平成13年10月
<1>最近の政治・経済・社会情勢
(1)政治情勢
78年の中国共産党第11期中央委員会第3回全体会議(三中全会)において「党と国家の重点工作を近代化建設に移行する」旨宣言され、中国ではそれまでの政治の季節が終わり、経済の季節へと転換が図られ、近代化を最優先課題とする改革・開放政策がスタートした。その後、87年には「社会主義初級段階論
(※1)」の提起によって私営企業や株式制度導入を正当化する根拠がもたらされ、同時に政治体制改革の議論もされるようになったが、89年の「六・四」事件
(※2)(いわゆる「天安門事件」)により、政治、経済ともに閉塞的な状態に陥った。そこで、トウ小平は92年1月、深?など南方の視察において重要講話(「南巡講話
(※3)」)を発表し、これを契機として改めて改革・開放政策が加速された。同年10月の中国共産党第14回党大会では「社会主義市場経済」という新たな概念が提起され、93年3月の第8期全国人民代表大会第1回会議ではこれが憲法に盛り込まれるなど、中国経済の「市場経済化路線」が定着した。97年9月の中国共産党第15回党大会から98年3月の第9期全国人民代表大会第1回会議を経て、朱鎔基総理の下、国有企業改革、金融体制改革、行政機構改革の三大改革への取組みが積極的に進められている。
市場経済化の進展に伴い、国内において失業者の増大や様々な社会・経済格差の拡大と、党・政府幹部による汚職・腐敗の蔓延が見られるようになってきている。このような状況に対して、中央指導部は強い危機感を抱き、「三講
(※4)」教育、「三つの代表
(※5)」キャンペーンなどを通じて思想引締めを強化し、共産党の威信確保に努めている。しかし、改革・開放政策の一層の進展に不可避な政治体制改革は依然大きな進展を見るに至っていない。
外交面では、経済建設推進のため、平和な国際環境と各国との良好な経済協力関係を必要としていることから、欧米諸国・近隣諸国・第三世界諸国との間で活発かつ実務的な「全方位外交
(※6)」を展開している。
我が国との関係においては、72年9月、田中総理(当時)訪中の際に発表された「日中共同声明」によって国交を正常化し、78年8月には「日中平和友好条約」が署名された。その後、両国間の政治、経済、文化面の交流は順調に拡大してきており、日中間の相互依存関係は深まってきている。98年11月、江沢民国家主席の訪日の際に発表された「日中共同宣言」では、「平和と発展のための友好協力パートナーシップ」の構築が謳われ、33項目の具体的協力事項を掲げた「共同プレス発表」を発出し、両国が共通の目標に向け、共に行動する枠組みが築かれた。
一方、こうした日中関係の緊密化によって両国間の摩擦がなくなったわけではない。例えば、近年では、中国の海洋調査船が我が国の同意を得ることなく我が国の排他的経済水域において調査を行ったり、海軍情報収集艦が我が国を周回した結果、国内に厳しい雰囲気が生じた。かかる事態に対応すべく、海洋調査船の問題については、本年2月、相互事前通報の枠組みが成立し、現在これに基づき中国による海洋調査活動が適切に行われるように努めている。
(2)経済情勢
改革・開放政策のスタートとともに、それまでの閉鎖的かつ計画に基づく経済システムから段階的な市場メカニズムの導入と貿易・投資の開放が実施された。その結果、79年から99年までの21年間に実質国内総生産(GDP)成長率は、年平均9.6%の高水準に達し、GDP規模は世界第7位になるまで急拡大した。トウ小平が掲げた「2000年までにGDPを80年水準の4倍にする」という目標は5年繰り上げて達成され、国民の生活水準の向上、対外経済関係の拡大がもたらされている。
一時期低迷していた経済も92年1月のトウ小平による「南巡講話」を契機に改めて改革・開放政策の加速化が進み、経済成長の加速や、貿易・対中投資の大幅な伸びがもたらされた。しかし、このような急成長の副産物として経済の過熱化が生じ、94年にはGDP成長率12.6%を記録する一方、インフレ率は24.1%となった。このような状況を受け、政府は財政・金融政策によるマクロ経済コントロールのための体制強化を図り、その効果もあって、97年のGDP成長率は8.8%を保持しつつもインフレ率は2.8%に鎮静化した。
98年になると、アジア通貨・経済危機による外需の低迷、自然災害などにより成長率の鈍化とデフレ傾向が顕在化した。これに対し、政府は国債発行による積極財政、金融政策による経済刺激策を実施し、景気の下支えを図った。これら政策の効果に加えて、アジア経済の急速な回復もあって99年以降、先行きに明るさが見えてきている。
経済構造調整については、96年から2000年を計画期間とする第9次5ヵ年計画では、市場メカニズムに基礎を置く「社会主義市場経済体制」の初歩的確立を目指すこととされ、98年3月に就任した朱鎔基総理は、上述の三大改革を掲げて経済改革に取組み、一定の成果を収めつつある。また、長年の懸案である世界貿易機関(WTO)の加盟交渉は大きく進展しており、WTO加盟に向けた国際的ルールに一層整合的な経済システムの構築が課題となっている。
また、12億人以上の人口を抱える中国では、1日1ドル以下の所得の貧困層が2億人以上(世界銀行資料より)存在する他、失業者、一時帰休者の増加に対応できる社会保障制度の欠如、急成長に伴う環境の悪化、沿海部と内陸部の地域間格差といった経済成長に伴う課題への対応も迫られている。
(3)社会情勢
世界一の人口を抱える中国においては、これまで人口増加を抑制しつつ、食料事情を改善し、貧困を軽減することが最重要課題の一つであったが、高度成長の持続により大量の豊かな層が出現した現在、絶対数では引き続き多数存在する貧困問題に加えて、人口問題においても高齢化社会の出現も視野に入れた困難な取組みが求められている。さらに、改革・開放の進展に伴い、地域間・国民各層間の格差拡大が一層表面化し、その結果、成長に取り残された地域や層の不満を高めるなど、長期的には社会的な不安定要因となり得る以下のような問題が顕在化しつつある。
(イ)地域間格差
沿海地域と内陸地域における発展の相違に伴い地域間格差が拡大している。例えば、99年の一人あたりGDPでは、上海市では30,000元を超え、また、北京市、天津市、広東省、浙江省、江蘇省、遼寧省の東部沿海地域においても10,000元を超えている一方、中西部内陸地域の多くの省、自治区においては、一人あたりGDPは5,000元を下回っている(「中国統計年鑑2000」より)。こうした地域間格差の拡大が、大都市への人口流入による都市部での治安などの悪化や、農村地域における貧困の拡大をもたらしている。
(ロ)雇用問題
都市における登録失業者数は、99年では575万人(3.1%)(「中国統計年鑑2000」より)となっているが、一時帰休者、さらには農村における余剰労働力の存在を考え合わせれば、実際の失業率は更に高く、こうした中で労働争議、農民騒動などの発生も報告されており、今後、国有企業改革が更に進展する中で、一時帰休者や失業者の再就職や生活保障を含む雇用問題の解決はより緊要な課題となっている。
(ハ)人口増加
中国では、「遅い結婚・遅い出産(晩婚晩育)」の提唱やいわゆる「一人っ子政策」の実施により、人口の自然増加率は70年の2.6%から99年には0.9%の水準まで低下した。しかしながら、中国政府の見通し
(※7)によれば、99年末において総人口は12.6億人(香港、台湾及びマカオを含まず。)の世界最大の人口(世界総人口の21%)に達していることに加え、人口政策を実施したとしても、人口の絶対的増加は今後とも継続し、2005年において13.3億人、2010年では14億人と増加を続け、今世紀半ばにおいて16億人のピークに達した後、ようやくなだらかに減少するとされていて、人口問題は近い将来における主要な社会問題であり続ける見込みである。
<2>開発上の課題
(1)中国の開発計画(第10次五ヵ年計画)
2001年3月に開催された第9期全国人民代表大会第4回会議において、2001年から2005年までを対象期間とした「国民経済と社会発展の第10次五ヵ年計画綱要」が報告・採択された。
第10次五ヵ年計画は、今後5年間の中国の国民経済と社会発展のあり方について、成長、構造調整、改革・開放、科学技術の発展、国民の生活水準の向上、経済と社会の協調的発展などを主題に課題を述べるとともに、それぞれについて達成目標に掲げている
(※8)。
具体的には経済構造の分野では、貧困対策を含む農業の基礎的地位の強化と農村経済の全面的発展、産業構造の最適化と国際競争力の強化、サービス産業の発展、情報産業の発展、インフラ建設の強化、西部大開発の推進と地域の協調的発展の促進、都市化戦略の推進と都市及び農村の共同進歩の促進などが謳われている。
科学技術・教育・人材の分野では、科学技術の進歩と革新の推進、多面的な教育の発展、人材戦略の推進があげられている。
人口・資源・環境の分野では、人口増加の抑制、人々の資質の向上、資源の節約・保護と持続可能な利用、生態環境の保全と環境汚染の防止が指摘されている。
改革・開放との関連では、社会主義市場経済体制の整備を念頭に、国有企業改革の推進、市場体系の整備、金融、投資、財政、税制などの改革の推進が指摘されるとともに、対外貿易、投資、海外進出などを内容とする対外開放の拡大が掲げられている。
国民の生活との関連では就業機会の拡大と社会保険制度、社会保障事業の拡充が指摘されている。
(2)開発上の主要課題
第10次五ヵ年計画などを踏まえた中国における社会・経済分野における開発上の主要課題は以下のとおり。
(イ)市場経済システムの形成と成長の持続
これまでの改革・開放の進展を踏まえて、今後は、成長の持続並びに市場経済システムの形成及びその円滑な運用の確保が緊要な課題となっている。特に、そのための施策としては、企業として市場競争の主体となりうるための国有企業改革の継続がある。また、市場における経済秩序の維持や市場システムを一層整備させるため、経済関係法令の整備とその着実な実施、違法行為の取締りなどを含む必要な施策の実施が課題となっている。また、マクロ経済に対する適切な調整を確保するための手段として財政、金融、投資、税制などの諸分野における制度改革の必要性が指摘されている。さらに、経済のグローバル化の進展やWTOへの加盟実現に対応した対外貿易・投資体制の改革も課題とされている。
(ロ)持続可能な発展の実現
汚染源の取締りを中心とする取組みにより大都市の環境の改善は見られるものの、環境保護は経済発展に伴い長期的な取組みを必要とする課題となっている。酸性雨の降雨面積は中国全土の30%に達しているほか、環境汚染防止の観点からは主要河川・湖沼の水質汚染防止、大気汚染防止、廃棄物や工業生産に伴う汚染防止、環境意識の向上などの課題がある。
また、森林被覆率が13.9%と世界平均(26%)の約半分、砂漠化が国土面積の18%に進行し(共に「1999年中国環境状況公報」より)、黄砂の大規模な移動をはじめ生態環境の悪化が問題となっている。98年には長江で大規模な洪水が発生し、これを契機に森林の保全・造成の重要性が広く認識され、長江上流や黄河上中流の天然林保護や各地域の洪水防止などのための森林造成、砂塵発生対策、希少動物の保護、生物多様性の保全などが課題となっている
(※9)。
環境問題と密接に関連する水資源の持続可能な利用は、人口増加と都市化の進展に伴い重要となっている。河川や地下水などの水資源の合理的利用、汚水処理や水の再利用促進などを含む節水型社会への取組みが課題とされている。
(ハ)地域間経済格差の是正
東部沿海地域と中西部内陸地域の経済発展の格差が拡大し、中西部内陸地域を中心に貧困問題が大きな問題となっており、いまだに2億人以上といわれる絶対的貧困人口(1日1ドル以下の生活水準)を抱えている。中国政府は貧困対策に積極的に取り組んできているが、貧困対策は長期的な取組みを要する課題であるとして「開発型貧困対策」が提案されている。
(二)教育振興と人材育成
中西部内陸地域を中心とする多数の貧困人口の存在は、適正な教育機会の欠如もその一因となっており、中国政府は国民経済と社会の発展に奉仕する観点から教育の役割を重視している。九年制の義務教育の普及はもとより、中高等教育、職業教育・訓練の充実、さらには奨学金制度の整備に至るまで教育をめぐる課題は多岐にわたる。また、市場経済化を推進し、経済のグローバル化に対応していく上で、専門性を備えた人材育成や留学生制度の充実も重要な課題とされている。
(ホ)雇用・社会保障制度の拡充
近年、都市登録失業率は3%前後で推移しているが、一時帰休者、さらに農村部の潜在的余剰労働力を合わせて考慮すれば、実際の失業率は更に高いものと考えられる。今後、国有企業改革などの経済構造調整が進めば、新たな就業機会の創出はより緊要な課題となる。同時に、これまで企業などの組織の内部で運営されてきた社会保障制度の改革が進行しており、養老保険、年金、医療保険、失業保険を含む社会保険制度、様々な社会保障事業、医療・衛生制度の拡充などが課題となっている。
(3)主要国際機関との関係、他の援助国の取組み
(イ)国際機関との関係
94年から98年にかけて、ODAベースでは、国際開発協会(IDA)、国連開発計画(UNDP)などを中心に総額で毎年8~9億米ドルの援助受入れ実績があった。ただし、99年以降、世界銀行の融資ガイドラインに基づき、中国は譲許的なIDA資金融資の適格国の立場を失い、国際復興開発銀行(IBRD)資金のみの融資対象国となっている。98年のIBRD融資実績はODAではないが、約16億米ドル(支出純額(支出総額-返済額)ベース)である。また、アジア開発銀行(ADB)は中国の加盟当初から譲許的なADF
(※10)での融資は実施していないが、市場金利をベースにした資金供与額はほぼ順調に増加しており、98年の融資実績は約5億米ドル(支出純額ベース)である。さらに、ADBは2000年に北京に代表事務所を開設するなど、中国における活動を強化している。
また、国連児童基金(UNICEF)が子供の健康などを中心とする援助を実施している。
(ロ)他の援助国の取組み
98年の主要援助国の援助実績は多い順に、日本、ドイツ、英国、カナダ、フランスとなっており、我が国は中国への二国間援助の6割以上を占める最大の援助国である。
このうち、ドイツは、重点分野として、職業訓練、環境保護、貧困対策、経済構造改革推進、交通インフラ整備をあげている。
英国は、従来、無償資金協力と輸出信用の混合援助スキームを実施していたが、97年以降の新規案件については、同スキームを適用せず、無償資金協力及び技術協力が中心となっている。重点分野としては、無償資金協力では、貧困削減、環境対策を、技術協力では、環境対策、英語教育、公的部門の効率化をあげている。
カナダは、94年に「中国開発援助政策フレームワーク」を策定し、市場経済移行支援、環境問題、都市政策、人権・民主的開発などの分野を中心に支援している。
フランスは、人材育成、制度整備のための技術協力とソフトローンが中心となっている。技術協力では、フランス語教育、法律・行政面での人材育成、医療・保健衛生分野が中心である。
<3>我が国の対中国経済協力政策
我が国の中国に対するODAは、この20年余における中国の改革・開放政策の推進を支援し、目覚ましい経済発展の実現に大きく貢献してきた。中国がより開かれ、安定した社会となり、国際社会の一員としての責任を一層果たしていくことが我が国にとっても望ましく、中国がそうした方向に進むよう働きかけを行うとともに、そのような中国の努力を支援していく必要がある。そのためには、中国との間で幅広い重層的な関係を構築していくことが不可欠であり、この文脈の中で、ODAも重要な役割を果たしている。
しかしながら、中国における経済発展に伴って、中国側の援助需要や援助に対する期待が変化しているほか、環境・感染症といった我が国にも直接影響が及び得る問題が増大している。また、我が国の厳しい経済・財政事情などを背景として、援助の効果・効率性の向上に対する要請や、対中援助に対する厳しい見方が存在する。対中ODAを取り巻く状況は大きく変化しており、今後の対中ODAについては、こうした変化を踏まえ、新たなあり方を指向していく。具体的には、
(イ)中国の経済発展を踏まえ、中国が自ら実施できることは自ら実施する。貧困問題や国内の貧富の格差は、中国国内の所得再配分の側面を有するものであり、我が国は中国の自助努力を促し、足らざる部分を側面から支援していく、
(ロ)被援助国の軍事支出や人権などの問題に関わる「ODA大綱」の「原則」については、その考え方について、援助に関する政策協議に限らず二国間の様々な機会を活用して中国側に引き続き提起し、中国側の認識と理解を深めていく、
(ハ)中国の多様かつ膨大な援助需要にあまねく応えることは不可能かつ不適当であり、特定地域、特定課題に援助資源を投入するモデル・アプローチを推進するなど、限られた援助資源の効果的・効率的活用を図る、
(ニ)我が国のODAが中国国内に広く知られるとの観点から、中国側の広報努力を一層促すとともに広報活動の強化、人と人との交流や我が国が有するノウハウ・技術の活用を図り、我が国の「顔」が見える援助を実施する、
(ホ)中国に対する援助について、本計画に基づき、評価を適時適切に実施し、評価結果を迅速にその後の援助実施に反映するとともに、国民に対し広く情報を開示し、その理解と支持を得るよう努める、
を念頭に以下の考え方に基づいて実施する。
(1)対中国経済協力の意義
我が国の安全と繁栄を維持・強化するためには、平和な国際環境の保持が必要であり、特に我が国が位置する東アジア地域の安定と繁栄が不可欠である。そのためには、地域のいかなる国も孤立することなく、協力していくような環境を醸成する必要があり、中国もまたより開かれ、安定した社会となり、国際社会の一員としての責任を一層果たしていくようになることが望ましい。
我が国は、中国が国際社会への関与と参加を深めるよう働きかけるとともに、中国自身のそうした方向での努力を支援していく必要がある。
このような観点から、我が国としても、政治面、経済面、文化面など広範な分野での二国間協力・交流や、草の根レベルでの人的交流、学術交流などの強化を通じ、中国との間で幅広い重層的な関係を構築していくとともに、両国間の相互理解及び相互信頼の増進を図ることが極めて重要である。また、民間の貿易・投資活動の発展に加えて、ODAを通じて中国の改革・開放政策を支援していくことも引き続き大きな意義を有している。
近年、アジア太平洋地域においては、APEC(アジア・太平洋経済協力)、ASEAN(東南アジア諸国連合)十3(日中韓)、ARF(ASEAN地域フォーラム)など地域協力、地域対話のための枠組み作りが進んでおり、中国も最近これら枠組みに積極的に参画している。こうした傾向を踏まえ、このような多国間協調の枠組みに対する中国の関与が一層強まるよう我が国としても更に可能な支援を行っていく必要がある。
(2)我が国経済協力の目指すべき方向
(イ)我が国のこれまでの経済協力
我が国は、中国が78年12月に改革・開放路線へ転換し、翌79年に円借款供与の要請を行ったことを踏まえ、同年12月に、訪中した大平総理(当時)が、我が国の中国に対するODAの供与を約束した。これは、中国の改革・開放政策を支援することが中国や我が国のみならず、アジア地域、ひいては世界の安定と繁栄に資するとの考えによるものである。
99年度までの援助実績は、有償資金協力は2兆4,535億円、無償資金協力は1,185億円(以上、交換公文ベース)、技術協力1,163億円(国際協力事業団(JICA)経費実績ベース)に上る。また、99年の我が国の支出純額は12億2,597万ドルであり、我が国の二国間ODA実績のうち、インドネシアに次いで第二位となっている。
我が国の対中ODAは、主として円借款による協力を通じ、全体として中国の沿海部のインフラのボトルネック解消及びマクロ経済の安定に貢献してきた
(※11)。また、無償資金協力や技術協力は主に保健・医療といった基礎的生活分野や、環境分野、人造りなどの事業に寄与してきた
(※12)。留学生支援
(※13)も含めたこうした協力は中国が必要とする資機材、施設などの供与、ノウハウや技術の移転に貢献してきた。
このように我が国ODAは中国の改革・開放政策を支援し、中国の目覚ましい発展に大きく貢献してきた。
(ロ)対中国経済協力全体に占める我が国のプレゼンス
前述のとおり、経済協力開発機構(OECD)/開発援助委員会(DAC)諸国による中国に対する二国間援助実績(支出純額ベース)において、我が国は79年の援助開始以来、ほぼ一貫して中国に対する二国間援助総額の半分以上を占め、最大の援助国となっており、中国において、我が国の援助のプレゼンスは極めて大きい。
このような我が国の援助実績に対し、DACによる「日本の開発協力政策及び計画に関する審査報告書」においては、我が国の対中円借款などの援助が「貿易や直接投資とともに、中国経済の急成長に大きく貢献している」旨報告されている
(※14)。また、中国側も日本のODAが中国の経済発展に果たした役割を高く評価し感謝の意を表明している
(※15)。
(ハ)対中国経済協力を巡る状況の変化
我が国ODAは中国の経済発展に大きく貢献してきたが、ODA供与を開始した当時と比較すれば、対中ODAを巡る状況は現在大きく変化している。主な変化は以下のとおりであり、今後の対中国援助は、そうした変化を十分踏まえて行う必要がある。
(a)我が国の厳しい経済・財政事情の下、特に中国については、国力の増大、すなわち、経済力・軍事力の強化やビジネスの競争相手としての存在感の増大といった変化を背景に東部沿海地域の目覚ましい発展、中国の国防力近代化、中国による第三国援助の実施とその透明性の欠如などを契機として我が国国内において対中ODAに対して厳しい見方が強まっている。
(b)中国の経済発展とともに中国が自ら国内外の民間資金を調達することにより手当が可能なものあるいは民間自身で実施可能なものが増えてきており、それとともに中国側の我が国ODA資金に対する期待や需要の対象が変化している。
(c)中国において市場経済化が進展する中で、WTO加盟の実現をも念頭に、国際経済社会への一体化のために不可欠な制度造りや法制度整備、あるいは人材の育成といった、資金の投入だけでは解決が困難ないわばソフト面での開発需要が高まっている。
(ニ)今後5年間の経済協力の方向性
今後の対中ODAを取り進めるに当たって、基本とすべき考え方は以下のとおりである。
(a)中国の新たな開発需要を踏まえつつ、我が国国民の理解と支持の下で、国益を踏まえつつ、個々の案件を精査し、重点分野・課題に沿って効率的に援助を実施する。
(b)中国が自ら実施できることは自ら実施する。中国の経済発展に伴い、中長期的には中国自らの国内資金や海外からの民間資金調達がより大きな役割を担っていくようにする。
(c)ODAのみならず、その他の公的資金、さらには民間資金とも連携を図ることにより、目標の効率的かつ効果的な実現に努める。
(d)中国が国際経済社会の中に一体化され、政治的にも国際社会の一層責任ある一員となることが我が国にとっても望ましいとの認識を踏まえ、市場経済化などに向けた中国の努力を促していくようなODAを実施する。
(e)我が国の対中ODAが中国の軍事力強化に結びつくことなど、「ODA大綱」の「原則
(※16)」にそぐわないことのないよう注意を払う。
なお、円借款については、従来の多年度にわたって供与額を約束する方式から、ロング・リスト(円借款案件候補リスト)に基づく単年度供与方式
(※17)に移行するが、今後は、無償資金協力、技術協力のみならず、円借款も含むODA全体について、従来の支援額を所与のものとすることなく、中国の我が国に対する新たな支援需要に適切に対応しつつ、以下(3)で述べる重点分野・課題を中心に、我が国の厳しい経済・財政事情をも勘案し、個別具体的に案件を審査の上、実施する「案件積み上げ方式」に基づいて供与する。
(3)重点分野・課題別経済協力方針
今後の対中ODAの実施に当たっては以下の重点分野・課題を中心として具体的案件の審査・採択を行う。これにより、我が国の対中ODAは従来型の沿海部中心のインフラの整備から、汚染や破壊が深刻になっている環境や生態系の保全、内陸部の民生向上や社会開発、人材育成、制度作り、技術移転などを中心とする分野をより重視する。また日中間の相互理解促進に資するよう一層の努力を払う。
(イ)環境問題など地球的規模の問題に対処するための協力
中国においては、公害問題に加えて酸性雨の降雨面積及び砂漠面積が急速に拡大するなど、環境問題が深刻な状況であり、砂漠化などの影響と見られる黄砂の移動による悪影響も指摘されている。
また、エネルギー消費の急増は、地球温暖化を始め様々な環境問題を深刻化させるとともに、アジア太平洋におけるエネルギー安全保障に影響を及ぼす可能性もある。
さらにHIV/AIDS感染者数・患者数は日本の50倍の約50万人、結核の推定患者発生数は約141万人に上る(UNAIDS
(※18)資料(99年))。これら地球的規模の問題への対処は喫緊の課題となっている。
こうした問題の中には、海洋、大気などを通じて直接に我が国にもその影響が及ぶものもある。
これらの問題に対し、今後ともこれまでの協力成果及び我が国の経験を最大限活用しつつ積極的に対応していく
(※19)。特に生態系の維持・回復には、水資源の管理や森林の保全・造成が重要であることを踏まえ、同分野での協力にも努める。その際、生態系や土地利用に係る地図の作成、森林の状況調査など、協力の基礎となる環境情報の作成を進め、また、対応政策に関する調査研究など、効果的な協力の実施に努める。
エネルギー関連環境対策の観点からは、新・再生可能エネルギーの導入及び省エネルギーに向けた努力を支援していく。
また、我が国の協力はポリオ撲滅に大きな成果を挙げたが
(※20)、その成果を活かし、今後の感染症対策としてHIV/AIDS、結核対策などを中心に取り組む。
(ロ)改革・開放支援
中国の改革・開放政策への支援を通じて、中国がより開かれた社会へ発展していくよう促していくことが大切であり、特に、市場経済化加速への努力を支援し、中国経済の国際経済との関わりを一層強化するよう促す。
また、市場経済化の担い手である民間の活動を活発化させるために、経済活動を律する法制度の確立などガヴァナンス(良い統治)強化を支援する。
世界経済との一体化支援として、具体的には、制度整備や人材育成を含む市場経済化促進のための支援や、経済活動を律する世界基準やルール(WTO協定を含む)への理解を促進するための支援を進める。
ガヴァナンス強化への支援としては、既にJICA研修事業において、我が国の刑事司法や科学技術に関する行政法の紹介を実施しているが、今後は、特に地方の政府関係者などによる法の支配や行政における透明性・効率性向上のための支援や草の根レベルでの啓発・教育活動支援などを実施する。
(ハ)相互理解の増進
両国国民間の相互理解の促進は両国間の長期にわたる良好な関係の基礎をなすものである。中国自身が対日観の改善のため、具体的努力をすることが極めて重要であるが、同時に、中国人が実際に日本人や日本文化に触れる機会を増加させることが、両国国民間の相互理解の促進にとり有効な手段となる。
我が国はこれまでも、留学生の招聘や、次代のリーダーとなる人たち、さらにはより広く一般の中国人に対して、日本人と直接交流し、また、現在の日本や日本文化を学ぶ機会を提供することに積極的にODAを用いてきた。今後はODAを活用して、人と人との交流を民間とも協力しつつ一層進めていくとの観点から、専門家派遣や研修員受入れ、留学生支援、青年交流や文化交流、さらには日本研究の促進や日中共同研究を含む学術交流・大学間交流などを通じて、相互理解の増進に資するような人材育成の強化に従来にも増して努力を行う。
留学生支援など人的交流を更に円滑に進めていくことができるようODAを通じ、留学生受入れの環境整備を含めた支援を進める。
また、日中両国民が直接接触する機会をもたらす観光の促進のため、政策提言、人造りなどの支援も進める
(※21)。
(ニ)貧困克服のための支援
中国における開発上の課題である貧困問題への対処のためには、(1)一人当たり所得に大きな格差がある沿海部と内陸部の格差是正のための経済・社会開発、(2)自然条件などに恵まれない内陸部を中心とした地域に対する貧困緩和を目的とした持続的な農業・農村開発、(3)社会的弱者対策などへの支援が必要である。
もとより貧困問題への対処は、一義的に中国国内の所得再配分に関わる問題であるが、例えば、この分野における中国政府の取組みを政策・制度面での整備、人造りといった面で支援することによって、中国の貧困問題の軽減に貢献することは、中国社会全体としての成熟度の向上に寄与するものと考えられる。
21世紀に向けた開発協力の方向性を定めたOECD/DACの「新開発戦略
(※22)」では、目標の一つとして、2015年までの世界の貧困人口比率の半減が謳われており、これは2000年7月開催された九州・沖縄サミットにおいても再確認された。世界の貧困の削減に努めていくことは、国際社会の有力な一員たる日本の重要な役割の一つである。
我が国は、これまでも貧困地域に対し農業、保健・医療といった基礎生活分野の充足に協力してきたが、今後ともこれら貧困層を対象に、将来の人造りの基礎ともなる教育・保健分野を中心として草の根レベルで支援の手を差し伸べるとともに、貧困人口を多く抱える地域の民生向上に向けた協力も貧困層に裨益するようなものを中心として行う。なお、こうした支援に際しては、日本農業などへの影響の有無に留意する。
(ホ)民間活動への支援
中国においては、多数の日本企業が事業を展開しており、両国間の幅広い関係強化に大きな役割を果たしている。かかる観点から、日本企業が中国において円滑に企業活動を展開し、民間主体で日中経済関係が拡大発展するよう環境を整備するための支援を行っていくことも重要である。
中国のWTO加盟の実現をも念頭に置きつつ、例えば、知的所有権保護政策の強化など中国側の投資受入のための基盤整備努力に対する支援は、日本企業の円滑な活動を確保することにもつながる。
また、援助に際して民間部門の知見の活用に努め、円借款の供与においては、資金の供与のみならず、我が国の優れた設備、システム、技術などの活用を図ることができる案件を積極的に発掘することに努め、その結果として大幅に低下している日本企業の受注率が高まるよう期待する。なお、こうした日本の優れた技術、設備、ノウハウなどの活用は中国における日本の援助に対する理解を深めることにつながり得る。
(ヘ)多国間協力の推進
日中両国は、二国間の「善隣友好」関係を越え、東アジア地域、さらには国際社会全体にわたる課題の解決に共に協力していくという「友好協力パートナーシップ
(※23)」の確立に合意しており、その促進のためにODAを通じても具体的な実績を積み上げていくことが極めて有意義である。そのため、例えば我が国が重点的に支援してきた人造り拠点(例えば、日中友好病院など)の活動成果などを基にして、第三国に対する支援活動を協力して実施していく。
また、日中韓の枠組みや東アジア域内での環境分野での協力
(※24)など、東アジアにおける域内協力を積極的に図る。
(4)経済協力実施上の留意点
(イ)ODA大綱に基づく働きかけの強化
中国における近年の国防費の大幅な増大や、核・ミサイル開発、武器の輸出入、さらには民主化の進展及び人権の保障状況などとの関連で、我が国国内には、中国に対する援助が「ODA大綱」の「原則」に即していないのではないかとの指摘もなされている。
我が国は「ODA大綱」に基づいてODAを実施してきており、中国の核開発の状況(注)、中国の軍事支出や武器の輸出入の動向などを注視するとともに、民主化の促進や基本的人権及び自由の保障状況などについても十分注意を払うよう努めてきている。
昨今の国防費の大幅な増大については、我が国国内に懸念の声があることを種々の機会を通じて中国側に伝え理解を促すとともに、軍事面での透明性や政策の説明能力の向上を働きかけている。例えば、日中の外相会談においても、我が方より中国の国防政策の透明性を高める努力を一層払うよう求めている。また法制度整備などを通じた民主化に資する支援に取り組んでいる。
今後は、中国側における「ODA大綱」についての認識と理解を従来以上に進めるため、援助に関する政策協議をはじめ、ハイレベルを含む二国間の様々な協議などあらゆる機会をとらえて中国側に提起し、大綱に関する理解と認識を深めるよう最大限の努力を払っていく。特に、安全保障、軍備管理・軍縮、人権などの分野ごとに両国の関係当局間の協議が実施されており、これらは「ODA大綱」の趣旨についての中国側の認識と理解を深める良い機会でもある。こうした協議の場を積極的に活用しつつ、主張すべきは主張し、相互理解と相互信頼を増進させ、中国が国際社会の主要な一員としての責任を一層果たしていくよう働きかけるとともに、中国自身のそうした方向での努力を支援していく。
(注)核開発については、中国が、我が国の再三の申入れにもかかわらず核実験を継続したことから、95年8月に我が国は、中国の核実験停止が明らかにならない限り、対中無償資金協力を原則凍結するとの措置をとった。その後、中国が96年7月の核実験を最後に核実験モラトリアムを表明し、同年9月に包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名したことを踏まえ、97年3月、我が国は無償資金協力を再開した。
また、近年、中国の第三国に対する援助に対し関心が高まっているが、その実態については明らかでなく、透明性に欠けており、そうしたことが、我が国国内における対中国援助に対する厳しい見方の一因となっている。今後、中国の第三国援助についての実績の公表など、透明性の向上をさらに働きかけていく。
(ロ)顔の見える経済協力の推進
我が国援助が中国国民に広く知られることが、日中間の相互理解を深める上で重要であり、ひいては我が国における対中国援助への支持基盤を再構築するに際して不可欠である。中国側も、今後我が国からのODAについて国内に対する広報努力を強めていく旨述べていることから、こうした中国側の努力を一層促すとともに、我が国としても、以下のような中国国民に対する広報活動を幅広く進める。
(a)ODAは政府間の交渉に基づき実施されるものであるが、案件形成の段階で実施機関となる地方政府の直接の意向をも反映できるよう工夫していく。その結果、地方政府に日本の援助に対する認識がより深まると考えられる。
(b)友好都市関係などを通じて中国と関係を有する地方自治体や中国に関心を有するNGOが自ら協力事業を実施したり、政府のODA事業に参加・協力している例も少なくない。ODAの実施に当たっては、これら自治体やNGOとの連携を一層進めるとともに、これらの主体による草の根レベルでの交流活動を支援する
(※25)。
(c)草の根無償資金協力
(※26)は、中国において非常に活発となっている。一案件の規模は限られるものの、住民の生活向上に直接結び付き、地域の政府と住民いずれからも歓迎され、よく目に見えることから、より一層積極的に活用していく。
(d)中国におけるマスメディアを巡る状況の変化に注目し、現地マスメディアとの連携を強化する他、中国国民に対するODA広報を強化するため、ODA広報活動一般の強化や協力案件実施の一環として広報活動を組み込むよう努める。
(ハ)対中技術協力の一層の活用と柔軟な実施
対中技術協力については、中国の経済・社会発展に伴い、従来型の技術移転、人造りに加えて、政策・制度面での知的支援といったソフト面での援助を重視する。そうした援助需要の変化に柔軟に対応し、効率的に事業を実施するため、専門家、青年海外協力隊に加え、NGO、地方自治体、シニア海外ボランティア
(※27)の一層の活用、あるいは我が国におけるソフト面での援助人材の育成など、我が国自身、既存の制度の見直し、体制の整備を図るとともに、NGOや地方自治体のODA参加に対する中国側の十分な理解を得るように努める。さらには、ODA案件を中国側と共同で形成していく観点から、これまでの中国側の窓口のあり方について検討する。
また、効果的な技術協力を進めていく観点から、資金協力との連携をより一層強める。その際、中国においては、援助スキーム別に窓口となる政府機関が異なることから、協力体制に支障が生じないよう関係機関同士の連携も慫慂する。さらには、これまでの技術協力の実績を積極的に活かしていくため、既に成果をあげている協力拠点に対しては、その効果が全国的な広がりをもつよう継続的に協力を行う。
(ニ)プロジェクトの共同形成
案件採択において、従来は中国側がある程度要請案件を絞って我が国に提出してきたが、我が国も案件の形成過程に更に積極的に関わり、透明性を高めつつ、地方政府を含む中国側と共同で案件を形成していく体制を採用していく。
円借款については、ラウンド方式
(※28)が終了し、3~5年程度を目途として候補案件を一覧するロング・リスト(円借款案件候補リスト)に基づき年度ごとに案件を採択する単年度方式
(※28)に移行した。こうした方式を着実に実施し、案件の選択に至る過程の透明性向上を図る。
また無償資金協力の案件選定や技術協力における研修員、招聘される青年などの選択の過程についても透明性を向上させるべくそのあり方を改めて検討する。
(ホ)その他
(a)モデル・アプローチの推進
広大な国土と多くの人口を有する中国において、効果的かつ目に見える援助を実施するためには、特定地域の開発又は特定分野に着目した二つのモデル・アプローチが有効である。
一つには、特定の地域をモデルとして選定し、そこに我が国が有する各種の援助手段を動員し、集中的に地域開発を支援する。
二つには、「日中環境開発モデル都市構想
(※29)」のように、特定分野に関する目標を実現すべくモデル地域を定め、モデル・プロジェクトを実施する。その成果はモデル地域のみに留めることなく、同様の問題に直面する他の地域に普及させることを目指す。
(b)OOF
(※30)及び民間資金との連携
国際協力銀行(JBIC)が行う業務のうち、OOFの範疇に属する国際金融等業務(旧日本輸出入銀行の実施業務)と円借款を含むODAは、前者が我が国の対外経済政策を金融面から支援することを目的としている一方、後者は開発途上国の国造りを支援することを目的としており、それぞれその目的・趣旨を異にしている。
しかし、国際金融等業務のうち、アンタイド・ローン
(※31)については、円借款との間で運用面における区別が必ずしも明確ではない、といった意見もなされている。公的資金という限られたリソースを効果的・効率的に活用するために、供与条件の緩やかなODA及び市場金利準拠のアンタイド・ローンという資金の特性を踏まえつつ、その専門性、ノウハウを活かし、相乗効果が得られるよう従来にも増して配慮する。また、ODAであれアンタイド・ローンであれ、その実施に当たっては、我が国の対中外交を踏まえ、全体として我が国の国益の増進に資するよう進めていくことが極めて重要である。
今後は中国側の様々なニーズに対して、各々のスキームの目的・趣旨に応じ、明確に使い分けることで、公的資金のより効果的・効率的運用を図るとともに、全体として我が国の国益に資するようアンタイド・ローンについても、我が国政府・実施機関における適切な連携の下に取り進める。
また、中国の持続的な経済成長のためには、公的資金のみならず、民間の資金・ノウハウを積極的に導入し、インフラ整備などを進める必要がある。ただし、その際、民間だけでは負うことができない種々のリスクが存在していることから、そうした民間活力によるインフラ整備などが円滑に行われるよう公的資金を活用し、関連する基礎インフラ整備などの支援を行う。
(c)国際機関など主要援助機関との連携強化
中国は目覚ましい経済発展を達成した結果、世界銀行の融資ガイドラインに基づき、99年からは供与条件の緩やかなIDAの資金融資の適格国からIBRD資金のみとなった。ADBについては加盟当初から譲許的なADF
(※10)からの融資は受けていない。
我が国の対中ODAは、従来の沿海部におけるインフラ整備から、内陸部の民生向上や社会開発、人材育成、環境保全などをより重視していくことになるが、貧困削減や社会開発について豊富なノウハウ、人的リソース、各種情報などを有し、中国もその支援を期待していると見られる世界銀行やADBによる事業との連携を強化する。
また、結核対策など、中国国内で広範囲において同時並行的に推進する必要のあるプロジェクトについては、これら国際機関との地域分担あるいは機能分担により協調して実施する。
さらに、マイクロクレジット・プロジェクト
(※32)のような、実施に当たって多くの人的リソースが必要な援助を行う場合は、UNDPなどとの共同実施の可能性を検討する。
(d)二国間及び域内協力を念頭に置いたIT協力の推進
中国では、近年ITの発展が目覚ましく、中国政府は国内開発においてITを積極的に活用することを表明している。そうした中で、ITの開発・利用は民間を中心に進められていくものとの認識から、民間の取組みを補完する形で、各般の政策的手段を組み合わせた柔軟な協力を検討する。
具体的にはODAを通じて、ITに関わる基準や制度などソフト面での支援の可能性に加えて、IT発展の基盤を支える人材育成などに貢献する。
また、中国を始めとするアジア太平洋地域におけるITの普及は、我が国自身のITのさらなる発展にも貢献し、また我が国の活力ある成長にも重要であるとの認識に基づき、IT分野の協力を通じて、上記(3)(ヘ)の多国間協力の推進をも視野にそうした「好循環」の形成を図る。
(e)評価体制の強化
中国に対する援助の評価を積極的に進める。具体的には、これまでの個別案件の評価のみならず、包括的視点から整合性のある評価を適時適切に実施する。
特に、民間の有識者をメンバーとする評価委員会を設置し、本計画の実施状況を点検するとともに、本計画が想定している5年間程度の期間が終了する時期を目途に、中国への援助計画全体についての評価を求め、助言を得る。
なお、こうした評価を実施していくに当たっては、中国側の考えや評価にも十分配慮すべく、共同評価を行う。また、第三国、国際援助機関などによる評価を対中ODAの改善のために活用する。
また、日本国民の対中国経済協力に対する理解が促進されるよう、対中ODAの趣旨を始め、ODA案件の選択の過程や実施状況、更には上記評価結果などにおいて示された成果や問題点などに関する情報公開を一層進めるとともに、インターネットの活用などを通じて分かりやすい情報の提供に努める。