2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

第4節 開発協力政策の立案および実施における取組

本節では、ODAをより効率的で効果的なものとするために進めるべき措置を、「開発協力政策の立案および実施体制」、「国民参加の拡大」、「戦略的・効果的な援助の実施のために必要な事項」の3つに分けて紹介しています。

1.開発協力政策の立案および実施体制


(1)一貫性のある開発協力政策の立案

2006年8月、外務省は経済協力局を改編し、国際協力局を設置しました。国際協力局は、ODAにかかわる政策を総合的に企画・立案するとともに、政府全体を通して調整する中心的な役割を担っています。2009年7月には、さらに、外務省におけるODAの政策・企画立案機能を強化するため、国際協力局の機構改革を行いました。ODA政策の企画・立案を担当していた総合計画課と援助手法を担当していた無償資金・技術協力課および有償資金協力課を統合し、国別開発協力課を強化しました。この機構改革により、新設された開発協力総括課の下、3つの国別開発協力課によって有償資金協力、無償資金協力、技術協力の3つの援助手法を一体とした支援が可能となりました。

また、二国間協力と多国間協力(国際機関を通じた協力)に関しては、これまで以上に各課の連携を図り、国際協力の戦略性を強化し、より効果的なODAの実施に取り組んでいます。また、関係府省庁の間で情報の共有や意見交換を行うとともに、関係府省庁の知識と経験を政策に反映しています。


(2)政府と実施機関の連携

外務省は、年度ごとの国際協力重点方針等、各種政策を速やかにODAの実施に活かすことができるよう、実施機関である国際協力機構(JICA:Japan International Cooperation Agency)との連携を図っています。

2008年10月には、技術協力の実施と無償資金協力の実施促進を担ってきたJICAと、円借款など有償資金協力の実施を担当していた国際協力銀行(JBIC)の海外経済協力部門が統合され、新JICAが誕生しました。外務省が実施してきた無償資金協力の実施業務の一部もJICAに移され、JICAは技術協力、有償資金協力、無償資金協力という3つの援助手法を一元的に実施する総合的なODAの実施機関となりました。


(3)政策協議の強化

より効果的な開発支援を実行するため、開発途上国と密接な政策協議を行い、互いの認識や理解を共有する取組を進めています。日本は、その国の主体的取組を通じた発展を促す支援をするという観点からODAを実施しており、開発途上国からの要請を重視する一方、要請を受ける前の段階で相手国の政府関係者と政策協議を実施することで、相手国の開発政策や援助の需要を十分に理解し、日本のODA政策との協調を図っています。


(4)現地機能の強化

開発途上国政府との政策の協議を強化するため、原則としてすべてのODA対象国について、在外公館(海外の日本大使館)やJICAの現地事務所などで構成される「現地ODAタスクフォース」を設置しています。(注1)タスクフォースは、開発途上国の援助需要を把握した上で、国別援助方針や事業展開計画などのODA政策を決めるプロセスにも参加します。また、開発途上国政府との政策に関する協議を行います。さらに、他の援助国や国際機関と連携しながら、援助手法の面での連携や見直しに関する提言を行い、援助対象となる候補案件の検討・選定などを行っています。

また、貧困削減戦略文書(PRSPの策定や見直しの動きなどに合わせて、開発途上国における援助協調が各地で本格化している状況に対応し、日本は2006年度から一部の在外公館に経済協力調整員を配置し、援助協調にかかわる情報の収集・調査を行っているほか、他国に対し、日本の政策に関する情報を発信したり、提言を現場にて行う体制をとっています。


(5)様々な担い手との連携

日本は、非政府組織(NGO)、民間企業、大学、地方自治体、国際機関や他の援助国とも連携しながら国際協力を行っています。

NGOとの連携
NGO連携無償資金協力事業「東ティモール自動車整備士育成事業」の一環で、女子生徒たちにエンジンの内部構造を説明する日本人教官(写真:小滝勝信/日本地雷処理・復興支援センター(JDRAC))

NGO連携無償資金協力事業「東ティモール自動車整備士育成事業」の一環で、女子生徒たちにエンジンの内部構造を説明する日本人教官(写真:小滝勝信/日本地雷処理・復興支援センター(JDRAC))

日本のNGOは、開発途上国・地域において教育、医療・保健、農村開発、難民支援、地雷処理技術指導など様々な分野において質の高い開発協力活動を実施しています。また、地震・台風などの自然災害や紛争等の現場において迅速かつ効果的な緊急人道支援活動を展開しています。このように日本のNGOは、開発途上国それぞれの地域に密着し、現地住民の支援ニーズにきめ細かく丁寧に対応することが可能であり、政府や国際機関による支援では手の届きにくい草の根レベルでの支援を行うことができます。また、日本のNGOは、日本の「顔の見える援助」を行う上で不可欠な国際協力の担い手であり、外務省はこうした日本のNGOを、ODAを実施する上での重要なパートナーとして、定期的に意見交換・対話を行いながら、連携を強化してきています。開発協力大綱をはじめとする各種の政策においてもNGOとの連携を進めることを掲げており、具体的には、①NGOの開発協力活動に対する資金面での協力、②NGOの能力強化に対する支援、③NGOとの定期的な対話という、3本の柱により連携強化を進めています。

また、開発、環境、保健、防災、女性、人権、軍縮など、主要な国際協力課題や外交分野において政策提言(アドボカシー)を行う日本のNGOの活動も年々活発になってきています。

ア.NGOが行う事業への資金協力

日本は、日本のNGOが開発途上国・地域において開発協力活動および緊急人道支援活動事業を円滑かつ効果的に実施できるように様々な協力を行っています。

▪日本NGO連携無償資金協力
電動工業用ミシンによる、初めての「洋服ブラウス製作」実習を行うルワンダ人訓練生(写真:リボーン・京都)

電動工業用ミシンによる、初めての「洋服ブラウス製作」実習を行うルワンダ人訓練生(写真:リボーン・京都)

ホンジュラス・エル・パライソ県の山間部で「妊婦クラブ」の研修に参加する妊婦たち(写真:AMDA-MINDS)

ホンジュラス・エル・パライソ県の山間部で「妊婦クラブ」の研修に参加する妊婦たち(写真:AMDA-MINDS)

外務省は、日本NGO連携無償資金協力として、日本のNGOが開発途上国で実施する経済社会開発事業に資金を提供しています。2013年度に57団体が、この枠組みを通じて、33か国・1地域において、教育・人づくり、医療・保健、職業訓練、農村開発等の分野に関する計106件の事業を実施しました。直近の5年間で資金協力の規模はほぼ倍増しており、2013年度は約60億円規模の資金協力を実施しました。また、2000年にNGO、政府、経済界の連携によって設立された緊急人道支援組織である特定非営利活動法人「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」には、2014年11月時点で48のNGOが加盟しています。JPFは、外務省から拠出されたODA資金や企業・市民からの寄付金を活用して、大規模な災害が起きたときや紛争により大量の難民が発生したときなどに生活物資の配布や生活再建等の緊急人道支援を行っています。2013年度には、インド北部水害被災者支援、フィリピン・ルソン島水害被災者支援、ミャンマー少数民族帰還民支援、シリア紛争人道支援、東南アジア水害被災者支援、南スーダン緊急支援、アフガニスタン・パキスタン人道支援など、15か国において総額約31億円のODA資金が、JPF加盟のNGOが実施する事業に使用されました。

▪NGO事業補助金

外務省は、日本のNGOを対象に、経済社会開発事業に関連し、事業の形成、事業実施後の評価、国内外における研修会や講習会などを実施するNGOに対し、総事業費の2分の1、かつ200万円を上限に補助金を交付しています。2013年には計12団体がこの補助金を活用し、プロジェクト形成調査および事後評価、国内外でのセミナーやワークショップ(参加型の講習会)などの事業を実施しました。

▪JICAの草の根技術協力事業ほか
かつて栄えたウズベキスタンの養蚕業に日本の養蚕業の技術を伝え、質の高い繭を作り、絹織物に付加価値を付けて商品に変える。東京農工大学は草の根技術協力事業を通じて養蚕業の振興に取り組む。蚕の飼育指導を担当した大澤光男客員教授と共に繭を収穫する現地の人々(写真:東京農工大学)

かつて栄えたウズベキスタンの養蚕業に日本の養蚕業の技術を伝え、質の高い繭を作り、絹織物に付加価値を付けて商品に変える。東京農工大学は草の根技術協力事業を通じて養蚕業の振興に取り組む。蚕の飼育指導を担当した大澤光男客員教授と共に繭を収穫する現地の人々(写真:東京農工大学)

JICAの技術協力プロジェクトはNGOを含む民間の団体に委託して実施される場合があり、NGOや大学といった様々な団体の専門性や経験も活用されています。さらに、JICAはNGOや大学、地方自治体などが提案する案件で、開発途上国の地域住民の生活向上に直接役立つ協力活動について、ODAの一環として事業委託する「草の根技術協力事業」を実施しています。2013年度は250件の事業を世界47か国で実施しました。

イ.NGO活動環境の整備

NGOに対する資金協力以外のさらなる支援策として、NGOの活動環境を整備する事業があります。これは、NGOの組織体制や事業実施能力をさらに強化するとともに、人材育成を図ることを目的とした事業で、外務省は、具体的には以下の4つの取組を行っています。

▪NGO相談員制度

外務省の委託を受けた日本各地の経験豊富なNGO団体(2013年度は17団体に委嘱)が、市民やNGO関係者から寄せられる国際協力活動やNGOの組織運営の方法、開発教育の進め方などに関する質問や相談に対応する制度です。そのほか、国際協力イベントなどにおいて様々な相談に応じたり、出張して講演を行うサービスを行うなど、多くの人がNGOや国際協力活動に対して理解を深める機会をつくるようにしています。

▪NGOインターン・プログラム

国際協力に対する関心の高まりを背景に、市民による国際協力の担い手であるNGOへの就職を希望する若い人材が増える一方、多くの日本のNGOは、財源や人手不足から若手人材を育成する余裕がない状況にあります。「NGOインターン・プログラム」は、国際協力分野に関心のある若手人材の受入れと育成を、日本のNGOに委託することにより、NGO活動に携わる人材の門戸を広げ、人材の拡充を通じてNGOによる国際協力の拡大・重層化を図ることを目的としています。2013年度は、このプログラムにより、計19名がインターンとしてNGOに受け入れられました。

▪NGO海外スタディ・プログラム

日本のNGOの中堅職員を対象として、1か月~最長6か月程度、海外での研修を行うプログラムです。「実務研修型」および「研修受講型」の二つの形態で実施するもので、研修員の所属NGOのニーズに基づき、主体的に研修計画を策定することが可能な点が特徴です。研修員や所属NGOには、帰国後、研修成果を所属NGOの活動に活かし、還元していただくことが求められます。

▪NGO研究会

政府は、NGOの能力、専門性向上のための研究会の実施を支援しています。具体的に、業務実施を委嘱されたNGOがほかのNGOの協力を得ながら、調査、セミナー、ワークショップ、シンポジウムなどを行い、具体的な改善策を報告・提言することにより、NGO自身の組織および能力の強化を図ります。2013年度は、「ジェンダーとNGO」、「ポストMDGsと国際協力NGO」、「企業・個人の視点から見たNGO連携についての意識調査」、「国際協力活動における地方のNGOの能力強化」の4つのテーマに関する研究会を実施しました。活動の報告書・成果物は外務省のODAホームページに掲載されています。

なお、外務省が行う支援のほかに、JICAは、NGOスタッフのために様々な研修を行っています。たとえば、次のようなものがあります。

①「組織力アップ!NGO人材育成研修」
国内外で今後活躍するNGOスタッフの人材育成を通じて団体の組織強化を支援

②「プロジェクト運営基礎研修」

プロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)を活用して開発途上国でのプロジェクトの計画・立案・評価の手法を習得

③「NGO組織強化のためのアドバイザー派遣制度」
NGOが国内での広報活動や資金獲得、経理・会計分野での能力などを強化することを目的にこの分野の知識・経験を持つアドバイザーを派遣

④「NGO海外プロジェクト強化のためのアドバイザー派遣制度」
海外においてプロジェクトを効果的に実施するために必要な能力強化の指導を行うアドバイザーを派遣

ウ.NGOとの対話と連携
▪NGO・外務省定期協議会

NGO・外務省定期協議会は、NGOと外務省との連携強化や対話の促進を目的として、ODAに関する情報共有やNGOとの連携の改善策などに関して定期的に意見を交換する場として1996年度に設けられました。現在では、年1回の全体会議に加え、「ODA政策協議会」と「連携推進委員会」の二つの小委員会が設置されています。どちらの小委員会も原則としてそれぞれ年3回開催されます。「ODA政策協議会」ではODA政策全般に関する意見交換が、「連携推進委員会」ではNGO支援・連携策に関する意見交換が行われています。

▪NGO・在外ODA協議会(通称:ODA・NGO(オダンゴ)協議会)

2002年以降は開発途上国で活動する日本のNGOと意見を交換する場として「NGO・在外ODA協議会(通称:ODA・NGO(オダンゴ)協議会)」を開設しました。これまでネパールやスリランカをはじめとする34か国で、大使館、援助実施機関、NGO等がODAの効率的・効果的な実施について意見交換を行っています。

▪NGO-JICA協議会、NGO-JICAジャパンデスク

JICAは、NGOとの対等なパートナーシップに基づき、より効果的な国際協力の実現と、国際協力への市民の理解と参加を促すために、NGO-JICA協議会を開催しています。また、NGOの現地での活動を支援するとともに、NGOとJICAが連携して行う事業の強化を目的として、「NGO-JICAジャパンデスク」を海外20か国に設置しています。

用語解説
現地ODAタスクフォース
現地ODAタスクフォースとは、日本大使館、JICAの現地事務所などをメンバーとして構成され、その国に対する日本の援助政策の立案や相手国政府との政策協議、さらには、ほかのドナーや関連機関、現地で活躍する日本企業・NGOとの連携を強化する目的でつくられ、原則すべてのODA対象国に設置されている。被援助国のニーズを踏まえた「現場主義」を強化し、質の高いODAを実施していく上で、現地のODAタスクフォースの役割は極めて重要である。
貧困削減戦略文書(PRSP:Poverty Reduction Strategy Paper)
世界銀行・国際通貨基金(IMF)により、1999年に導入された、重債務貧困国(巨額の借金を抱えている貧困国)が、債務削減を受けるための条件となる文書。債務削減によって返済せずに済んだ資金を、貧困削減の対応策に支出するために、教育、保健、食料保障などの分野で、3か年ごとに目標を設定する経済社会開発のための実行計画書。文書は途上国政府のオーナーシップ(主体的取組)の下、援助国やNGO、研究機関、民間部門の代表などの意見も取り入れて作成される。
援助協調
援助の効果を増大させるために、複数のドナーが情報共有を行い、援助の戦略策定やプロジェクト計画・実施などにおいて協力を行うこと。従来の援助協調は、案件ごとのドナー間の連携・調整に重点が置かれていたが、近年は、被援助国の開発政策に沿って、ドナーが共通の戦略や手続きで支援を行う総合的な援助協調が、サブサハラ・アフリカを中心に、世界各国で進められるようになっている。
草の根技術協力事業
国際協力の意思を持つ日本のNGO、大学、地方自治体および公益法人等の団体による、開発途上国の地域住民を対象とした国際協力活動を、JICAがODAの一環として支援し、共同で実施する事業。
団体の規模や種類に応じて、次の3つの支援方法がある。
1. 草の根パートナー型(事業規模:総額1億円以内、期間:5年以内)
2. 草の根協力支援型(事業規模:総額2,500万円以内、期間:3年以内)
3. 地域提案型(事業規模:総額3,000万円以内、期間:3年以内)
プロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)手法
開発協力プロジェクトの分析・計画・実施・評価という一連のサイクルを、プロジェクト概要表を用いて運営管理する参加型開発手法で、参加型計画とモニタリング・評価から成る。JICAや国際機関などが開発協力の現場で用いる手法。

  1. 注1 : JICAが本部で所管する一部の国を除く。

●アフガニスタン

アフガニスタン市民社会の能力強化事業
日本NGO連携無償資金協力(2013年3月~実施中 )

北部バルフ県におけるNGO法、所得税法、労働法、行動規範、紛争下における人権に関する研修の様子(2013年8月27日、ACBAR実施分)

北部バルフ県におけるNGO法、所得税法、労働法、行動規範、紛争下における人権に関する研修の様子(2013年8月27日、ACBAR実施分)

アフガニスタンでは、地方政府に基本的な社会サービスを提供する能力が乏しく、様々な制約から国際社会の支援も地方まで十分に行き届いていません。

そのような中、ピースウィンズ・ジャパン、難民を助ける会、シビルソフィア、日本国際ボランティアセンターの4つのNGOが、日本NGO連携無償資金協力の枠組みを活用して支援を続けています。これらのNGOは、治安悪化によりなかなか現地に入ることができないため、アフガニスタンの現地パートナーNGOと協力して支援活動を行っています。この事業は、地域住民と最も近く、かつ住民の多様な支援ニーズを適切に把握し応える潜在的な能力を持つアフガニスタン各地の市民社会組織(CSO)※1に対し、各種の研修事業等を行い、その能力強化を目指すものです。

2013年から3年間の予定で実施しており、研修内容には、汚職防止、平和構築と和解、良い統治と人権、行動規範、NGO法等の運営実務、紛争下における人権とジェンダー、財政管理、アカウンタビリティ(説明責任)、事業運営等が含まれています。

2013年にはアフガニスタン全土34県のうち、31県で計69回の研修が実施されました。これらの研修には現地CSO職員のほか、地方政府職員も加わり、合計2,225名が参加しています。

アフガニスタンの自立のためには、開発支援分野における人づくりが不可欠です。この事業はまさにこうした「人づくり」に役立つものであり、日本のNGOによるきめ細かい支援の一つとして高い評価を受けています。これらの研修を通じて、アフガニスタンのCSOの能力が向上し、CSOや地方政府等の間に密接なネットワークが築かれていきます。今後は、最も支援を必要としている人々に対して、各地のCSOが支援を適切に届けることができるよう、また、CSO自ら事業を計画、立案、実施できるようになることが期待されます。(2014年8月時点)


※1 市民社会組織 CSO:Civil Society Organization

●ミャンマー

カレン州における電力支援による避難民帰還にむけた生活環境整備事業
日本NGO連携無償資金協力(ジャパン・プラットフォーム(JPF)事業)
特定非営利活動法人 BHNテレコム支援協議会(2013年10月~実施中)

コミュニティセンターに設置されたソーラーパネル(写真:BHNテレコム支援協議会)

コミュニティセンターに設置されたソーラーパネル(写真:BHNテレコム支援協議会)

ミャンマー南東部の少数民族が多く居住するカレン州では、ミャンマー国軍と少数民族武装勢力との間で、長年にわたり戦闘が続いていましたが、この戦闘に終止符が打たれ、両者間で停戦合意が結ばれました。しかしながら、現在も、たくさんの難民・国内避難民が帰還や再定住ができずに大きな課題となっています。さらに、長年の紛争によりカレン州の開発は遅れ、保健、水・衛生、教育、電力など、住民にとっての基礎的な生活基盤も十分とはいえません。

このような状況を受けて、ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、2013年4月から「ミャンマー少数民族帰還民支援プログラム」を開始しました。このプログラムにより、複数のJPF加盟団体がカレン州を中心に、紛争前にもともと住んでいたところに戻る人々(帰還民)の支援に取り組んでいます。その中でもBHNテレコム支援協議会が実施するこの事業では、難民・国内避難民の帰還先である無電化村落において、コミュニティセンターや学校への太陽光発電システムの設置などによる電化支援を行いました。

その結果、コミュニティセンターには、近くに住む約100世帯の住民や役場の職員、学校の教師たちがテレビの周りによく集うようになり、ニュースを通じて国内外の情報に接する機会を持つようになったほか、村の教育や開発について意見交換を行うようになりました。また、これまでに学校2校、約700人の生徒が電気を使えるようになったことで、より良い学習環境で勉強をすることが可能になりました。また、このように、住民の生活・教育環境が改善されると、これらの村落が難民・国内避難民をさらに受け入れるための環境整備にもつながります。これにより、将来的な難民・国内避難民の帰還や地域の開発が促進されることが期待されます。(2014年8月時点)

民間企業との連携

経済のグローバル化に伴い、ODAの約2.5倍の民間資金が開発途上国に流入する現在、開発途上国の開発のための資金ニーズに対応するためには、民間資金による開発への貢献を促進することがますます重要となっています。そのため日本政府は、次のような官民連携による民間投資を後押ししています。

開発途上国の持続的な開発につなげるためには、それが「人間中心」のアプローチで行われるべきであるとの考え方を提唱しています。つまり、日本政府はODAを活用した民間との連携を通じて、開発途上国における雇用創出、防災・気候変動・環境問題対策、現地の人々の能力構築などにつながる「人間中心の投資」を推進していく考えです。

こうした「人間中心の投資」を推進する方針は、2014年5月に日本が議長を務めたOECD閣僚理事会にて岸田外務大臣が初めて表明しました。その後も、8月の日ASEAN外相会議や、11月の日ASEAN首脳会議、G20サミットにおいて説明するなど、この方針に関する国際社会の理解・賛同を得るための発信に取り組んでいます。

ア.成長加速化のための官民パートナーシップ

日本の民間企業が開発途上国で様々な事業を行うことは、現地で雇用の機会を創り出し、途上国の税収の増加、貿易投資の拡大、外貨の獲得などに寄与し、日本の優れた技術を移転するなど、多様な成果を開発途上国にもたらすことができます。このような民間企業の開発途上国における活動を推進するために、2008年4月にODAなどと日本企業との連携強化のための新たな施策「成長加速化のための官民パートナーシップ」を発表しました。民間企業からの開発途上国の経済成長や、貧困削減に役立つ民間企業の活動とODAとの官民連携案件に関する相談や提案を受け付けています。たとえば、インドネシアにおいて、草の根・人間の安全保障無償資金協力により、日本企業が小学校に独立型太陽光発電装置を設置し、小学校や周辺地域での電気の使用時間を延ばすことで、初等教育の学習環境改善と周辺地域の生活向上を図った事例があります。ほかにも、技術協力を活用し、メキシコから医師団を日本に招き、日本企業の開発した高度な医療技術(心臓カテーテル技術)の移転を行った事例があります。

また、最近、民間企業が進出先の地域社会が抱える課題の解決に対して積極的に貢献することを目指す企業の社会的責任(CSR)活動や、低所得者層を対象にしたビジネスを通じて、生活の向上や社会的課題の解決への貢献を目指すBOPビジネスが注目されています。日本の民間企業のCSR活動やBOPビジネスと、現地NGOの活動の連携を促進するため、現地NGOと日本の民間企業が連携する案件を積極的に採択するための優先枠を設定し、積極的に民と民のマッチングを支援しており、2013年度は11件を認定しました。ほかにも、官と民が連携して公共性の高い事業などをより効率的・効果的に行うことを目指すPPPにも取り組み、技術協力による制度整備や人材育成のほか、海外投融資や円借款を活用して、プロジェクトの計画段階から一貫した支援を行っています。

さらに、2011年6月に開催されたミレニアム開発目標(MDGs)フォローアップ会合時に、日本は「MDGs官民連携ネットワーク」の設立を発表しました。これは、日本企業が開発途上国でビジネスや社会貢献活動を円滑に行えるよう支援するもので、日本企業に対して、開発途上国の開発ニーズに関する情報の提供、国内外のNGO、国際機関、大学などを紹介し、ネットワークづくりを支援、保健分野やポストMDGsなどのテーマごとのワークショップを開催するなどして、MDGs達成に貢献する日本企業の活動を促進しています。

加えて、国連開発計画(UNDP)および国連児童基金(UNICEF(ユニセフ))などの国際機関は、開発途上国における豊富な経験と専門性を活かし、日本企業による包括的ビジネスを推進しています。たとえば、日UNDPパートナーシップ基金を活用して、UNDPの専門家が、インドにおける有機綿栽培を促進する日本企業に対して助言を提供したことにより、有機農法への移行支援プロジェクトは、企業利益と開発目的を同時に達成するビジネスを推進する国際的なイニシアティブであるビジネス行動要請(BCtA:Business Call To Action)に採択されました。

▪PPPインフラ事業・BOPビジネスの協力準備調査

優れた技術や知識・経験を持ち、海外展開に関心を持つ日本企業の開発への参加を促すため、民間からの提案に基づく2種類の協力準備調査を実施しています。具体的には、PPPインフラ事業とBOPビジネスのそれぞれについて事業化調査のための企画書(プロポーザル)を民間から広く募集し、その提案を行った企業にフィージビリティ調査(実現の可能性を探るための調査)を委託することで計画策定を支援する民間提案型の調査制度です。これまで上下水道や高速道路案件などのPPPインフラ事業については55件、保健・医療、農業分野におけるBOPビジネスについては83件を採択しており、海外投融資案件として承諾され、または円借款案件として承諾に至った案件もあります。これにより、開発途上国の経済社会開発に民間企業の専門的知識、資金、技術等を活用するとともに、民間企業の海外展開を後押ししていきます。

▪中小企業等の海外展開支援
海外展開を図る中小企業の(株)セキュリティージャパン。インドで、耐熱カメラ設置のため、クレーン台を立ち上げている様子。118ページの『匠(たくみ)の技術、世界へ』をご覧ください(写真:(株)セキュリティージャパン)

海外展開を図る中小企業の(株)セキュリティージャパン。インドで、耐熱カメラ設置のため、クレーン台を立ち上げている様子。『匠(たくみ)の技術、世界へ』をご覧ください(写真:(株)セキュリティージャパン)

発展著しい新興国や途上国の経済成長を取り込むことは、日本経済の今後の成長にとって重要な要素となっています。とりわけ、日本の中小企業は世界に誇れる多くの優れた製品・技術を有していますが、人材や知識・経験の不足により多くの企業が海外展開に踏みきれないでいます。一方で、開発途上国においては、こうした日本の中小企業等の製品・技術等が活用され、その国の経済社会開発に役立つことも期待されています。

このような状況を受け、外務省・JICAは、ODAを活用して、日本の中小企業等の海外展開を積極的に後押ししています。具体的には、中小企業等の製品・技術等の開発援助案件化を念頭に置いた調査(ニーズ調査)、開発途上国の課題解決に貢献する中小企業の海外事業(直接進出による事業)に必要な基礎情報収集・事業計画策定のための調査(中小企業連携促進基礎調査)、中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等を途上国の開発へ活用する可能性を検討するための調査(案件化調査)および中小企業等からの提案に基づき、製品・技術等に関する途上国の開発への現地適合性を高めるための実証活動を通じ、その普及方法を検討する事業(普及・実証事業)を実施しています。

これらの事業は、ODAにより、日本の中小企業の優れた製品・技術等を途上国の開発に活用することで、途上国の開発と日本経済の活性化の両立を図るものであり、2012年度および2013年度において、延べ155社の中小企業による調査や普及・実証事業への支援を行っています。こうした事業の成果として、たとえば「案件化調査」の実施後約1年で約3割の中小企業が新たな取引先を確保し、約1割の中小企業が現地生産を開始しています。

また、「案件化調査」実施後1年を経過した中小企業の約6割が「普及・実証事業」を実施中です。参加企業等からは、こうした取組をさらに拡充してほしいとの声が多く寄せられており、今後ともODAによる中小企業等の海外展開支援を積極的に推進していきます。

さらに、開発途上国の経済社会開発に必要な物資の輸入のための資金を途上国政府に無償で供与し、その資金をもって日本の中小企業の製品を開発途上国に供与する中小企業ノン・プロジェクト無償資金協力も実施しています。

中小企業ノン・プロジェクト無償資金協力は、途上国政府の要望や開発ニーズに基づき、日本の中小企業の製品を供与することを通じ、その途上国の経済社会開発を支援するのみならず、その中小企業の製品に対する認知度の向上を図り、継続的な需要を創出し、日本の中小企業の海外展開を力強く支援するものです。

そのほか、中小企業が必要とするグローバル人材の育成を支援するため、企業に籍を置いたまま中小企業等の社員を青年海外協力隊やシニア海外ボランティアとして途上国に派遣する「民間連携ボランティア制度」を2012年に創設し、中小企業の途上国における人脈形成を積極的に支援しています。

また、経済産業省でも、中小企業の海外展開に必要なグローバル人材の育成に役立つ取組として、若手人材の海外インターンシップ派遣事業を新たに開始し、2012年11月にはJICA・経済産業省の共催でグローバル人材育成に関するシンポジウムを開催するなど、日本の中小企業の海外展開を支援しています。加えて、2014年2月、経済産業省と共に「海外展開一貫支援ファストパス制度」を立ち上げ、上述の各種事業に中小企業がより簡単にアクセスできるよう配慮しています。

▪海外投融資

開発途上国での事業はリスクが高いなどの理由により、民間金融機関からの融資が受けにくい状況にあります。そこで、日本はJICA海外投融資を活用して、開発途上国において民間企業が実施する開発事業へ直接、出資・融資を行うことにより支援しています。海外投融資については、2001年12月に発表された「特殊法人等整理合理化計画」において、基本的に、2001年度末までに承諾された案件以外、出融資を行わないこととなっていました。しかし、民間セクターを通じて開発効果の高い新しい需要に対応する必要性の高まりから、2011年3月にベトナムにおける産業人材育成事業やパキスタンにおける貧困層向けマイクロファイナンス事業など、JICAによる民間企業に対する海外投融資を試行的に再開しました。2012年10月には海外投融資を本格的に再開し、ミャンマーのティラワ経済特別区(Class A)開発事業など現在までに計5件の出・融資契約を調印しています。また、2014年6月に、海外のインフラ事業に参画する日本企業の為替リスクを低減するため、JICA海外投融資制度について、従来の円建てに加え、現地通貨建てでも融資するとの改善を行いました。

▪開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業

開発途上国の政府関係者を主な対象とする日本での研修や現地でのセミナーなどを通じて、日本企業が持つ優れた製品、技術、システムなどへの理解を促すとともに、開発途上国の開発への活用可能性の検討を行うことを目的とした公募型事業です。民間企業から提案を募り、採択案件の実施は、提案した企業に委託します。その事業およびその後の民間企業の事業展開を通じ、開発途上国の課題解決に貢献できるという効果があります。また、民間企業にとっては、その対象の国における自社の技術、製品、システムへの認知度の向上、公共性の高いビジネスの具体的な展開、途上国政府関係者と間の人的ネットワーク形成などの効果が期待できます。

2013年度は第1回公募において15件、第2回公募において12件を採択しました。提案された内容は、保健医療、農業、エネルギー、環境などの分野での個別の製品や技術を対象とする事業にとどまらず、郵便事業、栄養士資格といった日本の制度や、交通管制、防災といった複合的なシステムを対象とする事業まで、多岐にわたっています。

▪インフラシステム輸出

日本政府は、日本企業によるインフラシステム輸出を支援するとともに、海外経済協力に関する重要事項を議論し、戦略的かつ効率的な実施を図るため、「経協インフラ戦略会議」を開催し、2013年5月には「インフラシステム輸出戦略」をとりまとめて、2014年6月には「インフラシステム輸出戦略」の改訂を行いました。これを踏まえ、外務省は、円借款、無償資金協力、技術協力など経済協力の様々な援助手法を整備・活用するとともに、関係省庁、JICA、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)関係機関や、企業、地方自治体等と連携し、日本の技術・知見を活かしながら開発途上国のインフラ整備を支援しています。2013年のインフラ受注は、前年の137件から285件へと倍増、金額も受注金額が判明した分のみでも前年の約3.2兆円から約9.3兆円へと大幅に増加しました。(内閣官房調べ)

用語解説
「人間中心の投資」の推進
日本政府は、第1に雇用創出や社会サービスへのアクセス改善等を通じて、投資の経済的利益をできるだけ多くの人々が享受する「包摂(ほうせつ)性」、第2に経済変動、気候変動、自然災害等に対する「強靱(きょうじん)性」、第3に投資を通じた現地の人々の「能力構築」という3点を重視する「人間中心の投資」を、官民連携を通じて推進していく。その際は、民間投資を呼び込むための触媒となるODA(ビジネス環境整備、産業人材育成等)、海外投融資、BOPビジネスや官民パートナーシップ(PPP)事業等の事業化計画策定の支援などの施策を活用していく。
BOPビジネス(BOP:Base Of the Pyramid)
途上国の低所得層※を対象にした社会的な課題解決に役立つことが期待されるビジネス。低所得層は約40億人、世界人口の約7割を占めるともいわれ、潜在的な成長市場として注目されている。低所得者層を消費者、生産者、販売者とすることで、持続可能な、現地における様々な社会的課題の解決に役立つことが期待される。
事例:洗剤やシャンプーなどの衛生商品、水質浄化剤、栄養食品、防虫剤を練り込んだ蚊帳(かや)、浄水装置、太陽光発電など。

※低所得層:1人当たりの年間所得が購買力平価で3,000ドル以下の層。購買力平価とは物価水準の差を除去することによって、異なる通貨の購買力を等しくしたもの。
ODAを活用した官民連携(PPP:Public-Private Partnership)
官によるODA事業と民による投資事業などが連携して行う新しい官民協力の方法。民間企業の意見をODAの案件形成の段階から取り入れて、たとえば、基礎インフラはODAで整備し、投資や運営・維持管理は民間で行うといったように、官民で役割分担し、民間の技術や知識・経験、資金を活用し、開発効率の向上とともにより効率的・効果的な事業の実施を目指す。
PPPの分野事例:上下水道、空港建設、高速道路、鉄道など。
包括的(インクルーシブ)ビジネス(Inclusive Business)
包括的な市場の成長と開発を達成するための有効な手段として、国連および世界銀行グループが推奨するビジネスモデルの総称。社会課題を解決する持続可能なBOPビジネスを含む。
フィージビリティ調査
立案されたプロジェクトが実行(実現)可能かどうか、検証し、実施する上で最適なプロジェクトを計画・策定すること。プロジェクトがどのような可能性を持つか、適切であるか、投資効果について調査する。
民間連携ボランティア制度
中小企業等の社員を青年海外協力隊やシニア海外ボランティアとして開発途上国に派遣し、企業のグローバル人材の育成や海外事業展開にも貢献するもの。民間企業の要望に応じ、派遣国、職種、派遣期間等を相談しながら決定する。事業展開を検討している国へ派遣し、活動を通じて、文化、商習慣、技術レベル等を把握したり、語学のみならず、コミュニケーション能力や問題解決力、交渉力などが身に付き、帰国後に企業活動に還元されることが期待される。
海外展開一貫支援ファストパス制度
海外展開の潜在力と意欲を持つ中堅・中小企業などの海外展開を支援するための制度。これらの企業に身近な存在である地方自治体、地方経済団体、地方金融機関等が、顧客企業と海外展開にノウハウを持つ在外公館・JETROなどとの橋渡しをすることにより、国内から海外まで切れ目のない支援を提供するもの。
海外投融資
JICAが行う有償資金協力の一つで、開発途上国での事業実施を担う民間セクターの法人等に対して、必要な資金を出資・融資するもの。民間企業の開発途上国での事業は、雇用を創出し経済の活性化につながるが、様々なリスクがあり高い収益が望めないことも多いため、民間の金融機関から十分な資金が得られないことがある。海外投融資は、そのような事業に出資・融資することにより、開発途上国の開発を支援するもの。支援対象分野は①MDGs・貧困削減、②インフラ・成長加速化、③気候変動対策。
インフラシステム輸出
海外の電力、鉄道、水、道路などのインフラ需要に対して、日本企業が施設建設・機器輸出のみならず、インフラの設計、建設、運営、管理まで含む「システム」を輸出する考え方。
イ.円借款の制度改善

日本の優れた技術やノウハウを開発途上国に提供し、人々の暮らしを豊かにするとともに、特に日本と密接な関係を有するアジアを含む新興国の成長を取り込み、日本経済の活性化にもつなげることが求められています。開発途上国と日本の民間企業双方にとって、より魅力的な円借款となるよう、制度の改善を一層進めていく必要があります。

日本は、2013年4月に「円借款の戦略的活用のための改善策」を発表し、同年10月制度改善を発表しました。まず、4月の制度改善では、これまでの重点分野を「環境」および「人材育成」に整理した上で、新たに「防災」および「保健・医療」を加えた4分野における譲許(じょうきょ)性を引き上げ(金利を下げたり、返済期間を長くすることで条件をより緩やかにすること)ました。また、中進国および中進国を超える所得水準の開発途上国に対しても円借款を一層活用していきます。加えて、日本の優れた技術やノウハウを活用し、開発途上国への技術的移転を通じて日本の「顔の見える援助」を促進するために導入された本邦技術活用条件(STEP:Special Terms for Economic Partnership)について、適用範囲拡大、金利引き下げ等の制度改善を行ったほか、災害復旧スタンドバイ借款(注2)の創設などの追加的な措置を行ってきています。次に、10月の制度改善では、特にアジア地域における膨大なインフラ需要に適切に対応していくために、官民連携(PPP:Public-Private Partnership)方式を活用したインフラ整備案件の着実な形成と実施を促進する、開発途上国政府による各種施策の整備と活用をニーズに応じて支援するべく、EBF円借款(注3)およびVGF円借款(注4)を導入しました。

また、2014年6月には、同一セクター等の複数案件に対して包括的に円借款を供与する「セクター・プロジェクト・ローン」の本格活用の開始や、日本企業の参画が期待できる円借款事業の実施に当たっての事前資格審査と本体入札との一本化などを通じ、円借款のさらなる迅速化を図ることとしました。

大学・地方自治体との連携

日本は、より効果的なODAの実施のため、大学や県市町村など地方自治体が蓄積してきた実務的な知識を活用しています。JICAは、大学が持つ専門的な知識を活用し、開発途上国の課題に総合的に取り組めるよう、共同で技術協力の実施や円借款事業を推進しています。また、地方自治体との間でも、都市インフラの運営ノウハウなどの知見を活かし、ODA事業の質的向上、開発協力を行う人材の育成などについて連携を行い、地方発の海外協力事業がより活発に展開できるよう協力しています。

2013年3月には、政府はJICAの草の根技術協力事業の枠組みを活用し、地域経済活性化特別枠として地方自治体の国際協力を通じて日本の地域の活性化を図る方針を打ち出しました。

開発途上国の地方自治体・NGOなどとの連携

開発途上国の地方自治体やNGOとの連携は、開発途上国の経済社会の開発だけではなく、現地の市民社会やNGOの強化にもつながります。日本は、主に草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じて、これら開発協力関係者が実施する経済社会開発事業を支援しています。この資金協力は、学校建設、病院の基礎的医療機材の整備、井戸の掘削など、草の根レベルに直接利益となるきめ細やかで迅速な支援として開発途上国でも高く評価されています。

国際機関や他国との連携

近年、ミレニアム開発目標(MDGs)などの国際的な開発目標を達成するため、開発協力の質の改善を目指し、効果的に開発協力を行うとの観点から、パリ宣言やアクラ行動計画(AAA)、釜山パートナーシップ文書、効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ(GPEDC)における合意事項に基づいて、様々な国や機関、団体が開発協力の政策策定や実施について協調していこうとしています。現在、協力を受ける側の多くの国において、保健や教育など分野ごとに作業部会が形成され、その国の分野別開発戦略に沿って、プログラム型の支援が実施されています。日本はタンザニアにおける地方行政改革などのプログラムに参加しています。また、バングラデシュにおいては、2005年の世界銀行、アジア開発銀行(ADB)、英国国際開発省(DFID)と同国の貧困削減戦略を支援するための共通戦略パートナーシップを経て、2010年6月には18の国際機関が参加して共同支援戦略(JCS)が決定されており、分野横断的に(保健、教育などの分野を越えて横のつながりを持ち)、より効果的で、効率的な開発協力を実施するための協調・連携を進めています。また、国際開発金融機関(MDBs)との具体的な協力として、2005年には、アフリカ開発銀行との間で、エプサ(EPSA:アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアティブ)を立ち上げ、アフリカの民間セクターに対する円滑な資金供給や、道路や電力整備等を通じた民間投資促進を図るため、これまでに10億ドルを超える円借款を供与してきました。2012年のG20ロスカボス・サミット(メキシコ)においては、同イニシアティブの下、新たに10億ドルの円借款を供与することを表明しました。2014年1月、エチオピアにおける安倍総理大臣によるアフリカ政策スピーチにおいてこれを20億ドルに倍増することを表明しました。また、2012年には、米州開発銀行との間でも、省エネ・再生可能エネルギー分野における協調融資枠組みとしてコア(CORE)を立ち上げており、5年で最大10億ドルの協力を行う考えです。

最近では、国際機関や他のドナー(援助国)との協力・連携も積極的に進めています。主要ドナー全体のODA予算が減少する傾向にある中で、各国の限られたODA予算を開発途上国の開発に効果的に活用するためにも、国際機関や他のドナーとの協力・連携の重要性は高まっています。

2014年4月、メキシコシティにおいて開催された「効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ第1回ハイレベル会合」に出席し、発言する木原誠二外務大臣政務官(前)

2014年4月、メキシコシティにおいて開催された「効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ第1回ハイレベル会合」に出席し、発言する木原誠二外務大臣政務官(前)

また、日本は、近年、米国との協力・連携を一層強化しています。2013年12月、バイデン米副大統領の訪日の際に発表した「日米のグローバル協力に関するファクト・シート」の中で、新たに、定期的な高級実務者レベルでの「日米開発対話」の立ち上げを表明しました。協力の焦点としては、人道支援・災害救援、東南アジア、大洋州、アフリカ、女性の能力強化などを掲げています。2014年2月には第1回日米開発対話を開催し、幅広い開発課題に対する日米協力につき協議しました。同年4月のオバマ大統領の訪日に際しては「ファクトシート:日米のグローバル及び地域協力」を発表し、東南アジアやアフリカなどにおける具体的連携を打ち出しました。その後、アフリカの女性起業家への支援、インドにおける女性に安全な街づくりのためのUN Womenの事業などに関する具体的な連携を実現してきています。こうした日米開発協力の強化は、日米関係の幅を広げ、日米同盟のさらなる発展に寄与するものと考えています。

これまで国際社会では、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)の加盟国が中心となって開発協力を行ってきましたが、近年、中国、インド、サウジアラビア、ブラジルなど、DAC加盟国以外の新興ドナーと呼ばれる国々が、その資金力を背景に開発途上国の開発課題に対し大きな影響力を持つようになっています。G20の枠組みにおいても、開発課題につき先進国のみならず、新興国・途上国を交えた形で協議が行われるようになったこともこの表れです。新興ドナーが国際的な取組と調和した開発協力を行うよう、日本は様々な会合への新興ドナーの参加を促し、話し合いを進めています。

また、2014年4月には「効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップ第1回ハイレベル(閣僚級)会合」がメキシコ・メキシコシティで開催され、開発途上国の開発課題の解決のためには、先進国・途上国政府だけでなく、市民社会組織(CSO)や民間セクター、議会等、開発に携わる様々な組織や団体が参加した包摂的な取組が必要であるとの認識が、参加者の間で共有されました。ポスト2015年開発アジェンダを達成するには、開発に役立つ資金源として、ODAだけではなく、開発途上国の税制度改善などによる途上国内の資金の有効活用、南南協力や三角協力による開発への貢献、民間資金の効果的な活用とそのためのODAの触媒的役割(たとえばODAで途上国のインフラを整備し、民間投資の誘致につなげるなど)の重要性などについても議論が行われました。

また、2014年9月には、ハノイで「第5回アジア開発フォーラム」を開催し、「アジアの持続的成長のための課題と戦略」をテーマに、アジアの経験を踏まえた開発協力のあり方について議論を深めました。

用語解説
アジア開発フォーラム 
アジア各国の政府関係者、アジア開発銀行(ADB)、世界銀行、国連開発計画(UNDP)などの国際機関、および民間企業関係者などが集まり、開発に関する各種課題や今後の取組のあり方などに関して議論し、開発協力に関する「アジアの声」を形成し、発信することを目的とするフォーラム。日本および韓国の発案で立ち上がり、2010年より開催されており、その運営に当たっては、主催国に加え、日本を含む過去の開催国から成るグループが中心的な役割を果たしている。

  1. 注2 : 災害の発生が予想される途上国に対して、事前に円借款の契約を締結しておき、災害が発生した際には、迅速に復旧のための資金を融通できる仕組み。
  2. 注3 : EBF(Equity Back Finance)円借款は、開発途上国政府・国営企業等が出資をするPPPインフラ事業に対して、日本企業も事業運営主体に参画する場合、開発途上国の公共事業を担う特別目的会社(SPC: Special Purpose Company)に対する開発途上国側の出資部分に対して円借款を供与するもの。
  3. 注4 : VGF(Viability Gap Funding)円借款は、開発途上国政府の実施するPPPインフラ事業に対して、原則として日本企業が出資する場合において、SPCが期待する収益性確保のため、開発途上国がSPCに供与する採算補塡(VGF)に対して円借款を供与するもの。
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