2015年版開発協力白書 日本の国際協力

匠の技術、世界へ 3

ポップコーンマシンで、リサイクル意識を高める
〜パラオでの廃プラスチック油化装置の試み〜

卓上型の廃プラスチック油化装置(写真:(株)ブレスト)

卓上型の廃プラスチック油化装置(写真:(株)ブレスト)

太平洋に浮かぶ人口2万人のパラオ諸島には、パラオの美しい自然に惹(ひ)かれて人口の6倍に相当する観光客が訪れます。しかし、近年こうした観光客や住民が出す大量のごみが、美しい自然の中に投棄される環境問題が深刻になっています。

そのため、パラオのコロール州では、日本の支援を受けて2007年にリサイクルセンターを設立し、缶や瓶、ペットボトルのリサイクル処理を始めました。一方で、食品トレーなどのプラスチックごみは、パラオで年間に排出されるごみの約3分の1の2,000トンにも上りますが、ほとんどがごみ処分場に投棄されるだけになっています。国土が限られたパラオでは、ごみ処分場のスペースも限られています。廃プラスチックごみをリサイクルし、ごみを減らすことが、重要な観光資源でもある美しいパラオの自然を守る上でも欠かせない課題となりました。

パラオのこうした状況を知り、プラスチック油化装置の開発・販売を手がける神奈川県平塚市のブレスト社が、ODAを活用した中小企業等の海外展開支援事業※1-案件化調査※2を2013年8月に開始しました。ブレスト社の開発した技術を、パラオのプラスチックごみ問題の解決に役立てられるのかを検証することが目的です。

プラスチックのごみをリサイクルする一般的な方法として、「油化技術」と呼ばれるものがあります。これは、プラスチックごみを高温で熱して、油の成分を気化させて、冷やして液体の油に蒸留する方法です。しかし、この技術を使った設備にはこれまで、あらゆる種類のプラスチックごみが持ち込まれ、油化処理に先立って、ごみを厳密に分別する必要がありました。そのための仕組みづくりや人員の投入にも多くのコストがかかるという問題がありました。そのような設備や仕組みを作ることはパラオにとって困難です。

そこでブレスト社は、自社で開発した卓上型の小型油化装置を現地に持ち込んで、運用のテストをしてみました。この小型油化装置は持ち運びが可能で、100ボルトの家庭用電力でも操作が可能です。この装置が処理する主なものは、家庭のごみとして出る、レジ袋やお菓子の包装袋、食料品トレー、飲料用コップ、そしてプラスチックの食器などです。分別の手間や人手が不要なので、その分のコストも節約できます。さらに、従来のバーナーではなく、加熱する温度を一定に保ち、適切な温度でプラスチックを気化できる電熱ヒーターを採用したという技術的な利点もあります。

ブレスト社は、この卓上型の小型油化装置を使いプラスチックごみの油化を実演する「スクール油田授業」を、パラオの学校で実施しました。日ごろ捨てているプラスチックが、ブレスト社の小型油化装置を通して油化され、できた油が発電機を動かし、その電気でポップコーンマシンを動かしてポップコーンを作るという授業です。子どもたちは、ポップコーンをおいしく食べながら、今まではごみでしかなかった廃プラスチックが、リサイクルできる有益な資源であることを学びます。

「スクール油田授業」で、油化の仕組みにふれる現地の子どもたち(写真:(株)ブレスト)

「スクール油田授業」で、油化の仕組みにふれる現地の子どもたち(写真:(株)ブレスト)

この授業が行われた小学校では、「学校の油田(School Oil Field)」という回収箱が設置されました。子どもたちは家庭や近所で捨てられた廃プラスチックのごみを正確に選り分け、その回収箱に持ち寄るようになりました。そして子どもたちに触発されて、その家族にもプラスチック分別の意識が高まり、分別回収の習慣が広がりつつあります。

ブレスト社の社長である伊東昭典(いとうあきのり)さんは、「廃棄物のリサイクルは、住民の参加なしでは成り立ち得ません。スクール油田授業のように小さく始めて、リサイクル運動を日常化していくことが大事です」といいます。

こうした試みが実を結び、コロール州では、普及・実証事業※3として、産業用の大型プラスチック油化装置を導入することとなりました。コロール州庁舎の電力を100パーセント、廃プラスチック油化装置でリサイクルされた燃料で賄うという実証事業です。コロール州が新たに制定したリサイクル条例の下で、住民たちにも積極的にリサイクル活動に参加してもらいます。「このプロジェクトでは、コロール州が必要とする電力の一部を賄うのが目標ですが、廃プラスチックのごみの量などから換算すると、将来的には、州が必要とする大部分の電力を供給することも夢ではない」と、伊東さんは語ります。

今までパラオの電力は、高価な輸入石油に頼ってきました。日本の中小企業の技術によって、廃プラスチックのリサイクルが進むことで、電力供給の低コスト化と美しい自然環境の保全の両方が実現することが期待されています。


※1 ODAを活用した中小企業等の海外展開支援事業は、中小企業等の優れた製品・技術等を途上国の開発に活用することで、途上国の開発と、日本経済の活性化の両立を図る事業。

※2 案件化調査は、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等を途上国の開発へ活用する可能性を検討するための調査。

※3 普及・実証事業は、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等に関する途上国の開発への現地適合性を高めるための実証活動を通じ、その普及方法を検討する事業。

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