国際協力の現場から 02
自立の心と技を厳しく育てる
〜ルワンダの女性と若者たちへの洋裁技術指導〜

電動工業用ミシンの前で訓練生たちの状況を確認する山平さん(中央左)。生徒の中には男性も混じっている(写真:山平泰子)
アフリカ大陸の中部に位置するルワンダでは、1994年に起きたジェノサイド(集団殺害)によって、100万ともいわれる人々が犠牲となりました。各国の援助などにより復興を遂げたものの、貧困率はいまだに44.9%に及びます。
国民の約9割が農林漁業に従事していますが、職業別の貧困率では、農業が最も高い状況です。政府は人々が農業以外の職業に就くことで貧困率を削減することを目指して、人材の育成を図っています。
しかしながら、特に女性は教育の機会などにも恵まれず、経済的な安定が得にくい厳しい状況に置かれています。ジェノサイドなどで働き手の男性を失った、女性の筆頭世帯が国全体の27.7%に及びますが、その6割近くが貧困層に属しています。給与所得が得られる技術を身に付ける必要があります。
洋裁の技術指導を通じて40年以上にわたり開発途上国の女性の自立支援を続けてきたNPO法人「リボーン・京都」は、2013年7月から、ルワンダの首都キガリで、日本NGO連携無償資金協力事業※1「高度な洋裁技術習得によるライフ・エンパワーメント・プロジェクト」を開始しました。プロジェクトでは女性を中心とした若年層が電動工業用ミシンを使った高度な洋裁技術を習得することで、雇用や収入のチャンスを得て、経済的に自立する道を開くことを目標としています。
プロジェクト・ディレクターである山平泰子(やまひらやすこ)さんは現地に赴任した当初、生徒たちに遅刻者が多いのが悩みの種でした。時間におおらかなルワンダでは遅刻は当たり前で、理由を聞くとどの生徒も「近所の女性の出産を手伝っていました」と同じように答えたといいます。山平さんは「はい、そうですか」と黙認するのではなく、徹底した厳しい態度で挑むことにしました。生徒には1日に1,000ルワンダフラン(約170円)の交通費を支給していましたが、遅刻した場合は支給しないと宣言しました。また、クラスでは5人ずつに分けた班を作っており、班のメンバーが1人でも遅刻すれば、その班全員で学校のトイレ掃除をするよう義務づけたのです。
「交通費を生活費に充てるために、片道3時間かけて歩いてくる生徒もいましたから、交通費を支給しないと宣言したら反発も大きかったです。けれども遅刻は一気に減りました。班によるトイレ掃除も効きました。生徒の7割以上がジェノサイドで家族を失い、厳しい生活を強いられています。しかし、援助する側がかわいそうだから助けてあげるという態度では援助への依存体質は変わりません。自立には、あえて厳しい態度で挑むことが必要だと考えたのです。」

ルワンダの伝統的な生地"ギテンゲ"から自分たちで作ったロングドレスを着た訓練生たち(写真:山平泰子)
訓練では、洋裁の基礎を学んだ後に、電動工業用ミシンでシャツ、スラックス、ワンピース、テーラー・ジャケットなどを製作していきました。使用するのは日本全国からリボーン・京都へ寄贈された正絹の着物です。柔らかな着物地を縫うのは難しく、これが縫えるようになると、どんな布でも扱えるようになるのです。1、2年目はリボーン・京都の既存の型紙を使って、裁断、縫製を行う実習を続けました。訓練参加前は、電動工業用ミシンに触ったこともなかった生徒が、実際に洋服を縫い上げると、「私にもできる!」と自信をつけ、どんどんやる気を高めていきました。
1年目を終えたとき、プロジェクトは優秀な生徒8名を2年目のアシスタントに採用しました。ルワンダは学歴社会なので、洋裁の実力だけで採用したリボーン・京都と山平さんの英断に女性たちはとても感謝したそうです。この8名のアシスタントの参加により、訓練の体制が充実し、翌年には、ルワンダに進出してきている外資大手の縫製工場に、訓練生60名全員が就職することができました。
しかし、工場に労働力を供給するのがプロジェクトの最終目標ではない、と山平さんは語ります。
「工場で働ければ、収入は安定します。でも、毎日が同じ作業の繰り返しです。洋服の型紙を作れるようになれば、服の仕立てを受注できたり、働き方の可能性もさらに広がります。本気で技術を習得すれば人生は変わります。生きること、働くことの喜びがあることを伝えたいですね。」
プロジェクトは今、3年目に入り、いよいよ型紙作りの指導も始まりました。型紙作りには正確な採寸と複雑な計算が必要ですが、貧しくて学校に通うことができず算数が苦手な生徒も数多くいます。山平さんはチームを組んでいる洋裁専門家とともに生徒一人ひとりの特徴を見極めながら、計算が得意な生徒と縫製が得意な生徒でグループを作ることにしました。生徒たちは互いに学び合いながら、型紙づくりの習得を目指して訓練に励んでいます。
※1 日本NGO連携無償資金協力事業は、日本のNGOが開発途上国・地域で行う経済社会開発事業および緊急人道支援事業に対して外務省が資金協力を行う制度。これを受けたNGOが活動実績を積むことで、国際的活動を広げるという意味でNGOの能力強化も目的としている。