ODAとは? ODA評価

第2章 日本側発表等

2-1.オープニング・スピーチ

 セミナー開始に際し、在ベトナム日本大使館の藤原参事官によりオープニング・スピーチが行われた。この中で、本セミナーの目的は、1992年から再開された日本の対ベトナム援助のインパクトを評価することと、今後の日本の援助に関する提言を得ることの2点にあるとの発言があった。この目的のために2002年初めに現地調査が行われ、その後、ベトナムを巡る開発の問題は大きな動きを見せ、調査団の提言についても、具体的な進展が見られたと述べ、「包括的な貧困削減・成長戦略」の策定、手続き調和化などのドナー間協力の進展とわが国の貢献、わが国の対ベトナム国別援助計画の現地チーム主導による見直しなどについて説明した。

2-2.調査団発表の概要

(1) オープニング・スピーチに続き、調査団員である若井東大教授、神事一橋大学講師、佐々木(財)国際開発センター研究員より、それぞれ、以下のとおり、評価結果及び提言を発表した。

1)総合評価
2)定量的インパクト評価
3)人材育成・制度構築
4)経済インフラ開発
5)教育
6)保健医療
7)農業・農村開発
8)環境
9)総合的な提言

 発表は、事前に配付された英文資料(付属資料3)に基づき、調査団各人が用意したプレゼンテーション・データ(付属資料4)をスクリーンに投影しながら行った。なお、評価結果の概要及び具体的な提言内容の和文要約はBOX1のとおりである。

(2) 調査団報告の提言に対して、藤原参事官からコメントがあった。主な点は以下のとおり。

当該評価調査の実施から1年近くが経っており、提言の幾つかについては、既にフォローアップが行われている。
援助協調には積極的に取り組んでおり(CPRGS拡大への関与、アジア地域調和化準備ワークショップの共催等に言及)、さらに積極的に参加していく意向である。
各分野の援助に関する提言も真摯に受け止めていく意向である。
国別援助計画の見直し作業が現地のイニシアティブによって行われている。
引き続きトップ・ドナーとして対ベトナムに対する支援を行なっていく意向である。


■BOX1 調査団発表の概要■


1.評価結果の概要

日本は、これまでベトナムの道路、港湾、鉄道、発電所、病院、小学校、大学、農業、その他人材育成などの援助を行なっており、ベトナムへの援助総額のうち48%が日本からの援助であった(1999年)。その上、同国の財政支出の10%あまりが日本からの援助によって賄われたことになる。
ベトナムはドイモイ(刷新)の開始以来、市場経済の導入を進め、高い経済成長を実現してきた。この過程で、我が国は人材育成・制度構築およびインフラ整備支援を2大重点分野とし、さらに農業・農村開発、教育・保健医療、環境を含む5つの分野を中心に援助を実施してきた。
日本のODAがベトナム国内の経済活動に与えたインパクトとしては、今回アンケートを実施した企業家の50%がインフラ改善を挙げるとともに、今後援助すべき優先項目のトップとしてやはりインフラ整備を挙げている。
日本の援助は、それぞれの分野で高い効果を発揮しており、ベトナム政府からも高く評価されている。特に、「市場経済化支援開発政策調査」(通称「石川プロジェクト」)や「経済改革支援借款」(いわゆる「新宮沢構想」の延長線上の支援)といった政策支援は日本にとって初の試みであったが、前者はベトナムの国家開発5カ年計画(2001-2005年)に活かされているほか、後者は投資や貿易を促進するための制度構築や市場環境の改善に大いに貢献したとして評価されている。
また、日本は円借款により道路、港湾、鉄道、発電所などの経済インフラの整備を実施してきた。発電に関しては、過去10年間の発電能力の伸びの38%が日本の援助によって実現された。また、首都ハノイと主要港湾を結ぶ国道5号線の整備(首都ハノイと北部の最重要港ハイフォン港を結ぶ約100キロの道路で、以前の5時間の所要時間が1.5~2時間程度に短縮されたとのこと)、ハノイと南部の商業都市ホーチミンを結ぶ国道1号線の整備、ホーチミンにおける東西道路など、ベトナムの主要な幹線道路が日本の援助によって整備されている(一部整備中)。これらはベトナムの物流を大幅に改善し、同国の急激な経済発展に貢献し、また今後貢献度合が高まっていくものと評価されている。
ハノイ、ホーチミンという南北の中心都市におけるナショナル・レベルの病院整備、台風の被害を受けていた143件の小学校整備、情報処理センターでのIT研修、農業分野における大学レベルでの技術支援などを含む個別の援助案件も、それぞれ所期の効果をあげていることが確認された。


2.今後の課題と提言

「援助協調プラス個別案件支援」=Dual Functionの追求:ベトナムでは、他の援助国による「援助協調」の動きが活発化している。ベトナム政府のオーナーシップにより、ドナー、国民との協議を通じて、セクターごとに開発戦略・政策を策定し、協調して実施する援助協調の動きとともに、援助手続調和化に関する議論が活発化しているが、日本としても、こうした動きにより積極的に対応することが必要である。他方、ベトナムにはインフラ整備をはじめとした莫大な援助需要があり、トップ・ドナーである日本は、個別の援助案件について従来通りベトナム政府と協議して、独自に継続的な援助を行なっていくべきである。
上記の「援助協調プラス個別案件支援」を効率的に実施するために、外務省本省から大使館へ、JICA・JBICなど実施機関本部から現地事務所への、より一層の権限の委譲を行なうべきである。また、国別援助計画の見直しも、現地のJICA・JBIC事務所の協力を得て大使館が主導して行なうことを提案する。さらに、現地では援助国の代表者が一堂に会して議論し、その場である程度の意思決定がなされることが増えており、日本もこうした現地会合の場で意思決定ができるような権限の委譲も必要である。その際、各国における援助協調の場での状況等を十分考慮したものとすべきである。さらに、各国のドナー会合等の議論が専門化する傾向を強めており、こうした議論に十分に対応し、また、他の援助機関との協議を緊密にこなすため、各現地事務所の人員の強化も必要である。(いわば「フロント・ラインの強化」)
一方で、日本の援助全体に関わる政策の変更については、外務省本省で決定し、各大使館へ明確に通知されていないように見受けられる。政策や統一方針の決定と現場への通知を徹底することによって、日本が援助を供与している途上国全体での統一的な援助目的及び援助政策の実現を確保する必要がある。
今後の対ベトナム援助の重点分野としては、(1)順調に進む市場経済化に対応した官民両面にわたる人材育成、(2)AFTAやWTOへの加盟など国際経済への統合に対応するための法制度などの制度構築、(3)工業生産の増加を下支えするインフラ整備需要への戦略的な対応、などを提言する。また、(4)工業生産で伸びる都市部と、農業に依存する地方の所得格差是正のための農業・農村開発なども併せて検討されるべきである。「ベトナム国別援助計画」の見直しの際には、これらの重点分野を踏まえ、優先すべき分野をより明確にすることが望まれる。
円借款案件の実施面において、日本による援助実施の決定後、ベトナム側による事業の実施に遅れが見られた場合があることを指摘せねばならない。特に、道路や発電所案件などでこの傾向が見られた。速やかな実施をベトナム政府側に求めていかねばならない。


2-3.外務省評価室報告の概要

 わが国、特に外務省のODA評価の取り組みに関し、外務省評価室の山本事務官から報告がなされた。主な内容は以下のとおり(詳細は別添資料5参照)

  • 日本のODAにおいて、評価の役割がますます重要になっている。
  • 外務省は、政策レベルとプログラム・レベルの評価に力点を置いており、この二つのレベルの評価手法を開発中である。2001年度に実施したベトナム国別評価は政策レベル評価である。
  • 外務省では、ODA評価結果を政策や実施にフィードバックする体制が確立されている(「外部有識者評価フィードバック委員会」と「ODA評価フィードバック内部連絡会議」を通じたフィードバック体制を説明)。
  • 「ベトナム国別評価」は政策レベルのODA評価に位置付けられ、調査団による各援助分野における提言は、評価フィードバックの外部委員会と内部連絡会議において既に取り上げられ、その採用の可否が見直し後の国別援助計画に照らして検討される。パートナー国に対するフィードバックも重要であり、今次セミナーはそのために開催した。
  • ODA評価におけるパートナー国との連携は重要であり、外務省は2001年に続き2002年、「ODA評価東京ワークショップ」を開催した。本セミナーがODA評価におけるわが国とベトナムをはじめとする同ワークショップ参加国との連携強化へ向けての第一歩となることが望まれる。
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