ODA評価年次報告書2020 | 外務省

ODA評価年次報告書2020

2019年度外務省ODA評価結果

フィリピン国別評価<概要>

(注)下記は、評価チーム作成の評価報告書に基づき、外務省ODA評価室が作成したものです。
全文はこちらからご覧いただけます。new window

評価者
(評価チーム)
評価主任 稲田 十一
専修大学経済学部教授
アドバイザー 石井 正子
立教大学異文化コミュニケーション学部教授
コンサルタント NTCインターナショナル株式会社
評価対象期間 2014年度~2018年度
評価実施期間 2019年7月~2020年2月
現地調査国 フィリピン
日本企業が円借款で建設中の橋梁の写真

日本企業が円借款で建設中の橋梁

評価の背景・対象・目的

地政学上重要な国であるのに加え、日本と基本的な価値観や戦略的利益を共有しており、日本にとって重要な経済活動の拠点となっているフィリピンの持続的発展は、東アジア地域の安定と発展に資するという観点からも重要である。本評価は、過去5年間(2014~2018年度)の日本の対フィリピン開発協力政策を評価し、今後の開発協力政策の立案や実施のための提言や教訓を得ること、また国民への説明責任を果たすことを主な目的とする。

評価結果のまとめ

● 開発の視点からの評価

(1) 政策の妥当性

日本の対フィリピン開発協力政策は、ODA大綱及び開発協力大綱などの日本のODA上位政策、フィリピンの開発計画やニーズ、国際的な優先課題と整合性を有している。また日本は、幅広い分野での支援を展開している中、運輸・交通分野、防災分野、ミンダナオ支援において、特に比較優位性を発揮している取組みも確認された。(評価結果:極めて高い A

(2) 結果の有効性

日本はフィリピンにとって第1位のODA供与国であり、支援金額の観点から大きな貢献を果たしている。また、対フィリピン国別開発協力方針の各開発課題に対して着実に支援をしており、フィリピンの持続的経済成長のための基盤の強化、包摂的な成長のための人間の安全保障の確保、ミンダナオの平和を下支えする開発に貢献している。(評価結果 : 極めて高い A

(3) プロセスの適切性

 日本の対フィリピン開発協力政策は、おおむね適切なプロセスを経て策定され、実施においても、基本的な実施体制の整備・運営、ニーズ把握、対フィリピン支援重点分野に基づく個別案件の実施、実施状況のモニタリング、効果検証のための評価、広報、他開発アクターとの協調・連携、社会性・民族性への配慮につきおおむね適切なプロセスが確認された。一方、災害からの復旧・復興支援については課題が確認されたほか、分かりやすい広報としては改善が望まれる点があった。(評価結果 : 高い B

(注)レーティング: 極めて高い A/高い B/一部課題がある C/低い D

● 外交の視点からの評価

(1)外交的な重要性

基本的な価値観や戦略的利益を共有し、緊密な経済関係を有する日比両国の二国間関係は非常に良好かつ強固であり、「地域及びそれを超えた平和、安全及び成長についての共通の理念と目標の促進のために強化された戦略的パートナーシップに関する日本-フィリピン共同宣言」及び「戦略的パートナーシップ強化のための行動計画」が発出されているほか、両国のハイレベルが協議する日比経済協力インフラ合同委員会会合が年3回程度開催されている。

また、日本政府は、ミンダナオの平和及び安定がアジア地域全体の平和及び繁栄に寄与するとの方針を有しており、ODAによるフィリピンへの支援は日本の外交政策上高い意義を有する。

(2)外交的な波及効果

日本の対フィリピンODAは、人間の安全保障の実現とともに、東アジア地域の安全・安定に資する海上安全やミンダナオの平和に貢献しているほか、経済インフラの整備を通して日系企業の経済活動の安定にも資するものである。また、インフラ整備の分野での日本ブランドへの信頼感は一般国民にも浸透しているほか、メディアによる報道や表彰などにより、日本の支援についての認識が根付いており、対フィリピンODAを通じてフィリピン側に日本が評価されることで、さらに良好な二国間関係が構築されるという外交的波及的効果も確認できる。

評価結果に基づく提言

(1) インフラ整備における日本の技術を活用した支援や民間セクターと連携した支援の重視

今後フィリピンの中進国入りに伴い、本邦技術活用条件(STEP)適用の円借款の終了が見込まれるが、フィリピン側からは日本の技術を活用した支援の要望が強く、今後もそのニーズに応えるような支援の工夫が望まれる。また、他ドナーとの協調融資や海外投融資を活用した民間セクターとの連携事業は、今後より重視されてよい選択肢である。

(2)包摂的な成長に向けた地方開発の支援の強化

地域間格差が拡大傾向にあるため、地方でのインフラ案件の形成・実施をより一層促進する必要がある。また、より包摂的な成長に向け、地域間格差是正や貧困削減のための地方での保健・農業・教育分野などの支援もより重視されるべきである。

(3)ミンダナオにおける平和の配当を実感できる支援の強化

これまでに築いたフィリピン側関係者との信頼関係を基に、安全面を考慮しつつ、現地の団体・人材を活用しながら、2019年2月に設立されたバンサモロ暫定自治政府(BTA)に対し、モロ・イスラム解放戦線(MILF)やモロ民族解放戦線(MNLF)、地方自治体、キリスト教徒、先住民族などを含む関係者が平和の配当を実感できるような支援を強化すべきである。

(4)住民移転やコミュニティ開発に関する社会的インパクトへのより一層の配慮

インフラ整備に伴う住民移転や復興支援における生計向上支援、平和構築におけるコミュニティ開発など、社会的インパクトが伴う案件については、現地の研究者や調査機関を含む社会学・社会調査の専門家、地域研究者などを活用するなど、かかるインパクトの事前分析をより丁寧に行うべきである。

(5)海上保安分野支援の今後の位置付けの明確化

フィリピン沿岸警備隊(PCG)への技術支援は、段階的にステップアップしつつ、17年間にわたり行われ、PCGの海上保安能力の強化に貢献している。今後も継続する場合、次の段階で必要な支援につき十分に検討した上で行うべきである。海上法執行に関する人材育成、米国コーストガードとの連携強化、円借款で支援された巡視艇の運用・維持管理能力のさらなる強化などが選択肢となりえる。

(6)経済社会開発計画及び草の根・人間の安全保障無償に関する情報公開の促進

対フィリピン支援に限らず、経済社会開発計画の支援内容に関する情報公開が不十分であるため、供与品目・数量、供与先などの支援内容の情報が、外務省HPなどでより詳細に公開されるべきである。草の根・人間の安全保障無償に関しても、既に外務省HPに掲載されている贈与契約締結日、案件名や支援金額に加え、具体的支援内容の情報も広く公開されることが望ましい。

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