2015年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 4

GPSで路線バスを復活させる
〜ラオスの首都での「バス事業改善システム」導入を目指して〜

日本が供与した新しいバス(写真:イーグルバス(株))

日本が供与した新しいバス(写真:イーグルバス(株))

現地のバスにGPSを取り付ける日本人スタッフ(写真:イーグルバス(株))

現地のバスにGPSを取り付ける日本人スタッフ(写真:イーグルバス(株))

ASEAN(アセアン)(東南アジア諸国連合)の一つであるラオスは、経済の急激な成長とともに、市民のバイクや自家用車が急増し、激しい交通渋滞と交通事故が増えています。この交通渋滞を緩和するためにも公共交通の整備が重要です。

しかしながら、ビエンチャンのバス公社には、耐用年数を超過し老朽化したバスが多く、2001年に120台あったバスは2010年には77台に減ってしまいました。人々の「バス離れ」も進み、バイクや自家用車の利用が増えました。2002年には760万人だったバスの利用者数は2009年には285万人と半分以下に、公共交通の利用率は4%にまで減り、バス公社はその経営維持が困難な状況になりました。

老朽化したバスを交換し、バス運行本数を回復させる手立てが必要です。ラオスから要請を受けた日本は、2012年6月に無償資金協力でビエンチャン・バス公社に42台のバスを供与しました。しかし今後は、バス公社自身が自力でバスを新しくし、市民の生活の足としての地位を取り戻さなくてはなりません。そのためには、バス公社の経営改善が必要です。

埼玉県川越市のイーグルバス社は、2014年11月、自社の経営改善ノウハウをこのバス公社に活かせないかと考え、ODAを活用した中小企業等の海外展開事業※1-案件化調査※2を開始しました。

イーグルバス社は観光バスの会社でしたが、2006年に、赤字経営が続いていた東秩父村などのバス路線を引き受け、路線バス事業に参入しました。日本の公共バス会社の9割は赤字経営という中で、独自に「バス事業改善システム」を開発し、路線バスの経営革新に成功した会社です。

イーグルバス社の谷島賢(やじままさる)社長は、この「バス事業改善システム」をビエンチャンの路線バスで試すことにしました。具体的には、バスにGPS(全地球測位システム)を取り付け、「いつ、どこを走行し、どこに停留しているのか」がわかるようにします。それから、バスの乗降口にセンサーを取り付け、「どこで何人が乗り、何人が降りるのか」がわかるようにします。そして、システムから得られたデータをデータベースに記録し、バス運行の実態が一目で分かるようにしました。加えて、バスの運転手や乗降客からも聞き取り調査をしました。

こうした調査からビエンチャンのバス事業の実態が見えてきました。運転手1人が1台のバスを、朝から夕方6時まで専任で運行します。バス停はありますが、運転手はそこを通らずに自分が把握しているバス利用者がいるルートを通り、利用者が手を挙げたところでバスを停車させ、利用者が降りたいといったところで停車します。乗客が多いバス停では長く停留し、乗客がいっぱいになるまで出発しません。このようにバスの運転手は自分の判断でバスを運行して乗客を乗せていたのです。運転手は仕事が終わると、決められた金額を公社に入金し、残りは自分の報酬にしていました。

つまり、バス公社はそれぞれのバスの売上げがいくらなのか、何人の乗降客がいるのかを把握してこなかったのです。路線バスであるのに、運行ルートも運行ダイヤも定まっていないという実態も分かりました。

イーグルバスの谷島社長はいいます。「バスの運転手は、どこにバス利用者がいて、いつバスを利用したいのかを知っています。GPSと乗降客感知センサーをバスにつけて、データを『測定し、実情を把握し、対策を考える』取組をしていけば、最適なバス・ルートと運行ダイヤが組めるようになっていきます。」このようにバス運行を最適化して、新しい42台のバスを最大限に活用できる運行計画が立案できれば、バスの老朽化で「バス離れ」していた市民も戻ってくるはずという確信も生まれました。

谷島社長の視点はさらに先の、バスの観光戦略にも向けられています。「これまでは、夕方6時にバス運行を終了していましたが、観光客などのためにも夜も運行すればいいのです。ラオスは、ヨーロッパ観光貿易評議会の“2013年世界のベスト観光地賞”を取りました。首都ビエンチャンには、長期滞在のバックパッカーなど、欧米などから多くの観光客が来ています。川越市などで成功したように、観光旅行者の方々にも公共バスを利用してもらう観光ビジネスが企画できるはずです」と、観光業界出身の谷島社長は、観光客を取り込んだ経営革新の可能性も考えています。

ラオスがますます発展する中で、公共交通はより一層重要なものとなります。日本のバス会社のバス運行を最適化する技術とノウハウが、ビエンチャンの公共交通の整備と観光戦略にも活かされていくことに期待がかかっています。


※1 ODAを活用した中小企業等の海外展開支援事業は、中小企業等の優れた製品・技術等を途上国の開発に活用することで、途上国の開発と、日本経済の活性化の両立を図る事業。

※2 案件化調査は、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等を途上国の開発へ活用する可能性を検討するための調査。

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