2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

3.戦略的・効果的な援助の実施のために必要な事項

これまで日本は、ODA事業の透明性向上を徹底し、その説明責任の向上を図るため、①PDCAサイクル(案件形成(Plan)、実施(Do)、評価(Check)、フォローアップ活動(Act))の強化、②プログラム・アプローチの強化、③「見える化」の徹底を進めてきました。

2013年4月には、ODA事業の透明性向上と継続的改善を目的として、「戦略的・効果的な援助の実施に向けて(第3版)」を公表しました。ここでは、PDCAサイクル強化のため、無償資金協力についての体系的な数値目標の導入(これにより個別プロジェクトごとに合理的な目標設定が可能になる)や、貧困削減戦略支援無償へのPDCAサイクルの導入、事業評価への4段階評価の導入等を発表しました。このうち、体系的な数値目標の導入については、2014年6月に開催された第11回行政改革推進会議において有識者からPDCAサイクルを強化した改善事例として評価されました。

また、2013年11月に実施された「秋の行政事業レビュー」において受けた指摘を踏まえ、開発協力適正会議における外部有識者による議論を経て、所得水準が相対的に高い国に対する無償資金協力の効果的な活用についての方針を策定しました。


(1)戦略的な援助の実施
プログラム・アプローチ

プログラム・アプローチとは、被援助国との協議等を通じて特定の開発課題の解決に向けた目標(プログラム目標)を設定した上で、その目標達成に必要な具体的なODA案件(プロジェクト)を導き出していくアプローチのことです。

たとえば、特定地域の妊産婦死亡率を減らすという「目標」のために、無償資金協力による病院の建設や、技術協力による助産師の育成といった「具体的なプロジェクト」を導き出すケースが考えられます。現在、試験的な取組を進めており、その経験と成果を活かして、プログラム・アプローチの強化に取り組んでいきます。

国別援助方針

「国別援助方針」は、被援助国の政治・経済・社会情勢を踏まえ、相手国の開発計画、開発上の課題等を総合的に考え合わせて策定する日本の援助方針です。その国への援助の意義や基本方針・重点分野等を簡潔にまとめ、「選択と集中」による開発協力の方向性の明確化を図っています。原則としてすべてのODA対象国について策定することとしており、2014年10月時点で106か国の援助方針を策定しました。


(2)効果的な援助の実施
ODA見える化サイト
ODA見える化サイト : http://www.jica.go.jp/oda

ODA見える化サイト : http://www.jica.go.jp/oda

ODAに対する国民の理解と支持をさらに高めていくため、2011年4月にJICAのホームページ上に透明性向上のため「ODA見える化サイト」を立ち上げました。全世界で展開しているODA事業のうち、有償資金協力、無償資金協力、および技術協力の各案件について、各事業の概要、案件の形成から完了までの過程を分かりやすく伝えるため、写真や、事前・事後評価などの情報を随時掲載し、情報の拡充に努めています。また、外務省のホームページにおいては、実施された案件について効果が現れている案件や十分な効果が現れていない案件などを含む具体的な達成状況や教訓をとりまとめたリストを既に3回にわたって公表しており、より効果的なODAの実施に努めています。このリストに記載されている情報を、2014年度からJICAの「ODA見える化サイト」の各案件のページへ盛り込み、利便性のさらなる向上に努めています。

PDCAサイクル
PDCAサイクル

PDCAサイクル強化については、①すべての被援助国における国別援助方針の策定、②開発協力適正会議の開催、③個別案件ごとの指標の設定、④評価体制の強化といった取組を進めています。特に、2011年から開催されている開発協力適正会議はPDCAサイクルの中核としての役割を果たしています。この会議は、無償資金協力、有償資金協力および技術協力の新規案件形成のための調査実施に先立ち、ODA関連分野に知見を有する外部有識者と外務省・JICAの担当部署との間で調査内容などについて意見交換を行い、過去の経験や外部有識者の視点を新規案件に反映することを通じて、ODA事業のより一層の効果的な実施と透明性の向上を図ることを目的としています。

評価の充実

より効果的・効率的なODAを行うためには、開発協力の実施状況やその効果を的確に把握し、改善していくことが必要です。そのため外務省を含む関係府省庁やJICAは、PDCAサイクルの一環としてODA評価を行っています。ODA評価の結果から得られた教訓や提言は、将来の計画や、実施過程に活かしていくため、関係する部局をはじめ、途上国の政府にも伝えています。また評価結果をホームページなどで広く公表することで、ODAがどのように使われ、どのような効果があったのかについて説明責任(アカウンタビリティー)を果たす役割も持っています。

現在外務省では、ODA評価として、主に政策レベルの評価(国別評価、重点課題別評価など)を行っています。外務省が実施するODA評価は、開発援助委員会(DAC)の評価5項目(妥当性、有効性、効率性、インパクト(長期的効果)、自立発展性)を踏まえて、政策は妥当であったか、目的は達成されたか、実施過程は適切であったかの3つの評価項目について開発の視点から評価し、その客観性・透明性を確保するため、第三者による評価を行っています。

また、2011年からのODA評価においては、開発の視点に加えて、外交の視点からの評価を行っています。

一方、JICAは技術協力、有償資金協力、無償資金協力それぞれのプロジェクトについての評価やテーマ別の評価を実施しています。各プロジェクトの事前の段階から、実施の段階を経て、事後まで一貫したモニタリング・評価を行うとともに、これら3つの援助手法に整合性のある評価の仕組みを確立しています。なお、これらの評価はDAC評価5項目に基づいて行われ、一定金額以上の案件については、外部評価者による事後評価を実施しています。

こうしたODA評価の結果から得られた提言や教訓については、対応を検討して、ODAの政策・実施へ反映させています。

これら以外にも、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(いわゆる「政策評価法」)に基づいて、外務省では経済協力政策の全般に関する政策評価や一定の金額を超える案件の事前評価、5年間着手されなかった案件(未着手案件)、または10年経っても貸付が終わっていない案件(未了案件)の事後評価も行っています。


不正行為の防止

日本のODAは、国民の税金を原資としていることから、ODA事業に関連して不正行為が行われることは、援助の適正かつ効果的な実施を阻害するのみならず、ODA事業に対する国民の信頼を損なうもので、絶対に許されません。そのため、政府とJICAは過去に発生した不正事件も踏まえ、調達手続きなどにおいて透明性を確保するなど不正の防止に取り組んでいます。

ODA案件の調達段階においては、JICA調達ガイドラインに従って開発途上国側が入札手続きを行い、その結果をJICAが確認し、受注した企業名だけでなく契約金額も公表することで透明性を高める対応をとっています。調達をはじめ、ODA事業実施の過程で不正が行われた場合は、不正を行った業者を一定期間、事業の入札・契約に参加させない仕組みが整えられています。

外部監査については、JICAにおいて会計監査人による外部監査を実施しているほか、300万円以上の草の根・人間の安全保障無償資金協力の案件について原則として外部監査を義務付け、実施しています。

内部監査については、有償資金協力では、政府間で合意がなされた案件を対象に必要に応じて監査を行うことができる仕組みを導入しています。技術協力では、JICAにおいてサンプリングによる内部監査(一部を抜き出して調べること)を実施しています。無償資金協力についても、JICAにおいて技術的な監査を実施しています。

また、OECD外国公務員贈賄防止条約(注8)の締約国である日本は、ODA事業への信頼を確保するため、外国政府の関係者との不正な取引に対しても、不正競争防止法などの適用を含め厳格に公正な対処を行っています。

2008年のベトナム円借款事業における不正を受け、外務省とJICAは、不正行為を行った企業に対して一定期間入札に参加させないなどを規定した措置の規程を見直しました。そして、海外にある日本大使館やJICAの海外事務所が現地の日本法人などをサポートできる体制を確立し、関係業界などへ法令を守るよう働きかけました。具体的には、企業団体との協力の下で日本企業向けの国際契約約款に関するセミナーの開催、相手国によるコンサルタントの選定に際してJICAの関与の強化、援助国との間で不正、腐敗を防止するための話し合いなどを実施しました。

しかしながら、このような取組にもかかわらず、2014年には、インドネシアにおける円借款事業をめぐる不正により、日本企業が米国司法当局と司法取引を行い、米国において有罪判決を受けたほか、インドネシア、ウズベキスタン、ベトナムにおける円借款事業等に関連した不正の疑いにより、日本企業関係者が起訴される事件が起こりました。外務省、JICAとしては、上述のとおり、これまでにも様々な不正防止策を講じてきたところですが、ODA事業への信頼を損ねる事案が発生したことを踏まえ、不正腐敗情報相談窓口の強化、不正に関与した企業への入札からの排除措置の強化、企業へのコンプライアンス体制構築の働きかけなどの再発防止策のさらなる強化を行っています。また、このような事態を未然に抑止するためには、日本側のみならず、相手国における取組・協力も必要であり、その観点から、相手国政府とも協議を行っています。

なお、2013年度においては、1案件(1企業)に対し、一定期間入札に参加させないなどの措置を実施しました。


(3)適正な手続きの確保

開発協力を実施する際には、事業の実施主体となる相手国の政府や関係機関が、環境や現地社会への影響、たとえば、住民の移転や先住民・女性の権利の侵害などに関して配慮をしているか確認します。2010年に策定した「環境社会配慮ガイドライン」に基づき、開発協力プロジェクトが環境や現地社会に望ましくない影響をもたらすことがないよう、その影響を回避・最小化するための相手国による適切な環境社会配慮の確保を支援してきています。このような取組は、環境・社会面への配慮に関する透明性、予測可能性、説明責任を確保することにつながります。

また、ODA事業をより効果的にし、より一層の透明化を図るため、事業の調査実施前において知識・経験を持つ外部の有識者との意見交換を行う開発協力適正会議を一般にも公開する形で開催しています。


(4)開発協力の関係者の安全確保

開発協力の関係者が活動する開発途上国の治安状況はとても複雑で、日々刻々と変化しています。2001年の米国同時多発テロ以降、中東地域や南アジア地域では緊張が高まり、世界各地でテロ活動が多発しています。平和構築支援の活動において、どのようにして開発協力関係者の安全を確保するのかは極めて重要な課題となっています。

政府は、在外公館などを通じて現地の治安状況を把握し、渡航の際の情報などを提供し、開発協力関係者間での情報共有を行っています。JICAは、開発協力関係者に対し、出発前の研修やセミナーの実施、現地における緊急時の通信手段の確保、安全対策アドバイザーの配置、住居の防犯設備などの整備に努めています。また、在外公館や各国の国際機関の事務所などとも情報交換し、各国・地域の治安状況に応じた安全対策マニュアルを作成するなど、適時適切な安全対策措置をとっています。さらに、緊急時の対処やリスク管理についての研修を国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の国際人道援助緊急事態対応訓練地域センター(eCentre)と共に開催するなど、安全管理の強化に取り組んでいます。無償資金協力では、コンサルタントや施工会社へ情報提供を行うとともに、緊急時の連絡体制を整備しています。有償資金協力では、受注した日本の企業への情報提供などにより、その企業の関係者の安全確保を図っています。

用語解説
未着手・未了案件 
「5年未着手案件」とは、案件の実施が決定した後、5年を経過した時点においても貸付契約が締結されていない、あるいは貸付実行が開始されていないなどの案件。「10年未了案件」とは、案件実施決定後10年を経過した時点で貸付実行が未了である案件を指す。
環境社会配慮ガイドライン 
「環境社会配慮」とは、大気、水、土壌への影響、生態系および生物相等の自然への影響、住民が非自発的に移転しなければならないなど、環境面および社会面へその事業が与える可能性のある負の影響に配慮することをいう。環境社会配慮ガイドラインは、JICAが関与するODA事業において、こうした負の影響が想定される場合、必要な調査を行い、負の影響を回避、または最小化するとともに、受け入れることができないような影響をもたらすことがないよう、相手国等が適切な環境社会配慮を確保できるよう支援し、確認を行うための指針。
http://www.jica.go.jp/environment/guideline/
安全対策アドバイザー 
JICAでは、現地の安全対策を強化するため、その国の治安や安全対策に詳しい人材を「安全対策アドバイザー」として委託、日々の治安情報の収集と発信を行い、住居の防犯から交通事故対策まで幅広い事態に対して24時間体制で対応できるようにしている。

  1. 注8: 正式名:「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約」
    (Convention on Combating Bribery of Foreign Public Officials in International Business Transactions)
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