<2> 開発上の課題
(1)マレーシアの開発計画
※1 ここでいう「先進国」とは、1991年にマハディール首相が発表した国造り構想「ヴィジョン2020」に示されている目標で、マレーシアを2020年までに、単に経済面だけでなく政治、社会、精神、文化のあらゆる面で完全に発展した国家とすることを目指すとされており、このような意味を有している。
※2 NDPでは、二大目標として国民の統合及び貧困の撲滅・社会の再編成を掲げつつ、ブミプトラ政策(各人種間の融和を図りつつ、非マレー系に比して相対的に貧困なマレー系の経済的地位を向上させること)の柔軟な運用を行うことを謳っている。
※3 第7次マレーシア計画の概略は表2-1に挙げたとおりであるが、特徴的な点としては以下が指摘される。
- 様々な地域の後発途上国との関係強化、市場拡大
- 情報通信技術(IT)の拠点形成による優位の確保
- 戦略産業の育成
また、第7次計画の中間見直し(Mid-Term Review)では表2-2の諸点を開発の主要課題として掲げている。
表2-1 第7次マレーシア計画の概要
|
第7次開発計画の目的 |
主要推進課題 |
現状課題 |
| (1)マクロ経済の安定 |
価格上昇を抑えた金融財政政策
国内資本による投資の促進
経常収支の改善・サービス部門強化育成 |
インフレ圧力
経常収支の赤字
国際競争の激化 |
| (2)貧困緩和と社会再編
|
所得格差、人種格差、地域格差の緩和
最貧困層開発プログラム(PPRT)の推進
ブミプトラの人材開発
ブミプトラの戦略産業への参加促進
ブミプトラの資本所有増加政策促進 |
均衡ある発展 |
| (3)生産性牽引型成長
|
生産性向上型成長政策の推進
技術開発、技能向上、組織能力向上
インフラ向上 |
インフレ圧力
経常収支の赤字
国際競争の激化 |
| (4)競争力の向上 |
政治及び経済の安定、資本能力の向上
工業化促進政策、インフラ向上
労働生産性の向上、技術開発
法規制の合理化 |
周辺諸国及び低開発国の追い上げ、比較優位の確保 |
| (5)将来のための工業化
|
資本財及び中間財中心の工業部門多様化
産業連関の強化・中小企業育成
工業クラスター(企業及び産業の垂直・水平関係)の形成
外資系企業と国内企業との連携・共生
石油化学、航空宇宙工学等の新しい産業の拡充 |
比較優位の確保
国内産業育成 |
| (6)人的資源開発
|
労働市場の情報制度の構築
「民間高等教育制度法(1996年)」実施
「雇用法(1955年)」改正
女性及び定年者の雇用促進
技能・技術教育の促進 |
労働力不足
技術者等人材不足
大卒者需給のミスマッチ
国内産業強化 |
| (7)技術開発
|
S&T計画と実施の戦略作成
R&D研究所、学者、産業界三者連携強化
R&D強化、技術開発関連人材育成強化 |
比較優位の確保
|
| (8)情報通信技術 |
IT関連インフラの整備
「マルティメディア回廊」の構築
IT情報システム計画の作成
IT関連教育訓練の推進 |
国際競争力の激化
情報産業社会化への対応
国内産業強化 |
| (9)民営化 |
民営化のモニター・評価の強化、法規制の改善
教育・訓練・保健・医療・R&D等の民営化促進
地方産業・サービス関連企業の民営化事業参加
マレーシア企業の外国での民営化事業の参加促進 |
公共支出の削減
諸資源の有効活用
生産性の向上 |
| (10)持続的な開発 |
国家環境政策及び国家保全戦略策定
モニター制度の強化、制度づくり
データ・情報制度づくり
環境教育、環境配慮の消費生活の促進 |
急速な都市化による環境悪化
天然資源の管理 |
| (11)生活の質の向上 |
教育制度の拡充・効率化、保健・医療の拡充
低所得者向け住宅、低額住宅基金の創設 |
Vision 2020への課題 |
| (12)社会問題の解決 |
社会・家族に関する高級各省庁間の会議の創設 |
青少年育成、社会犯罪の防止 |
| (13)道徳倫理の向上 |
やさしい社会の創設 |
|
表2-2 第7次計画中間見直しにおける開発の主要課題 Development Thrusts
(1)マクロ経済ファンダメンタルズの強化
(2)知識・経験のある人的資源の供給
- 労働集約産業から知識集約産業へ
- 教育、トレーニングの充実
(4)金融セクターの強化
(5)民間セクターの復興
(7)製造業の成長回復
- resource-based export-oriented industry の育成
- 生産性の向上
- SMIの育成
(8)サービス部門の展開、拡充
- 航空・海上交通、保険、金融、観光、教育、健康、コンサルタンシー
(9)ITの育成
(10)S&T(科学と技術)の強化
(11)生活の質の向上
- 教育、住宅、健康、若者、女性、家庭、コミュニティー
出典:Mid-Term Review of the Seventh Malaysia Plan 1996-2000
(3)主要国際機関との関係、他の援助国、NGOの取組
※4 国際機関 ODA NET (支出純額、単位:百万ドル)
| 暦年 |
1位 |
2位 |
3位 |
4位 |
5位 |
その他 |
合計 |
| 96 |
UNDP 3.9 |
UNTA 1.2 |
UNHCR 1.0 |
UNICEF 0.8 |
CEC 0.5 |
0.5 |
7.8 |
| 97 |
UNDP 5.2 |
UNTA 1.6 |
UNHCR 0.8 |
UNICEF 0.6 |
CEC 0.5 |
0.2 |
8.9 |
| 98 |
CEC 1.3 |
UNTA 0.9 |
UNHCR 0.6 |
UNICEF 0.6 |
UNDP 0.5 |
0.1 |
4.0 |
| 出典: |
DAC: |
(Development Assistance Committee(OECD開発援助委員会)) |
| ADB: |
Asian Development Bank(アジア開発銀行) |
| CEC: |
Commission of the European Communities(欧州委員会) |
| UNDP: |
United Nations Development Programme(国連開発計画) |
| UNHCR: |
Office of the United Nations High Commissioner for Refugees(国連難民高等弁務官事務所) |
| UNICEF: |
United Nations (International) Children’s (Emergency) Fund(国連児童基金) |
| UNTA: |
United Nations Regular Program for Technical Assistance(国連通常技術支援計画) |
※5 DAC諸国 ODA NET (支出純額、単位:百万ドル)
| 暦年 |
1位 |
2位 |
3位 |
4位 |
5位 |
うち日本 |
合計 |
| 96 |
丁 8.4 |
独 7.5 |
豪 5.9 |
仏 3.5 |
加 3.4 |
-482.5 |
-455.2 |
| 97 |
丁 9.9 |
独 6.4 |
豪 2.9 |
加 2.2 |
蘭 2.0 |
-258.9 |
-243.7 |
| 98 |
日 179.1 |
丁 7.7 |
独 5.9 |
加 3.8 |
豪 1.7 |
179.1 |
198.1 |
出典:DAC(Development Assistance Committee(OECD開発援助委員会))
(注1)「丁」は、デンマークを指す。
(注2)日本については、96年以降円借款債務の繰上弁済が行われている等の事情がある。他国と比較して、有償資金協力の割合が高いことにより、統計上償還分が計上されてマイナスの数値となっており、年間供与額(ディスバース)ベースで見る場合と支出純額ベースで見る場合とで大きな違いあることに注意を要する。
<3>我が国の対マレーシア援助政策
(3)我が国援助の目指すべき方向
※6 「院生コース」 円借款の対象国は、各国の1人当たりGNP(2001年度の場合1999年世銀統計による)と比較して、世銀融資の償還期間17年適格国(2001年度の場合一人当たりGNP1,446ドル~2,995ドル)以下の国を一応の目安としており、それを超える国については「中進国」と位置付け、例外的に、特に環境問題が深刻化している等特別の事情がある国に限り原則として環境案件に対して円借款を検討することとしている。
マレーシアは、1994年度以降、一人当たりGNP(1999年世銀統計3,400ドル)が上記基準(2995ドル)を上回っているため、通常の円借款を「卒業」した「中進国」と位置付けられるが、日・マ関係の重要性とマレーシアの抱える種々の開発課題を踏まえ、例外的に、「院生コース」(大学の「学部」は「卒業」したが、未だ「大学院生」として学んでいるという意味を込めている)として、諸課題を自力で解消することが可能であるとの見通しがつく段階までは「急激な成長に伴って生じた歪みの是正」への協力を行うことが合意されている。
※7 マレーシアに対するODA供与額(1996-98、単位:千米ドル(%))
| |
1996 |
1997 |
1998 |
| 国連システム |
7,825(16.1) |
7,549(13.7) |
6,569(11.9) |
| 二国間 |
40,770(83.9) |
50,975(92.5) |
48,537(88.1) |
| 合 計 |
48,595(100.0) |
58,524(106.2) |
55,106(100.0) |
マレーシアに対する二国間ODA供与額(1996-98、単位:千米ドル(%))
| |
1996 |
1997 |
1998 |
| カナダ |
133(0.3) |
727(1.4) |
647(1.3) |
| デンマーク |
5,416(13.3) |
8,447(16.6) |
10,498(21.6) |
| スウェーデン |
724(1.8) |
172(0.3) |
- |
| ドイツ |
4,472(11.0) |
4,193(8.2) |
4,617(9.5) |
| 日本 |
26,694(65.5) |
33,629(66.0) |
30,528(62.9) |
| イギリス |
3,286(8.1) |
3,545(7.0) |
2,154(4.4) |
| オランダ |
51(0.1) |
262(0.5) |
93(0.2) |
| 合 計 |
40,770(100.0) |
50,975(100.0) |
48,537(100.0) |
出典:UNDP,"Development Co-operation MALAYSIA 1996/1997/1998 Report"
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