軍縮・不拡散

2005年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議の概要と評価

平成17年5月28日

 5月2日より27日まで、NY(国連本部)において2005年核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議が開催された。議長は、デュアルテ・ブラジル大使が務め、我が国からは町村外務大臣(代表団長)が初日に一般討論演説を行ったほか、河井大臣政務官がNGOセッションに出席し、同セッション出席のNGO等を招待してレセプションを開催してスピーチを行った。また、美根軍縮代表部大使、高須在ウィーン代表部大使、天野軍科部長、中根軍科部審議官他が会議に出席した。

1.今次会議の課題

 NPT運用検討会議はNPT第8条に基づいて5年毎に条約の運用を検討するために開催される。実質事項にかかる討議は、主要委員会I、II、IIIで行われ、それぞれの主要委員会でその所掌する実質事項について合意文書を作成し、本会議に送付し、採択されることが課題となっていた。この実質事項にかかる合意ができるか否か、また、その内容如何が今回の運用検討会議の成果として注目されていた。

2.今次会議の結果

(1)今次会議は、本来であれば開会前に決定されているべき手続き事項(議題、補助機関設立等)すら決定されていない状況下で開始されることとなった。開会後、中東諸国を中心とする非同盟諸国と西側諸国との間の意見対立等の結果、会議の約3分の2を手続き事項の採択に費やした。このため、実質的議論及び最終文書の文言調整に当てられた時間は極めて限られた。

(2)3つの主要委員会においては、実質的事項に関する議論が行われたが、時間が限られていたこと、中東問題(イスラエルの扱い等)やイランの核問題、包括的核実験禁止条約(CTBT)をはじめとする核軍縮については、関係国及び関係国グループの立場の隔たりは収斂せず、コンセンサス・ルールの制約もあり、3つの主要委員会すべてにおいて実質事項に関する合意文書を作成することができず、また、議長による実質事項にかかる声明も行われなかった。

(3)他方、本件会議においては、多くの国がNPTが国際の平和と安全に果たす役割の重要性やNPTの遵守の必要性を指摘したほか、今次会議に向けて我が国、EU、G10(注)等多くの国、グループが有益な提案を提出した。

(注)主として核不拡散や原子力の平和的利用についての西側諸国グループで、豪、加、NZ等がメンバーとなっている。

3.我が国の対応

(1)今次会議に先立ち、2月に東京においてデュアルテ議長他大使級の参加を得てNPTセミナーを開催し、今次会議の運営の円滑化を図った。

(2)会議初日には、町村外務大臣が一般討論演説を行ったほか、「21世紀のための21の措置」を提出し(核軍縮関連部分は豪州と共同提案)、今次会議が採択する成果物に反映させるよう努めた。また、我が国の立場を包括的に述べた作業文書並びに核軍縮及び95年中東決議の履行に係る報告を提出した。更に、軍縮・不拡散教育に関する作業文書を他の7カ国と共同で提出したほか、我が国の取組みを紹介する作業文書も併せて提出した。

(3)会議第2週には、河井大臣政務官がNGOセッションに出席するとともにレセプションを主催し、軍縮・不拡散分野でのNGOとの対話を重視する我が国の姿勢をアピールした。

(4)北朝鮮の核問題については、早くから米国及び韓国と緊密に連絡の上、北朝鮮の核計画はNPT体制に対する深刻な脅威であり絶対に認めないとの我が国の立場を最終成果物に反映させるべく、中国、露、議長等と協議を重ねた。

(5)会議では、更なる核兵器の削減を主張したほか、会議開催に先立ち、CTBT未批准国のうち、米を含むすべての発効要件国に対し、早期批准を求める外務大臣書簡を発出したほか、会議中にもCTBTフレンズ会合を主催した。

(6)我が国は、IAEA追加議定書の普遍化を重視するとの主張を行い、多くの国から賛同が得られた。原子力の平和的利用について、我が国からは、原子力安全や核セキュリティの分野におけるIAEAの活動の促進を支持するとともに、技術協力の重要性を訴えた。

(7)会議の最終段階では今次会議成功のために各国に協力を求める大臣緊急アピールを発出した。

4.評価

(1)我が国としては、今次会議でNPT体制強化のために力強いメッセージが発出されることを重視していたが、最終的に実質的事項に関する合意文書を作成できなかった。その主たる理由としては、以下を挙げることができる。

1)中東問題やイランの核問題を巡り、厳しい対立があったこと。

2)手続き事項を含めすべての決定がコンセンサスで行われるというルールが濫用されたこと。

3)2000年の合意以上の内容が期待できないという観測が当初より支配的で、妥協してより不利な内容の合意を作るよりは、2000年合意をそのまま残した方が良いと考える国が多かったこと。

4)核軍縮やCTBTをめぐる立場の開きが大きかったこと。

5)拡散の脅威に対する認識が必ずしもすべての締約国の間で十分共有されていなかったこと。

6)以上に加えて、手続き事項に関する調整に時間をとられて実質討議時間が減少し、特に最終的な局面における文言調整の時間が絶対的に不足したこと。

(2)ただし、我が国を含む多くの締約国や締約国グループは、今次運用検討会議に貢献すべく種々の有益な提案を提出しており、また、これらを踏まえ、会議において集中的な意見交換が行われたことは、今後の核軍縮・不拡散体制を強化していく作業において有益な材料を提供したものと考える。

(3)我が国としては、今次会議が実質的事項に関する合意文書を作成できなかったことがNPT体制の権威を低下させ、個別の問題に悪影響を与えることのないよう、国際的な核軍縮・不拡散体制を強化するために、主要国とも協力しつつまた、G8、IAEA、ジューネーブ軍縮会議、原子力供給国グループ、国連第一委員会、アジア不拡散協議(ASTOP)等の枠組みを通じて、具体的な措置を強化していく必要性が一層増したものと考える。

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