国際保健

令和6年3月4日

1 三大感染症の現状

 HIV/エイズ等の新しい感染症、また、近い将来克服されるとみられたにもかかわらず、再び大きな問題となっている結核、マラリア等の再興感染症は、その伝播性や対策に要する経費負担の大きさから、一国のみで解決できる問題ではなく、世界各国が協力して対策を進めなければならない地球規模の問題です。特に開発途上国にとっては、住民一人一人の健康への脅威であるだけでなく、社会・経済開発への重大な阻害要因となっています。

HIV/エイズ(2021年)

  • (1)世界のHIV/エイズ感染・患者総数 約3,840万人
  • (2)世界の年間新規HIV感染者数 約150万人
  • (3)世界の年間エイズ関連死亡者数 約65万人
  • [2022年 UNAIDS Fact Sheet 2022]

結核(2022年)

  • (1)世界の年間新規感染者数 約1,060万人
  • (2)世界の年間結核関連死亡者数 約130万人
  • [2023年 WHO世界結核対策報告書]

マラリア(2022年)

  • (1)世界の年間罹患者数 約2億4,900万人
  • (2)世界の年間死亡者数 約61万人
  • [2023年 WHO世界マラリア報告書]

2 国際社会による取り組み

 世界保健機関(WHO)や国連合同エイズ計画(UNAIDS)(注)は、これら感染症対策のための国際協力を推進しています。また、日本が主催した2000年7月のG8九州・沖縄サミットにおいて、サミット史上初めて感染症対策が主要議題の一つとして取り上げられ、2002年に世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)が設立されました。我が国は、グローバルファンド等を通じては、途上国における三大感染症対策への資金協力を行っています。

(1)エイズ

 2001年の国連エイズ特別総会で「HIV/エイズに関する誓約宣言」(Declaration of Commitment on HIV/AIDS)が決議され、その後、2006年、2011年及び2015年に開催された国連HIV/エイズハイレベル会合において「HIV/エイズに関する政治宣言」(Political Declaration on HIV/AIDS)が採択されました。これらの会合では、HIV及びエイズを巡る問題が依然として国際社会における喫緊の開発課題であるとの認識の下、エイズ流行の2030年までの終息に向け、包括的な予防・治療・ケア・サポートの実現のための努力を強化するとの決意が表明されました。

(注)国連合同エイズ計画(Joint United Nations Programme on HIV/AIDS: UNAIDS)

 HIV/エイズ対策活動の重複を廃し、包括的、効率的にエイズ対策を実施するため、1994年7月の国連経済社会理事会において設置が承認され、1996年1月に発足しました。現在までに、以下の10機関が共同スポンサーとしてUNAIDSに参加しています。

  • ア UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)
  • イ UNICEF(国連児童基金)
  • ウ WFP(国連世界食糧計画)
  • エ UNDP(国連開発計画)
  • オ UNFPA(国連人口基金)
  • カ UNODC(国連薬物犯罪事務所)
  • キ ILO(国際労働機関)
  • ク UNESCO(国連教育科学文化機関)
  • ケ WHO(世界保健機関)
  • コ 世界銀行

(2)結核

 1998年の結核に関するロンドン会議、2000年のアムステルダムにおける「ストップ結核宣言」を経て、同年の世界保健総会において、「ストップ結核パートナーシップ(英語)別ウィンドウで開く」が発足しました。国際機関、各国政府や官民のドナー、NGO等の間での協力ネットワークを確立し、2030年までに結核を終息させるという共通の使命のもと、アドボカシー、人間を中心とした結核対策の推進、結核の技術革新の加速推進、治療薬・治療へのアクセス促進、技術支援と能力強化等の取り組みを進めています。

(3)マラリア

 近年、マラリア撲滅に向けた様々な取り組みが加速しています。WHOは、2030年までにマラリアによる死亡者を2015年比90%減等の目標を定めた「マラリアに対するグローバル技術戦略2016-2030」を掲げ、すべてのマラリア流行国に対して技術的な枠組みを提供しています。これに呼応して、1998年にWHO、UNICEF、UNDP、世界銀行が立ち上げた「ロールバックマラリア・パートナーシップ」は、「高い疾病負荷から高い効果へ」というアプローチを用いて、関係者に研究開発の継続を含む具体的な取り組みを呼びかけています。

3 日本の取り組み

 日本はその経験や知見を活用して、開発途上国の保健・医療向上に貢献するため、これらの国際機関やドナー国と密接な協力を進めてきました。近年では、2018年にニューヨークで開催された国連総会のハイレベル会合において結核が取り上げられた際、日本が政治宣言交渉プロセスにおける共同ファシリテーターを務め、交渉を促進し宣言の了承に導いたことは、各国から一定の評価を得ることに繋がりました(結核に関する国連総会のハイレベル会合は、2023年にも開催)。また、日本は三大感染症対策で重要な役割を果たしている国際機関や官民連携基金の活動を資金拠出、政策決定への関与を通じて支援しています。例えば、日本も資金を拠出した産学官民によるマラリア・ワクチンの共同開発によって生み出されたマラリアの小児用ワクチンは、2021年にWHOの使用推奨を取得しており、世界のゼロ・マラリアへ向けた画期的な一歩と評価されています。

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