ODAとは? ODA評価

第6回ODA評価ワークショップの開催

1. 第6回ODAワークショップは2006年10月18日(水曜日)~20日(金曜日)にかけ、フィリピンのマニラに所在するアジア開発銀行本部にて行われた「援助効果向上にかかるアジア地域フォーラム2006」の中で評価セッションとして開催された。

2. 共催:日本、英国、アジア開発銀行、世界銀行の4者による共催(協力機関:経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC))

3. 評価セッションへの参加者:ドナー側はわが国、DAC評価ネットワーク、UNICEF、AUSAID、NZAID他。パートナー側はベトナム、スリランカ、ソロモン、パキスタン他、セッション1 セッション2それぞれ各約40名。

4. 議長:セッションはセッション1「評価と政策のリンク」、セッション2「援助効果の評価」が行われ、セッション1は、日本側から廣野良吉・成蹊大学名誉教授及びフィリピン国家経済開発庁ロナルド・トゥンパラン次官補が、セッション2は廣野教授及びマレーシア首相府経済企画院ヒダ・ミスラン課長が共同議長を務めた。

5. 主な論点

(1)評価セッション1:「評価と政策のリンク」

 途上国の評価能力構築の現状と課題について、(イ)成果重視に向けた評価強化のあり方、(ロ)評価能力構築に向けた取り組みと課題、(ハ)パートナー国の課題を克服するための合同評価のありかたと評価能力構築の課題、(ニ)アジアにおける評価ネットワークの構築を中心に議論が行われた。

(イ)「成果重視に向けた評価強化のあり方」では成果重視の評価の実施のために何が重要で、いかなる課題があるかについて話し合われた。
 フィリピンからの出席者により成果重視の援助に向けた政府のイニシアチブとして制度化されているモニタリング・評価の取り組みにつき紹介が行われ、これを基に議論が行われた。
 議論では、成果重視の評価文化が、政府部門だけでなく民間部門でも醸成されることが必要な点で参加者の意見が一致した。またそのような評価文化を醸成するには影響力の大きい政治レベルへの働きかけが有効であり、MfDR(開発成果管理:Management for Development Results)のためには、事後評価より形成評価(formative evaluation)を重視すべきであることが参加者の間で強調された。モニタリングと評価の実施にあたっては説明責任の確保と援助の実施管理との間に軋轢が見られるが、政策決定プロセスにおいてはドナー側の説明責任を重視しすぎるべきではなく、政策担当者の間には評価の悪い結果に背を向ける傾向があるというマイナス点も考慮しつつ、定量的な評価だけでなく実証可能な定性的な包括的評価も同等に重視されるべきである点で参加者の意見が一致した。

(ロ)「評価能力構築に向けた取り組みと課題」では、スリランカからの参加者により援助プロジェクトの進捗状況をモニターするシステムの実施状況及び援助全般を担当する計画実施省の取り組みにつき紹介があり、ウェブサイトを通じての評価結果の公表や学術機関との連携の重要性を指摘し、評価に対する需要の不足や評価部門と政策部門の連携の不足を課題として挙げた。
 また、DAC評価ネットワークからの参加者によりドナー国・機関によるパートナー国における評価能力構築(ECD)の現状調査のデータ収集結果につき発表があり、多くのドナーが主にパートナー国の政府関係者を対象にセミナーやワークショップ等の評価能力構築活動を行っている一方、パートナー国におけるインセンティブの欠如が課題であるとの指摘があった。
 議論においては、評価能力構築の強化には持続的な努力が必要であること、援助効果向上のためにはパートナー国の需要に基づいた、パートナー国主導の評価が重要であること、評価と政策のリンクの必要性は広く認識されているものの、パートナー国の評価能力構築は更に強化される必要があるとの点などで参加者の意見が一致した。
 評価の文化を醸成するには、説明責任が一層重視されると同時に第三者評価に対する需要増加に対しインセンティブが与えられることが必要であり、説明責任はNGO、議会等の関与によりいっそう強化されるとの認識が共有された。
 セミナーの開催や合同評価等の評価能力構築活動に対する資金支援の継続が重要であるとともに、パートナー国における制度化が評価能力構築の鍵であり、パートナー国は評価能力構築活動においてオーナーシップと指導力を発揮するべきであること、この観点から、アジアの新興ドナーはパートナー国の評価能力構築活動に貢献できることが議長より述べられた。今後の検討課題として、ドナー側の比較優位に基づいた評価能力構築の分野やアプローチの特定が挙げられた。

(ハ)パートナー国の課題を克服するための合同評価のありかたと評価能力構築の課題では、評価能力構築に関連して、合同評価の重要性とその課題につき議論が行われた。マレーシアからの参加者により評価能力構築の手段として合同評価の重要性につき、合同評価はパートナー国のオーナーシップに貢献するだけでなく評価におけるドナーとの調和化が図られる点で有益としつつ、パートナー側のモニタリング・評価システムの欠如や評価に対する需要不足が課題であるとの発表があり、これを基に議論が行われた。議論においては、合同評価は評価能力構築の強化に資すると同時に、評価の基準や実施方法について調和化を促すものという前向きの認識が参加者の間で共有された。

(ニ)「アジアにおける評価ネットワークの構築」では、廣野議長から、スリランカ、インド、マレーシアなどにある評価学会をアジアにおける知的ネットワークとして確立していくことの意義が強調された。また、議論において長期的に開発効果に資する制度構築の一環としてアジア太平洋地域における知的ネットワークとしてのアジア太平洋評価学会設立の重要性につき議長から提案があった。

(2)評価セッション2:「援助効果の評価」

 パリ宣言実施に関する評価の枠組みを構築するための取り組み、その課題等について、(イ)パートナー国レベル、ドナーレベルでのパリ宣言実施状況に関し、評価の枠組みを構築する上で、どのような課題、論点を反映させるべきか、(ロ)パリ宣言の実施状況を評価するための選択肢は何か、(ハ)各パートナー国・ドナーレベルの評価において、どのような質問項目を設定すべきか、(ニ)パートナー国とドナーの合同評価を実施するための運営・管理体制はどのようにすべきかを中心に議論が行われた。

(イ)「パートナー国レベル、ドナーレベルでのパリ宣言実施状況に関し、評価の枠組みを構築する上で、どのような課題、論点を反映させるべきか。」DACの参加者がパリ宣言の実施状況に関する評価の枠組み作りの選択肢について、DAC開発評価ネットワーク事務局がコンサルタント(ODI)に取り纏めさせた報告書に基づき、取り得る選択肢について説明、ベトナムの参加者は、パリ宣言のフォローアップ状況の評価に関するベトナムの取り組み状況について説明を行った。
 議論において、評価は、パリ宣言の全ての側面をカバーする包括的な重要課題であることについて多くの参加者から賛同が得られた。加えて、パリ宣言の実施状況を評価する共通の枠組みを構築しようとするDAC等の取り組みは、パートナー国が評価を実施する上で直面している様々な課題を取り除くことに繋がり、また、各パートナー国の国レベルの評価、分野横断的な評価、域内諸国の横断的評価の実施を促進するためにパートナー国・ドナーが協働する貴重な機会を提供するものであることについて参加者間に共通の認識が得られた。また、2008年のガーナでのHLFで評価コミュニティーが実質的な貢献を行う上で準備に残された時間は限られており、関係国・機関において迅速な対応が求められているという認識が参加者間で共有された。

(ロ)「パリ宣言の実施状況を評価するための選択肢は何か。」では、パリ宣言の実施状況の評価においては、各国・機関の取り組み状況の良し悪しを判定するのではなく、むしろ、パリ宣言の実施を促進する上で有益な課題や提言を導き出すことを主眼にした形成評価とすべきであることについて参加者間で共通認識が醸成された。その際にドナー側は、自身が関与しているセクターに対する援助のインパクトのみならず、パートナー国の全体的な開発目標に対する援助全体のインパクトを評価することに注力すべきであり、パリ宣言のパートナー国レベルの評価は、ドナー主導で行うべきではないとの認識が確認された。

(ハ)「各パートナー国・ドナーレベルの評価(事例研究)において、どのような質問項目を設定すべきか。」では、ドナーの援助効果向上に関する政策と戦略は本部レベルでも評価すべきであり、他方、パートナー国レベルの評価では当該国の視点を充分に反映する必要があるということに関し参加者間で共通認識が得られた。また、パートナー国レベルの評価の委任事項(TOR)は、各国レベルで策定されるべきものであることについても多くの賛同が得られた。

(ニ)「パートナー国とドナーの合同評価を実施するための運営・管理体制はどのようにすべきか。」DACより、評価の枠組みや方向性等をパートナー国・ドナー間で協議し決定するためのGlobal Reference Groupを、また、合同評価の運営業務を担当するManaging Groupを作ることが提案された。

(ホ)セッション2を通じて、パリ宣言の原則を順守する必要性がある一方で、パートナー国間に存在する経済的、社会的、制度的多様性を反映し、評価や評価能力強化に対するアプローチにも多様性があることを充分に念頭に置く必要性があることについて、多くの参加者の間で認識が共有された。

6.成果

(1)今次会合で、パリ宣言のすべての原則にかかる事項として、援助効果向上における評価の役割の重要性が共催者・参加者によって明確に認識されたことは大きな進歩である。

(2)特に、評価がパリ宣言の全ての側面をカバーする包括的な重要課題であり、開発目標の達成に向けた援助の効果を確保する上で重要な役割を果たすことが認識された。

(3)評価セッション全体を通して評価能力構築の手段としてのパートナー国との合同評価の重要性や、成果重視の援助政策に資するものとして形成評価の重要性が強調されたことも今後のODA評価の方向性を示すものとして注目に値する。

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