ODAとは? 援助政策

ザンビア国別援助計画

平成14年10月







<1>最近の政治・経済・社会情勢

(1)政治情勢

 ザンビアは南部アフリカの中心に位置し、8ヶ国と国境を接している内陸国である。1964年の独立以来、国内での平和を維持するとともに、対外的にも平和外交を展開し、周辺諸国と良好な関係を保っており、アンゴラ和平プロセスにおける仲介役としての役割や、コンゴ民主共和国の和平合意における議長役としてのイニシアティブの発揮等、地域の安定に積極的に貢献する姿勢を見せている。
 1990年、独立以来政権を担ってきたカウンダ大統領(当時)は複数政党制への移行を決定し、91年10月、大統領・議会選挙を実施した。その結果、現職のカウンダが敗れ、複数政党制民主主義運動のチルバ党首が当選し、政権交代が何の混乱もなくスムーズに行われたことから、アフリカにおける民主化のモデルとしてドナー諸国からも高く評価された。しかし、その後、大統領立候補資格に関する憲法改正*1(96年)、軍内部によるクーデター未遂事件*2(97年)が発生し、ザンビアにおける民主化の進展と定着化は多難さを示した。また、汚職問題も深刻であり、英・北欧諸国などドナーからガバナンス問題につき厳しい指摘を受けた。2001年12月27日に大統領選挙、国民議会選挙が行われ、与党の擁立したムワナワサ候補が当選、汚職、財政問題、エイズ対策等の困難な問題に積極的に取り組んでいる。また、2002年7月ムワナワサ大統領がチルバ前政権の汚職疑惑を指摘したのに続き、議会がチルバ前大統領の不逮捕特権を剥奪したほか、チルバ前大統領の側近だったカルンバ外相を辞職に追い込む等、ムワナワサ大統領はガバナンスの改善のためのリーダーシップを発揮している。

(2)経済情勢

 ザンビアは、南部アフリカにおいて、経済の自由化を積極的に推し進めている国であり、南部アフリカ開発共同体*3、東・南部アフリカ共同市場*4等の地域協力機構に加盟し、首都ルサカには東・南部アフリカ共同市場事務局がおかれているなど、南部アフリカの経済統合に中心的な役割を担う国の一つとなっている。
 同国は植民地時代以来、銅のモノカルチャー経済であったが、国際銅価格の低迷、銅公社の不振、経済成長率を上回る人口増加率などにより、一人当たりのGNPは1970年代の600ドル代から300ドル(00年)に低下している。1991年のチルバ政権発足以降は、世界銀行・国際通貨基金(IMF)の支援の下に構造調整*5を本格的に推進しており、為替の自由化、公営企業の民営化、各種統制価格の廃止、キャッシュ・バジェット・システム*6の導入、公務員改革等に積極的に取り組んでいる。その結果、財政赤字の削減・インフレ率の抑制等のマクロ経済指標については一定の改善が見られたが、依然として輸出の約5割を銅に依存するモノカルチャー経済構造のため、経済自由化等の成果は十分に雇用と生産の増大に結びついていない。他方、政府は農業その他産業の多角化に努力し、これら非伝統的輸出が総輸出の3分の1程度にまで成長しており、2000年の実質GDP成長率は穀物生産・非伝統的産品の生産の伸びに支えられ、3.5%のプラス成長を達成した。2000年に入り、長年の懸案であったザンビア銅公社の主要資産の売却交渉が完了し、生産・輸出の拡大と民間投資の増大が期待されたが、2002年1月には最大の銅鉱山であるコンコラ銅山(KCM)より主要株主のアングロ・アメリカン社が経営の不振から撤退することを発表したため、銅産業は厳しい状況下にある。政府は銅依存経済からの脱却のための経済構造多角化に向け対応を迫られている。
 ザンビア経済にとっての最大の問題は対外債務である。2000年末の対外累積債務残高は72億ドル(GNP約30億ドルの2倍以上)であり、重債務貧困国の一つとなっている。なお、ザンビアは、ケルン・サミットでの合意に基づいて成立した重債務貧困国向けの債務削減スキームである「拡大HIPCイニシアティブ」*8の適用が決定している。

(3)社会情勢

 人口(約10百万人・2000年)の約72%が一日1ドル以下で生活する貧困層である。特に農村部では貧困が深刻化しており、農村人口の約8割が貧困層となっている。また、植民地時代以来の銅鉱業の急速な発展により、アフリカ諸国の中で最も都市化率が高く(約44%・98年)、政府の財政難に伴い都市における社会インフラ及び居住環境の悪化、それに伴う感染症の 延等が社会問題となっている。構造調整に伴う公務員改革が進められる一方、銅関連産業に替わるフォーマルセクターの雇用は伸びておらず、短期的に見て雇用機会は更に逼迫すると見られることから、失業率の増加が懸念される。
 また、HIV/AIDS問題が国家開発への脅威として深刻化しており、成人感染率(15―49才)は19.95%(99年末)と非常に高く、5歳以下の乳幼児死亡率も20%を超えている。ザンビア政府によれば平均寿命は将来的に37才にまで低下すると予測されており(1970年46.3歳、1999年40.1歳)、諸分野における貴重な人材資源の喪失、エイズ未亡人・孤児問題の深刻化等の社会問題、社会的費用の増大及び労働力の縮小等、HIV/AIDS問題は経済成長の大きな足枷となっている。
 また、アンゴラ及びコンゴ民主共和国との国境付近において、両国からの難民が流入しており、同地域での治安の悪化が懸念されているが、アンゴラ内戦の停戦が実現したため(2002年4月)、徐々に帰還の方向に向かうことが期待される。

<2>開発上の課題

(1)ザンビアの開発計画

 ザンビアは、独立後3次に亘る5ヶ年計画を策定してきたものの、世銀とIMFの支援の下での構造調整プログラムの導入(83年)に伴い、5ヶ年開発計画に代わり2、3年の経済復興計画を策定するようになった。87年には食料価格の上昇に起因する独立後最大の暴動の発生を契機に、カウンダ政権(当時)によって一旦構造調整計画を放棄し、独自の新経済復興計画(87-88)及び第4次5ヶ年計画(89-93)を策定したものの、91年、経済自由化を掲げたチルバ政権は、第4次5ヶ年計画を停止するとともに、再び構造調整計画を導入した。
 構造調整計画により、経済の安定化、自由化が一定の成果を上げたものの、1970年代後半以降の長期にわたる経済停滞、財政危機による公共サービスの縮小、インフラの劣化、雇用の悪化等により、教育、保健医療、栄養等の社会指標が悪化したことから、政府は98年12月に「国家貧困削減計画」(NPRAP:National Poverty Reduction Action Plan 1999-2004)を、その後それを発展統合する形で世銀とIMFの指導の下で2002年5月に「貧困削減戦略ペーパー」*9を策定し、農業開発を中心とした産業構造の多角化による銅産業への依存体質からの脱却、教育・保健医療事情の改善等による貧困削減策を打ち出した。同計画では、約2年の年月を掛けて各援助機関及び市民社会等の関係者との協議を経て策定されたものである。また、同国は農業、基礎教育、道路、保健及び職業訓練の各セクターにおいてセクタープログラム*10が展開されている。

(2)開発上の主要課題

(イ)貧困対策

(a)農村開発(農村部の貧困削減)

 貧困層の約7割が農村に居住し、農村部では人口の約8割が貧困層となっている。更に、農業人口の9割を小規模農業(5ヘクタール以下)が占めていることから、小規模農業の振興、女性世帯の生産性の向上及び農村における非農業部門の活性化等の農村開発は貧困緩和を図る観点からも優先課題の一つである。

(b)保健医療分野の充実

 HIV/AIDSの成人感染率(15-49才)は99年末で19.95%となっており、世界の中でも最も感染率の高い国の一つである。HIV/AIDSを含む各種感染症の問題は、諸分野における貴重な人的資源の喪失につながり、過去の開発成果の喪失を益々加速させ、ザンビアの社会経済発展の大きな阻害要因となっており、平均寿命の低下、小児・成人死亡率の上昇、栄養失調人口の増大等健康指標は悪化している。また、経済情勢の悪化等に伴い、国民一人当たりの保健省予算が30ドル(1970年代初)から5.9ドル(1995年)と減少する中、保健医療サービス施設の都市への集中、及び高次病院による医療サービスの偏重という高コスト体質は改善されるべき課題である。更に、貧困緩和という観点からは、農村及び都市貧困層の栄養改善及び給水率の改善が重要である。

(c)都市環境の改善

 ザンビアの都市化率は約44%(98年)とアフリカの中でも最も高い国の一つであり、人口・労働力の都市集中、政府の財政制約から都市における社会インフラ・住宅供給の不足、首都圏におけるスラムの形成、都市環境衛生の悪化に伴う各種感染症の 延等大きな社会問題となっている。なお、農村部から都市部へ更に人口が流入することを抑制するために、都市環境の改善と併せ、農村開発も含めた総合的な開発を行い、都市部と農村部の均衡ある発展を促すことが重要である。

(ロ)経済構造の改善

(a)産業構造の改善

 近年になり銅以外の輸出産品の割合が増えているものの、依然銅中心の産業構造となっており、そのモノカルチャー構造から、経済全体が銅の国際市場の変動に左右され、また銅輸出による豊富な外貨の流入が輸入依存体質に拍車をかけ、他の潜在的輸出産業の競争力を奪うという問題が指摘されてきた。この点は2000年にZCCM(ザンビア銅公社)から経営を引き継いだ南ア資本のアングロ・アメリカ社がその後に採算がとれないとしてザンビア最大の銅鉱山であるコンコラ鉱山(KCM)より撤退するとの意志を早々に明確にしたことにより深刻化している。引き続き、銅産業の振興に対する継続した取り組みを行う一方で、農業や観光業を中心に他の潜在的外貨獲得産業の育成及び強化を図り、銅の国際市場の変動に経済が大きく左右されない産業体質を構築することが課題である。

(b)農業開発

 農業は総人口の56%、GDPの約20%を占める産業であるが、ザンビアの耕地面積(526.5万ha)は国土面積の7%にとどまり、また灌漑可能面積42.3万haのうち、4万ha程度が利用されているにすぎず、未利用地がまだ豊富に存在することから、農業開発のポテンシャルは高く残されており、自給用及び都市向け食料生産、農産物輸出による外貨取得、さらに雇用機会の創出という点で将来において重要な部門となり得る。

(c)市場経済制度の強化とセーフティ・ネットの整備

 インフラ整備及び人的資源への投資拡大を可能にするために、資本システム(金融市場)、労働市場のセーフティ・ネット(雇用保険、職業斡旋・紹介、職業再訓練)の制度導入が必要である。

(d)経済インフラの整備

 インフラ整備は経済活動を支える基盤であり、特に農村部と都市部の輸送システムの確立及び輸送力の強化並びに通信手段の補強は、流通の円滑化を図り、国内産業の活性化に資すると期待される。整備を促進するための民間投資を含めた財政の確保や、政府の維持管理制度の構築が必要である。

(e)国営企業の民営化

 ザンビア政府は構造調整計画の一環として、長年の懸案であったザンビア銅公社の民営化を2000年に実施し、現在、石油公社、商業銀行、電力、電話等他の基幹国営企業の民営化に取り組んでおり、早期実現が課題である。

(f)債務管理の徹底

 ザンビアに対しては拡大HIPCイニシアティブによる債務削減措置の適用が決定されたが、貿易収支を改善する輸出志向型産業の育成の遅れや、国内債務支払いを含め予算の20%近くが債務返済に充てられている現状から、政府による徹底した債務管理が今後の課題である。

(ハ)人的資源開発・制度構築

(a)行政機能の向上・制度構築

 97年から公務員改革計画を採用し、行政改革に取り組んでいるものの、行政機能の向上及び公共サービスは社会のニーズに対応していない。行政機能の効率を向上させるためには、政府の組織・制度の改善とともに政策を的確・迅速に遂行するための人材育成が必要である。

(b)「良い統治(グッド・ガバナンス)」の促進

 民主化をより確実なものにするためにも、政府が策定した「グッド・ガバナンス国家能力構築計画書」(99年4月公表、00年4月改訂)を確実に履行し、透明性と説明責任の確保、不正・腐敗・汚職の追放、法による支配や地方分権化を追求することが必要である。そのためには政府がオーナーシップを積極的に発揮し、計画の実施過程における定期的な評価・モニタリングの実施、各組織内及び組織間の監査システムの強化といった、計画を持続的・効果的に推進させるためのシステム整備とその確実な運用が求められる。

(c)基礎教育の充実

 独立以降、経済的に比較的順調な発展を遂げていた1980年代初頭までは教育機会の拡充が行われてきたが、1980年代半ばからの経済の悪化、構造調整政策の導入、急激な人口増加により教育の質及び就学率は低下している。ルサカ市内では学校施設の不足により、初等教育では授業の二部制・三部制が一般化しており、また教員の質が低い(特に農村部において資格教員の配置が困難である)、教員の処遇が低い、教員の数が不足している等の理由により教育の質が低下している。なお、ザンビア政府は96年に発表した教育政策において、高等教育偏重を改め、2005年までに7年間の初等教育、2015年までに9年間の基礎教育を完全普及させることを目標とし、2002年には初等教育の完全無償化政策を打ち出した。

(d)産業ニーズに合った人材育成

 過去に長期にわたり社会主義を採用してきたことから、市場経済発展を担う人材の育成及び企業家精神を持った経営者を支援する環境の整備が不十分である。また、経済成長が停滞し、失業率が高い現状の下、フォーマルセクターでの新たな雇用機会の提供は期待できないことから、労働力の70%を吸収しているインフォーマルセクターへの対策が必要とされる。

(ニ)自然環境の保全と災害の予防

現金収入のための薪炭生産及び無計画な農耕地拡大により森林伐採が進み、森林面積は年間26万ヘクタール(全森林面積の1%)で減少しており、そのため表土の流出増加を招いている。不適切な農耕地拡大は、農地の荒廃・土壌の流出を引き起こし、河川への土壌流出・堆積から、氾濫及び洪水等の災害の原因ともなっていることから、代替燃料の導入の推進などにより、森林減少の防止による自然災害発生の予防と自然環境の保全を図る必要がある。

(3)主要国際機関との関係、他の援助国、NGOの取組み

 最大の援助機関は世界銀行であり、83年の構造調整プログラム導入以降、IMFとともにザンビアの経済改革努力を支援している*11。また、ザンビア政府による貧困削減戦略ペーパーの策定に対する支援についても世銀が中心的な役割を果たした。
 二国間援助*12では、旧宗主国である英国を中心に、独、米、ノルウェー等の各ドナーがその得意とする分野において重点的な支援を行っている。
 ザンビアでは、同国政府のイニシアティブの下、農業、教育、道路、保健及び職業訓練の各分野においてセクタープログラムの議論が進んでおり、サハラ砂漠以南アフリカの中で最も援助協調の議論と実践が進展している国の一つとなっている。特に保健分野*13では、我が国と独を除く主要ドナーとザンビア保健省との間で具体的実施に向けた覚書が署名され、コモン・バスケットが設置されている。
 NGOについては、多くの国際NGOやローカルNGOが活動しているが、主にBHN分野において活動が活発であり、各ドナーもNGOを通した住民参加型プロジェクトを多く実施している。我が国のNGOも、我が国のODA事業と連携した活動や、保健・医療分野、難民キャンプ支援等で継続的な活動を行っている。

<3>我が国の対ザンビア援助政策

(1)対ザンビア援助の意義

(イ)対アフリカ外交の重要性とザンビア

 21世紀初の我が国首脳外交となった2001年1月の森総理のアフリカ諸国訪問の際、総理が政策スピーチに於いて、「アフリカの問題の解決無くして21世紀の世界の安定と繁栄はない」と述べたとおり、アフリカの開発は、我が国外交上の最も重要な課題の一つである。中でも、地理的に南部アフリカの中心に位置するザンビアは、多くの開発課題を抱えながらも、従来より一貫して親日的な外交政策をとり、且つアフリカに於いて政治面での指導的役割を担う国であり、我が国が、開発支援を通じ、更なる二国間関係*14の増進に努めるべき意義と重要性は、特に大きい。

(ロ)政治的重要性

 ザンビアは、アフリカ連合(旧アフリカ統一機構)及び東・南部アフリカ共同市場等アフリカの核となる政治・経済諸機関に於ける有力なメンバーであり、国際場裏での様々な議論並びにアフリカ大陸の諸問題についてのオピニオンリーダー的存在である。更に、近年では、94年のアンゴラの内戦に関するルサカ和平協定の締結に中心的役割を果たしたほか、99年に、コンゴ民主共和国和平交渉に於ける議長役として成果を収めるなど、開発の基礎となる地域の安定に積極的な貢献を行っており、その政治的影響力は益々増大しつつある。

(ハ)経済開発上の重要性

 ザンビアは、一人当たりGNPが300ドル(2000年)と低く、しかも、貧困層が人口の7割以上を占めている、或いは、HIV/AIDSの成人感染率が世界で最も高い国の一つである等々極めて困難かつ多くの開発上の課題を抱えているが、他方で、銅及びコバルト等の鉱物資源を産出し、特に希少資源の一つであるコバルトは我が国の輸入総量の二割を担っているほか、広大な農耕地や比較的恵まれた気候条件を背景に、将来的に食糧の宝庫としての潜在性を有するなど、開発上の有望な資質をも備えており、現在、種々の困難に直面しながらも、民主化や経済構造改革を含めた開発努力にオーナーシップを発揮して、着実に取り組んでいるところ、我が国による同国への支援は、必要かつ有益なものと考えられる。

(ニ)アフリカ支援の拠点

 我が国が対アフリカ外交の重要な柱として実施しているTICAD*15プロセスの観点からは、南々協力等、今後の我が国の対アフリカ地域協力の拠点としての重要性をも有している。2001年12月に行われたTICAD閣僚レベル会合において、ザンビア大学付属病院をガーナの野口英世記念医学研究所、ケニアの中央医学研究所とともに、我が国の対アフリカ感染症対策の3拠点の一つとして位置付け、周辺国への協力の拡充・強化を図るとともに、3拠点の連携を促進することを発表した。また、ザンビアに対しては、我が国のみならず、多くのドナーが相当額の援助を展開し、従来のプロジェクト型援助が継続される一方で、コモンバスケットファンドの導入が図られるなど、いわば「各援助国のショーケース」たる様相を呈しており、西欧諸国を中心に主要分野での援助協調の議論も進んでいるところ、我が国は、同国を重要な援助の場と位置づけ、より重点的かつ適切な援助を推進することで、「我が国の顔」を確保すると共に、広く我が国の国際貢献をアピールすることに努めることが肝要である。

(2)ODA大綱*16原則との関係

 我が国ODA大綱原則との関係におけるザンビアの主な課題は、民主化の促進である。複数政党制下での初めての大統領・議会選挙(91年)にてアフリカにおける民主化のモデルとドナー諸国から評された後、民主化の進展は必ずしも順調ではなかったが、近年、ザンビア政府は「グッドガバナンス国家能力構築計画」を策定する(99年4月、2000年4月改訂)等、民主化の推進努力を見せるとともに、新政権においても、汚職撲滅を最優先課題の一つに掲げるなど、銅公社の民営化を始めとする市場指向型経済導入の努力と併せ、ODA大綱原則の観点からは総じて望ましい方向に向けた努力が継続されていると評価しうる。

(3)我が国援助の目指すべき方向

(イ)我が国のこれまでの援助

 我が国は、基礎生活分野や経済再建に資する援助を中心に、2000年度まで、技術協力328億円(サハラ砂漠以南のアフリカ諸国(域内)ではケニア、タンザニアに次いで3番目)、無償資金協力814億円(域内ではタンザニアに次いで2番目)、有償資金協力965億円(域内ではケニア、ガーナに次いで3番目)の二国間援助を実施しており、全体ではケニアに次いで域内で2番目(約2,107億円)の供与先となっている。2000年度は、無償資金協力約39億円、技術協力約15億円の二国間援助を実施した。なお、有償資金協力については、92年の商品借款を最後に債務繰延以外の供与は行っていない。
 無償資金協力については、農業分野、水供給分野等の基礎生活分野、運輸・通信等の基礎インフラ整備等に対して協力を実施している。また、構造調整を支援するため、98年度までに合計185億円のノン・プロジェクト無償資金協力を実施し、99及び2001年度には見返り資金の使途を保健、教育分野に限定するセクター・プログラム無償*18計40億円を供与した。また、技術協力については、農業、保健・医療、職業訓練等の分野で様々な形態により実施している。

(ロ)ザンビア援助全体に占める我が国援助の割合

 DAC諸国及び国際機関による2000年の対ザンビアODA実績総額は約7億9510万ドルであり、DAC諸国による二国間援助は全体の約61%(約4億8620万ドル)を占める。我が国は例年上位に位置しているが、2000年には第5位(31.9百万ドル、支出純額ベース)であり、二国間援助の6.5%を占めた(上位5カ国:英国、ドイツ、オランダ、米国、日本)。

(ハ)今後5年間の援助の方向性

 貧困の削減、社会開発、経済的自立に向けた産業支援等を対アフリカ援助の重点課題とする政府開発援助に関する中期政策*17を踏まえ、今後の我が国の援助方針については、下記(4)の5分野を重点分野とすることで2000年4月の経済協力総合調査団派遣時にザンビア政府と合意しており、引き続き右合意の主要点を踏まえた援助を実施していく。なお、援助の実施に際しては、ザンビア政府のオーナーシップを尊重するとともに、より一層の質の向上と効率化に努力する。
 但し、ザンビアは既に債務削減措置の適用を受けているうえ、拡大HIPCイニシアティブによる債務削減措置の適用が決定したことから、新規の円借款による協力は困難であり、今後は無償資金協力、技術協力を組み合わせた効率的な援助を実施していく。

(4)重点分野・課題別援助方針

(イ)農村開発を中心とする貧困対策への支援

 貧困層が総人口の約72%を占め、そのうち約7割が農村に居住している現状から、農村開発は貧困緩和を図る観点からも優先課題の一つとなっており、我が国としても、農村開発計画策定のための支援に加え、農民自らの発展に対する意欲を高め、自発的な発展に向けての素地を作る支援を行っていく。
 ザンビアにおける農業は、依然として天水に依存した伝統的農業が中心であり、その生産性は天候に大きく左右されることから、生産基盤を安定させるための灌漑設備等の整備、畜産振興支援、農産物増産技術の導入等、農業生産性の向上に資する支援を行う。また、開発計画策定及び実施にかかる住民参加型農村開発の促進と地方レベルのキャパシティ・ビルディング等、持続的な農村開発に資する支援を行う。更に、農民の自立心を醸成するためのマイクロ・クレジット導入にかかる支援についても今後検討していく。
 なお、農業分野においては、農業セクター投資計画(ASIP)が策定されており、更に、今後、都市近郊と孤立地域の二重構造問題の解消に資する政策の実施を最優先課題としたASIP2の策定作業も進んでいることから、今後の動向を注視しつつ、我が国としてもその策定及び実施への積極的な関与を検討していく。

(ロ)費用対効果の高い保健医療サービスの充実

 HIV/AIDS等各種感染症の 延は、社会経済の諸分野における貴重な人的資源の喪失を招き、ザンビアにおいて分野横断的な開発上の主要課題となっている。我が国は、九州・沖縄サミットの機会に「沖縄感染症対策イニシアティブ」にて表明したとおり、感染症対策及び関連社会開発分野への取り組みを強化する方針であり、ザンビアに対してもHIV/AIDS、マラリア・寄生虫、結核等の感染症対策にかかる協力を今後も積極的に推進していく。
 また、保健医療サービス施設の都市集中、高次病院による治療サービスの偏重という高コスト体質の現状の下、貧困層を中心とした国民に直接裨益し、比較的低コストで高い効果が得られるプライマリー・ヘルス・ケアの拡充及びリプロダクティブヘルスに対する協力方途を検討する。また、安全な水の供給は、コレラをはじめとする感染症の予防に不可欠であることから、貧困層の公衆衛生の改善に資するよう、環境への影響を配慮しつつ、水供給設備の整備及び住民参加による設備の維持・管理能力の向上に資する支援について検討していく。
 なお、保健分野は、ザンビア政府のオーナーシップ意識も高く、既にコモン・バスケットが設置される等セクタープログラムが進展しており、我が国としても、他の援助機関との有機的な連携を強化していく。

(ハ)均衡のとれた経済構造形成の努力に対する支援

 近年になって銅以外の輸出産品の割合が増えてきているものの、依然銅偏重体質の強い経済構造であり、銅に過度に依存しない産業振興を図り所得増大に結びつけていくことが必要である。農業は持続可能な経済開発に資する有望産業であることから、生鮮野菜生産を含む競争力のある商業的農業を拡大させるため、栽培技術開発、野菜の保管及び流通技術、畜産振興等に関する支援を検討する。また、農村部と都市部の輸送システムの確立及び輸送力の強化並びに通信手段の補強は、流通の円滑化を図り、国内産業の活性化に資すると期待されるため、経済活動を支える基盤としてのインフラ整備を引き続き検討する。
 中小企業の育成は、国内産業の裾野を確保し、広範な基盤に支えられた経済成長を実現することに通じ、貧困層の雇用機会を創出する観点からも重要との認識の下、人材の育成を主眼とした技術協力を中心に支援を検討する。
 また、観光産業についても、同国はビクトリアフォールズ、野生生物資源等の豊富な観光資源を有しているところ、今後民間投資が期待できる主要産業の一つとして、今後我が国の同分野への協力の可能性を検討していく。
 更に、ザンビアのマクロ経済の安定と持続的な成長の確保のためには、構造調整計画の推進が不可欠であり、同計画に伴う財政負担を軽減するためにも、経済が自立発展軌道に乗るまで、引き続き国際収支改善に資する支援を検討する。

(ニ)自立発展に向けた人材育成・制度構築

 人材育成の中でも、基礎教育分野は長期的視野からベースの広い人的資源の開発を進めるために重要である。ザンビアにおいては学校施設が絶対的に不足していることから、短期的な課題として初等・中等教育へのアクセス向上のための施設建設及び改修、機材供与等ハード面の支援を検討する。また、長期的な課題として教員の能力向上に資する人材育成等教育の質の改善に資するソフト面での協力についても検討する。更に、WIDの観点からも、成人女性を対象とした教育を中心に、成人識字率向上に対する草の根レベルでの協力を検討していく。
 また、長期にわたる社会主義政策の下で、市場経済発展を担う人材の育成が不十分であるため、起業家精神をもった経営者及び熟練労働者等産業ニーズにあった人材の開発に資する職業訓練に対する支援も検討していく。
 更に、行政能力の向上及び公共セクターの効率的な管理運営を通じ、住民への社会サービスを改善するため、中央政府のキャパシティビルディングに加え、公共サービスを中心とする地方行政の能力向上に資する人材育成を検討する。
 なお、基礎教育分野については、基礎教育セクター投資計画を踏まえて、プロジェクト形成にあたってきたが、今後は政府が策定中の教育セクター戦略計画との整合性に配慮しつつ、具体的な協力可能性を検討していく。本計画における位置づけを確認しつつ検討していく。また、職業訓練についても、職業訓練セクター投資計画にかかる議論が始まっていることから、今後の動向を注視する。

(ホ)域内相互協力の促進

 TICAD IIにおいても地域的な協力と統合の重要性が指摘されているとおり、国毎の市場が狭隘な南部アフリカ地域において開発を効率的に進めるためには、地域協力・地域統合の枠組みの中で各国の経済発展に結びつける視点が重要である。特に、内陸国であるザンビアにおいては、周辺諸国との政治的及び経済的な相互依存関係が強まっており、また、南部アフリカの中心というザンビアの位置づけからも、南部アフリカ地域全体に裨益する効果的な経済協力の方向性を探る視点が必要である。我が国としては、南部アフリカ各国の比較優位を最大限に活かしつつ、ザンビア及び域内諸国で実施している技術協力を有機的に組み合わせた広域的な協力体制造りについての支援に加え、地域経済の活性化に資する経済インフラの整備にかかる無償資金協力及び技術協力を検討する。

(5)援助実施上の留意点

(イ)他の援助国・機関及びNGOとの連携

 ザンビアにおいては、農業、基礎教育、道路及び保健等の分野においてセクター・プログラム(SP)の議論が進展しているが、我が国は、ザンビアをサハラ砂漠以南アフリカにおけるSP実施上の重点国と位置づけ、保健分野を重点セクターに、他の援助国・機関との有機的な連携を強化しつつ、SPの計画策定及び実施に積極的に参画するとともに、個別案件の形成に際しては、各SPにおける位置づけを踏まえ検討していく。
 また、援助協調に関しては、ドナー間の協調の強化を求めるあまり、被援助国のオーナーシップを損なう結果となっては本末転倒であるため、ドナーの提供する多様な手段及び経験のメニューの中から、援助吸収能力等各国の事情に照らしてうまく機能するものを途上国側が選択できる余地を残すべきであるとの認識の下、プログラム型援助とプロジェクト型援助を組み合わせたベスト・ミックス型の援助を目指す。なお、SPにおけるコモン・ファンドについては、セクター・プログラム無償資金協力の見返り資金を投入することも可能であるが、納税者たる我が国の国民に対する説明責任及び「顔の見える援助」を展開するとの観点から今後も慎重に対応していく。(2001年度にはノンプロ無償及びセクター・ノンプロ無償の見返り資金のうち約3億円を教育セクターのコモンファンドへ拠出した。)
 NGOについては、特に基礎生活分野において多くのNGOが活動しており、草の根レベルにおけるその活動の役割は大きく、今後我が国が行う経済協力においてもNGO等との更なる連携を図り、草の根レベルで住民に直接裨益する参加型プロジェクトの実施を検討していく。

(ロ)援助受入体制

 ザンビア政府の援助受入能力に関しては、政府の政策策定能力及び実施能力の不足や人材不足等から、必ずしも十分とは言えないため、個々の案件については事前の調査を通じて先方実施機関の援助吸収能力(人員、予算手当等)に留意しつつ案件を採択し、実施中の案件についても、内貨予算の手当てや管理・運営体制の確立等につき不断の注意を払う。また、「良い統治」との関連では、政府・行政組織における透明性の向上等にも十分な配慮を払う必要がある。更に、政策提言等に関する個別専門家を派遣するなどして、援助受入能力自体を強化する支援も重要である。

(ハ)貧困削減戦略ペーパー

 ザンビア政府が2002年4月に策定した貧困削減戦略ペーパーは、全ての開発パートナーにとり当該国を支援するに当たっての指針となるべきものであり、また、重債務貧困国に対する国際的な債務救済の枠組みである拡大HIPCイニシアティブが適用され、債務救済を受けるための条件の一つとなっている。我が国としてもかかる認識を基に、策定に際しかかる参加型プロセスに積極的に参画した。今後は、その実施及びモニタリングプロセスについても、PRSPに基づく開発の持続性を担保する極めて重要な要素として留意する。

(ニ)債務管理能力の強化

 ザンビアは、GNP(約30億ドル・2000年)の2倍以上の対外債務(72億ドル以上・2001年暫定値)を抱えている重債務貧困国であるが、既に拡大HIPCイニシアティブの適用が決定しており、PRSPが完成した現在、世銀並びにIMFの調整プログラムの実施を通じ、公的債務にかかる債務救済が行われる見込みである。他方、持続的な経済成長のためには、債務救済のみではなく、経済・財政・金融政策の立案と遂行能力育成、財務管理や財務・統計システム整備等の債務管理能力強化が必要であり、我が国としても人材育成の面で可能な支援を検討していく。

(ホ)TICADプロセス、域内協力*19及び南南協力*20の推進

> 我が国の対アフリカ開発協力は、欧州と比較してその歴史が浅いものの、アフリカの開発努力に対する国際社会の支援を促進するため、93年に引き続き、98年10月に東京に於いて第2回アフリカ開発会議(TICAD II)、2001年12月にはTICAD閣僚レベル会合を国連及びアフリカのためのグローバル連合(GCA)と共催するなど、積極的に関与する姿勢を表明している。TICADプロセスは、アフリカ諸国との協調の下、今後とも我が国として真剣に取り組んでいく。
 また、TICAD IIの東京行動計画において基本姿勢として唱われているとおり、アフリカの域内協力と統合の推進及び南南協力の拡大は、アフリカ開発を効果的に進めるために重要であり、今後ともTICADプロセスの一環として、域内他国への効果普及及び域内他国で実施しているプロジェクトとの連携、並びにアジア及び北アフリカ諸国からの南南協力を積極的に検討していく。

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