平成14年10月
<1>最近の政治・経済・社会情勢
(1)政治情勢
チュニジアは北アフリカに位置し、北及び東は地中海、西はアルジェリア、東南はリビアに接し、面積16.4万平方キロメートル(日本の約0.43倍)、人口約956万人(2000年)を有する。国民の98%はアラブ人で、それ以外にはベルベル人(構成比1%)等がおり、公用語はアラビア語である。
チュニジアは、1956年にフランスの保護領から独立を達成し、翌57年共和制を樹立、初代大統領にブルギバが選出された。同大統領は三権分立等を定めた新憲法の制定(1959年)、義務教育の普及等を図る一方で、1974年には憲法を改正し、自ら終身大統領に就任した。
1987年11月、同大統領の健康状態悪化に伴い、憲法の規定に基づき、ベン・アリ首相が新大統領となった。同大統領の政策は基本的には前大統領の路線を踏襲するものであったが、1988年に新たに複数政党制を導入、1994年3月の国民議会選挙では野党も19議席を獲得し、複数政党からなる国民議会が誕生した。また、右選挙と同時に行われた大統領選挙では、圧倒的多数で同大統領が再選された。
1999年10月には再び大統領選挙が行われ、同大統領は圧倒的得票数で三選され今日に至っているが、その間、2000年5月の地方議会選挙では、与党RCD(民主立憲連合)が全議席の約94%を獲得する等、比較的安定した政権が維持されている。
外交面では、地理的、歴史的な理由もあり、欧米諸国と緊密な関係をもち、地中海、北アフリカ地域の安定勢力として穏健かつ現実的な外交政策を基本としている。EUとの間にパートナーシップ協定
*1を締結し、自由貿易圏の創設を目指しているほか、中東和平プロセスにも積極的に貢献し、北アフリカ5カ国によるアラブ・マグレブ連合(AMU)
*2の活性化を提唱する等積極的な外交を展開している。
他方、同国は域外国との関係強化にも努力しており、米国やアジア、とりわけ我が国との関係強化を目指している。
(2)経済情勢
チュニジアの経済状況は、経済成長率、財政支出、経常収支、対外債務等マクロ経済は総じて順調な方向にあるものの、更なる経済成長率の増大、雇用創出(失業問題)、地域間格差是正が経済主要課題となっている。
こうした経済状況に適切に対処すべく、同国は第9次経済・社会開発五カ年計画(1997-2001年)に基づき、同国経済の世界経済への統合に向けて諸策に取り組み、特に企業競争力強化のための生産性向上と経済の多様化に努めた結果、年平均成長率は5.3%を記録し、投資も増加(2001年はGDPの26.1%)、物・サービスの輸出は年平均7.4%増加、財政支出についても赤字削減に努め、財政赤字はGDPの2.4%まで減少した。経常収支赤字の対GDP比も93年には8.8%であったが、2000年は4.2%、また対外債務のGDP比は概して減少傾向にあり、2000年は51.4%と管理可能な水準に落ち着いている。
チュニジアは地域的には地中海性気候(北・東部)、砂漠気候(南部)に位置し、降雨量は地域により大きくばらつきがある中、伝統的に農業(小麦、オリーブ、柑橘類、ナツメヤシ等)が盛んであるが、60年代に比してその比重を低下させており、現在、農林水産業がGDPに占める割合は14%程度である。また、70年代に経済成長の牽引役であった石油を始めとする天然資源を有しているが、エネルギー自給率(エネルギー生産量/一次エネルギー総供給)は、71年に240%だったものが、98年には94%まで低下している。
他方、行政部門も含めたサービス部門の伸びは大きく、現在ではGNP全体の5割以上を占め、中でも観光業は外貨収入の柱(全外貨収入の約16%)となっている。また、ベン・アリ大統領が提唱する自国産業の競争力強化を目指す「レベル・アップ」戦略
*3の下で、特に食品加工、セメント、化学製品、皮革・繊維等の製造業も急速に成長している。(2000年の産業別GDPシェアは、農・水産業12.3%、製造業21.7%、鉱業・非製造業12.9%、一般サービス業33.9%、行政サービス業13.5%、輸入税5.7%となっている。)
以上のとおりチュニジア経済は総じて好調であるが、失業問題の改善等が現下の経済上の重要課題となっている。失業率については、ここ数年15%台と高い値で推移しており、失業者も半数は25歳以下の若年層が占めているとの現状がある。そのため政府としては2000年初頭に「国家雇用基金」
*4を創設し、公共投資事業の拡大、職業訓練制度の充実等の雇用促進のための諸政策を積極的に進めているところであり、2000年には失業率が初めて減少した(99年 15.8%、2000年 15.6%)。また地域間格差是正等については、1997年にベン・アリ大統領が導入した「国家連帯基金」
*5の下で貧困撲滅、地方間格差の是正が推進されており、貧困層の比率は1985年の11%から現在6%以下に低下している。
(3)社会情勢
チュニジアは一人当たりGNPが2,000米ドルを超える(99年2,100ドル)中所得国家である。政府の人口抑制策により近年の人口増加率は年約1.2%、女性1人の出産数は2.23人と低い。また義務教育における就学率は92.3%と高く、大学生の数も20万人近くに上る教育国家である。その他、電化率94%、飲料水供給率75.2%、持ち家率78%と基礎的生活環境は比較的整っており、チュニジア統計上、国民の80%が中流階級層とされ、貧富の格差は途上国としては極めて少ない。また、女性解放、女性の社会進出が進んでいることもアラブ及びイスラム諸国の間では抜きん出ている。
但し、上述したようにここ数年15%台で推移している失業問題は政府の継続的な懸念材料となっており、今後改善されるべき社会問題でもある。
<2>開発上の課題
(1)チュニジアの開発計画
チュニジアは第9次経済・社会開発五カ年計画(1997-2001年)に続き第10次五ヶ年計画(2002年-2006年)を策定し、2002年7月に発表した。これまで、チュニジアは、ベン・アリ大統領が標榜する「レベル・アップ」戦略の下で、自国経済を世界経済のグローバリゼーションに対応させるべく、EU、アラブ・マグレブ諸国との経済自由化を進めるとともに、金融機関の質の向上、法制度・規制・税制改革、人材強化、民営化等を通じた企業競争力強化のための生産性向上と経済の多様化に努力を傾けて第9計画では年平均5.3%の経済成長率を達成(当初目標は5.6%)した。第10次計画では主要目標を、
(イ)年平均5.5%の成長の達成
(ロ)年平均7万6000の新規雇用創出(95%の新規求職者をカバー)
(ハ)国民貯蓄をGDPの25.2%までの増加による対外債務の抑制に置き、各セクター別計画(農業・水産業、手工業、エネルギー、交通インフラ、IT、社会開発、環境分野)を設定している。
チュニジア政府は、これら目標達成のため、金融システムの強化、保険分野の改革、税制改革、行政システムの整備、教育・職業訓練、システムの改革を進めることとしている。また、総投資額は約620億DT(ディナール)で、外国投資より50億DTを調達、主要国・国際機関より7.5億DTの無償資金協力、52億DTの有償資金協力を期待している。
(2)開発上の主要課題
(イ)産業競争力の強化
中所得国家であるチュニジアが、EUとのパートナーシップに基く貿易の自由化、更に国際経済のグローバル化の中で生き残り、かつ、更なる飛躍を達成するためには、外国からの投資を積極的に導入すると同時に、自国産業の国内・国外市場での競争力を一層強化させる必要がある。そのために、チュニジア政府としては、「レベル・アップ」戦略の下で、運輸・通信を始めとする経済インフラの整備・近代化に向けて公共投資を積極的につぎ込み、自国経済力の強化・多様化を推進しつつ、ひいては雇用の増大、他産業の発展に伴う農業依存度の相対的軽減等につながる努力を行っている。
(ロ)水資源管理・開発
チュニジアは依然として年間降雨量が経済活動全般に大きな影響を与える状況にあり、政府としては第9次経済・社会開発五カ年計画の中で、水資源の需給緩和及び水供給の地域間格差是正のための新規の水源開発を含む全般的な水資源管理を重要課題として、給水率を96年の67%から2001年に80%まで引き上げることを目標として設定した。そのため、約35万人を対象に500を超えるサブ・プロジェクトから成る水利開発計画を策定し、引き続き積極的に実施中である。
なお、地方給水事業を取り巻く環境はプロジェクトの進展に伴い、人口密度のより少ない地域への実施が必要となっていること、水源が遠距離化してきていること等事業実施上の社会経済的・物理的条件が年々厳しくなってきており、運営維持管理費負担に係る住民合意を含めて慎重な検討が求められてきている。
(ハ)農業・水産業開発
チュニジアの農林水産業は、依然としてGDPの14%、就業人口の20%以上を占める重要な産業である。しかしながら、同国の農業生産は毎年降雨量により左右される不安定なものとなっている(現に数年来の干ばつにより、2000年の農業生産成長率はマイナス1%を記録した)。従って、同国においては、安定的な食糧穀物、換金作物(オリーブ等)の生産を確保するためにも、灌漑農業の普及、農業関連インフラの整備が重要な課題となっている。
他方、水産業に関しては、同国は1,300キロメートルの海岸線と地中海の中でも広い約7.7万平方キロメートルの大陸棚をもつ豊かな漁場を有している。しかしながら、農業に比し水産分野での公共投資は必ずしも十分ではなく、特に、近年チュニジア水産業の中心となっている沖合漁業従事者及び漁船操作船員の不足、近代的漁業施設・技術の未整備等の問題を抱えており、漁業資源の開発・管理、生産性の向上、そのための人材育成が水産業の大きな課題となっている。
(ニ)観光振興
チュニジアの観光業は、同国のGDPの約6%を占める重要な収入源となっている同国経済の基幹産業であるが、特に外貨獲得源として極めて重要である。チュニジアは年間約500万人を超える外国人観光客を受け入れているが、その大部分はチャーター便で来訪し、海浜のリゾート・ホテルに長期滞在する欧州からの観光客で、一人当たりの支出額が少ないとの課題がある。このため国内各地に存在する歴史的遺産等多様な観光資源を活用しつつ、より「収益性が高い観光」の振興・多様化を実現していくことが大きな課題である。
(ホ)環境問題
チュニジアにおいては、首都チュニスの大気汚染、中部地方のガベス、スファックス、ガフサ等の産業都市の産業廃棄物汚染(リン鉱石を原料とする肥料工場、オリーブ油の製造工場等)が深刻な問題となってきている。また、首都圏の工場排水、スースやジェルバ等の観光地の局所的な水質汚染等が見られる。チュニジアの環境行政は1991年の環境・国土整備省の設立以降、短い期間に大幅な進展がみられたが、依然として未整備な分野が残っており、総合的な環境政策及び実施体制が確立されるまでに至っておらず、都市化・急速な経済開発の中で上に掲げたような様々な環境問題が生じつつある。加えて、チュニジアの森林面積は今世紀始めは125万haであったが、現在では84万haまで減少しており、土壌劣化や砂漠化の原因となっている。そのため、今後は、総合的な国家環境政策及び実施体制の確立とそのための投資増大が一層必要となっている。
(ヘ)地域間格差の是正
世銀のデータによれば、チュニジアは中流所得者層が国民の大半を占め、貧困層の割合は比較的少ないとされている。しかしながら、都市部の貧困層8.9%に比べると地方の貧困層の割合は21.9%を示している。このような地域間の格差解消のため、チュニジア政府は地方給水施設、道路、小規模ダム等の地方部基礎インフラの整備を国家レベルで推進するとともに、「国家連帯基金」を積極的に活用して地方自治体による様々な小規模インフラ整備プロジェクトへの支援を行っている。
(3)国際機関・他の援助国との関係、NGOの動向
(イ)国際機関との関係
(a)チュニジア経済はかつて、91年に勃発した湾岸戦争の影響で、観光収入の激減、欧州向け輸出の鈍化、湾岸地域からの資金流入の停滞を招き、マイナス成長が懸念される危機的状況となったため、IMF(国際通貨基金)から207.3百万SDRのEFF(拡大信用供与措置)(88年7月-92年7月)の供与を受けたことに加え、世銀よりも91年12月、250百万ドルの構造調整融資を受けたが、現在では国際収支ギャップ補填を目的とした支援は当面想定されていない。
世銀は特に、水利、教育等の分野を中心に融資を積極的に行っているが、2000年3月に発表された世銀の
Country Assistance Strategy(CAS)
*6においても、他国への援助と同様にプロジェクト型支援からセクター投資型案件あるいはプログラム・ローンに重点を移す方向性が打ち出されている。
(b)一方、チュニジアに対する最大の援助機関はEUで、EUは地中海パートナーシップの枠組みに基き、多額の無償援助とともに、EIB(欧州投資銀行)を通じて中小企業支援、貧困地域基礎インフラ整備を中心に積極的に有償資金協力を行っている。その他の援助機関としては、FADES(アラブ経済・社会開発基金)及びAfDB(アフリカ開発銀行)が主要ドナーとなっている。
(ロ)他の援助国との関係
対チュニジア二国間援助に関しては、旧宗主国である仏が最大のドナー国(有償・無償を含め)であるが、我が国は、チュニジアが円借年次供与国となって以来、第二のドナー国となっている。その他のドナー国としては、独、伊等のEU主要国及び観光、水利等の分野でクエイト基金が目立つ程度である。
(ハ)NGOの動向
チュニジアでは各種国内民間団体が多数存在しており、その数は約7,500団体と言われている。これらのNGOの活動は、教育、障害者、保健・医療、貧困、地域開発、女性支援、環境、文化等多岐にわたっている。我が国はこれら団体を対象に、草の根無償資金協力を積極的に実施している。我が国NGOの当国における活動実績はわずかであるが、環境、障害者支援、保健・医療など、我が国NGOが実力を持ち比較的得意とする分野にニーズがあることから、今後一層の参入・活躍が期待される。
<3>我が国の対チュニジア援助政策
(1)対チュニジア援助の意義
(イ)有益な両国関係の促進
チュニジアは伝統的に親日的な国であるが、1996年のベン・アリ大統領の訪日以来、特にこうした対日関係重視の姿勢が高まりつつある。また、同国は、我が国の経済協力の意義を十分理解し、援助吸収能力も高く、それだけに我が国からの援助に対しても大きな期待を有している。こうした同国の姿勢は、我が国の安保理常任理事国入り支持、国連等の各種選挙での我が国支持等(2002年ワールドカップ、ITU(国際電気通信連合)事務総局長選挙等)、国際場裏における我が国支援等にも現れている。
かかる両国関係と同国の安定した経済成長を背景に、経済関係も確実に拡大・緊密化しており
*7、ここ数年の両国間の貿易額は倍増しているほか、民間投資を見ても、大手日本企業等が電力関係等で進出するなど具体的な成果が実現しており、今後更に我が国が同国との経済関係を促進していく上で、同国の投資・経済環境の整備は必要不可欠である。一方、経済のグローバル化の中で、更なる経済発展を目指す同国にとっても、我が国の官民の高い技術を背景とした技術協力及び経済インフラの整備は、チュニジア経済全体の発展にとり、重要なものとなっている。
以上のような現状を踏まえ、外交手段の一つとして我が国の政府開発援助を有効に活用し、更に強固な両国関係を構築していくことは、双方にとり有益であると考えられる。
(ロ)アフリカに於ける我が国開発協力のパートナーとしての有益性
チュニジアは我が国の支援を有効に活用しているとの事実に加え、我が国が経済協力を通じた対アフリカ外交を効果的に展開する上で、重要な拠点となっている。
すなわち、同国は一方的に我が国の援助を受け入れているのみではなく、自らもアフリカ仏語圏諸国等に対する開発協力に熱心であり、また実際その能力も有しており、既に我が国との間で締結されている「三角協力枠組み文書」の下、我が国の支援プロジェクト等を拠点とし、両国で協力して他のアフリカ諸国等に普及していく支援を実施している。右は、TICADプロセス
*8に於ける重要なコンセプトである南南協力の実践であり、チュニジアに対する我が国の援助が、同国のみに止まることなく、広く他のアフリカ諸国等にも広がるとの波及効果を生んでいる。こうした北アフリカに於ける同国の役割は、我が国の対アフリカ支援、特に対仏語圏諸国支援の文脈に於いて、極めて重要なものとなっている。
(ハ)マグレブ諸国支援としての重要性
対チュニジア支援は、地理的に我が国から遠いアフリカの一国への支援として捉えられるべきではなく、世界経済のグローバル化、より具体的には、マグレブ諸国、ひいてはアラブ諸国全体への外交の文脈で検討されるべき事柄である。
チュニジアが属する北アフリカのマグレブ地域とは、アラブ諸国内の「西方」を意味し、歴史的な発展過程を共有するとともに、イスラム教、アラブ語圏という共通性を有する。同地域は、欧州、アラブ、アフリカの三地域の接点として、地政学的な重要性を有する。
また、豊富な石油、天然ガスを有する北アフリカ地域は、近年アルジェリアの情勢が正常化しつつあり、リビアに対する国連制裁も99年4月に停止される等といった状況の中、再び国際的な重要性を取り戻しつつある。こうした状況下で、チュニジアはマグレブ・アラブ連合の活性化に積極的に取り組む等、活発な外交努力を展開している。
更に、チュニジア政府は独立以来、穏健な親西欧政策をとってきており、中東問題の平和的解決に対しても、1982年より94年までレバノンを追われたPLO本部をチュニスに置くことを認める等、一定の役割を果たしてきている。
以上の同国の当該地域での役割に鑑みるに、独自の努力により安定した経済成長を進めつつある同国に我が国の技術と資金を投じ更なる同国の発展に支援することは、援助の効率性の観点のみならず、地域全体の安定と繁栄の観点からも重要である。更に、中東・アラブ諸国が各々の国益重視に向かいつつも、現在でも共通の価値観を有し、中東問題等地域の共通問題に対しては共通の立場を採ることが多いことに鑑みれば、チュニジア支援は、アラブ地域全般における我が国の国益の維持、推進の観点からも、有意義なものと評価できる。
チュニジアの軍事費は元々少なく、ODA大綱原則との関係での問題はない。チュニジアの人権問題に対し欧州諸国、国際NGO等の一部より批判は見られるものの、現政権は基本的には一層の民主化、人権尊重等を表明しており、我が国ODA大綱原則との関係では特に問題はない。
(3)我が国援助の目指すべき方向
(イ)我が国のこれまでの援助
我が国はこれまで、有償資金協力及び技術協力を中心に積極的に援助を実施しており、チュニジア政府もこれを高く評価している。有償資金協力については、これまでに灌漑・上下水道案件、運輸・通信案件を中心に、2000年度末時点で累計約1,535億円の供与を実施している。また、我が国は96年以降同国を円借年次供与国に昇格させている。
他方、チュニジアは一人当たりGNPが比較的高い水準にあるため一般無償(草の根無償を除く)は行っていないが、水産無償に関しては、97年度に初めて「漁業調査船建造計画」が実現し、更に99年度には「ビゼルテ水産学校建設計画」を実施した。その他草の根無償、文化無償を供与し、それぞれの分野で高く評価されている。
技術協力に関しては、保健・医療(特に人口家族計画)、水産、職業訓練、鉱工業、観光、環境等の分野において、プロジェクト方式技術協力を始め開発調査、専門家派遣、研修員受入、また、社会福祉、スポーツ、視聴覚教育等の分野において青年海外協力隊派遣を積極的に実施している。また、99年3月には、TICAD IIのフォローアップとして、両国間で「アフリカにおける南南協力推進のための日本・チュニジア三角技術協力計画」に関する枠組み文書
*10の署名を行い、以後これまでに、2000年4月の「債務管理セミナー」
*11等、数件の第三国研修が実現している。
(ロ)今後5年間の援助の方向性
チュニジアの政治的、外交的重要性や我が国に対する協力関係強化の期待感の大きさを踏まえつつ、一般プロジェクト無償非対象国である同国には円借款、技術協力を中心として効果的な援助を実施していく。
中・長期的な対チュニジア援助の具体的な方向性は概ね次の通りであるが、基礎的な技術水準を獲得しつつある同国に対しては、特に我が国が強みを持つ技術・技能・ノウハウの移転・活用という観点を重視していくことが必要である。
(i) |
同国の開発上の重要課題である水資源管理・開発及び産業競争力強化に対応するため、援助ニーズの大きい水資源関連、運輸及び情報通信セクターを中心とした経済インフラ案件への支援を特に円借款を活用し継続するとともに、雇用問題に対する支援(中小企業支援並びに人材育成案件)についても、同じく産業競争力強化という観点から支援を行っていく。更に、近年チュニジア政府が積極的に取り組んでいる公害対策・環境保全については、我が国としても非常に重要視する分野であり、優良案件の発掘・形成に努める。 |
(ii) |
また、両国の水産分野における密接な協力関係を維持・強化していくためにも、97年度より実施している水産無償を、国際的な持続的漁業の推進に対する同国のスタンスに留意しつつ、今後とも優良案件があれば可能な限り対応していく。
|
(iii) |
更に両国間の人的交流を促進するとともに、我が国の顔の見える援助を推進していくために、技術協力、文化無償、草の根無償、草の根文化無償等を有効に活用する。なお、技術協力の実施に当たっては、専門家派遣、研修員受入れ、青年海外協力隊、シニア・ボランティア、プロジェクト方式技術協力、開発調査等のスキームを効果的に利用するとともに、円借款・水産無償案件との連携にも十分配慮する。
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(iv) |
TICADプロセスのフォロー・アップと位置づけられる南南協力支援に関しても、チュニジアの事務的能力・技術的な能力の高さ等を勘案し、かつ、チュニジア側の我が国に対する強い期待にも応えるべく、技術協力による協力可能な分野を積極的に開拓し、これを実施する。 |
(4)重点分野・課題別援助方針
チュニジアの開発上の主要課題、我が国に対する様々なアプローチ、期待度の高さ等を踏まえた上で、我が国として中・長期的な観点から、特に優先的に取り組むべき重点分野、課題としては、(イ)産業のレベル・アップ支援、(ロ)水資源開発・管理への支援、(ハ)環境への取り組みに対する支援、の3つの柱が挙げられる。右援助重点分野に対する具体的な援助方針は次の通りであるが、依然として同国の重要産業である農・水産業分野、あるいは貧困地域への開発等、以下の分野以外のものについても、チュニジア側のニーズ及び現状を正確に分析しつつ、必要かつ適切な支援を実施していく。なお、こうした重点分野への援助実施に際しては、共通する課題である教育・人材育成等の側面についても配慮していく。
(イ)産業のレベル・アップ支援
全ての分野において国際競争力をつけることが必要であるが、我が国の得意分野も踏まえて、運輸及び情報通信セクターを中心とした経済インフラ、生産・品質管理、生産性向上、中小企業育成、技術開発、職業訓練等の分野で支援する。
(ロ)水資源開発・管理への支援
チュニジアにおける水資源セクターは中・長期的観点からも引き続きチュニジアの開発計画の中で重要な位置を占めるものと見込まれる。今後は水源開発に対する支援のみならず、水需給管理、表流水・地下水の管理を含む総合的な水資源管理に繋がる支援を我が国の経験及び技術力を活かして協力を進める。なお、その際には特に開発の遅れている地方及び貧困地域の振興という観点からも配慮を行っていく。
(ハ)環境への取り組みに対する支援
水質管理、大気汚染、廃棄物の処理、土壌劣化防止、砂漠化防止、再生可能エネルギーの導入、地下水資源の有効利用等の分野でチュニジア側が進めている環境政策に沿った協力を進める。また、我が国が円借款及び水産無償案件を実施するに当たっては、これまで通り環境に十分配慮する。
(5)援助実施上の留意点
(イ)チュニジアは我が国の円借款を高く評価し、2002年7月に発表した第10次経済・社会開発5カ年計画との関係も考慮に入れつつ、今後の円借要請案件の形成に努めている。
また、チュニジアは96年より円借款年次供与国となっており、更に効果的な円借款の実施を目指すべく、2002年4月、円借款候補案件のロングリスト
*12を公表した。ロングリストはチュニジア側の経済・社会開発5ヶ年計画等、中長期的な観点から案件形成が可能となるメリットがあり、案件成熟化の過程で、開発調査・技術協力等他のスキームと連携を促進し、より効果的・効率的な援助の実施を図っていく。また、既往案件の執行率改善にも引き続き注意していく必要がある。
(ロ)また、情報格差の解消は全ての国にとりきわめて重要な課題であり、情報通信技術(IT)は貧困削減、開発努力の促進等に非常に大きな機会を提供するものであるところ、チュニジアは世界の通信技術・情報技術の発展に遅れることのないよう通信・科学技術分野の投資拡大政策を積極的に進めている。同国政府のIT分野に対する現状や将来構想を注視しつつ、我が国からの支援の期待が高い本分野で如何なる協力の可能性があるかについて検討していく。
(ハ)他方、チュニジアは99年3月に我が国との間で署名した「日・「テュ」三角協力枠組み文書」をベースに、アフリカ諸国、アラブ諸国を対象に、より多くの分野で我が国との三角協力を推進することに大いに期待しており、今後、同国との協力計画を策定するに当たっては、常に南南協力支援の可能性についても念頭に置きつつ検討する必要がある。
(ニ)更に、アラブ・マグレブ連合(チュニジア、モロッコ、アルジェリア、リビア、モーリタニアの5カ国より構成)は一部の加盟国間の外交的問題もあって、1989年の設立以来その活動は停滞していたが、近年マグレブ域内の協力関係が改善される動きもあるところ、我が国としても、協力案件の検討に当たっては、チュニジアのみならず当該地域全体における案件の位置づけをも考慮に入れていく。
(ホ)チュニジアに対する援助を進めるに当たっては、同国に対しこれまで援助経験の豊富な世銀、EU/EIB、仏(AFD)等と情報の共有、意見交換を行うことにより、案件形成・監理・評価の各プロジェクト・サイクルにおける他のドナー国との連携を通じ、限られた援助資金の更なる有効活用を図っていく必要がある。