2015年版開発協力白書 日本の国際協力

国際協力の現場から 04

法案づくりでジンバブエの情報通信政策に貢献
〜謙虚な熱意で専門性を広げた青年海外協力隊員〜

サム・クンディショラ情報通信技術省次官と新美さん(左)(写真:新美融)

サム・クンディショラ情報通信技術省次官と新美さん(左)(写真:新美融)

「青年海外協力隊に必要なのは専門性と謙虚さ、そして熱意だと思います。」

こう語るのは2012年3月からの2年間、アフリカのジンバブエにコンピュータ技術の協力隊員として赴任していた新美融(にいみとおる)さんです。ジンバブエは情報通信技術の活用度では世界124位の国であり、国が発展していくためにはこの分野の発展が急務とされています。

大学卒業後、約7年間にわたり大手ソフトウェア会社で働いていた新美さんは、同社のソフトウェアを導入する企業にITコンサルタントとして派遣され、システムを構築する上で生じる課題を発見し、技術的な解決へと導く業務を担当していました。赴任したジンバブエの情報通信技術省でも、その経験を活かし、同省の抱える課題を見つけ、解決策の提案を実践してきたのです。

赴任1年目の大きな仕事は情報セキュリティの改善です。同省では、財務省から政府の財務管理システムの業務を委託されていましたが、大切なデータを守るセキュリティの体制が整っていませんでした。新美さんは現場の技術者たちと一緒に働きながら、システムの課題を洗い出し、情報セキュリティのポリシーを立案しました。

その仕事は、同省の事務次官であるサム・クンディショラ氏に高く評価されました。2年目からは月に1度、次官に個別で面会し、ジンバブエが解決すべき情報通信分野の課題と解決策を直接報告しました。国内の主要都市を結ぶネットワーク速度の改善や、天災・テロ・政治的混乱などが起きた場合でも政府の情報処理・管理のシステムを継続的に稼働させるための対策づくりは、有益な提案として次官に認められました。

クンディショラ次官は、新美さんにある仕事を依頼しました。IT3法の法案づくりです。当時、南部アフリカ地域では、国際電気通信連合やEUの提案によって、個人情報保護法、サイバー刑法、電子商取引法の法律づくりが呼びかけられていました。次官はジンバブエでもIT3法を制定するために、顧問弁護士とともに法案づくりに取り組むよう新美さんに依頼したのです。

新美さんは法律の専門家ではありません。しかし、日本の民間企業でITコンサルティングをしていたときに、個人情報保護法の運用について学んだ経験がありました。新美さんは、ジンバブエの情報通信分野の現状を踏まえながら、どのような項目を法案に盛り込むべきかを検討し、顧問弁護士と法案づくりを進めていきました。

「残念ながら、大統領選挙のために国会の審議が止まり、2年間の協力隊の任期が終わるまでに、IT3法は法律の制定には至りませんでした。しかし、次官に、『法制化が終わるまで残ってくれ』といわれたのはすごくうれしかったです。」

ジンバブエ情報通信省と財務省の合同会議後の記念写真(写真:新美融)

ジンバブエ情報通信省と財務省の合同会議後の記念写真(写真:新美融)

ジンバブエの事務次官から厚い信頼を得た新美さんですが、任務終了前にもう一つうれしい出来事がありました。

新美さんが任期1年目に手がけた情報セキュリティのポリシーが固まり、関連する財務省、情報通信技術省、そして業務を受託する民間企業でそのポリシーを議論し、採択する大きな会議が開かれました。その席上で、共にポリシーづくりに励んできた現場の技術者たちが内容について発表する場面に立ち会えたのです。

「ポリシーを作っても実行されなければ意味がありません。情報セキュリティの実務を担う技術者たちが自分たちの言葉でポリシーを堂々と説明する姿を見て、今後、自分が携わったルールが実行されていく手応えを感じました。」

帰国した新美さんは、大手IT企業に再就職が決まりました。同社が海外で展開するサービスを現地の法律と照らし合わせながら調整する担当になったのです。採用では、ジンバブエでの経験が大きく評価されたといいます。

「ジンバブエでは、IT技術の専門性を深めるだけでなく、中央省庁での法案づくりという民間企業では得難い経験をすることができ、視野を広げることができました。そして、現地の人と目線をそろえて課題を発掘、共有し、焦らず丁寧に一つひとつの仕事に全力を尽くして向き合う姿勢を学びました。とても大きな収穫のあった2年間でした。」

IT分野の専門性を持ちながら、謙虚な姿勢で現場での課題を観察し、その解決策を絶え間なく提案し続けてきた新美さん。その仕事は、ジンバブエの情報通信分野の政策に大きく貢献するとともに、自身の職域を広げるという成果に結びついたのです。

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