第3節 経済外交
1 経済外交の概観
国際社会においては、国家間の競争が顕在化する中、パワーバランスの変化がより加速化・複雑化し、既存の国際秩序をめぐる不確実性が高まっている。世界的に急速な景気の悪化をもたらした新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)の影響の緩和に伴い、世界経済全体としては緩やかな持ち直しの動きが見られるものの、足元では需要回復やウクライナ情勢及び中東情勢の影響なども相まって、物価の高騰が進行している。先行きについても、金融資本市場の変動を始め、新型コロナ対策で膨らんだ政府債務、海運を始めとする物流コスト増、エネルギーやコモディティ価格の高止まりなどにより、依然として不透明感が漂っている。
こうした中、日本は、自由で公正な経済秩序を拡大・発展させる試みを継続した。環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)(1)については、同協定が発効してから初めての加入となる英国の加入議定書が、2024年12月に日本を含む10か国について発効した。インド太平洋経済枠組み(IPEF)(2)は、交渉立ち上げから約2年半を経て、IPEFサプライチェーン協定、IPEFクリーン経済協定、IPEF公正な経済協定及びIPEF協定の発効に至った。経済協力開発機構(OECD)(3)においては、日本は10年ぶりにOECD閣僚理事会の議長国を務め、「変化の流れの共創」のテーマの下、より良い未来の共創のためにOECDが果たす役割について、議論を主導した。多角的貿易体制の礎である世界貿易機関(WTO)(4)では、「電子商取引に関する協定」の交渉が有志国により進められ、同協定に係るテキストが公表された。
また、外務省は官民連携の推進による日本企業の海外展開支援にも一層注力しており、「グローバル・サウス」の活力を取り込んでいくため、複数の公館において経済広域担当官を指名した。
日本は、(ア)経済連携協定の推進や多角的貿易体制の維持・強化といった、自由で公正な経済秩序を広げるためのルール作りや国際機関における取組、(イ)日本企業の海外展開支援と投資・観光客などの海外からの呼び込みを通じた経済の活性化、及び(ウ)経済安全保障の強化を軸に、外交の重点分野の一つである経済外交の推進を加速するため取組を引き続き進めていく。
(1) CPTPP:Comprehensive and Progressiove Agreement for Trans-Pacific Partnership
(2) IPEF:Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity
(3) OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development
(4) WTO:World Trade Organization