8.欧州地域
過去に共産主義体制にあった中・東欧、旧ソ連の欧州地域の多くの国々では、その後民主化と自由化を達成し、現在は民主的政権の下で市場経済に基づいた経済発展に取り組んでいます。日本は、これら地域および欧州全体の一層の安定と発展のため、また普遍的価値(人権、民主主義、市場経済、法の支配)を共有できる関係を築くため、市場経済化、経済インフラの再建および環境問題などへの取組に対する支援を行っています。
< 日本の取組 >
西バルカン諸国(注9)は、1990年代に発生した紛争の影響で改革が停滞していました。しかし、各援助国や国際機関などの支援があり、またそれぞれの国が自身で改革のための努力を行ったことにより、復興支援を必要とする段階を卒業しました。現在は持続的な経済発展に向けた支援が必要な段階にあります。日本は2004年にEU(欧州連合)と共同で開催した西バルカン平和定着・経済発展閣僚会合で確認された「平和の定着」、「経済発展」、「域内協力」の3本柱を開発協力の重点分野として支援を展開してきました。引き続き、特に「平和の定着・民族融和(異なる民族間で争いが起きないこと)」および「環境・気候変動問題への対策」を重点方針として支援しています。
旧ソ連諸国であるウクライナやモルドバは、ロシアとEUの間に位置するという政治・外交上での地理的な重要性を持っています。これら諸国の安定と持続的な発展は、欧州全体の安定にとってなくてはならないものです。民主主義が根付き、市場経済を確立させるための努力を支援する必要があります。これに関し、日本は2014年3月にウクライナ情勢の悪化を踏まえ、最大約1,500億円の支援パッケージを表明しました。
日本は、欧州地域内の経済発展の格差を踏まえ、EUに加盟した国に対しては、援助を卒業したものとして、その支援を段階的に縮小させるとともに、ドナー(援助国)として欧州地域の後発国に対する開発協力に一層積極的になることを促していきます。一方、西バルカン地域やウクライナなどの後発国に対しては、各々の国の経済水準も考えながら、適切な支援を実施していきます。また、どの国に支援を行う場合にも、各援助国および国際機関等の動きに注意を払いながら、日本の知識と経験を活かして、より成果を重視した効率的かつ効果的な支援を行っていくことに努めています。
かつて日本のODA対象国であった国々の中には、EUへ加盟する際に日本のODA対象国から外れ、援助国としての国際的な役割を担い始めている国もあります。日本は、ヴィシェグラード4か国(注10)を含むこれらの国々と援助国としての経験を共有するための取組も行っています。
- 注9 : 西バルカン諸国:アルバニア、クロアチア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国、モンテネグロ
- 注10 : ヴィシェグラード4か国:ポーランド、チェコ、ハンガリー、スロバキア
●モルドバ
医療サービス改善計画 有償資金協力(2013年6月~実施中)

プロジェクトの対象病院の一つである国立救急医療科学センターの手術室。一定の手術設備は備わっているが高度医療機材が不足している(写真:JICA)
モルドバでは、旧ソビエト連邦からの独立後、経済や財政状況が悪化する中で、医療財政も圧迫を受け、住民は必要な医療サービスを十分に受けられない状況に陥ってしまいました。それまで、医療費が全額国庫負担であったことや、病院が乱立し非効率であったこともその要因となっていました。それから約20年をかけて、モルドバ政府は国民皆保険制度を導入して医療財政改革を進め、医療機関の役割分担と連携によって医療サービスレベルを向上させました。
一方で、モルドバの医療機関は、比較的高いレベルの医療従事者が多いものの、医療機材が不足しているため、一般的な診察・治療の実施が十分とはいえません。それに加え、増加傾向にある心血管疾患や癌といった専門的な医療レベルが求められる疾患への対応という点でも課題を抱えています。
こうした課題への対応のため、日本は、2013年に供与した円借款「医療サービス改善計画」(本邦技術活用条件(STEP)※1)により首都キシナウを中心に、病院セクターの中核となる救命救急医療に対応できる病院等に対して、日本製のCT・MRIなどの高度医療機器を含む医療機材・検査機材などの整備を支援しています。今後は、支援した病院のスタッフを中心に、機材の維持管理能力向上等を目的とした技術協力もあわせて実施することとしており、日本の技術を総合的に活用してモルドバの医療改革を引き続き後押ししています。(2014年8月時点)
※1 本邦技術活用条件STEP:Special Terms for Economic Partnership
日本の優れた技術やノウハウが活用され、途上国への技術移転を通じて日本の「顔の見える援助」を促進するため、2002年から導入。適用に当たっては、主契約者を日本企業とすること、使用する資機材等の30%以上を日本製にすることなどが供与条件。

