外交青書・白書
第4章 国民と共にある外交

3 外交における有識者などの役割

近年の変動著しい国際社会においては、民間有識者が、各国政府の公式見解にとらわれない国際的な政策論議を行い、それが国際世論や各国政府の政策決定に影響を及ぼすという状況がある。

各国の対外経済政策に大きな影響を持ってきたダボス会議、各国の著名な有識者や閣僚がアジアの安全保障について議論するアジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)、欧州のみならず各地域及びグローバルな安全保障問題について広く議論が行われるミュンヘン安全保障会議、中東の安全保障をテーマとしたマナーマ対話などはこうした政策論議の代表的プラットフォームである。新型コロナの流行以降、このような会議を対面で行うことが困難な状況が続いているが、オンライン技術を活用することにより、世界中の有識者が容易に会議に参加できるという状況も生まれている。日本においても、このような主要会議に参画し、国際世論の醸成に貢献できるシンクタンク(調査研究機関)や研究者などを育成する重要性が高まっている。また、日本のシンクタンクが、これら主要会議に比肩する国際会議を開催することへの期待も高まっている。

このような背景の下、外務省は、日本のシンクタンクの外交・安全保障に関する活動を支援し、その情報収集・分析・発信・政策提言能力を高め、日本の総力を結集した全員参加型の外交を促進することを目的として、外交・安全保障調査研究事業費補助金制度を実施している。これに加え、外務省は、2017年度から、日本の調査研究機関による領土・主権・歴史に関する調査研究・対外発信活動を支援する領土・主権・歴史調査研究支援事業補助金制度を運用しており、公益財団法人日本国際問題研究所1が内外での一次資料の収集・分析・公開、海外シンクタンクと協力した公開シンポジウムの開催、研究成果の内外への発信などを実施している。2021年には、尖閣諸島の自然を学ぶことができる3Dコンテンツが領土・主権展示館などで公開されたほか、竹島問題に関して、国民世論を啓発し、国際社会の正しい理解を得るべく、韓国の古地図や古文献を根拠に韓国側の主張の誤りについて解説するウェビナーなどが実施された。同事業を通じ、日本の領土・主権・歴史に係る史料及び知見の蓄積や、国内外への発信強化が期待される。

コラム公邸料理人 ─外交の最前線の担い手として─

公邸料理人とは、調理師としての免許を有する者又は相当期間にわたって料理人としての職歴を有する者で、在外公館長(大使・総領事)の公邸などにおける公的会食業務に従事する資格があると外務大臣が認めた者をいいます。在外公館は、任国政府などとの交渉・情報収集・人脈形成などの外交活動の拠点です。在外公館長の公邸において、任国政財官界などの有力者や各国外交団などを招待して会食の機会を設けることは、最も有効な外交手段の一つです。その際に高品質の料理を提供すべく、在外公館長は通常、専任の料理人を公邸料理人として帯同しています。

■ “ドバイと和食”更なる高みを目指して 在ドバイ日本国総領事公邸料理人 鮫島直人

在ドバイ日本国総領事館の公邸料理人を務めております鮫島直人です。外務省に務める30年来の親友に薦められたことがきっかけで、公邸料理人として2020年9月にドバイに着任しました。私自身、旅行も含めて初めて体験する海外で、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という。)拡大の影響もあり少々不安はありましたが、ドバイの生活環境の良さもあって、仕事に励むことができています。

主な仕事内容は、公邸内でのゲストを迎えた会食や立食レセプションの食事の準備です。ドバイに着任してまず驚いたのは、想像していたよりも遥(はる)かに多くの食材が手に入ることです。ドバイは、世界の航空ハブとなっているので、現地で入手困難な食材を日本から空輸で入手できますし、日本食材を専門に扱うお店もあります。また、現地のスーパーでも醤油や米酢などの調味料が手に入ります。一方で、会食当日に使用する食材が流通事情で届かず、買い置き食材で急遽(きょ)代用メニューを作成するなどヒヤリとさせられたこともありました。

日本との一番の違いは、ドバイがイスラム圏にあることです。そのため、アルコール類の取扱いはごく一部の酒販屋に限られていて、料理酒や味醂(みりん)を入手するのが困難なことに加え、イスラム教徒のお客様をお招きした会食などでは、ハラールという特別な処理を施した食材及びアルコール分や豚肉のエキスが入っていない調味料しか使えないことから、臨機応変に工夫しながら料理を作っています。例えば、煮物など日本料理で料理酒を使用する場合は、みりん風調味料を代用し、砂糖を普段より控えめにして味を調整しています。

また、日本と同じ野菜でも育った環境で品質が異なるといった気づきもありました。ドバイの気候は、11月から3月末までは日本の初夏のようですが、4月頃から気温が上昇し、8月から9月は日中40度以上、夜でも35度を超える日が毎日続きます。一方で、1年を通してほとんど雨は降りません。こうした気候環境から、日本では一般的に夏野菜と呼ばれるパプリカ、トマト、ナスなどが、ドバイでは1年中スーパーに並んでいます。しかし、こうした現地野菜には、とても皮が硬くて噛(か)みきれないものや、種がほとんどの野菜などが多々あるので、その辺りに気を使いながら現地で食材を仕入れています。

会食やレセプションの際は、日本の食材の美味(おい)しさをゲストに伝えることを第一に心がけています。特に魚は、日本と同じ種類の魚が現地で売られていたとしても、魚自体の「旨(うま)味・美味しさ」が日本とは異なるように感じられます。このため、日本から直送された日本育ちの魚が持つ「美味しさ」をゲストに味わってもらうことによって、日本の良さを伝えようと毎回試行錯誤しています。

新型コロナの流行下ではありますが、私は公邸料理人として料理を振る舞う機会がある度に、「チャレンジ精神」と責任感を常に持ち、1日1日自身が成長していけるような日々を過ごそうと思っています。

公邸前で
公邸前で
ドバイの魚市場で入手した「ハムール」のお造り(お皿の右側にあるのがハムールで、日本ではヒトミハタと呼ばれている。)
ドバイの魚市場で入手した「ハムール」のお造り
(お皿の右側にあるのがハムールで、日本ではヒトミハタと呼ばれている。)
鯛の塩釜焼き
鯛の塩釜焼き
賀詞交換会で鯛の塩釜焼きを振る舞う様子
賀詞交換会で鯛の塩釜焼きを振る舞う様子

外務省では、公邸料理人として共に外交に携わってくださる方を随時募集しています。御関心のある方はぜひ以下のURL、又はQRコードからお問い合わせください。

【国際交流サービス協会http://www.ihcsa.or.jp/zaigaikoukan/cook-1/

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コラム外交拠点・大使館を「創る」─営繕技官の仕事─

外務省には、外交に携わる仕事以外にも「在外営繕」という仕事があることを御存じですか。日本の顔として外交活動の拠点や舞台となり、非常時には邦人保護の最後の砦(とりで)となるのが、海外にある日本国大使館などの在外施設です。これら施設を設計・建設し、維持管理するのが在外営繕であり、外交活動を陰ながら支えつつ、日本国民の生命を守る重責の一端を担っているともいえます。ここでは、在外営繕業務を担当する金子営繕技官に在外営繕の仕事について語ってもらいました。

■ 長い海外勤務

私は学生時代から海外で働きたいという希望を持って外務省に入省し、勤続13年間のうち、9年間を海外で過ごしました。これまで赴任した国は、米国、イラン、カタール及びタイと歴史や文化も全く異なりますが、それぞれの国での思い出はかけがえのないものとなっています。各国で従事した建設プロジェクトの工事現場では、建築許可申請、工程管理、各種図面チェック、品質検査、資機材選定や輸入手続、ライフライン確保のため協議など、幅広い業務を行いました。担当業務を遂行する上では、私の専門である電気分野の知識だけでなく、建築や機械分野などの知見も求められますが、当初は技術的知識も経験も乏しく、図面を正しく読み取ることすらできずに悔しい思いをしたこともありました。しかしながら、ベテラン技官の上司、先輩から少しずつ学び、知識を身に付け、今日まで頑張ることができています。

起工式でカタール外務省関係者と歓談
起工式でカタール外務省関係者と歓談
■ 大使館を完成させるまでの道のり

私はカタール在勤中に大使館事務所の建設を担当しました。カタールでは日中の気温が40度を超えることもあり、厳しい気候風土における快適な室内環境を創出するため、設計段階から工夫を凝らし、直射日光を遮蔽する窓の形状としました。工事が始まると、厳しい環境下でいかに建設作業を進めるかが課題となり、その中でも最も難易度が高かったのはコンクリート工事でした。同工事は気温が下がる夜中に作業を行う必要があり、全てのコンクリートミキサー車に対して、品質試験などの確認作業を夜通し行うという日本では考えられない大変な経験もしました。

施工中の数々のトラブルを乗り越え、やっと建物が完成しても、竣工直後は何かしら不具合が頻発するため、休む暇はありません。しかし、初期不良が一段落した後は、工事に携わった施工業者や大使館員と完成の喜びを分かち合うことができました。また、建物の使用開始後、大使館員が新しい建物の明るい空間の中でにこやかに勤務している姿を目にした時は、これまでの多くの苦労が報われた思いがしました。

完成した在カタール日本国大使館
完成した在カタール日本国大使館
工事現場での施工業者との打合せ風景
工事現場での施工業者との打合せ風景
■ 大使館を「創る」仕事の魅力

海外で大使館などの在外施設の建設を担当することは決して楽な仕事ではありません。しかしながら、建築の文化、歴史、慣習が異なる国で、現地の人たちと一緒にその国で後世に残り続ける日本の象徴ともいえる建物を完成させた時の喜びは一生忘れられない経験です。そして、日本とその国の架け橋を自分の手で創る建築物で表現することができる、それが私たちの仕事ならではの楽しみです。今後もまだ見ぬ国の建設プロジェクトに携わって自分自身の成長にもつなげながら、また多くの「造る」苦労を忘れてしまうほどのあの「創る」感動を再び味わうことを楽しみにしています。

1 公益財団法人日本国際問題研究所ホームページの関連箇所はこちら:https://www.jiia.or.jp/jic/

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