2014年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力

2.国民参加の拡大


(1)国民の理解と支持の促進の重要性

2010年6月に発表した「ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ」では、ODAに対する国民の理解と支持を得ていくことの重要性が強調されています。

外務省およびJICAは、開発協力に関する議論や対話の促進、開発教育の推進、開発協力の現状についての情報公開、地方や幅広い層への発信など様々なレベルや形で国民参加を強化しています。幅広い層の国民が実際の開発途上国支援に直接参加でき、ODAの現場を体験できる機会も提供しています。同時に、開発課題の多様化・高度化に適切に対応していくためには、人材育成と研究協力、官民連携も重要と認識しています。国際社会において日本の開発協力に関する考え方への理解を広めることも重要であり、NGOや大学をはじめとする教育・研究機関との連携もますます重要となりつつあります。
 なお、途上国において日本の支援について多くの人に知ってもらうことはODAの実施において欠かせないプロセス(過程)であり、在外公館とJICA現地事務所が連携して、現地でのODA広報に力を入れています。


(2)青年海外協力隊・シニア海外ボランティアによる途上国支援への直接参加
セネガル北部の村で活動する青年海外協力隊(視聴覚教育)の依田真由美さんと子どもたち(写真:小辻洋介)

セネガル北部の村で活動する青年海外協力隊(視聴覚教育)の依田真由美さんと子どもたち(写真:小辻洋介)

若い人やいろいろな技術・経験を持つ幅広い層の国民がボランティアとして取り組む国際協力を推進するため、JICAは、青年海外協力隊事業やシニア海外ボランティア事業を行っています。青年海外協力隊事業は、20歳から39歳までの青年が開発途上国に原則2年間滞在し、現地の人々と生活や労働を共にしながら、経済社会開発に協力する国民参加型事業です。青年海外協力隊は、1965年以来50年近くの歴史を持ち、海外でも高く評価されている日本の「顔の見える援助」の一つです。シニア海外ボランティア事業は、40歳から69歳までの男女が幅広い技術、豊かな経験を活かして開発途上国の発展のために活動するという国民参加型事業であり、青年海外協力隊のシニア版として位置付けられています。

現地の人と協力して途上国の開発に取り組むこれらのボランティア事業は、現地の人たちの日本への親しみを深め、日本と途上国との間に草の根の関係を作り出す効果ももたらします。また、近年はボランティア経験者が、民間企業の途上国への進出等に貢献できるという側面も注目されています。

こうした取組を促進するため、現職参加の普及・浸透に取り組むとともに、帰国ボランティアの進路開拓支援を行うなどして、これらのボランティア事業に参加しやすくなるよう努めています。


(3)NGOへの支援や活動への参加

国際協力への市民参加の最も身近な例は、国際協力を行っているNGOへの支援やその活動への参加です。日本のNGOの数は、1998年に「特定非営利活動促進法(NPO法)」が施行され法的な整備が進んでから大幅に増加しました。実際に国際協力活動にかかわっている団体は400を上回るといわれています。前述したとおり(NGOとの連携)、外務省は日本のNGOを日本の「顔の見える援助」を行う上で不可欠なパートナーとして重視し、連携を強化してきています。具体的には、日本のNGOが海外で行う事業に対し資金面で協力したり(日本NGO連携無償資金協力など)、NGOの能力向上を図るための事業を実施しています。日本のNGOは、途上国のコミュニティに直接入ることから、政府間の協力を補完し、ODAの裾野を広げることができます。NGOは、国際協力分野の優秀な人材を育て、日本の「顔の見える援助」を担う存在として期待されています。また、日本のNGOは緊急人道支援分野においても、その機動力・迅速性を駆使して活躍しています。


(4)ODAの現場体験
2014年に実施された「国際協力レポーター」。東ティモール、ディリ港の現地視察(写真:JOCA)

2014年に実施された「国際協力レポーター」。東ティモール、ディリ港の現地視察(写真:JOCA)

できるだけ多くの人に開発協力の現場を体験する機会を提供し、ODAの実情にふれていただくことは、ODAを理解するために最も効果的な方法の一つです。スタディツアー(大学のゼミ等)によるODA現地視察、教師や地方自治体関係者などの現地視察への派遣支援にも力を入れています。また、旅行社の企画する体験ツアーや視察ツアーとの連携も強化しつつあります。一般の方々にODAプロジェクトの現場を実際に視察していただき、帰国後に国内の様々なイベントで報告していただく新しい事業「国際協力レポーター」(JICA実施)も、2011年より開始しました。同年8月にはケニアとベトナム、2012年8月にはウガンダとスリランカ、2013年8月にはルワンダとヨルダン、2014年にはエチオピアと東ティモールに一般の方を派遣し、各国における日本のODA事業を視察していただきました(派遣人数は1か国10名ずつ)。


(5)議論や対話の促進

ODAを活用した中小企業支援等、ODAに関する取組について外務省やJICAは国内各地で説明会を行うなどの取組を行っています。また、国際協力をめぐる動きや日本の取組を紹介する講演やシンポジウムも開催しており、外交やODAのあり方について関心をお持ちの国民の方と対話する場を随時設けています。

さらにJICAでは、地域にあるセンターや支部などの国内拠点を活用して、地域の産業界や行政関係者あるいは有識者や地元の大学や学校関係者との懇談や講演を行いながら、地域発信の国際協力の推進とともに地域の活性化を目指しています。


(6)開発分野における人材育成と研究

開発分野における高度な人材の育成を行うため、外務省は2011年度より、「高度開発人材育成事業」を開始しました。同事業は、開発の現場で将来指導的立場に立つ人材を育成するための実践的プログラムであり、既存の大学の開発学を補完するものです。具体的には、①アジアの開発への日本の貢献、アジアの経済発展モデルの他地域への応用(南南協力)の実践的側面についての講座、②国際公法を習得するための講座、③交渉のロールプレイング・ワークショップ、④インタビュー/プレゼン能力向上のためのメディア・トレーニング、⑤開発分野で国際的に影響力のある海外の有識者による特別講義・講演等の交流事業、⑥開発系国際機関等におけるインターンシップの6つのコースから成っています。

JICAは、専門的な知識や多様な経験を持つ人材を確保してそうした人たちに活躍してもらうため、2003年に「国際協力人材センター」を開設しました。また、省庁、JICAやNGO、国際機関といった国際協力に関する求人情報を国際協力キャリア総合情報サイト「PARTNER」(http://partner.jica.go.jp/)より提供し、人材の登録、各種研修・セミナー情報の提供、そしてキャリア相談(進路相談)なども行っています。

さらに、国際協力専門員制度により、高い専門的な能力と開発途上国での豊富な業務経験を持つ人材を確保しています。2008年10月に設立されたJICA研究所は、開発途上国の政府や国際援助のコミュニティへの発信を行いながら、国際的に通用する方法論を用いて、政策について実際の開発協力経験に基づいた研究を進めています。


(7)開発教育
静岡県牧之原市立相良中学校でのODA 出前講座で日本のODAの意義について説明する外務省職員

静岡県牧之原市立相良中学校でのODA 出前講座で日本のODAの意義について説明する外務省職員

外務省は、職員を中学校、高校、大学、地域の自治体、NGOなどに派遣し、国際協力やODAについての説明や解説を行う「ODA出前講座」を実施しています。また、JICAは、開発教育を推進するため、開発教育に活用できる写真やグローバル教育の実践報告を募る「グローバル教育コンクール」(注5)(2011年度からJICAが主催)を開催しています。また、開発教育を支援するため、学校教育の現場や国際化を進める自治体などの求めに応じて、青年海外協力隊経験者などを講師として学校へ派遣し、途上国での暮らしや経験談を伝えて異文化理解・国際理解促進を図る「国際協力出前講座」や、高校生および大学生等を対象とした「国際協力実体験プログラム」、中学生・高校生を対象にした「JICA国際協力中学生・高校生エッセイコンテスト」を実施しています。さらに、教員に対しては、「開発教育指導者研修」や、開発途上国に派遣し、その経験を授業に活かすことが目的の「教師海外研修」などを実施しています。


(8)広報・情報公開・情報発信の強化
グローバルフェスタJAPAN2014

グローバルフェスタJAPAN2014

外務省とJICAは、それぞれODAに関したホームページ(注6)をつくり、相互にリンクさせながら正確な情報の公開と発信に努めています。2010年10月にはODAプロジェクトの現状などが全体でどのような流れになっているかを分かりやすく説明するため「ODA見える化サイト」をJICAホームページ上に設けました。また、ODAメールマガジンを発行し、海外の大使館や総領事館の職員やJICA関係者などによる実際の開発協力の現場での体験談やエピソードなどを紹介しています。

1993年度以来、テレビ番組の放映を通じて国民が国際協力について関心を持ち、理解を深められるよう努力しています。2014年は、国際協力60周年特別番組として「外務省 presents 僕らが世界にできること」(東京MXテレビおよびニコニコ生放送にて同時放映)等を放映し、開発途上国の現場取材や具体的なエピソードなどを交えながら、日本が世界各地で行ってきた国際協力やODAについて分かりやすく紹介しました。また、テレビのほかにも雑誌やインターネットの特設サイト等を通じて、特に若い世代の方々に向けて、国際協力に関する情報発信を行いました。

毎年「国際協力の日」(10月6日)の前後には、日本国内最大級の国際協力行事として「グローバルフェスタJAPAN」を開催しています。東京・日比谷公園で土曜日と日曜日の2日間にわたって外務省、JICAとJANIC(国際協力NGOセンター)が共催しているこの行事には、NGOや国際機関、企業、関係する省庁などが参加し、2014年のイベントには約7万8,000人が来場しました。(注7

また、海外においても、ODAを通じた日本の積極的な国際貢献についてよく理解してもらうための広報を行っています。具体的には、開発協力にかかわる署名式や引渡し式に際してプレスリリース(報道機関に向けて紹介する文書)を出すなど現地の報道機関の取材に協力しています。また、在外公館では、現地の報道機関に対して日本の開発協力の現場の視察を企画し、現地の報道においても日本の協力が取り上げられる機会をつくるように努めています。また、様々な講演活動、英語・現地の言葉によるホームページや広報パンフレットの作成も行っています。

国際協力60周年特別情報バラエティ番組「外務省 presents 僕らが世界にできること」

国際協力60周年特別情報バラエティ番組「外務省 presents 僕らが世界にできること」

用語解説
現職参加
現在、企業や国・地方自治体、学校に勤務している者が、休職や職務専念義務免除などの形で所属先に身分を残したまま青年海外協力隊やシニア海外ボランティアに参加すること。
国際協力の日
1954年10月6日、日本はコロンボ・プラン(第二次世界大戦後最も早く1951年に組織された途上国援助のための国際機関)への加盟を閣議決定し、経済協力を開始した。これにちなんで、10月6日は1987年の閣議了解により「国際協力の日」と定められた。

  1. 注5 : 旧称:開発教育/国際理解教育コンクール(2009年度に改称)
  2. 注6 : 外務省ODAホームページ : http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda
    JICA : http://www.jica.go.jp ODA見える化サイト : http://www.jica.go.jp/oda
  3. 注7 : 荒天のため、2日目は午前中でイベントを終了した。
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