第5節 欧州
1 概観
欧州連合(EU)1及び欧州各国は、日本にとり、自由、民主主義、法の支配及び人権などの価値や原則を共有する重要なパートナーである。ロシアによるウクライナ侵略を始めとして、既存の国際秩序が脅かされ、地政学的な競争が激化する中、日本及び欧州が重視する価値や原則への挑戦に対応し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜くためには、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識に基づき、EU及び欧州各国との連携を強化していくことが一層重要になっている。また、気候変動や感染症などの地球規模課題への対応において国際的な協調が求められる中、EU及び欧州各国との連携の必要性は一層高まっている。
欧州各国は、EUを含む枠組みを通じて外交・安全保障、経済、財政などの幅広い分野で共通政策をとり、国際社会の規範形成過程において重要な役割を果たしている。また、言語、歴史、文化・芸術活動、有力メディアやシンクタンクなどを活用した発信力により、国際世論に対して影響力を有している。欧州との連携は、国際社会における日本の存在感や発信力を高める上でも重要である。
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略に対し、2023年も引き続き厳しい対露制裁、強力なウクライナ支援が続けられた。日本は、G7議長として、ロシアによるウクライナ侵略を一日も早く止めるため、G7が結束して厳しい対露制裁と強力なウクライナ支援を推進するようリーダーシップを発揮した。また、3月の岸田総理大臣のキーウ訪問や5月のゼレンスキー大統領のG7広島サミット出席のための訪日、12月のG7首脳テレビ会議の機会など、日本は首脳・閣僚を含む様々なレベルでウクライナに対する連帯を示すとともに、ウクライナに寄り添った支援を行い、ウクライナと緊密に連携している。
欧州において、ロシアによるウクライナ侵略は最も重要な課題の一つとなっており、対露制裁及びウクライナ支援を推進している。EU、北大西洋条約機構(NATO)2及び各国は一致してロシアを強く非難し、金融制裁、個人・団体の渡航禁止、輸出入の制限などの厳しい対露制裁を発動し、ウクライナへの連帯・支援を継続している。
例えば、EUは、マクロ財政支援などの経済支援や欧州平和ファシリティ3を通じた防衛装備支援、ウクライナ軍事支援ミッション(EUMAM Ukraine)4を通じたウクライナ兵の訓練などの支援を行っている。また、NATOは、ウクライナを支援するための複数年計画の作成に取り組んでいるほか、加盟国が同意し、条件が整えばウクライナにNATO加盟の招待を行うと表明している。英国は、「チャレンジャー2」戦車の供与などを含む、総額93億ポンドの軍事的、人道的、経済的支援を実施しており、6月にはウクライナ復興会議を主催した。フランスは、巡航ミサイルや装甲車・軽戦闘車の供与などを含む総額32億ユーロの軍事支援に加えて、人道的、経済的支援を実施した。ドイツは、1月に「レオパルト2」戦車の供与を決定し、総額240億ユーロの軍事的、人道的、経済的支援を実施している。
欧州では、ロシアによるウクライナ侵略などを受け、自由、民主主義、法の支配及び人権といった価値や原則、法の支配・国際法の遵守などの重要性が一層認識されてきている。一方、欧州各国の多様性を踏まえ、各国の事情も踏まえたきめ細かなアプローチが求められる。日本は、強く結束した欧州を支持し、重層的かつきめ細かな対欧州外交を実施している。2023年は、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)により制約があった対面の要人往来が再度活発化し、首脳・閣僚の欧州訪問や要人訪日の機会を捉えた会談などを積極的に行い、欧州各国やEU、NATOなどとの緊密な連携を確認した。
岸田総理大臣は1月にフランス、イタリア及び英国を訪問して各国首脳との間で会談を実施し、自由で開かれた国際秩序の維持・強化や安全保障分野での連携の強化を確認した。また、7月には、リトアニアで開催されたNATO首脳会合に前年に続き出席し、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識を各国と共有し、続いてブリュッセルを訪問し、第29回日・EU定期首脳協議を実施し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の堅持・強化に向けた緊密な連携を確認した。

(7月13日、ベルギー・ブリュッセル 写真提供:内閣広報室)
2023年の1年間で、岸田総理大臣は、アルバニア、イタリア、ウクライナ、英国、オランダ、ギリシャ、スウェーデン、チェコ、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、フランス、ベルギー、ポーランド、リトアニア、ルーマニアの首脳との間で会談を実施するなど、欧州各国との連携を確認した。
また、林外務大臣によるミュンヘン安全保障会議出席(2月)、第7回日仏外務・防衛閣僚会合(「2+2」)出席(5月)、上川外務大臣による第5回日英外務・防衛閣僚会合(「2+2」)出席(11月)など、安全保障分野においても連携を深めた。
安全保障分野における法的枠組みについては、日英部隊間協力円滑化協定(RAA)5が1月に署名され、10月に発効した。また、ドイツとの間で11月に日独物品役務相互提供協定(日独ACSA)6の実質合意に至った。
さらに、欧州から青年を招へいする人的・知的交流事業「MIRAI」や、講師派遣、欧州のシンクタンクとの連携といった対外発信事業を実施し、日本やアジアに関する正しい姿の発信や相互理解などを促進している。欧州各国・機関や有識者との間で、政治、安全保障、経済、ビジネスなど幅広い分野で情報共有や意見交換を行い、欧州との重層的な関係強化に取り組んでいる。
1 EU:European Union
2 NATO:North Atlantic Treaty Organization 詳細については外務省ホームページ参照 https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nato/index.html

3 欧州平和ファシリティ:2021年3月に創設された、EUの共通外交・安全保障政策の下で軍事又は防衛活動への資金提供を可能にし、紛争予防、平和構築、国際安全保障強化に対するEUの能力を高めることを目的とする制度
4 EU Military Assistance Mission in support of Ukraine (EUMAM Ukraine):2022年10月に設置された、EUがウクライナを支援する軍事ミッション。ウクライナ軍に対し、訓練を提供する。
5 RAA:Reciprocal Access Agreement
6 Japan-Germany ACSA:Japan-Germany Acquisition and Cross-Servicing Agreement