ODAとは? 援助政策

マレーシア国別援助計画

平成14年2月








<1>最近の政治・経済・社会情勢

(1)政治情勢

 マレーシアは、アジア南東部に位置し、マレー半島の11州及びボルネオ島北部の2州から構成されている。また、同国は、多民族国家であり(人口:2220万人(2000年)、人種構成比:マレー系(先住民族を含む)62.4%、中国系26.6%、インド系7.5%、その他(ヨーロッパ系、アラブ系等)3.5%)、1969年に人種暴動を経験し(同年総選挙の直後、マレー系と中国系の対立から人種暴動「5.13事件」が発生)、各人種間の融和を図りつつ、非マレー系に比して相対的に貧困なマレー系の経済的地位を向上させること(ブミプトラ政策)が歴代政権の重要な課題となっている。更に、同国は、ASEAN創設時からのメンバーであり、その運営を担う中心的な国である。
 マレーシアでは、1957年の独立以来一貫して「統一マレー国民組織(UMNO)」を中核とする与党連合「国民戦線(BN)」が政権を担い、人種間の融和を図りつつ、政治的安定及び経済的発展を実現してきた。1981年に就任したマハディール首相は、強力なリーダーシップにより国家の近代化、工業化を推進すると共に、首相就任直後より「東方政策(Look East Policy)」を提唱し、それまで西洋、特に旧宗主国イギリスに偏りがちであったマレーシアの姿勢を、日本や韓国に向け、その労働倫理や技術を学ぶという政策を打ち出している。
 政治情勢は基本的に安定しているが、1998年9月に、アンワール前副首相兼蔵相が突如解任され、その後逮捕されるに至り、大規模なデモが発生し、国内政局は一時不安定化した。しかしながら、かかる動きは徐々に沈静化し、また経済も、1997年のアジア経済危機により1998年はマイナス成長に陥ったが、その後徐々に回復し始めたこともあって、1999年11月に行われた総選挙では、与党国民戦線は連邦下院193議席のうち148議席の安定多数を確保して、政権を維持した。ポスト・マハディール体制に向けての動きが注目されているが、政局は基本的に安定基調にある。

(2)経済情勢

 マレーシア経済は、1980年代後半以降、我が国を始めとする海外からの直接投資増大の影響により高成長を遂げ、特に、1988年から1996年にかけては年平均8%以上の高い経済成長率を達成してきた。しかし、1997年7月のタイ・バーツ急落に端を発したアジア通貨危機はマレーシアにも波及し、短期資本の急激な流出が起こり、為替と株価が大幅に下落した。この下落は、資産の急激な縮小、企業業績の悪化、不良債権の増大、信用収縮等の連鎖的悪循環を引き起こし、マレーシア経済は深刻な状況に陥った。
 このような状況の中、マレーシア政府は当初、IMF型の緊縮財政・金融政策により危機を乗り切ろうとしたが、右政策は必ずしも奏功せず、逆に、企業倒産等実体経済に対する悪影響が出てきた。このため政府は、1998年半ばより、それまでの政策を大幅に転換し、積極財政、金融緩和による景気刺激策に移行した。また、通貨投機を防ぎリンギの安定を図るため、同年9月からは為替を米ドルに対して固定し、短期資金の国外持ち出しを禁止する措置を導入した。
 このようなマレーシア政府の景気刺激策及び為替・資本規制、不良債権処理、さらには我が国による総額68億ドル(1998年及び1999年)にのぼる大規模な資金援助等により、経済は現在回復基調にある。実質GDP成長率は1998年にマイナス7.5%を記録したものの、1999年第2四半期からプラス成長に転じ、製造業部門の輸出増等の貢献により、1999年は政府の予想(4.3%)を上回る5.8%成長となり、2000年には8.5%の成長を達成した。
 一方で、マレーシア経済において対外部門の占める割合は高く、1999年以降の経済回復も製造業を中心とする輸出拡大に依存するところが大きい。今後は、輸出競争力を維持しつつ、いかに現在の固定相場制から脱却するかが注目される。
 国内的には、財政の均衡等マクロ経済の安定を図りつつ、景気回復基調を維持することにより民間部門の設備投資需要が一層高まり、自律的な経済成長に移行することが期待される。また、中長期的には、人材育成、経済・産業の高度化・効率化を進め、国際競争力を着実に維持、強化していくことが重要である。また、金融・企業リストラについては、近隣諸国に比して概ね順調であるものの、未だ途上にあり、今後の推移が注目される。

(3)社会情勢

 失業率は、1997年には2.4%とほぼ完全雇用レベルにあったが、アジア通貨危機以降上昇し、1999年第1四半期には4.5%に達した。しかしながら、経済の回復と共に解雇者は減少し求人数も増加し始め、1999年の第4四半期には失業率は3.0%程度にまで下がり、2000年も安定的に推移している。他方、1980年代に徐々に縮小していた所得格差は、1990年代に入っても依然として存在している。マレーシア政府も社会的弱者への対応の重要性を認識し、政府開発予算における社会サービス部門の割合を危機前の25%から危機後は30%に約5%引き上げるなど、経済危機の影響に配慮した政策をとっている。
 急速な経済発展によって生じた地域間の所得格差等を是正することや、急速に進展する開発や都市化に伴う環境問題に適切に対処していくことは、マレーシアの持続的、安定的な発展のために今後ますます重要となってくると思われる。

<2>開発上の課題

(1)マレーシアの開発計画

 マレーシア政府は1991年以来、開発の最終的目標として、2020年までに「先進国」※1の仲間入りを果たすという「ビジョン2020」を掲げている。このビジョン2020の下で、10年及び5年の開発計画や分野別の開発計画などが系統立って策定されており、これらの計画に基づいて開発予算が配分され、各種施策が実施されている。
 2000年はマレーシアの開発計画上の重要な節目の年にあり、1991年から2000年までの10年間の開発計画である「新開発政策(New Development Policy, NDP)」※2と、1996年から2000年までの5年間の開発計画である「第7次マレーシア計画(7th Malaysia Plan)」※3がいずれも最終年であった。現在は、2001年からの新たな10ヶ年計画である「長期経済開発計画(OPP3)」と5ヶ年計画の「第8次マレーシア計画」の下、国家経済開発が行われている。
 2001年からの10ヶ年計画及び第8次マレーシア計画は、それぞれNDP及び第7次マレーシア計画を継続、発展させた内容となっている。なお、マレーシア政府は、マルチメディア・スーパー・コリドー(MSC)に代表されるように、かねてより情報通信技術(IT)分野の産業振興、人材育成に力を注いでおり、第8次マレーシア計画では、製造業や農業分野を含めた全ての分野における横断的な重点テーマとして、情報通信技術の利用増進を通じたマレーシア経済の「k-economy(knowledge economy、知識集約型経済)」化実現を図るための各種施策が打ち出された。

(2)開発上の主要課題

(イ)製造業の高度化

 現在マレーシアの経済発展の中心となっている電子電機、機械等の製造業をさらに高度化していくことは、マレーシアの国際競争力を維持・強化していく上で不可欠である。そのためには、各製造業の技術レベル、品質管理能力、生産性等の向上を図るとともに、幅広い裾野産業を育成していくことが重要である。また、製造業の高度化のために情報通信技術(IT)を積極的に活用していくことも求められる。

(ロ)マレーシアの賦存資源を活かした経済セクターの育成

 マレーシア経済が自立的かつ安定的に発展していくためには、マレーシアの賦存資源を活かして、農業、観光、石油ガス等の経済セクターを育成していくことが重要である。マレーシアは石油、天然ガス、木材等天然資源に恵まれた国であり、その資源を活用した産業育成の成否は今後の開発の一つの鍵を握ると思われる。パーム・オイル等マレーシアで産出する農林産物を利用したアグロ・インダストリーの育成も肝要である。また、マレーシアは観光資源にも恵まれているが、マレーシアを訪れる外国の観光客の数は近隣の東南アジア諸国と比べまだ少なく、魅力ある観光資源を活用していかにして競争力ある観光産業を育てていくかは重要な課題である。

(ハ)高度な人的資源の育成

 マレーシア経済がk-economyへ移行するためには、高等教育を受けた人材を大量に育成する必要がある。マレーシアの大学進学率は約23%であり、近年急速に増加しているが、一層の充実が望まれる。また、製造業をさらに高度化していくためには、一般の労働者の技術・技能レベルを向上させる必要がある。

(ニ)環境問題への対応

 マレーシアは、ボルネオ島をはじめ豊かな自然に恵まれた国であるが、開発が急速に進展する中、自然環境をいかに保全していくかが重要な課題となっている。また、豊かな自然はマレーシアの重要な観光資源ともなっていることから、今後、自然環境の保全はマレーシアの経済発展の観点からも重要である。
 さらに、工業化、都市化の進展に伴い、公害防止やゴミ処理、下水道整備といった都市環境の改善も重要となっている。

(ホ)生活の質の向上

 経済発展がある程度進み、先進国入りを目指すマレーシアにおいては、国民一人一人の生活の質を向上させることが重要となってきている。具体的な課題としては、公共交通の整備、公衆衛生の改善、初等中等教育の質的向上等が重要である。

(ヘ)格差是正

 マレーシアにおける所得格差は1990年代を通じ改善されつつあるが依然として存在しており、所得間格差及び地域間格差を是正すると共に、社会的弱者の福祉向上を図ることは、マレーシアの安定的発展のために重要である。

(3)主要国際機関との関係、他の援助国、NGOの取組み

(イ)国際機関との関係

 近年のマレーシアの中長期的には順調な社会・経済発展に伴い、各国際機関の援助実績は逓減傾向にある。国際機関の中では国連開発計画(UNDP)が比較的活発に活動しており、人材育成と環境分野を中心にした協力を実施している。その他の国際機関では、国連通常技術支援計画(UNTA)や国連児童基金(UNICEF)などの国連機関のほか、アジア開発銀行(ADB)や欧州委員会(CEC)が協力を実施しているが、いずれもプロジェクトは小規模である。また世界銀行(IBRD)は、アジア通貨危機に際し、マレーシアに対し経済の安定化、中長期的成長の再開、アジア危機による最悪の影響からの貧困層の保護を目指すマレーシア政府のプログラムを支援する借款を供与した。※4
 また、水産分野では、東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)を通じた技術協力が実施されている。

(ロ)他の援助国の取組

 1996年と1997年の支出純額実績はデンマーク、ドイツ、オーストラリアの順となっており、これらの国は技術協力を行っている。なお、我が国の援助は、技術協力及び有償資金協力等を合わせて年間供与額では依然として二国間援助額の6割強をしめる一方、支出純額で見た場合には1996年、1997年は円借款の償還が増大したためマイナスとなっているが、1998年についてはプラスであった。※5

(ハ)NGOの動向

 マレーシアで登録されているNGOは約8万団体と言われているが、国家統一社会開発省に登録されている社会福祉関連団体が約330(2000年現在)、開発関係団体が約180となっており、活動分野は福祉、社会経済開発、保健、環境、宗教、女性支援、児童など非常に多岐に亘っている。

<3>我が国の対マレーシア援助政策

(1)対マレーシア援助の意義

(イ)我が国は、1957年8月31日のマラヤ連邦の独立と共に同国を承認し、以来、両国関係は全般的に良好に発展してきている。
 これまで、我が国は最大の援助国としてマレーシアの発展に寄与してきており、また、マレーシアは、特に1981年にマハディール首相が東方政策を提唱して以来、我が国等に学ぶ姿勢を持っており、マレーシア国民の日本に対する関心及び親近感は非常に強いものがある。
 マレーシアは、ASEANの創設時からのメンバーであり、東南アジアにおいて、政治的にも経済的にも最も安定した国の一つであるとともに、ASEAN域内協力における拠点であり、更にはASEAN3(日本、中国、韓国)との協力の推進者である。そのようなASEANの主要国たるマレーシアとの関係強化は、我が国とASEAN、ひいては東アジア地域における協力関係の強化に資するものと考えられる。
 また、我が国にとって極めて重要なシーレーンに当たるマラッカ海峡の沿岸国であり、地政学的にも重要な位置を占めている。

(ロ)経済面では、日・マ両国は密接な相互依存関係を有している。1999年のマレーシアの対日貿易額は、輸出では米国、シンガポールに次いで3番目であり輸出総額の11.6%を占め、輸入では総額の20.8%を占め最大となっている。また投資についても、日本は1990年代を通じて直接投資国として1位又は2位の地位にあり、1999年も米国に次いで2番目の約10億リンギ(認可ベース)の直接投資を行っている。分野別に見ると、日本の直接投資は製造業、中でも電子電機産業に対するものが多いところ、マレーシアの輸出のうち電子電気機器の輸出が半分以上を占めることに鑑みても、日本の直接投資はマレーシアの輸出に大きく貢献しており、ひいてはマレーシアの経済発展をも促しているといえる。また同時に、日本企業にとっても、マレーシアは電子電気機器を始め各種製造業の海外生産拠点として重要な地位を占めており、日本経済の発展にとってもマレーシアは欠かせない存在となっている。
 またマレーシアは、我が国の天然ガス輸入先として、インドネシアに次いで2番目で、総輸入量の約2割を占めており、我が国に対するエネルギー資源の安定的供給国として重要である。

(ハ)マレーシアは、1998年から2000年まで安保理非常任理事国を務め、また、1960年代以降コンゴ、ナミビア、カンボジア、ソマリア、ボスニア等においてPKO活動に参加する等、国連において積極的な活動を展開してきている。また、G-15(開発途上国のサミット・レベル・グループ)、非同盟諸国会議、D8(イスラム開発協力会議)、OIC(イスラム会議機構)など、いわゆる南側諸国との協力の国際的枠組みにも積極的に参加し、国際的発言力を高めてきている。加えてマレーシアは、自らの開発の経験を活かし、より開発の遅れたアジアやアフリカの途上国の開発を積極的に支援しており、我が国とも、アフリカ・アジア・ビジネス・フォーラム及び第3回アジア・アフリカ・フォーラムの共催、アジア・アフリカ投資・技術移転促進センター(AAITPC)の創設、アフリカ開発のための日仏マレーシア三国間協力など、南南協力の分野で緊密な協力関係にある。このようなマレーシアとの関係強化は我が国の対途上国外交全般に資すると考えられる。

(2)ODA大綱原則との関係

 選挙、議院内閣制など議会制民主主義の諸制度も独立と同時に確立され、その後も一貫して円滑に実施、運営されてきている。軍事支出、武器輸出等についても特に懸念すべき点はない。
 なお、1998年9月のアンワール前副首相兼蔵相の逮捕及びその後の裁判等の状況について、国際社会では人権上の問題点等を指摘する声もあり、我が国としては適正な法の手続に基づく対応の状況、同国の政情などを注視していたが、実際の裁判等一連の手続は、民主的に確立された法制度の下、公開で行われている。

(3)我が国援助の目指すべき方向

(イ)我が国のこれまでの援助

 我が国は、これまで、マレーシアに対し、2000年度までの累計で、有償資金協力約8800億円、無償資金協力約121億円、技術協力約908億円を実施してきた。近年では、1997年度には技協・無償合計約46億円、1998年度には有償・技協・無償合計約1124億円、1999年度には有償・技協・無償合計約1294億円、2000年度には協技・無償合計約38億円の支援を実施しており、特に有償資金協力の実績がある年度においては大規模な支援となっている。
 有償資金協力は、従来、電力施設、鉄道、空港など経済インフラを中心に実施してきた。近年では、マレーシアの中進国入りに伴い、対象分野について、通常の円借款を卒業したいわゆる「院生コース」※6として行うことが合意され、1994年以降は、環境改善と貧困撲滅・所得間格差是正の分野、また、中小企業育成・人材育成の分野についてもこれに資する案件を対象とするという枠内での協力を実施することとしていたが、1997年までマレーシア側からは、新規円借款の要請はなかった。その後、アジア通貨危機に際し、1998年10月に発表された新宮澤構想を踏まえ、ほぼ5年振りに有償資金協力を再開し、1999年3月及び4月に総額約1140億円、2000年3月に総額約1190億円を供与し、マレーシア経済の早期回復に大きく貢献した。
 無償資金協力は、教育・訓練関連施設などを中心に実施してきたが、1991年度を最後に、文化無償、草の根無償及び緊急無償等を除く無償資金協力からは卒業した。
 技術協力については、農林水産、医療、環境、産業育成等の分野における人造りを支援してきているが、マレーシアの経済開発の進展に伴い、環境や産業高度化の分野の比重が高まってきている。

(ロ)対マレーシア援助全体に占める我が国援助の割合

 マレーシアの援助受入額全体に占める二国間援助の割合は約9割であり、そのうち我が国援助は、前述のように拠出額(ディスバース・ベース)では、6割以上を占める。※7

(ハ)今後5年間の援助計画の方向性

 マレーシアは、現在、ある程度の経済の発展段階に至っている。1997年のアジア経済危機を経て、経済構造改革、輸出競争力強化、ドルとリンギの固定相場制からの移行の問題等を抱えているものの、経済は回復基調にあるところである。我が国の対マレーシア経済協力の実績は、前述のように、現在、円借款の弁済が多く、単年度において、支出純額(ネット)で見た場合にはマイナスとなっている年もあるが、拠出ベースで見た場合には、近年ではマレーシアの二国間援助の6割以上を占めており、これをどのように同国の経済発展に活用していくかが課題である。また、経済が発展したが故の悩みとして、マレーシアは、所得間格差、地域間格差の解消に向けて努力をすると共に、環境問題という問題も抱えるようになっている。我が国としては、そのようなマレーシアに対し、同国が将来的に被援助国から卒業し、また援助国化することも視野に入れ、同国の状況に相応しい適切な支援を行っていくことが肝要である。
 我が国はこれまで、1993年に派遣した経済協力総合調査団がマレーシア政府と合意した重点分野及びその後のマレーシア政府との政策協議等を踏まえ、有償資金協力については、「急激な成長に伴って生じた歪みの是正への協力」(院生コース)を基本的考え方として、(a)環境改善、(b)貧困撲滅・所得間格差是正の2分野を対象とし、これに加え、マレーシア側から強く要望のあった中小企業育成及び人材育成についても、(a)及び(b)に資する案件であれば採り上げることとしてきた。また、技術協力については、我が方としては、(a)科学技術開発、(b)情報通信技術、(c)人的資源開発、(d)環境と持続的開発の分野を中心に支援を実施してきた。
 しかしながら、右調査団派遣から既に7年以上を経過し、加えてその間にマレーシアは著しい経済成長とアジア通貨危機を経験した。すなわち、1994年から1997年までは新規円借款の供与を受けることなく著しい経済成長を成し遂げてきたが、一方、1997年のアジア通貨危機以後、マレーシア経済は深刻な状況に陥り、マレーシア政府の経済対策、我が国による1998年度及び1999年度の大規模な資金援助等により漸く回復基調となったものである。更にマレーシア政府の開発5ヶ年計画である第7次マレーシア計画及び10ヶ年計画である新開発政策がいずれも2000年をもって終了し、2001年から新たな5ヶ年計画及び10ヶ年計画が策定された。我が国の対マレーシア援助計画は、このようなマレーシア経済の現状及び開発計画の更新に適合したものである必要がある。
 マレーシア経済は、現在アジア通貨危機の影響をほぼ克服し、危機以前のレベルまで回復しつつあるが、輸出依存度が高く、米国経済等の外的要因の影響を受けやすい状況にあり、企業リストラ等の構造改革も未だ途上にある。また、固定相場制等管理体制長期化による弊害の可能性等の課題を抱えている。我が国としては、将来のマレーシアの被援助国からの卒業も視野に入れつつ、当面は現在の回復基調をより強固なものとし、マレーシア経済が引き続き持続的かつ安定的な発展を遂げていくための支援を行うことが重要である。
 他方、マレーシアにおいては、経済発展の結果、開発や都市化が急速に進展しつつある。これに伴って、自然環境の保全、産業公害の防止、居住環境の改善、地域格差・所得格差の是正等が従来にまして重要となりつつある。我が国としては、かかる問題に対処するための適切な支援を実施していくことが重要である。特に、日・マ関係の重要性に鑑みれば、こうしたマレーシア経済の動向と経済が発展したが故の悩みの存在を見極めつつ、今後マレーシアが急激な成長に伴って生じた歪みを自力で是正できる見通しがつく段階に至るまでは、特段の配慮を行うこととする。
 一方、マレーシア経済の中長期的な経済発展のためには、現在世界的に急速に進展しつつある情報産業の発展に参画していくと共に、既存の産業についても高度化、効率化を図っていく必要がある。また、情報産業の発展や産業の高度化、効率化のためには、それを担い得る人材の育成が不可欠である。マレーシア政府は、かかる認識に立って、第8次マレーシア計画の中で情報産業の振興や高度な知識を有する人材の育成を重視しており、我が国としては、かかるマレーシア政府の努力に対して、可能な範囲で支援を実施していくことが重要である。
 マレーシア政府は、自国の開発の経験とノウハウを他の開発の遅れた途上国に紹介することにより、その国の経済発展に協力するとの政策を積極的に進めている。我が国としては、かかるマレーシア政府の姿勢を奨励し、将来の援助国化を支援することが重要である。また、マレーシア政府と協力して他の途上国を支援することも、我が国援助の効果及び効率を高める上で有益である。

(4)重点分野・課題別援助方針

 現在のマレーシアにおける経済情勢等、開発ニーズ及び2001年以降のマレーシア政府の開発政策を踏まえ、我が国は今後以下の分野を対マレーシア援助の重点分野とする。特に、有償資金協力については、その具体的な実施においては、当面の間「院生コース」の基本的考え方を継続する。

(イ)経済の競争力強化のための支援

(a)製造業の高度化、効率化

 マレーシア経済の競争力強化のためには、現在海外からの輸入に大半を依存している資本財、中間財について、国内生産の割合を増やしていく必要がある。そのためには、国内の裾野産業の高度化、効率化を図っていくことが不可欠であり、我が国としては、裾野産業の技術力、品質管理能力、生産性等の向上のための支援等を行っていく。また、中小企業診断、技術指導、金融制度など、裾野産業育成の制度面でのノウハウ等についても、我が国の経験を活かしつつ知的支援を行っていく。
 同時に、高度化、効率化された産業を支えるために、産業基盤も高度化、効率化していく必要がある。我が国としては、経済インフラをソフト面を中心に高度化、効率化するための支援を行っていく。

(b)IT分野での支援

 産業の高度化、効率化のためには、その基礎となる研究開発能力の向上を図っていくことや、IT技術の活用を促進していくことが重要であり、我が国としては、IT技術者の育成及びIT技術の利用・普及に対する支援を行っていく。

(c)マレーシアの賦存資源を活かした経済セクターの育成、強化

 マレーシア経済が安定した発展を遂げていくためには、マレーシアの有する資源を活かした産業を育成、強化していくことが重要である。我が国としては、かかる観点から、豊かな自然環境を活かした観光産業や、石油、天然ガスなど豊富な資源を活用した資源産業、また木材、油ヤシ、天然ゴムなどの農林産物の環境に調和した生産とそれらを利用したアグロ・インダストリー等の育成、強化のための支援を行う。

(ロ)将来のマレーシアを担う人材の育成ー高度な知識、技能を備えた人材の育成

 マレーシアは第8次マレーシア計画において、知識集約型経済(k-economy)への移行を目指しており、そのためには、高度な知識、技能を備えた人材の育成が急務である。我が国としては、特に理工系を中心に、高等教育機関及び高度な職業訓練機関の質、量両面の拡充を支援していく。また、「東方政策」を通じて蓄積された経験を踏まえつつ、日本への留学生派遣の一層の拡大を支援する。その際、ツイニングプログラム(自国で大学教育の一部を受けた後、留学先の大学に編入学して残りの教育を受け、学位を取得する制度)の推進、遠隔教育の活用等により、日本の高等教育機関との連携強化に努めると共に、日本語教育の普及、質の向上を支援する。さらに、IT関連技術や先進的な生産技術など高度な技術・技能訓練の拡充を支援していく。

(ハ)環境保全等持続可能な開発のための支援

(a)環境保全

 マレーシアは、東マレーシア(ボルネオ島北部)を中心に、生物多様性が世界中で最も豊富な地域であると言われている。また国土の全体にわたり、熱帯林、マングローブ林などが多く残されている。このような貴重な自然環境を開発との両立を図りつついかに保全していくかは、マレーシア一国のみならず地球規模の重要な課題である。我が国としては、自然環境保全に関する研究者、実務者の育成、能力向上をはじめ、自然環境に配慮した持続可能な観光開発、海洋汚染防止や環境教育など、幅広い分野において包括的に支援を実施していく。
 また、海洋生物資源の持続的利用に向けての支援に当たっては、東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)等の国際的枠組みと十分連携がとれた支援を実施していく。

(b)生活環境の改善

 マレーシアでは、1990年代の急速な経済発展に伴い、都市部を中心に交通渋滞、上下水道の未整備、ゴミ問題など、生活環境の悪化が進んでいる。我が国としては、急激な成長に伴って生じた歪みの是正への協力として、社会インフラの整備や担当部局の人材育成や能力向上に対する協力を通じ、生活環境の改善に対する支援を行っていく。また、我が国の経験を活かしつつ、産業公害の防止や、自動車排気ガスに含まれる有害物質の削減、CO2等温室効果ガスの排出抑制などの分野における支援を行う。

(ニ)格差是正に対する支援

(イ)格差の是正

 急激な成長に伴って生じた歪みの是正への協力として、上記(ハ)(b)の環境改善に加えて、貧困撲滅・所得間及び地域間格差の是正についても支援を行っていく。また、社会的弱者に対する福祉の向上に資する支援を行っていく。
 この際、社会階層間の所得格差や、IT分野、医療分野等における地域間格差を是正するためには、関連する中小企業の育成や高度な知識・技能を備えた人材の育成が寄与することも踏まえ、こうした格差是正に資する案件に対しては、中小企業育成及び人材育成に対しても個別具体的に重点的な支援を検討する。

(b)農村部における女性の地位向上

 マレーシアにおいては、女性の社会進出は比較的進んでいるが、都市部と地方、農村では差があり、我が国としては、特に地方、農村の女性の社会進出や現金収入増大のための支援を行っていく。

(5)援助実施上の留意点

(イ)マレーシア政府との対話の一層の充実

 我が国援助を、長期的な視野に立って、かつマレーシア側のニーズに合致するよう実施していくために、マレーシア政府との対話を一層充実させていくことが肝要である。特に、国家開発計画の策定を担当し、また援助受入れの窓口ともなっている首相府経済企画院との政策対話や案件形成に関する協議を一層緊密化していく必要がある。
 また、アジア通貨危機以降、円借款を中心に援助案件数が急増しているため、首相府経済企画院はもとより各実施機関とも、既往案件の適切な実施監理や優良な新規案件の発掘、形成のための意見交換を充実させていく必要がある。

(ロ)円借款と技術協力の連携強化

 マレーシアの中進国入りに伴い、環境、人材育成、中小企業振興などの分野に対する円借款の供与が増大しているが、このような分野においては、案件の形成、運営、管理などいわゆるソフトの部分が極めて重要であり、援助全体の成否の鍵を握るといっても過言ではない。このような円借款案件のソフト面を充実させるために、必要に応じ、JICAによる技術協力を活用することは、有効かつ望ましい。

(ハ)円借款の供与条件(償還期間、金利等)の弾力化

 マレーシアに対しては、円借款の供与に際し、中進国の供与条件を適用する方針である。一方で、マレーシアは多様な供与条件(償還期間、金利等)の設定を要望しており、マレーシアの所得水準・債務負担能力や為替リスク等を考慮しつつ、右可能性について検討していく。

(ニ)パートナーシップの推進

 我が国の援助の効果及び効率を高め、併せてマレーシアの援助国化を支援するためにも、マレーシア政府が積極的に取り組んでいる南南協力を我が国が支援していくことは重要である。我が国としては、開発分野においてマレーシア政府とのパートナーシップを推進、強化し、特に、ASEAN加盟国をはじめとする域内国のうち発展段階のより遅れた国や、アフリカ諸国に対するマレーシア政府の協力を支援していく。

(ホ)民間セクターへの波及効果

 経済発展が比較的進んだマレーシアにおいては、経済開発において民間セクターが果たす役割が重要性を増しつつある。また、政府の積極的な民営化政策により、かつては政府の一部であった機関が公社化、民営化される事例もしばしば見られる。かかる状況を踏まえ、民間セクターの果たす役割が特に大きい分野では、援助の実施に当たって、民間セクターへの波及効果を出来るだけ高めるよう努めることが肝要である。

(ヘ)環境に対する配慮

 円借款など我が国の援助案件の実施に当たっては、案件形成から実施に至る各段階において、環境に対する影響に十分配慮する。

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