平成21年4月1日
ベトナムにおける円借款事業において発生したPCI贈収賄事件を踏まえ、日本側における不正腐敗の再発防止策として、以下の取組みを実施することとしました。ベトナムのみならず、すべての国における円借款事業について当該取り組みを着実に実施していくとともに、相手国政府に対しても円借款事業における調達手続きの透明性向上及び厳正化、腐敗防止の制度・体制強化を求めることで、不正腐敗の再発防止に努める方針です。
円借款事業におけるコンサルタントの選定に、価格評価の要素を導入しました。具体的には、コンサルタントの選定にかかるプロポーザル評価において、従来はQuality Based Selection(技術評価。以下「QBS」)のみでしたが、今後はQCBSを原則とします。円借款事業における品質や安全の確保に十分配慮するため引き続き技術評価を中心とするとの観点から、世界銀行の実務なども十分参考にしつつ、QCBSを実施する際の具体的な計算方法は以下のとおりとしました。
(1)技術点が一定点に満たない場合は失格とする。
(2)技術と価格の評価比率は原則80:20とする。
(3)技術点と価格点を合算してプロポーザル評価の順位を決定する。
あわせて、QBSが採用される業務を以下に限定することが、JICAのコンサルタント雇用ガイドラインに明記されました。
(1)複雑かつ高度な専門性ゆえに、Terms of Reference(委託事項。以下「TOR」)やコンサルタントが行うべき作業の定義が難しい業務。
(2)後続する作業への影響が大きいため、サービスの質自体がプロジェクトの成果として最重視されている業務(大規模インフラの技術設計など)。
(3)大きく異なる方法で実施可能なため、価格札の比較が困難となる可能性がある業務。
(4)安全対策上の配慮が特に重要な大規模かつ複雑な建設工事の施工監理を伴う業務。
従来、円借款事業におけるコンサルタントの選定に際しては、コンサルタントが関連業務に従事し満足すべき成果を挙げている等の理由により、借入国側が希望すれば、基本的に随意契約を認めてきました。今般、JICAのコンサルタント雇用ガイドラインにおいて、随意契約が認められるのは例外的な場合に限るとの原則を明確にし、世界銀行の実務なども十分参考にしつつ、随意契約が認められる条件を以下の場合に限定しました。
(1)同じ企業が先行する業務をそのまま継続するのが当然の成り行きである場合。(注)
(2)災害対策などの緊急事態の場合
(3)極めて小規模な業務の場合
(4)指定された業務を行いうる唯一の企業である場合
(注)後続の業務の規模が大幅に上回る場合は原則として除く。
ODAにおける贈収賄など不正腐敗に関する情報を一元的に把握するための政府窓口を外務省国際協力局政策課に、JICAにおける窓口を総務部総合調整課に一本化しました(詳細はこちら(外務省ホームページ、JICAホームページ)。なお、借入国における日本大使館及びJICA現地事務所等においても不正腐敗情報を受け付けます。
また、借入国政府に対し、不正腐敗に係る通報を行った者が不利益な取扱いを被らないよう、公正な取扱いを要請するとともに、日本政府、JICAが円借款事業に係る不正腐敗に関する情報に接した場合は、借入国政府は日本政府及びJICAに対して関連情報の提供を行うよう、借入国政府との間で速やかに協議を進めていきます。なお、ベトナム政府との間では、3月31日に署名を行った交換公文(E/N)において以下のとおり規定しました。
情報源及び資料の出所を公正に取扱うことを確保しつつ、ベトナム社会主義共和国政府は、要請に応じ、日本国政府及びJICAに対し、次のものを提供する。
(a)省略
(b) [計画/付表[1欄]に掲げる事業計画](注)に関連するその他の情報(不正腐敗行為に関するものを含む。)
(注)本合意文書により供与される円借款事業の計画名が挿入される
さらに、右趣旨に基づき、JICAとベトナム政府との借款契約(基本約定(GTC))において、以下のとおり規定しました。
円借款事業の入札において、借入国実施機関によるプロポーザル評価の結果、落札することができなかった応札事業者に対して、実施機関が評価結果を開示し、希望する事業者には評価結果について説明を行う「デブリーフィング」をJICAの調達ガイドライン及びコンサルタント雇用ガイドラインに規定し、実施機関の説明責任を明確化しました。実施機関が応札事業者からの問い合わせに対応しない場合は、JICAは調達ガイドライン及びコンサルタント雇用ガイドラインに基づき、適切に実施機関を指導します。
借入国の実施機関がコンサルタントを雇用するにあたり、JICAは借入国に対し、(1)プロポーザル招請状の発出、(2)プロポーザル評価、(3)契約締結の各段階において、JICAに対する同意申請を義務づけ、またJICAと借入国政府との借款契約においてJICAが必要であると判断する書類の提出を、一般的な形で借入国実施機関に義務づけています。今後は当該同意手続きを一層強化するため、JICAが同意のために詳細なチェックが必要と考える場合に、そのための資料の提出を借入国に義務付ける旨を、JICAと借入国政府との借款契約に明記することとします。
JICAはこれまで、日本政府・JICAと借入国政府との間で合意している国について、コントラクターの調達部分についてのみ、外部専門家を活用して調達手続きの適正性のチェックを行う事後監査を実施してきましたが、今後は、コンサルタント雇用の部分を含め必要と判断される案件について当該監査を実施できるよう、日本政府・JICAと借入国政府との間で合意し、JICAと借入国政府との借款契約に規定することとします。また、既往円借款案件の中には、事後監査の実施について合意する前に供与したものもありますが、こうした案件についても、事後監査の実施について、借入国政府の協力を求めていきます。
今後入札手続きが開始される大口のコンサルタント契約については、JICAが技術指導のための外部専門家を借入国に派遣し、コンサルタント雇用における手続きの適正性を確保するとともに迅速化を図ります。
円借款事業において不正行為等に関与した者に対する受注資格停止措置を発動する要件は、従来、「当該国の司法機関による確定判決または行政機関による最終処分がなされた場合」などに限られていましたが、国内法令に違反して逮捕・起訴された場合にも迅速に措置の発動が可能となるよう、JICAの措置規程において発動要件を追加しました。
措置要件のうち、経歴詐称による人件費の水増し請求などが該当する「虚偽記載」について、通常は1か月以上6か月以内の受注資格停止措置が適用されます。しかし、悪質な場合は、措置要件の「不正又は不誠実な行為」として、1か月以上9か月以内の受注資格停止措置を、また極めて悪質な場合は2倍の18か月以内の受注資格停止措置を適用することで、これまで以上に厳正に対処できるよう、JICAの措置規程を運用していきます。
日本政府は、コンサルタント業界との会合を開催し、更なる法令遵守の強化を働きかけました。今後も、コンサルタント業界の法令遵守の取り組み状況を注視します。