ODAとは? 援助政策

ペルー国別援助計画

<1>最近の政治・経済・社会情勢

(1)政治情勢

 1980年代以降民主的政権が定着している。90年にフジモリ政権が誕生し、92年には国家再建を推進するためとして憲法の一部停止措置を発動したが、93年12月には国民投票により承認された新憲法を施行し、経済・財政健全化、構造調整、インフレ抑制、国際金融社会への復帰、テロ対策等の面で多くの成果を収めた。
 95年には、フジモリ大統領は、失業対策、貧困対策を公約に掲げ、64%の得票率を得て再選された。その後、2000年4月の大統領選挙において同大統領は三選を果たしたが、米、EU諸国をはじめとした国際社会からはより一層の民主化を強く求められた。
 フジモリ政権による経済の安定化、治安の回復もあり、政治的には概ね安定した状態であるが、景気回復、貧困・失業問題では取り組むべき課題は多い。
 外交面では、前世紀からの懸案であったエクアドルとの国境問題において98年10月に和平合意が成立した(99年5月に発効)のに加え、99年11月にはチリとの間での懸案であったアリカ地域(太平洋側の良港)の利用に関する合意が成立したことに伴い、国境地域での開発に関心が払われつつある。

(2)経済情勢

 1980年代後半には累積債務の負担からペルー政府は対外債務支払制限措置をとり、その結果、国際通貨基金(IMF)、世銀及び米州開発銀行(IDB)から融資不適格宣言を受けた。政府は内需拡大策をとる中で、インフレの昂進、外貨準備の枯渇、財政赤字の拡大が進展し経済情勢が急激に悪化し、88年以降、年間インフレ率は1,000%を超えるなど(90年には7,650%)、経済は破綻状態となった。
 フジモリ政権は世銀、IMF等との間で経済再建計画につき合意して、国際支援措置の取り付けを実現し、国際金融社会に復帰を果たした。また、経済安定化及び生産回復を目的とする幅広い経済自由化措置を次々と打ち出し経済の回復を図ってきた。
 具体的には、財政収支の改善を目的とした価格体系の変革、各種公共料金の大幅値上げ、財政支出の削減、緊急課税措置等により一桁台のインフレ率(98年には6.0%)に象徴される経済安定化を達成した。また、貿易政策では関税の大幅な引き下げ等輸入自由化の奨励、輸出振興のための税制面での優遇措置等を実施した。更に、国営企業の民営化、各省経費の10%削減、公務員削減等の行政改革を行った。
 その結果、実質GDP成長率は93年からの3年間は年平均約9%、96年2.5%、97年7.2%まで回復し、中南米諸国の中でも高水準の経済成長を達成している*1。公共部門での財政基本収支では黒字基調で推移しており(対GDP比1%台)、借款等への利払いを差し引いた全財政収支においても97年には初めて均衡が図られた。貿易赤字では、91年以降95年までは高成長による輸入増大により対前年比2倍のペースで増加したが、96年以降は減少基調にある。経常収支赤字の対GDP比は95年の7.3%をピークに近年は5%台で推移している。
 98年には、エル・ニーニョ現象*2による漁業・農業への影響、世界経済の鈍化、重要な外貨獲得手段である鉱産物の国際価格の低迷もあり、成長率は0.7%に低下した。99年に入ってからは回復基調に転じ、同年の成長率は3%台を記録したが、税収が落ち込んでおり、財政収支改善に向け財政節度・透明化法を制定するとともに、IMFをはじめとする国際機関と協調しつつ経済改革を実施中である。

(3)社会情勢

 社会政策上の最大の課題は、テロや一般犯罪の一因とも指摘される貧困問題の解決である。ペルーの人口は1960年の約1,000万人から97年の2,437万人へと増加した。この間、政治、経済の不安定が続く中で農村部の貧困が進んだため、農村部から都市部へ急速に人口が流入し、都市周辺部と旧市街地のスラム化が進行した(都市人口割合は65年の52%から97年には72%)。
 最低生活の維持が困難な貧困層の割合は、フジモリ政権による貧困層に対する社会政策の実施により減少がみられるものの(91年の55.3%から97年の49.0%)、依然として貧困層の割合は高く、その内20%は最低必要カロリーを摂取できない最貧困層に分類されている。所得階層別の人口分布では、所得階層の下位20%が占める所得の割合は4.4%で、上位20%が51.2%を占めている(96年)。また、地域的には、都市部では貧困層が約40.0%であるのに対し、山岳地帯農村部では約64.7%と地域間格差が大きい。
 就業労働人口711万人の内34%はリマに集中している。96年の完全失業率は7.9%、不完全就業率は42.6%と約半数が不安定な就業状況となっている。
 また、社会開発の状況としては、乳幼児死亡率並びに5歳未満の死亡率が高いほか(1,000人当たりそれぞれ40人、52人:97年)、妊産婦の死亡率も高い(10万人当たり280人:90~97年平均)。

(4)治安状況

 テロ及び一般犯罪状況は大幅に改善している(テロ関連の死亡者数は1989年3,261人から98年113人)。テロ組織は治安当局の取締による指導者の逮捕により押さえ込まれており、テロ組織が完全に壊滅されたわけではないが、大規模なテロ活動を行うことが困難な状態となっている。一般犯罪についても、98年の法改正により犯罪への罰則強化、武器の所持を軍・警察に限定する等の措置を講じたために減少してきている。
 テロ活動はアンデス山脈東側・アマゾン川森林地帯で行われているコカ栽培を資金源としており、かつて麻薬輸出はGDPの4%に達していたと見積もられている。

<2>開発上の課題

(1)ペルーの開発計画

(イ)ペルーの開発計画

 フジモリ政権下においては長期的かつ総合的な開発計画はなく、セクター毎に個別の開発計画を策定している。各省を横断的に調整する機関がないため必ずしも個別開発計画間の優先順位も決定されておらず、時々の政治的判断で決定されがちである。
 マクロ経済指標達成目標としては、IMFとの合意で99年から2001年にかけては、インフレ率を5~6%に維持した上、2001年までには3%まで低下させること、GDP成長率では99年に3%を達成し、2001年までには6%に引き上げることとしている。

(ロ)「DAC新開発戦略」*3の目標との関連

 人間中心の開発を目標としたDAC新開発戦略との関連では、ペルーはその趣旨に沿った独自の具体的開発目標を掲げている。97年6月には、95年時点での最貧困層人口を2000年までに50%削減(450万人→220万人)することを目標とし、その達成のために「貧困との戦いに関する集中戦略1996-2000年」を策定し、以下のような社会セクター支援、社会インフラ整備及び経済インフラ整備を重点的な施策としている。また、このため必要な社会投資総額を27億ドルと推定している。

 (a)社会セクター支援:社会的弱者を対象とした食料援助プログラム、家族構成員の多い家庭に重点を置いた家族計画プログラム等
 (b)社会インフラ:教育用機材、保健所、診療所及び医療機材、上下水道整備等
 (c)経済インフラ:運輸(道路、橋梁、トンネル等)、小規模灌漑(小規模ダム、導水溝、排水溝、井戸等)、電化(小規模水力又は火力発電所の建設・改修、送電線敷設、太陽光パネル等)等

 なお、上記目標達成期限は2000年となっているが、ペルーはDACの目標に合わせて今後5年ごとに目標を設定していくこととしている。

(2)開発上の主要課題

(イ)貧困緩和と雇用促進

 第二次フジモリ政権は、貧困対策を政府の最優先課題としているが、貧困対策には、人間としての基本的なニーズ(Basic Human Needs*4充足を目的とした保健医療状況の改善(母子保健、家族計画、医療施設整備)、教育の向上(非識字率の削減、基礎教育の普及、教員の質向上)、生活インフラ整備(住宅、上下水道、道路)などが必要である他、貧困の原因になっている失業、男女間格差、都市と農村の格差への取り組みも不可欠であることから、雇用促進を図り、中小企業をはじめとする産業の振興、人材育成(職業訓練、農業技術向上)も重要な課題になっている。

(ロ)民営化推進と投資水準の維持

 ペルー政府は、90年以降、積極的に国営企業の民営化を進め民営化に伴う収入を財政資金及び外貨準備の積み増しに活用するとともに、外資導入にも成功し、これらを経済発展の原動力としてきた。経営効率化の観点からも今後とも民営化を推進していくことが望ましいが、民営化が比較的容易な分野では既に相当進展しており(97年5月現在で141社が民営化され、民営化による収入は70億ドル)、今後、更なる民営化を如何に推進し民営化収入を確保していくか、また、投資水準を維持していく観点からも直接投資を如何に促進していくかが経済発展の上で一つの鍵となり、わが国を含む民間投資が促進される環境が整備されることが重要である。

(ハ)輸出競争力の強化

 恒常的な経常収支赤字を解消するには、輸出産業の多角化及び輸出産品の多様化を通じた輸出競争力の強化が必要である。そのためには、まず中長期的な産業投資、貿易政策及び中小企業育成策の策定とともに経済インフラの整備が必要である。

(ニ)累積債務問題の改善

 98年末の対外債務累積総額は300億ドル(推計)、債務返済比率(DSR)*5は44.5%(95年)から30.9%(97年)と改善基調にあり、現在債務返済の延滞は生じていないが、対外債務現在価値/GDP比は45%、対外債務現在価値/財・サービス輸出額比は293%と依然として高水準にあり、債務返済のピークも2002年~2003年に到来する見込みである。外貨準備高は90年末に531百万ドルであったが、97年末には10,824百万ドルとなっており、輸入額の12か月分をカバーするまでに改善している。債務内容は、大部分が中長期債務で、かつ公的債務であり、短期債務は全体の約17%となっている。アジア通貨危機以来、短期資本の流入は減少傾向にある。歳出の24%(97年)が債務の元利払いに当てられているため、開発予算の確保は制約を受けており、開発推進の観点からも累積債務問題の改善が重要である。

(ホ)テロ対策

 テロ活動は収束しつつあり、非常事態宣言地域は2000年2月29日をもって全国的に解除されているが、一般犯罪の取り締まりとあわせ、引き続き政府の有効な対応策が必要である。

(3)主要国際機関との関係、他の援助国の取組

 支出純額ベースでみると、二国間ODAでは96年は日本が1位(20.3%)、米国が第2位、第3位はドイツ、97年では米国が1位、ドイツが第2位、日本は第3位となっている。また、国際機関では、国連開発計画(UNDP)、EC委員会(CEC)が主要な援助機関となっている。
 また、93年以降ペルーは世銀(IBRD)、IMF、米州開発銀行(IDB)とも良好な関係を保っており、定期的に融資を受けている。94年には世銀はリマ事務所を再開、ペルーに対する主要な目標を貧困緩和とし、社会開発、インフラ整備、行政制度の構築、マクロ経済の安定化に対する支援を行っている。また、国連開発計画(UNDP)は予算の相当部分を貧困対策と保健・衛生等の社会プログラムに充てている。なお、我が国の主導により援助協調を促進するための協議も開始されている。

<3>我が国の対ペルー援助政策

(1)対ペルー援助の意義

 以下のとおり、ペルーとは、同国における日系移住者の長期的な努力にもあずかり、緊密かつ友好的関係を有している。また、ペルーが民主化と市場経済化、更には麻薬やテロ問題の原因となる貧困対策を意欲的に進め、かつ、APECに参加し太平洋国家としての関係強化に努め、一部その成果を収めつつあることを考えれば、援助を通じてこうした努力を引き続き支援することは、同国との関係の維持・強化に貢献するとともに、中南米地域における我が国外交の幅を広げ、かつ、鉱物資源等の安定的な確保等にも資する。

(イ)歴史的繋がり

 我が国は、1873年にペルーとの間で日秘友好通商条約を締結し、中南米諸国の中で最初の国交を樹立した。また、1899年、日本人が南米大陸で初めて同国に移住している。1999年5月には日本人ペルー移住百周年記念式典が行われ、清子内親王殿下が出席されている。現在、日系人数は10万人を越え、ペルー国内でも重要な役割を果たし、対日感情も良好である。在留日本人数(含む永住者)は2,620人(98年10月)となっている。また、両国の首脳が頻繁に相互訪問するなど両国の関係は緊密になっている。

(ロ)政治的重要性

 我が国の対中南米政策上、域内において国土、人口、資源等において中規模の国力を保有し、我が国の友好国であるペルーと関係を強化していくことは重要な意義を有している。我が国は、ペルー国内の世論調査(97年)では、友好国として第2位、最も賞賛すべき国として第1位、経済関係を深めるべき国として第1位となっている。また、ペルーは太平洋側の国家としてアジア太平洋地域にも関心を示しAPECにも参加している。
 さらに、南米地域では、麻薬の栽培が行われており、麻薬を資金源とする組織によるテロ活動が頻発している。テロの頻発はその国の安定を揺るがし、更には地域的な安定をも脅かすものであり、ペルーへの援助は貧困緩和を通じて麻薬・テロ対策に資することとなり、国際的な平和構築に貢献するものとなる。

(ハ)経済的重要性

 わが国は、ペルーより鉱産物、魚粉、コーヒー、綿花、繊維製品、非鉄金属等を輸入しており、とりわけ銅地金等の鉱物資源について同国は我が国にとって重要な輸入元となっている(98年輸入額217百万ドル)。ペルーには我が国より自動車、電気機器等の工業製品を輸出しており(98年輸出額340百万ドル)、98年はわが国の輸出超過となっているが、これまではわが国の輸入超過基調で推移してきている。ペルーの輸出相手国として、わが国は米国、スイス、英国、中国、独に続く第6位(3.9%)(98年:IMF、DOT)。貿易全体では、我が国は、ペルーにとって米国、スペイン、スイス、チリ、独に続く第6位となっている(98年:IMF,DOT)(わが国の対外貿易に占めるペルーの割合は0.1%程度)。なお、現在、24社の日本企業が、商業、製造業、建設・プラント業、鉱業、水産業等の分野で進出している。
 日本の対ペルー直接投資は96年までの累計で2,054億円で鉱山開発が中心となっている。経済及び治安の状況から、ペルーへの投資はそれほど行われてこなかったが、フジモリ政権以降、投資環境が整備されつつあり、今後の増加が期待される。また、92年に日本商工会議所とペルー民間企業協会連合会は両国の民間レベルでの経済交流の促進を目的とした日本ペルー経済協議会を設立した。
 98年からはペルーがAPECに参加し、今後、ペルーはアジア・太平洋地域との関係強化に努めるものと考えられ、日秘両国間の経済関係についても一層の拡大が期待される。

(ニ)DAC新開発戦略との整合

 依然として貧富の格差が存在する中で、ペルー政府は社会開発政策の中で独自の具体的目標を掲げるなど、主体性(オーナーシップ)を発揮しながらこの問題に取り組んできている。これは我が国ODA実施の基本的考え方であるDAC新開発戦略の趣旨とも合致しており、ペルーにおいて新開発戦略の実施を重点的に支援していく条件が整っている。

(2)ODA大綱原則*6との関係

 ペルー政府は、貿易及び投資の自由化、国営企業の民営化等の市場経済化を進めており、経済自由化に向けたペルー政府の積極的努力は評価できる。
 基本的人権及び自由の保障については、非常事態宣言地域の指定により、そうした地域では基本的権利の一部制限等はあったものの、右対象地域は撤廃されており、評価できる。
 さらに、国境線をめぐるエクアドルとの紛争終結の合意が1998年10月に成立したことに伴い、フジモリ大統領は、軍事支出を開発予算、特に社会セクターへ振り向けるなど「平和の配当」を表明している。

(3)我が国援助の目指すべき方向

(イ)我が国のこれまでの援助

 98年度までのわが国の援助累計実績は、有償資金協力は3,026.65億円で中南米地域内で第1位、無償資金協力は481.95億円で域内第3位(以上、交換公文ベース)、技術協力は367.05億円で域内第5位(JICA経費実績ベース)と積極的に協力を行ってきている。98年の我が国の支出純額は8,014万ドルで、域内第2位である。
 有償資金協力については、90年以降、貿易、金融、厚生(医療)等の分野におけるセクター・プログラム・ローン*7を中心に実施してきたが、96年より円借款の年次供与国として位置付け、水力発電等の大型プロジェクトのほか、上下水道整備、零細農家支援*8などの貧困層が直接裨益する案件に対して供与してきている。
 無償資金協力については、近年保健・医療、教育等の分野における一般プロジェクト無償のほか、食糧増産援助、文化無償、ノンプロジェクト無償*9等の協力を行っている。また、草の根無償では、日米コモン・アジェンダ*10の枠組みにおける麻薬代替作物への支援等を行っている。
 技術協力については、小規模企業対策*11、環境対策、保健・医療などの分野を中心とする研修員受入れ、第三国研修等を中心に行っている。

(ロ)今後5年間の援助の方向性

 98年2月、わが国経済協力総合調査団とペルー政府の間において、中長期的視点に立った今後の経済協力の重点分野について、貧困対策、社会セクター支援、経済基盤の整備、環境保全の四分野とすることが合意された。このうち、貧困対策が最重要課題とされているが、具体的には保健、教育といった社会開発分野への支援に加え、基礎インフラ整備、市場アクセス強化(情報へのアクセス、法的・金融制度等の整備)等を通じた生産能力向上支援をも含んだものとなっており、その自助努力に対する援助を効果的・効率的に進めていくこととする。
 また、所得水準の点では一般無償適格基準を上回っていることから、99年には今後の資金協力を段階的に無償から有償資金協力を中心とした援助形態に移行していくことにつきペルー側と合意している。なお、草の根無償資金協力については貧困対策の観点から効果が高く地方・山岳地帯を対象とする案件等を中心に引き続き行っていく。
 有償資金協力については、わが国ODAを巡る厳しい状況を踏まえ、援助の質の向上を図りつつ効果的・効率的に実施していくこととする。具体的には96年より円借款年次供与国となり、わが国から定期的かつ安定的な開発資金の供給を想定しうることから、引き続きペルーからの要請に基づき経済・財政・債務状況、二国間関係等を勘案しながら検討の上進めていくこととする。そのために、中長期的な観点から、案件の成熟度を高めつつ、円借款の一層の効果的・効率的実施を図っていくためのロングリスト*12の作成を進めていく。また、ペルーにおいては、民営化(コンセッション*13)により民間資金・技術を活用する経済インフラ・プロジェクトが増加しつつあり、民間部門及びODA以外の公的資金(OOF)と円借款との役割分担、連携等を重視しながら、民間部門、またはOOFでの対応が難しい案件について支援を行っていく。
 更に、各プロジェクト実施機関のプロジェクト形成、執行能力の向上のため、ペルー側の円借款手続きを習熟させる努力を継続していくとともに、実施体制整備を支援していく。
 経済協力に係るわが国からの人の派遣に関しては、治安情勢の動向を踏まえ、安全に最大限の注意を払いつつ実施していくとともに、ペルーの治安情勢のため91年以降8年に亘り非常に限定的なものとなっている我が国技術協力関係者の派遣について、安全を確保しつつ協力を徐々に拡大していく。
 なお、我が国はペルーにおいて「DAC新開発戦略」の考え方を重点的に実施していくこととしており、多様なスキームを組み合わせて援助重点分野に適合する案件を形成し、円滑に実施していくために、関係する中央政府機関に対し政策助言型専門家*14の派遣を継続していく。
 また、2000年大統領選挙における国際社会からの批判を受けて、フジモリ大統領が民主主義の強化のために最大限の努力を払うとの姿勢を示していること及びペルーにおける民主化は、ペルーのみならずアンデス地域の安定にも資することをも勘案し、我が国としてもペルーの民主化を支援していく。

(4)重点分野・課題別援助方針

(イ)貧困対策

 都市と地方の所得格差や農村開発が大きな課題となっていることを踏まえ、農業生産のインフラ及び生産方法の近代化支援を重点として、資金協力を通じた給水・小規模灌漑に関わるインフラ整備等の協力、零細農民への資金貸付等の協力を検討する。基礎的生活基盤(BHN)では、今後も上下水道整備を中心とした協力を推進する。また、非合法なコカ葉栽培に対する代替作物の栽培については、日米コモン・アジェンダ推進の観点からも引き続き協力を行う。
 また、劣悪な生活環境は貧困問題と密接に関連していることを踏まえ、貧困地域の生活環境改善に資する事業について支援を進める。

(ロ)社会セクター支援

 初等教育就学率、識字率ともに都市・農村間及び男女間の格差が大きいことを踏まえ、現職教員の再訓練・研修、教材・教育機材整備等を支援する。妊産婦及び幼児の死亡率が高いことから、母子保健、家族計画の推進とともに、保健・医療施設への機材供与や医療従事者の育成に関する協力を重視する。なお、社会セクター支援に当たっては、新しい情報通信技術の活用も検討していく。

(ハ)経済基盤整備

 持続的成長を維持していくために不可欠な運輸(道路、空港、港湾)、電力、情報通信等の経済インフラの整備につき、民営化の動向、遠隔地等地方への対応も念頭におきつつ協力する。また、食料生産の拡大等農林水産業の体質強化・改善、輸出の主要な担い手となっている鉱業部門における環境に配慮した鉱山開発の推進及び石油・天然ガス等のエネルギー関連のインフラ整備を進めるほか、観光開発も重視していく。

(ニ)環境保全

 持続可能な開発を進める上で環境問題への対処は不可欠であり、ISD構想(21世紀に向けた環境開発支援構想)*15に基づき、大気・水質汚染対策や廃棄物処理、産業公害対策等の公害問題対策や温暖化等の地球環境問題対策を中心とした支援を進める。更に、エル・ニーニョ現象等による自然災害への予防・復旧対策の検討が必要である。

(5)援助実施上の留意点

(イ)援助受入体制の強化

 経済協力受入の窓口は、無償資金協力及び技術協力は大統領府国際技術協力局(SECTI)であり、国際機関及び2国間の有償資金協力は経済財政省(MEF)となっている。それぞれの受入能力については、SECTIは総じて高い能力を有し、また、MEFについても投資室の能力は相対的に高い。円借款については、これまで執行率が低いことが問題の一つとしてあげられており、99年に入って大きく改善の方向にはあるが、事業の進捗状況について引き続き注視していく必要がある。今後更なる受入体制強化のためには、個々の受入機関との対話の充実とともに、先方受入窓口機関間のより緊密な連携が求められ、これにより、経済協力受入に関する一貫性や整合性の確保、優良案件の発掘・形成・実施につなげることが重要である。現在、SECTI及びMEF投資室にJICA専門家を派遣し、技術協力に係るプロジェクトの調整、人材育成、資金協力に係る調整、技協・無償と有償の連携推進等が行われていること、JICA現地事務所及び新たに開設された国際協力銀行(JBIC)現地事務所との間で緊密な対話の促進が図られていること等により、今後これら受入機関のさらなる能力の向上が期待される。

(ロ)他ドナー、国際機関等との連携

 ペルーには主要国、世銀、米州開発銀行等からの援助がなされていることから、既に一部のセクターで行われている、現地でのドナー会合等を通じたこれら機関との対話とともに、協調等による相互補完的な援助を実施していく必要がある。

(ハ)我が方の実施体制等の課題

 有償資金協力の年次供与対象国となり、98年度にはペルーは中南米で第2位の我が国ODAの受取国(支出純額ベース)となっている。ペルーからのわが国への経済協力に対する期待は大きいものの、人の派遣を伴う経済協力が限定的に行われていること、案件選定に要する期間が長いこと、わが国の各経済協力スキーム間での連携が十分でないことが問題となっている。
 今後の協力に当たっては、わが国経済協力のスキーム間のより一層の連携を図っていくことが必要である。
 また、先方政府内での案件形成能力の強化を支援するとともに、先方政府及び援助受入機関、我が方関係機関(在ペルー大使館、JICA、JBIC事務所)の間で定期的な対話の場を設置する等によって、プロジェクトのロングリスト化を進める等中期的開発需要をにらんだ計画的な協力体制を構築していくことが必要である。

(ニ)安全対策への配慮

 今後とも、安全について考えうる限りの具体的措置をとっていくとの考え方の下で人の派遣を検討していくこととし、その際、地域の状況等に応じたよりきめ細かい対応を行っていくことが必要である。

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