<1>最近の政治・経済・社会情勢
(1)政治情勢
1992年の憲法改正により複数政党制が導入され、95年には同制度の下で実施された初の大統領選挙と議会選挙により大統領、首相等の交代が平和裡に実現するなど、民主化の進展が見られる。2000年10月には2回目の大統領・議会選挙が実施される予定である。国内には多種多様な宗教やアフリカ系、アラブ系、インド系等人種の混在という不安定要素も存在するが、独立以来一度もクーデターの経験がなく、内政は概ね安定的に推移している。
アフリカ型社会主義
*1を標榜していたタンザニアは、政治的見解を異にするケニア、ウガンダ等の近隣諸国と必ずしも良好な関係になかった時期もあったが、85年にニエレレ初代大統領の後を継いだムウィニ大統領は、外交の重点を近隣諸国との友好関係強化に置くようになった。95年に就任したムカパ大統領もこうした外交方針を継承し、99年ケニア、ウガンダと東アフリカ共同体(EAC:
East African Community*2)設立条約に署名し、両国と政治経済等広範な分野で地域協力を強化する方向にある。また、南部アフリカ開発共同体(SADC:
Southern African Development Community*3)のメンバーとして南部アフリカ諸国との地域協力にも努めている。その他の近隣諸国との関係でも、ルワンダ、ブルンジ、コンゴー(民)等隣国からの難民を多数受け入れているほか、特にブルンジ及びコンゴー(民)における紛争の解決に向けて積極的に外交を展開するなど、同地域における政治的安定勢力として重要な役割を担っている。
(2)経済情勢
86年以降、社会主義経済政策を事実上放棄し、世銀・IMFの支援を得て投資・流通制度改革、公営企業改革、公務員削減等の構造調整
*4を進めており、近年一定の成果も見られてはいるが、1人当たりGNPが210ドル(1998年、世銀統計)の後発開発途上国(LLDC)であり、97年現在の対外債務残高は71.77億ドルと深刻な状況にある。産業は農業が中心であり、コーヒー、綿花、カシューナッツ、紅茶、タバコ等を主要輸出品とする典型的な一次産品依存型の経済構造である。
86年の市場指向型経済への転換以降、金融・財政面においては為替レートの一元化、外国銀行の許可等の改革を実行してきているほか、最近では歳入庁(TRA)の設立や付加価値税(VAT)の導入等による歳入増加策、キャッシュ・バジェット方式
*5の採用による厳しい歳出管理などの努力を行っている。また、93年からは政府の開発戦略指針と中期財政計画の性格を併せ持つローリング・プラン(「
Rolling Plan and Forward Budget」:RPFB)を導入し、マクロ経済計画、分野別政策及び3カ年の財政計画を毎年見直しつつ堅実な財政、経済運営を行っている。
こうした経済改革努力の結果、マクロ経済指標は改善してきており、1998/99年度のGDP実質成長率は鉱業(ダイヤモンド、金等)生産が好調であったことも相俟って前年度の3.5%を上回る4.0%を達成したほか、1998/99年度の平均インフレ率は、過去20年間で最低の10.3%となった。マクロ経済の安定化、成長の実現は国際通貨基金(IMF)、世銀等からも高く評価されている。
(3)社会情勢
全人口の約半分が一日の所得が1ドル以下の極貧層に属すると推定されている。為替の切り下げや価格統制の廃止等の経済改革に伴う物価上昇は、都市部賃金労働者の生活を圧迫しているが、同時に都市部と農村部の所得格差が拡大し、農村部での貧困状況はより深刻なものになっている。また、インフラの整備により都市部の生活環境改善が進んではいるものの、農村部から都市部への人口流入が進行しており、住宅、教育、医療事情や雇用等を巡る情勢が全般に悪化し、犯罪が増加している。また、公務員の大幅削減や給料据置の実施により汚職の増加が懸念されているところ、現ムカパ政権は「良い統治」が国内の安定と経済開発の基礎であるとして、腐敗防止に積極的に取り組んでいる。
国境周辺では、ブルンジ、コンゴー(民)、ルワンダ、ウガンダといった隣国の国内の混乱を反映した難民の流入もあり、治安の悪化が報告されている。
(イ)開発計画の概要
93年度から、新たな計画・予算策定手法に基づく3年間の中期開発・予算計画であるローリング・プラン(RPFB)が導入された。同プランでは、初年度が終了するごとにその実施状況・緊急課題を踏まえて計画の見直しがなされており、毎年新たな3ヶ年計画が策定されている。各分野の開発計画は分野別ドナー会合においてドナーの意見を取り入れており、世銀・IMFの構造調整政策に沿った計画作りが基本となっている。現在はGDP成長率1999年4.1%→2002年6.1%、インフレ率2000年6月7.5%→2002年6月5%、財政収支黒字の対GDP比1%の維持、金融の安定化と強化、国営企業の民営化の継続等を内容とするローリングプラン(99/2000~2001/02)を定めている。近年のマクロ経済指標の推移は、ローリングプランの目標に見合った成果を示しつつある。
タンザニア政府は、2025年までの長期開発戦略である「タンザニア開発ビジョン2025」を2000年1月に発表したが、DAC新開発戦略を踏まえた具体的な目標は盛り込まれていない。
なお、タンザニア政府は、現在、次のような開発計画案を策定中である。
(a)貧困削減戦略ペーパー
(b)タンザニア支援戦略書(TAS:Tanzanian Assistance Strategy)
各援助国・機関の共通の支援戦略書
(c)中期支出枠組書(MTEF:Medium Term Expenditure Framework)現状では、援助国・機関からの支援の約7割が政府予算外で支出されているところ、援助国・機関の支援計画をも予め盛り込み、国家開発に向け戦略的に予算配分を行うことを目的とする。
(2)開発上の主要課題
(イ)農業基盤の強化
農業は、GDPの約半分、労働人口の8割、輸出額の7割強を占める基幹産業である。農業の発展は経済成長の原動力としてだけではなく、貧困層の大半を占める農民層の生活レベルの向上という観点からも特に重要である。しかしながら灌漑設備が未整備で、専ら天水依存型の耕作方法であることから干ばつ等の自然要因に農業生産高が大きく左右されており、また、耕作面積2ヘクタール以下の小規模農業が大半を占めることやインフラの不足等により、生産性は低迷している。
(ロ)社会サービスの改善
構造調整の一環として、民間銀行の参入承認など金融の自由化も進められいるが、小規模農民を対象とした融資は少なく、80年代後半の国有農村銀行の破綻以来、農村金融システムは存在しない状態となっている。また、緊縮財政の下で社会部門への政府支出は削減される傾向にあり、社会サービスの低下をもたらしている。例えば、80年代に一時90%を超えていた初等教育の就学率は、一部有料化措置などの影響から90年代後半には60%台に低下している。初等教育分野においては、教育財政逼迫の中で荒廃した施設の整備はもとより、教師の再訓練や生徒の現状に合ったカリキュラムや教材の開発を通じた教育内容の向上が課題となっている。
(ハ)インフラ整備
貿易の自由化、価格統制の廃止、公営企業、公団の民営化が進むなど市場経済を志向した新たな経済環境が生まれつつあるが、インフラの荒廃と未整備が経済活動の活性化を阻害する要因となっている。特に道路は80年代前半からの経済の停滞による予算不足などから、荒廃が著しく雨期における路面の泥濘化、冠水などの不都合が見られる。また、タンザニアの主要農業地域は国境沿いに存在していることから、道路、倉庫などの整備を通じ農村部と都市部を結ぶ国内物資の輸送システムを確立し、農産物のみならず肥料等等の生産投入材流通の活性化、安定供給化を図る必要がある。さらに、エネルギー供給の9割は薪などの木材に依存し、電力の割合は約3%程度に過ぎない。その電力供給の約95%は水力発電によるものであり、供給量は降水量に大きく左右されており、不安定な電力供給が製造業をはじめ経済活動の発展に多大な影響を与えている。また、通信・放送分野に関しても、インフラの未整備は顕著であり、例えば、電話普及率は人口100人当たり0.38台で、アフリカ地域の平均値の約6分の1の水準である。
(ニ)人材育成
産業を担う人材が不足していることが、自立的経済発展の阻害要因となっている。今後、産業育成、インフラ整備などの経済開発を担う人材の育成が不可欠であり、基礎教育の普及とともに職業技術訓練分野の強化が必要である。
(ホ)保健医療サービスの向上
HIV/AIDSはマラリアとともに保健・医療分野における最大の課題である。HIV感染者は他のアフリカ諸国と同様に都市部に多くなっている。97年一年間のHIV/AIDSによる死亡者数は、15万人に達し、現在までに全人口の約3%に相当する94万人がHIV/AIDSで死亡していると推定されている。また、成人(15~49歳)のHIV罹患者数は、成人人口の9.4%に相当する140万人に上っておりタンザニア社会に深刻な影響を及ぼしている。 また、国民の死亡原因の13~14%を占め、死因の第一位となっているマラリアを巡る状況の改善も必要である なお、5歳未満の乳幼児死亡率は、徐々に改善の傾向にはあるものの、1000人当たり142人(98年)と依然として高水準であり、保健医療サービスに対する援助需要は依然として高い。
(へ)環境
タンザニアの森林面積割合は約37%(95年)でサブサハラ・アフリカの中では比較的大きい。しかしながら、農地への転換、森林火災、エネルギー供給の9割をまかなっている薪、木炭の採取などにより年間30~40万ヘクタールが伐採されており、森林面積の急速な減少とともに、森林の生産機能及び環境保全機能が低下しつつある。森林をはじめとした豊富な自然資源は、将来的に有力な外貨獲得源となり得る観光資源でもあり、観光開発の可能性にも留意して森林や野生動物の保全に努めていく必要がある。また、ビクトリア湖周辺での金採掘に伴い、水銀の汚染が懸念されている。
(3)主要国際機関との関係、他の援助国、NGOの取組み
最大の援助機関は世銀であり、86年の市場経済化志向政策の採用以降、IMFとともに構造調整を支援している。国連開発計画(UNDP)はタンザニアにおける援助調整の中心であり、公務員制度改革、貧困削減、環境保全、地方政府改革、司法制度改革等を支持・支援している。国連児童基金(UNICEF)は乳幼児死亡率を下げることを目標に予防接種、母子保健、栄養、給水、衛生に関する協力を実施している。
北欧諸国も援助国として重要な地位を占めており、スウェーデンが重要政策策定に対してアドバイスを行う専門家派遣を重視し、分野別では近年エネルギー分野(水力発電等)に対する援助を増大させているほか、ノルウェー、デンマークは人的資源開発、エネルギー分野、保健分野への援助に力を注いでいる。そのほかには、英国が農林水産業分野と経済運営分野及び教育分野、EUは輸送・農業・保健など社会サービス開発に重点を置いている。
NGOに関しては、スウェーデン、ドイツ等欧州系NGOが従来より幅広く活動してきている。また、我が国NGOは、植林、有機農業、井戸掘り技術指導、難民キャンプ支援等の分野で活動の実績を有している。
援助協調及びパートナーシップの推進の必要性が主要援助国・機関間で共有されていることを反映し、貧困対策、民間投資促進等の関心を踏まえて現地における支援国会合が頻繁に行われている。
なお、タンザニアは、86年以来債務削減措置
*7の対象国となっており、重債務貧困国(HIPC)に認定されている。92年に40.8%を記録した債務返済比率(
Debt Service Ratio)は、97年においては13%と低下してはいるものの、71.77億ドル(
World Development Indicator, 1999)の対外債務を負っていることから、拡大HIPCイニシアティブ
*8を適用することが2000年4月上旬に決定されている。
<3>我が国の対タンザニア援助政策
(1)対タンザニア援助の意義
タンザニアは東部、南部アフリカの安定勢力として近隣諸国との友好関係強化に努めており、ブルンジ、コンゴー(民)における紛争の解決に向けた仲介努力や難民の受入、93年のリベリアへのPKO派遣など、アフリカの抱える諸問題に関して指導的な役割を担っている。非同盟主義、反植民地主義という二大原則を掲げつつ、従来からアフリカ統一機構(OAU)、非同盟諸国会議、国連等で積極的な活動を展開しており、アフリカ諸国の間において政治的な影響力を有している。こうしたことから、タンザニアは東部、南部地域に止まらない対アフリカ外交上の拠点国の一つと位置づけられる。対アフリカ援助の重点国として、その発展を支援し、良好な二国間関係の更なる強化を図ることは、我が国外交上の資産ともなりうる
*9。
また、タンザニアは、一人当たりのGNPが210ドルと極めて低い水準にあることに加え3000万を超える人口を有しており、援助需要が極めて大きいこと、さらには民主化や経済改革を含めた開発努力に主体的に取り組んでおり、天然資源、観光資源も豊富で潜在的な経済発展の可能性を有している。こうしたことから第2回アフリカ開発会議(TICAD II
*10)開催に象徴される我が国のアフリカ開発支援の効果を高め、我が国の国際貢献を一層進める上でも、タンザニアに対して引き続き支援を行っていくことが重要である。
92年に複数政党制を導入して以降、95年には初の大統領選挙、議会選挙を実施し、大統領、首相等の交替が実現する等、民主化が進展している。また、経済再建については、86年以降、世銀、IMFの支援を受け、構造調整、市場経済化に取り組んできている。さらに、政府は、汚職追放を最も重要な国家的課題の一つと位置づけており、ムカパ大統領以下政府が一丸となって取り組んでいる
*12。
このようにODA大綱原則の観点からは、総じて望ましい方向に向けて努力がなされていると評価しうるが、「良い統治」の推進に向けた政治の民主化、汚職防止、行政の透明性、法の支配、人権保障の面での進展を引き続き注視していくとともに、援助国の立場より助言並びに支援を行っていくことが重要である。
(3)我が国援助の目指すべき方向
(イ)我が国のこれまでの援助
66年の援助開始以降、有償資金協力は402.5億円(サブサハラ以南アフリカ域内第7位)、無償資金協力は1,017.23億円(同第1位)、技術協力は408.55億円(同第2位)と積極的に協力を行っている。98年の我が国の援助支出純額は8.337万ドルで域内諸国に対する援助としては第2位となっている。有償資金協力については、経済状況の悪化に伴い、債務繰延を除き、82年度以降は供与していない。また、タンザニアは債務削減措置が適用されていることから新規円借款供与は困難である。
無償資金協力については、保健・医療分野等の基礎生活分野を中心に、通信・放送分野、道路整備、電力供給等の基礎インフラ整備に対して協力を行っている。また、構造調整を支援するため、98年度までに合計165億円のノン・プロジェクト無償資金協力を供与した。
技術協力については、農業、工業、保健・医療等の分野で様々な形態により実施している。特に、水稲栽培等の農業開発、村落林業、中小工業開発の分野におけるプロジェクト方式技術協力をキリマンジャロ州において継続的に実施してきたほか、農業、水供給分野を中心とする開発調査も幅広く実施している。
(ロ)対タンザニア援助全体に占める我が国援助の割合
従来二国間援助はスウェーデン、デンマーク、ノルウェーなどの北欧諸国が上位を占めていたが、我が国は94年以来3年間続けて二国間援助額の第1位(96年 105.7百万ドル〔支出純額ベース〕)であり、二国間援助総額のうち17.5%を占めている。但し、97年は日本は5位(55.4百万ドル、二国間援助総額のうち9.7%)の援助国となっている。
我が国の対アフリカ開発協力は、欧州と比較してその歴史が浅い。しかしアフリカの開発努力に対する国際社会の支援を促進するため、93年に引き続き、98年10月に東京に於いて第2回アフリカ開発会議(TICAD II)を国連及びアフリカのためのグローバル連合(GCA)と共催するなど、積極的に関与する姿勢を表明している。TICAD IIのフォローアップは、アフリカ諸国との協調の下、我が国としても真剣に取り組んでいく必要がある。一方で我が国の厳しい財政状況から、またタンザニア側の自助努力を促す意味でも費用対効果の面で精緻な検討が不可欠であり、今後は質の向上も重視していく必要がある。
(ハ)今後5年間の援助の方向性
貧困の削減、社会開発、経済的自立に向けた産業支援等を対アフリカ援助の重点課題とする政府開発援助に関する中期政策
*13を踏まえつつ、今後の我が国の援助方針については、(A)農業・零細企業の振興のための支援、(B)基礎教育支援、(C)人口・エイズ及び子供の健康問題への対応並びにその一環としての基礎的保健医療サービス、(D)都市部等における基礎インフラ整備等による生活環境改善、(E)森林保全の5分野を重点分野としていくことでタンザニア側と合意しており、これに基づき援助を実施していく。
援助実施に際しては、構造調整のしわよせを受けている都市部貧困層及び地方農民といった社会的弱者に直接裨益する、基礎生活分野(BHN
*14)を対象としたプロジェクトを優先的に取り上げ、経済的格差是正に意を払っていく。更に、貧困削減の前提となる経済成長を実現する基礎インフラ(道路、下水道等)の整備にも、援助による経済成長の果実が、特定の社会層のみを益することなく、貧困層をはじめとした社会各層に分配されるよう十分に配慮しつつ、引き続き協力していく。
なお、タンザニアは債務削減措置の対象となっていることから、新規円借款の供与が困難であるため、無償資金協力や技術協力を組み合わせて効率的な援助を実施していく。
(4)重点分野・課題別援助方針
(イ)農業・零細企業の振興のための支援
国家財政の援助依存体質(国家予算の約4割が援助)からの脱却を図り、人口の約半分が絶対的貧困状態にあるといわれるタンザニアにおいて自立的経済・社会開発を達成していくためには、農業をはじめとする産業振興が不可欠である。
GDPの約5割、総輸出額の7割強を占める農業への支援はとりわけ重要である。また、労働人口の8割(1,280万人)が農業に従事し、その内7割が耕作面積2ヘクタール以下の小規模農民であることを踏まえれば、農業振興は貧困対策としての側面も有する。
農業・農村開発の観点からは、地域住民による維持管理の可能な小規模灌漑施設や農産物輸送のための道路などの農業インフラ整備や農業技術の移転が重要であり、我が国は、無償資金協力、有償資金協力、技術協力を有機的に組み合わせることによって、キリマンジャロ州の農業開発
*15に貢献した実績を有している。債務削減措置の対象となっていることからタンザニアに対しては新規円借款の供与が困難であるが、こうした経験も踏まえ、無償資金協力や技術協力を組み合わせることによって効率的な援助を実施していく必要がある。一方、貧困農民救済の観点からは、農業協同組合組織の整備・育成、及び小規模融資(マイクロ・クレジット
*16)の促進など直接小規模農民に裨益する協力が効果的である。
また、農林産物の付加価値を高めるための加工技術の普及及び企業振興等、さらには縫製、製粉、皮革製造、金属加工、窯業といった、比較的技術の習得が容易な分野における技術開発や技能訓練、及び小規模融資等による起業家支援を行うことも、零細企業の育成を通じた貧困救済には効果的であると考えられるので、協力を検討していく。
(ロ)基礎教育支援
低下しつつある就学率を改善し、人材育成の根本をなす基礎教育の充実を図ることはタンザニアの国家開発上重要である。我が国としても、タンザニアの抱える開発課題の解消には、基礎教育が重要な鍵となるとの認識の下、同国の教育セクター・プログラム
*17を踏まえ、他の援助国・機関との連携にも配慮しつつ、セクター・プログラムの中に適切に位置づける形で無償資金協力による学校施設の整備を検討していく。
一方、基礎教育の一部有料化に伴う父兄の学費負担困難が就学率低下の背景にあるともいわれている現状を勘案すれば、教育自体の必要性に対する理解が国民一般に共有されるよう教育内容自体についても改善する必要がある。この観点より、教育政策アドバイザーの派遣等を検討し、教員の質的向上を支援するための教員再教育プログラムへの支援を検討していく。この場合には、他の援助国・機関とも協調しつつ、我が国が経験豊富で比較優位を有する理数科教育分野を担当していくことが妥当と考えられる。また、基礎教育課程への簡単な保健衛生教育の導入やラジオ放送等を利用した遠隔地教育、さらには成人教育への支援等、我が国独自の工夫を打ち出すことが望ましい。
(ハ)人口・エイズ及び子供の健康問題への対応
保健医療分野に対する我が国の協力は、これまで中核病院や難民地区への医療器材の供与や、マラリア抑制のためのプロジェクト、ポリオワクチン全国一斉投与計画への支援、母子保健分野で実施され、大きな評価を得ているが、タンザニアの置かれた状況を勘案すれば、引き続きこの分野における協力を継続することが重要である。
今後は、特に地方における医療サービスを充実していくことが大きな課題である。多くの地区レベルでの基礎的な医療技術の向上、及び地区医療センター、地方病院、中央病院に繋がるリファーラル体制
*18の充実、更には衛生知識に関する住民啓発活動等を充実させていくことが重要である。
また、我が国は、タンザニアを「人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティヴ」(GII
*19) の重点国の一つと位置づけており、開発福祉支援事業
*20などにより住民のHIV感染予防、家族計画に関わる教育・啓蒙活動実施を支援していく。
なお、保健分野においてもセクタープログラムが策定され段階的に実施されているところ、我が国としてもこれを踏まえて、他ドナーとの連携にも配慮しつつ協力を検討していく。
(ニ)都市部等における基礎的インフラ整備等による生活環境改善
都市部の人口増加により、道路、橋等の輸送網、通信、送配電網、上水道、下水道、廃棄物処理施設といった基礎インフラ整備の必要性が高まっていることから、我が国としては、今後とも、他の援助国・機関との連携・役割分担を行いながら協力を進めていく。特に首都ダルエスサラームについては、我が国はこれまで舗装道路総延長の20%、全送電網の40%、電話回線の30%を整備しているものの、未だ首都機能を担うには不十分な状況にあることから、引き続き支援を検討していく。
一方、地方主要都市及び地方都市間のインフラ整備も、地方都市貧困層の生活環境改善やその副次的効果としての首都への人口流入防止等の観点から重要である。更に、近隣諸国(ウガンダ、ザンビア、マラウイ等)を視野に入れた広域インフラの整備も地域間経済協力の促進には重要である。具体的には地方の主要幹線道路の整備、南部地域の水資源開発等に可能な支援を検討していく。
(ホ)森林保全
森林が国土の約3分の1を占めているものの、人口増加に伴う耕地拡大、薪、木炭など燃料用としての採取などの結果、森林喪失が進んでいる。森林は、水資源の確保や土壌保全の機能に加えて将来の外貨獲得源となりうる観光資源でもあり、タンザニアにとって多面的な重要性を有している。
緑の推進プロジェクト
*21等これまで我が国が行ってきた協力は期待された成果を挙げたが、今後もこうした森林の重要性を踏まえ、引き続き森林の持続的開発に対する協力を進めていく。その際には、奥地でのフィールド活動が可能な援助人材を比較的効率的に確保出来るという観点から、現地NGO等を積極的に活用することや、森林資源を管理するアドバイザーの派遣等も検討する必要がある。
(5)援助実施上の留意点
(イ)援助受入体制の強化
タンザニア政府の援助受入能力は、政策策定能力や実施能力の不足等もあり十分とは言えないため、個々の案件については、事前の調査を通じて先方実施機関の援助吸収能力(人員・予算手当て等)に留意しつつ、案件を採択することとする。実施中の案件についても、内貨予算の手当てや管理・運営体制の確立等につき不断の注意を払っていく。また、政策提言等に関する個別専門家を派遣するなどして、援助受入能力自体を強化する支援も重要である。
更に「良い統治」との関連では、政府・行政組織における透明性の向上等にも十分な配慮を払っていく必要がある。
(ロ)NGO、他の援助国・機関との連携
現地において支援国会合が頻繁に行われている現状を踏まえ、我が国としても他の援助国・機関と協調して効率的・効果的な援助の実施に努めていく。
なお、教育、保健の両分野で既に具体的なセクター・プログラムが策定され、段階的ながら実施に移されている。我が国は、タンザニアをサブサハラ・アフリカにおけるセクター・プログラム実施の重点国と位置づけ、教育分野を重点セクターとして他の援助実施国・機関との協議に積極的に参加していく。セクター・プログラムへの具体的対応としては、環境・社会開発セクター・プログラム無償
*22の活用、JICA企画調査員の拡充ないしは柔軟な活用、政策アドバイザー型専門家の派遣を通じて、セクター・プログラムを踏まえた案件形成や、開発調査によるセクター開発計画への貢献などを検討していく。
また、農業技術の普及や教育などの分野における技術協力においては、NGO等との連携を図り、きめ細かい活動で直接住民に裨益するプロジェクトの実施を重視していく。
更に、拡大HIPCイニシアティヴの適用が決定されたことから、現在、タンザニアは貧困削減戦略ペーパー
*23の策定に取り組んでいるが、可能な限り我が国の意見を同ペーパーに反映させるべく、その策定過程を注視していく。また、タンザニアの主体性(オーナーシップ)尊重の観点から、具体的な援助を実施していく上でこの貧困削減戦略ペーパーを十分に考慮していく必要がある。
(ハ)債務管理能力の強化
上述のとおり、タンザニアには拡大HIPCイニシアティブの適用が決定されている。しかしながら債務救済を行うだけで経済発展が達成される訳ではなく、対外資金の活用や債務の管理能力を高めることが重要であることから、債務管理能力の強化に向けた支援を行っていく。
(ニ)域内協力
ビクトリア湖、タンガニーカ湖等の水路を隣国と共有し、ザンビア、ウガンダ、ルワンダ等内陸国への輸送ルートにもなっているタンザニアの地域開発振興は、単にタンザニアのみの問題としてではなく、近隣諸国の共通の課題であり、関係国の関心が高い。また、主要農業地域が国境沿いに展開しており、隣国との国境を越えた流通も盛んである。したがって、インフラのみならず農業開発や流通機構の整備などへの支援についても隣国への配慮が必要である。そのため、地域全体の開発を視野に入れて、近隣国との関係や他の援助国・機関との協調に特に留意しながら案件形成を図っていくことが重要である。
(ホ)南南協力推進
これまでの我が国の協力実績を踏まえ、技術移転や人的交流の促進を通じ、地域の発展と安定に資するよう南南協力を推進していくことが必要である。エイズ、マラリアといった感染症や寄生虫への取組についても、特定国のみならず地域レベルでの取り組みが、その効果を高めるためにも重要である。我が国が今後タンザニアにおけるこうした分野における協力を進めていく上で、現在アフリカ地域の感染症・寄生虫対策拠点として検討されているケニア中央医学研究所(KEMRI)や、ガーナの野口記念医学研究所との有機的な連携を図ることも積極的に検討し、南南協力の着実な促進を図っていく。