<1>最近の政治・経済・社会情勢
(1)政治情勢
*1:「ピープルパワー」
1986年2月のマルコス政権からアキノ政権への政権交代劇。エドサ革命、2月政変とも呼ばれている。
2月7日に大統領選挙が繰り上げ実施されたが、集計が大幅に遅れ、マルコス、アキノ両陣営がそれぞれ勝利宣言を行うなど、事態が紛糾する中、別途22日にエンリレ国防相とラモス参謀総長代理が反マルコスを宣言し、国軍基地に籠城した。シン枢機卿がアキノ派にエンリレ・グループを支援するよう強く呼びかけたため、基地前のエドサ大通りに群衆が続々と集まり、マルコス大統領が派遣した戦車の進軍を丸腰の群衆が阻むなど、ピープルパワーは大きな盛り上がりを見せた。25日、マルコス大統領の家族は米軍のヘリコプターでマラカニアン宮殿を脱出しハワイに亡命。これをもって、20年以上にわたったマルコス政権は幕を閉じた。
<2>開発上の課題
(1)フィリピンの開発計画
*2:DAC「新開発戦略」
1996年5月、経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)において、21世紀の援助の目標を定めるものとして「新開発戦略(21世紀に向けて:開発協力を通じた貢献)」と題する文書が採択された。この開発戦略は、地球上のすべての人々の生活向上を目指し、具体的な目標と達成すべき期限を設定している。具体的には、(A)2015年までの貧困人口割合の半減、(B)2015年までの初等教育の普及、(C)2005年までの初等・中等教育における男女格差の解消、2015年までの(D)乳幼児死亡率の1/3までの削減、(E)妊産婦死亡率の1/4までの削減、(F)性と生殖に関する健康(リプロダクティブ・ヘルス)に係る保健・医療サービスの普及、(G)2005年までの環境保全のための国家戦略の策定、(H)2015年までの環境資源の減少傾向の増加傾向への逆転という目標を掲げている。この目標達成に向け、先進国及び開発途上国が共同の取組みを進めていくことが不可欠として、グローバル・パートナーシップの重要性を強調している。
(3)主要国際機関、他の援助国、NGOの取組み
*3:EFF(拡大信用供与措置)
国際通貨基金(IMF)から加盟国に対し行われる貸出制度の一つ。通常のクレジット・トランシュ(条件付貸出。引出は通常1年)に代わって割当額の140%までの資金を供与する制度で、1974年に導入された。貸出は3年またはそれ以上にわたる分割で実行され、返済期間は10年間。
*4:スタンドバイ取極め
短期の国際収支困難に陥った国を支援するIMFの融資制度
<3>我が国の対フィリピン援助政策
(2)ODA大綱原則との関係
*5:政府開発援助大綱(ODA大綱)
我が国のODAの理念と原則を明確にするために、援助の実績、経験、教訓を踏まえ、日本の援助方針を集大成したODAの最重要の基本文書であり、平成4年6月30日に閣議決定された。内容は、基本理念、原則、重点事項、政府開発援助の効果的実施のための方策、内外の理解と支持を得る方策及び実施体制の6部から構成される。「基本理念」において、(A)人道的見地、(B)相互依存関係の認識、(C)自助努力、(D)環境保全の4点を掲げている。また「原則」において、「相手国の要請、経済社会状況、二国間関係等を総合的に判断」しつつ、4項目への配慮、すなわち(A)環境と開発の両立、(B)軍事的用途及び国際紛争助長への使用回避、(C)軍事支出、大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造、武器の輸出入等の動向に十分注意を払うこと、(D)民主化の促進、市場指向型経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払うこと、を定めている。
(3)我が国援助の目指すべき方向
*6:対フィリピン多国間援助構想(MAI:Multilateral Assistance Initiative)
フィリピンの持続的成長を達成すると同時にフィリピンの援助実施・吸収能力を高めるための制度改善、構造改革を促すことを目的とする国際的支援の枠組みであり、これを受けて1989年に東京にて対フィリピン援助国会合が開始された。
*7:民間資金(PF)
民間資金の流れ(Private Flow)。経済協力のうち、ODA(政府開発援助)およびその他の政府資金の流れ(OOF)以外の資金の流れを指す。具体的には、民間金融機関・企業による輸出信用、直接投資、証券投資、対外貸付などで構成される。
*8:ODA以外の公的資金(OOF)
その他の政府資金の流れ(Other Official Flows)。政府資金による開発途上国への経済協力のうち政府開発援助(ODA)に含まれないもの、特に二国間政府取引であって緩和された条件でないもの、あるいは緩和された要素があっても本来貿易促進を目的とするもの、および政府ないし中央銀行による国際機関発行債券の取得で市場条件によるものをいう。
(4)重点分野・課題別援助方針
(イ)持続的成長のための経済体質の強化及び成長制約要因の克服
*9,10:フィリピンにおける我が国支援による貢献例
我が国は、円借款により、全発電設備容量の8%、全送電線延長の4%を整備し、また国道の13%を修復・改良した。
(ロ)格差の是正(貧困緩和と地域格差の是正)
*11:プライマリ・ヘルス・ケア
地域で住民があらゆる意味において受け入れやすい必要不可欠な基礎医療が、住民参加を通じて、地域状況に合ったレベルで提供され保持されることである。
(ニ)人材育成及び制度造り
*12:理数科教育パッケージ協力
1987年に我が国の無償資金協力で建設された理数科教師訓練センターを活用しつつ、プロジェクト方式技術協力、専門家派遣、研修員受入、青年海外協力隊派遣等の援助スキームを有機的に活用し、中央及び地方の初等・中等理数科教育に携わる行政官、教員指導者、教員に対し、理数科教育の質的向上に資する統合的な技術移転を行うもの。
*13:日・ASEAN 総合人材育成プログラム
経済の持続的発展のために、政治的リーダーや行政官、民間実務者等を対象に人材育成を行うプログラムであり、1997年2月の日・ASEAN首脳会議において橋本総理(当時)により提唱された。