2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

第3節 援助実施の原則の運用

日本政府は、政府開発援助(ODA)大綱の援助理念にのっとり、国際連合憲章の諸原則(特に、主権平等および内政不干渉)や以下の援助実施の原則を踏まえ、開発途上国の援助需要、経済社会の状況やODAを受ける側の社会的に弱い立場の人々への影響、さらには二国間関係などを総合的に判断した上でODAを実施してきました。

  1. ①環境と開発を両立させる。
  2. ②軍事的用途および国際紛争助長への使用を回避する。
  3. ③テロや大量破壊兵器の拡散を防止するなど国際平和と安定を維持・強化するとともに、開発途上国はその国内資源を自国の経済社会開発のために適正かつ優先的に配分すべきであるとの観点から、開発途上国の軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入などの動向に十分注意を払う。
  4. ④開発途上国における民主化の促進、市場経済導入の努力ならびに基本的人権および自由の保障状況に十分注意を払う。
環境や社会への配慮

経済開発を進める上では、環境への負荷や現地社会への影響を考慮に入れなければなりません。日本は、水俣病をはじめとする数々の公害被害の経験を活かし、ODAの実施に当たっては環境への悪影響が回避・最小化されるよう、慎重に支援を行っています。また、開発政策によって現地社会、特に貧困層や女性、少数民族、障害者などの社会的に弱い立場に置かれやすい人々に望ましくない影響が出ないよう配慮しています。たとえば、JICAは2010年4月に新環境社会配慮ガイドライン(こちらを参照)を発表し、事前の調査、環境レビュー(見直し)、実施段階のモニタリング(目標達成状況の検証)などにおいて、環境や社会に対する配慮を確認する手続きを行っています。

また、日本は、「開発におけるジェンダー主流化」の推進のため、政策立案、計画、実施、評価のすべての段階にジェンダーの視点を取り入れていく方針をとっています。

軍事的用途および国際紛争助長への使用の回避

日本政府は、ODAの「軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避」の原則を遵守し、ODAにより軍事目的の支援を行うことはありません。日本はテロとの闘いや平和構築に積極的に貢献していますが、日本の支援物資や資金が軍事目的に使われることを避けるため、たとえテロ対策などのためにODAを活用する場合でも、この原則を十分に踏まえることとしています。

民主化の促進、基本的人権、自由の保障のための対応

開発途上国において政治的な動乱後に成立した政権には、民主的な正統性に疑いがある場合があり、人権侵害に歯止めをかけるはずの憲法が停止されたり、国民の基本的人権が侵害される懸念が生じることがあります。また、反政府デモが多発している開発途上国においては、政府による弾圧が行われ、国民の基本的人権の侵害が懸念される場合もあります。このような場合、日本は、ODAが適切に使われていることを確認するとともに、開発途上国の民主化状況や人権状況などに日本として強い関心を持っているとのメッセージを相手国に伝え、ODAによる支援に慎重な対応を取ることとしています。

また、新しい開発協力大綱においては、これまでの実施上の原則に加え、開発協力の効果的・効率的な開発協力推進のための原則が具体的に示されたほか、不正腐敗の防止、開発協力関係者の安全配慮など、適正性の確保の観点からの新しい原則も盛り込まれました。今後は、こうした実施上の原則に沿って、開発協力を実施していくこととなります。

 

ミャンマー
1985 年に日本の支援によって建設された、ミャンマーのトゥワナ橋。市民の重要な通行路になっている(写真:久野真一/ JICA)

1985 年に日本の支援によって建設された、ミャンマーのトゥワナ橋。市民の重要な通行路になっている(写真:久野真一/ JICA)

日本はミャンマーの民主化および国民和解、持続的経済発展に向けて、急速に進む同国の幅広い分野における改革努力を後押しするため、引き続き改革の進捗(しんちょく)を見守りつつ、民主化と国民和解、経済改革の配当を広範な国民が実感できるよう、以下の分野を中心に幅広い支援を実施しています。

①国民の生活向上のための支援(少数民族や貧困層支援、農業開発、地域開発を含む)
②経済・社会を支える人材の能力向上や制度の整備のための支援(民主化推進のための支援を含む)
③持続的経済成長のために必要なインフラや制度の整備等の支援

この方針に基づき、2013年5月にミャンマーを訪問した安倍総理大臣は、ミャンマーが取り組む改革努力を官民の総力を挙げて支援することを表明するとともに、新たな円借款510億円、無償資金・技術協力400億円の合計910億円を同年度末までに順次進める旨表明し、同年度末までにこれを達成しました。さらに、2013年12月に行われた日ミャンマー首脳会談において、安倍総理大臣が新たな円借款約632億円の供与を表明するとともに、2014年3月の岸田外務大臣のミャンマー訪問時に円借款約247億円を、また同年8月の同大臣のASEAN関連外相会議出席のための訪問時には、円借款105億円を供与する方針と伝達するなど、上記の方針に基づき、幅広い支援を実施しています。

また、2014年1月には少数民族との和平の実現および紛争の影響を受けた地域を中心とした民生向上等のため、和平プロセスの進捗状況に合わせて、今後5年間で100億円の支援を行う用意がある旨発表するなど、少数民族支援にも力を入れています。

 

シリア
日本のNGOである『パレスチナ子どものキャンペーン』がレバノンで実施中の子ども心理サポート事業をモニタリングするジャパン・プラットフォーム(JPF)スタッフ(写真:ジャパン・プラットフォーム)

日本のNGOである『パレスチナ子どものキャンペーン』がレバノンで実施中の子ども心理サポート事業をモニタリングするジャパン・プラットフォーム(JPF)スタッフ(写真:ジャパン・プラットフォーム)

2011年3月からシリア国内各地で反政府デモが発生し、シリア治安当局がデモ隊を武力により押さえ込む事態となりました。日本は、シリア政府が、民間人への暴力を直ちに停止し、国民が求める政治、経済などの面における様々な改革を早急に実施し、国内の安定を回復することを強く求めました。この立場から、同国に対しては、緊急・人道的な支援を除き、新規の二国間のODAの実施を見合わせることにしています。

しかし、シリア国外に流出した難民は320万人を超え、シリア国内および周辺国における人道状況は悪化しています。そこで、2014年1月、クウェートで開催された第2回シリア人道支援会合(いわゆる「クウェート2」)、およびスイスで開催されたシリアに関する国際会議(いわゆる「ジュネーブ2」会議)において、日本は、総額約1.2億ドルの追加的な人道支援を表明しました。これにより日本のシリアおよび周辺国に対する人道支援の総額は約4億ドルとなりました。加えて、日本は、化学兵器廃棄支援のために約1,800万ドルの支援も表明しており、シリア危機に対する日本の支援の総額は、約4.2億ドルとなっています。

日本は、シリア国内および周辺国における難民・避難民に対する支援として、主に国際機関を経由して、女性・子どもに対する支援のほか、保健・衛生、教育、食料等の分野の支援を行っています。日本は、国際協調主義に基づく積極的平和主義の下、美しいシリアを取り戻すために、国際社会の取組に責任を持って参加し、人道支援と政治対話への貢献を車の両輪として取り組んでいきます。

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