ODA評価年次報告書2020
2019年度外務省ODA評価結果
女性のエンパワーメント推進にかかるODAの評価<概要>
(注)下記は、評価チーム作成の評価報告書に基づき、外務省ODA評価室が作成したものです。
全文はこちらからご覧いただけます。
評価者 (評価チーム) |
評価主任 | 山形 辰史 立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部教授 |
アドバイザー | 齋藤 百合子 明治学院大学国際平和研究所研究員 |
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コンサルタント | 株式会社コーエイリサーチ&コンサルティング | |
評価対象期間 | 2013年~2018年 | |
評価実施期間 | 2019年7月~2020年3月 | |
現地調査国 | ケニア、キルギス |

フェルト製品の製作所で働くキルギスの女性達
評価の背景・対象・目的
日本は、開発協力のあらゆる段階における女性の参画を促進し、男女が公正に開発の恩恵を受けられるように取り組むことを表明し、ODAを実施してきた。本評価はジェンダー平等や女性のエンパワーメント推進にかかる日本のODA政策を包括的に評価し、今後のODA政策の立案や実施のための提言や教訓を得ること、また国民への説明責任を果たすことを主な目的とする。
評価結果のまとめ
● 開発の視点からの評価
(1) 政策の妥当性
日本のジェンダー分野のODA政策は、ODA大綱及び開発協力大綱などのODA上位政策、国際的な援助潮流、被援助国のニーズと整合している。また、女子教育支援や女性のニーズに配慮した防災分野における支援が多く実施されており、日本の経験や強みを活かした協力方針となっていることが確認された。(評価結果 : 極めて高い
)(2) 結果の有効性
日本のジェンダー案件の支出総額およびODA支出総額に占めるジェンダー案件の支出総額の割合ともに増加していることが確認された。また、日本が公約した2013年から2018年までの支援額および裨益人数も達成されている。さらに、政策の3つの重点分野(①女性と女児の権利の尊重・脆弱な状況の改善、②女性の能力発揮のための基盤の整備、③政治、経済、公共分野への女性の参画とリーダーシップ向上)において、被援助国の開発課題への貢献や高い成果が確認された。(評価結果 : 極めて高い
)(3) プロセスの適切性
ジェンダー分野のODA政策の策定プロセス、支援実施プロセス、他ドナーとの連携は適切である。一方、政策実施状況のモニタリングは定期的に実施されているが、具体的な指標や期限を含めた行動計画が策定されていないため、政策目標の達成度は精緻に測定されていない。さらに、広報は国内外に向けて積極的に行われているものの、現地調査国のケニアとキルギスにおいては、その効果は限定的であった。(評価結果 : 高い
)(注)レーティング: 極めて高い
/高い /一部課題がある /低い● 外交の視点からの評価
(1)外交的な重要性
ジェンダー平等・女性のエンパワーメント推進は、国際社会の平和と安定、およびSDGs達成のために不可欠な要素である。国際的にも注目度が高いジェンダー分野において、日本の支援により、被援助国の女性・女児にとって安全な地域づくり、女性の社会サービスへのアクセス改善、教育機会の拡大に貢献することは、外交的に重要である。また、女性の雇用を含む多様性の確保が企業の業績向上につながることが証明されていることから、開発途上国の女性が活躍できる環境を整備することは、海外展開を図る日本企業にとっても有益である。
(2)外交的な波及効果
日本政府は女性が輝く社会を政策目標に掲げ、支援約束を発表し、これを着実に実施してきた。国際社会が重視しているジェンダー課題の解決において、日本が開発途上国へ積極的に支援を実施していることと他ドナーと連携していることは、国際社会における日本の地位向上に寄与している。二国間関係構築の観点からは、被援助国の女性の雇用創出・生計向上などの成果を生み出し、被援助国の信頼獲得に繋がっている。また、日本がアフリカの女性起業家に対し実施している研修事業においては、日本・アフリカ間の女性起業家の交流が促進されており、アフリカの女性企業家への支援のみならず、日本の女性企業家の育成にもつながっている。
評価結果に基づく提言
(1)日本のジェンダー分野を代表する案件の形成
日本が被援助国および国際社会に対し、ジェンダー分野における貢献を十分に示せるよう、日本の代表案件となるようなジェンダー案件を形成し、日本のODAの前面に押し出すべきである。また、アピールできる実績を作ることは、他ドナーとのさらなる連携に役立てることができ、協力関係の強化、ひいては日本のジェンダー支援の強化につながることが期待できる。
(2)成果重視型マネジメントの導入
外務省は、政策目標を確実に達成させるために、成果重視型マネジメントを導入すべきである。マネジメントのサイクルにおいて、具体的な指標と期限を含めた行動計画を策定し、定期的に進捗状況を管理し、目標の達成度合いを測るべきである。また、開発のあらゆる段階においてジェンダー主流化をさらに推進するための取組みを規定し、行動計画に含めることは有効である。さらに、ジェンダー分野における支援を強化するために、投入金額や裨益人数の目標のみならず、日本のODA総予算に占めるジェンダー案件の金額の割合目標を設定すべきである。
(3)人材・資金の拡充と体制強化
ジェンダー分野におけるODAのさらなる強化のために、追加の人員および資金の投入が必要である。また、国・地域特有のジェンダー課題、人身取引やジェンダーに基づく暴力などの専門領域に詳しい専門家の採用・育成が必要である。さらには、資源(人材・資金)を適切に活用するため、外務省およびJICA内の体制強化が求められる。