ODA評価年次報告書2020 | 外務省

ODA評価年次報告書2020

2019年度外務省ODA評価概要の紹介

外務省が2019年度に外部の評価者に委託して実施した第三者評価全体を、開発の視点及び外交の視点からとりまとめました。

開発の視点からの評価

開発協力政策と日本のODAの上位政策、国際的な優先課題、被援助国のニーズとの整合性を検証する政策の妥当性については、おおむね非常に高いとの評価結果となりました。また、開発の効果がどこまで現れているかを検証する結果の有効性においても、被援助国がかかえる開発課題に対し日本の支援が貢献していることが確認され、おおむね高い評価となりました。一方、必ずしも想定されていた効果が確認されない、開発への貢献が限定的であると指摘された評価案件もありました。

開発協力政策の妥当性や有効性が確保されるようなプロセス(手続き)が取られていたかを検証するプロセスの適切性については、おおむね高い評価結果となりました。一方、情報共有プロセス、業務の効率化、広報や情報公開においては、改善の余地があると指摘された評価案件もありました。

外交の視点からの評価

開発協力大綱(2015年)で「開発政策は外交を機動的に展開する上で最も重要な手段の一つ」と位置づけられて以降、すべての外務省ODA評価案件において、日本の国益への影響を測る「外交の視点からの評価」を実施しています。

これは、国民への説明責任を一層果たすために、
1 評価対象のODAが日本の国益にとってなぜ重要と言えるのか(外交的な重要性)、
2 評価対象のODAが日本の国益の実現にどのように貢献したのか(外交的な波及効果
の2点を明らかにするために実施するものです。

2019年度についても、評価計画を策定する際に、評価の対象となるODAの外交的な重要性や国益への貢献度について、外務省の政策担当者から評価者に対して情報を提供し説明する機会を設けました。さらに、評価者が客観的な資料に基づいて検証し確認することができる環境を整えました。質の高いODA評価を実施するために、これらを継続的に実施していきます。

外交的な波及効果が確認された例としては、ODA事業による日本ブランドへの信頼感やメディアによる報道などによる日本の支援についての認識が一層良好な二国間関係の構築に繋がった例(フィリピン)、ODAを通じた研修事業を通じ日本・アフリカ間の女性事業家の交流が促進され、アフリカの女性企業家への支援のみならず、日本の女性企業家の育成にも繋がった例(女性のエンパワーメント推進)などが挙げられました。

「外交の視点からの評価」は、国際社会においても評価手法がまだ確立されていないため試行錯誤が続いていますが、ODAが国益にどのように貢献しているかについての関心は世界的にも高まっています。2019年12月に経済協力開発機構開発援助委員会(OECD/DAC)で採択された新評価基準においては、これまでの基準に加えてその国の他の政策との一貫性を見る「整合性(Coherence)」が新たに追加されました。この基準は日本の「外交の視点からの評価」の方向性と一致するものといえます。今後ともODAに対する国民の理解が得られるよう、評価の一層の充実を図っていきます。

提言の傾向とその対応策

2019年度に実施した5件のODA評価の結果、それぞれの評価案件の個別事情を踏まえた提言がなされました。国別評価と課題・スキーム別評価では評価の視点が異なるため、それぞれの提言を一概に比較することはできませんが、一定の共通点を見出すことはできます。その共通点として次の2分野を抽出し、主な対応策を紹介します。

1 支援の内容などに関する情報公開の促進

支援を行う場合、その目的や背景を含む具体的な支援内容に関する詳細情報を公開し、国民への説明責任を果たし、国民の理解を促進することが重要であるとの提言がなされました。

具体的には、「フィリピン国別評価」では、経済社会開発計画(無償資金協力)や草の根・人間の安全保障無償資金協力に関する具体的支援内容の情報がより詳細に広く公開されることが望ましいとの提言がなされました。

また、「2013年度ペルーに対する次世代自動車ノンプロジェクト無償資金協力の評価」では、ノンプロジェクト無償資金協力(経済社会開発計画)事業を実施するにあたって、国民への説明責任を果たすために、具体的内容、目的、成果指標などを公表することが重要であるとの提言がなされました。外務省では、各事業の報道発表において、その事業の目的など十分に記載し、また、主に在外公館のホームページで引き渡し式の様子を掲載するなどの広報を行っていますが、引き続き、わかりやすい情報提供を通じて国民の理解が得られるよう努めていきます。

2 成果指標の設定

政策実施の効果を測るため、政策の目標達成度合いを測る指標をあらかじめ設定することが望ましいとの提言がなされました。

「女性のエンパワーメント推進にかかるODAの評価」では、政策目標を確実に達成するために、成果重視型マネジメントを導入すべきであるとの提言がなされました。成果重視型マネジメントとは、具体的な指標と期限を含めた行動計画を策定し、定期的に進捗状況を管理し、目標の達成度合いを測るというものです。また、開発のあらゆる段階において、ジェンダー主流化をさらに推進するための取組みを規定し、行動計画に含めることは有効であるとの提言もなされました。外務省は、成果重視型マネジメントの導入を検討するとともに、今後とも政策目標の達成に向けた取組みの強化とフォローアップを行なっていきます。また、事業実施段階に加え、企画・立案・モニタリング・評価のあらゆる段階でのジェンダー主流化を推進するために、女性活躍推進に寄与した優良事例の収集や分析、政策レベルの調査研究を推進していきます。

「2013年度ペルーに対する次世代自動車ノンプロジェクト無償資金協力の評価」では、無償資金協力全体の仕組みが分かりにくいとの指摘があり、その目的、成果指標などについて、より明確な説明と位置づけを行い、公表することが提言されました。外務省は、事業の目的などについて十分に記載し、国民の理解が得られるよう努めていきます。

提言への対応策例

フィリピンでは、今後同国の中進国入りに伴い、日本の技術を活用することを条件とする円借款の終了が見込まれています。しかし、フィリピン側からは日本の技術を活用した支援の要望が強く、今後もそのニーズにこたえるような支援の工夫が望まれています「フィリピン国別評価」では、インフラ整備における日本の技術を活用した支援や他のドナーとの協調融資や海外投融資を活用した民間セクターとの連携事業が今後より重視されるとよいとの提言がなされました。外務省は、中進国に対する開発協力の国際的ルールに沿いながら、フィリピン側の個々のニーズにこたえる協力の在り方を両国間で緊密に協議していきます。その際には、民間や他のドナーとの連携強化も検討していきます。

「日本NGO連携無償資金協力の評価」では、NGOの自主性を尊重し、NGOの固有の価値を活かしながら日本NGO連携無償資金協力が運用されていることについて評価されました。他方、支援対象事業が網羅的になっているため、日本NGO連携無償資金協力全体の方向性や重点項目を示す戦略文書の作成を検討するべきであるとの提言がなされました。外務省としては、日本NGO連携無償資金協力全体の方向性や戦略をより明確にするよう努めます。また、その過程において各NGOの組織基盤を考慮する仕組みを検討していきます。

「女性のエンパワーメント推進にかかるODAの評価」では、被援助国及び国際社会に対し、ジェンダー分野における日本の貢献を十分に示せるよう、ジェンダー分野における代表となるような案件を形成し、それを日本のODAの前面に押し出すべきであるとの提言がなされました。また、アピールできる実績を作ることは、他ドナーとのさらなる連携に役立てることができ、協力関係の強化、さらに日本のジェンダー支援の強化につながることが期待できるとの提言がなされました。日本政府はこれまで、インドにおけるメトロ事業での女性専用車両やパキスタンにおける女性専用バスの整備など、日本が得意とする公共インフラ事業を通じた女性支援を行ってきました。これらの支援は、女性の社会進出につながるとして高い評価を受けています。外務省としては、他国における同様の事業の実施可能性について検討するとともに、国内外における優良事例の周知や広報に努めていきます。

「SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)の評価」では、案件採択において、共同研究を実施する相手国の運営機関に対し、不採択になった理由が十分に説明されていないとして、今後どのような改善をすれば採択の可能性があるかなど、相手国側に未来志向的な情報提供を行うことにより、相手国のオーナーシップを醸成することが重要であるとの提言がなされました。外務省としては、案件の検討結果を相手国に通報するにあたり、今後は不採択理由を説明できるよう調整していきます。

「2013年度ペルーに対する次世代自動車ノンプロジェクト無償資金協力の評価」では、今後同様の協力を実施するにあたって、現地の業界団体に対する情報発信や日系社会を通じた宣伝効果の活用などの対応を検討するべきであるとの提言がなされました。外務省は、今後、類似の事業を実施する際には、相手国の一般国民に対する日本製品の普及促進をどこまで求めるかを検討の上、広報を行なっていきます。

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