加し、関連事業を含めると国内外から延べ15万人以上が参加する、日本で開催された史上最大級の国際会議となりました。会議の結果、仙台宣言とともに、第2回会議で策定された防災の国際的指針である「兵庫行動枠組」の後継枠組となる「仙台防災枠組2015-2030」が採択されました。仙台防災枠組には、あらゆる開発政策・計画に防災の観点を導入する「防災の主流化」、防災投資の重要性、多様なステークホルダー(関係者)の関与、「より良い復興(Build Back Better)」、女性のリーダーシップの重要性など、日本の主張が取り入れられました。

さらに、新たな協力イニシアティブとして、安倍総理大臣が今後の日本の防災協力の基本方針となる「仙台防災協力イニシアティブ」を発表しました。日本は2015年~2018年の4年間で40億ドルの資金協力、4万人の防災・復興人材育成を表明するなど、防災に関する日本の進んだ知見・技術を活かして国際社会に一層貢献していく姿勢を示しました。これにより、各国の建造物の性能補強や災害の観測施設の整備が進むだけでなく、防災関連法令・計画の制定や防災政策立案・災害観測等の人材育成が進み、各国の「防災の主流化」が進展しています。

2016年11月、世界津波の日に合わせ、インドネシア・アチェ州とJICAの共催で、津波防災セミナーが行われた。(写真:石垣滋樹/JICAインドネシア事務所)

2016年11月、世界津波の日に合わせ、インドネシア・アチェ州とJICAの共催で、津波防災セミナーが行われた。(写真:石垣滋樹/JICAインドネシア事務所)

2015年9月の2030アジェンダを採択する国連サミットにおいて、安倍総理大臣は「仙台防災枠組」の実施をリードする決意を示すとともに、津波に対する意識啓発のため、国連での「世界津波の日」の制定を各国に呼びかけました。その結果、同年12月、国連総会において、11月5日を「世界津波の日」とする決議が採択されました。これを受け、2017年には、11月7~8日、島嶼(とうしょ)国等を対象にした「『世界津波の日』2017高校生島サミットin沖縄」が沖縄県宜野湾市で開催されました。

2017年12月にミャンマーで開催された第3回アジア・太平洋水サミットで、日本は、社会全体で常に水災害に備える「水防災意識社会の再構築」の日本の施策を紹介するとともに、各国の取組を情報交換する「水防災リーダー国際対話」を行うことを提案しました。

●ネパール

震災弱者の回復と地域復興のためのチャングナラヤン村ラーニングセンター改修
日本NGO連携無償資金協力(2016年3月~2017年3月)

2015年4月にネパールで起きた大地震により、15年前に特定非営利活動法人ICA文化事業協会が日本政府の支援で建設した「女性と子供のためのラーニングセンター」の壁などが破損したため、レンガ壁の取り替えと修理、台所、電気ソーラーパネル、貯水タンク等の修復を行いました。日本からは構造建築専門家を派遣し、耐震性や建築方法の確認も実施しました。

この協力では、住民参加の地域復興ワークショップを開催し、以前は主に地域女性によるセンター活用が主体であったものが、今後は村の男女が共に参加できる場として利用するということで住民の意識の統一が図られました。センターの活用は多岐にわたります。たとえば、震災後の子どもたちは不安定な精神状態が続き、夜泣き、夜尿などが見られたため、メンタルケア専門家による心理ケアを実施しました。その結果、子どもたちのストレスが減り、十分な睡眠、健康的な食欲等を取り戻すことができたことが確認されました。センター内の敷地には、子どものストレスを発散させる遊び場を設置したことで、母親たちも安心して働ける環境が整い、母子ともに笑顔が見られるようになりました。

また、この協力が行われた地域には、一人暮らしの高齢被災者が多く、経済面、社会面での孤立を防ぐため、センター内に老人クラブを作りコミュニケーションの場を提供しました。高齢者23名の参加者の中から5人の実行委員を選出し、毎月1回集まり、庭の手入れや手芸、踊りなど、話し合いによってプログラムを決定していきました。家にいると誰とも話す機会のない高齢者からは、「センターで友達と話すことができ、毎日が楽しい」というコメントが寄せられました。

チャングナラヤン村ラーニングセンターで生理用品の製造を始めた女性たち。(写真:特定非営利法人ICA文化事業協会)

チャングナラヤン村ラーニングセンターで生理用品の製造を始めた女性たち。(写真:特定非営利法人ICA文化事業協会)

さらに日本人専門家により、被災者の心理ケアに関する精神状態検査を実施し、現地専門スタッフによって、前向きな思考プロセスを指導した結果、参加者は震災後に起きる心理状況やメンタル面での困難を次第に克服できるようになりました。

ほかにも、ネパールの農村では、月経期間は家の隅に隔離され、学校に行けないなどの女性の生理に対する偏見がある中、センターでは少女が安心して学校に行くことができるよう、清潔で、安く、質の高いナプキン製造を開始しました。また、被災者の女性たちはナプキン製造のための技術訓練を受け、農村での女性の収入の向上につながる事業が展開されています。

こうした活動を通じ、地震前に実施していた貧困家庭の収入向上活動が再開され、2017年3月9日までにセンター利用者数は合計8,047名となり、その後は地域の活動拠点として機能しています。

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