外交青書・白書
第3章 国益と世界全体の利益を増進する外交

第3節 経済外交

1 経済外交の概観

国際社会においては、政治・経済・軍事の各分野における国家間の競争が顕在化する中、パワーバランスの変化がより加速化・複雑化するとともに、既存の国際秩序をめぐる不確実性は高まっている。特に経済面では、国内経済・世界経済の構造変化、保護主義の台頭、貿易上の紛争など、日本は様々な課題に直面している。

こうした中、日本は、G20議長国として6月に大阪サミットを開催し、粘り強く共通点や一致点を見いだしていく「日本ならでは」のアプローチでリーダーシップを発揮した。その結果、自由貿易の礎である自由、公正無差別及び公平な競争条件といった原則を確認するなど、主要国のリーダーが主要な世界経済の課題に団結して取り組む姿を示した。11月のG20 愛知・名古屋外務大臣会合では大阪サミットの成果を確認し、同会合を今後の具体的な行動につなげるための「跳躍台」とすることができた。

日本の繁栄の基礎は自由で開かれた国際経済システムの維持・強化にあり、また、これは世界経済の安定と成長にもつながる。多角的貿易体制の礎である世界貿易機関(WTO1)の上級委員会の機能停止を始め、様々な課題に直面している今こそ、WTO改革を推進する必要がある。日米貿易協定が2020年1月1日に発効したが、これにより、環太平洋パートナーシップ協定(TPP11協定)、日・EU経済連携協定(日EU・EPA)と合わせて世界のGDPの6割をカバーする自由な経済圏が形成された(220ページ 特集参照)。また、東アジア地域包括的経済連携(RCEP2)協定の早期署名に向けても、主導的な役割を果たしていく。さらに、2020年1月末にEUを離脱した英国とも、速やかに通商交渉の開始を目指していく。

日本は、①上記のような種々の経済協定の推進といった自由で開かれた国際経済システムを強化するためのルール作り、②官民連携の推進による日本企業の海外展開支援及び③資源外交とインバウンドの促進の三つの側面を軸に、日本外交の重点分野の一つである経済外交の推進を更に加速すべく、取組を進めてきた。

日米貿易協定・日米デジタル貿易協定

2018年9月の日米共同声明を踏まえ、4月以降、5か月間で8回にわたり、茂木外務大臣(2019年8月以前は内閣府特命担当大臣(経済再生担当))とライトハイザー米国通商代表による閣僚協議が行われました。この結果、2019年9月の日米首脳会談で、日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定が最終合意に至り日米共同声明が発出され、両協定は2020年1月1日に発効しました。世界で保護主義的な動きが広がる中、両協定の締結を通じて、日本は、自由貿易の推進において世界に存在感を示すことになりました。本特集では、両協定の意義と概要を紹介します。

日米首脳会談(2019年9月25日、米国・ニューヨーク 写真提供:内閣広報室)
日米首脳会談
(2019年9月25日、米国・ニューヨーク 写真提供:内閣広報室)
日米貿易協定

日米貿易協定は、世界のGDPの約3割を占める日米両国の二国間貿易を、強力かつ安定的で互恵的な形で拡大するものです。本協定によって、既に発効しているTPP11協定、日EU・EPAを加えると、世界経済の6割をカバーする自由な経済圏が、日本を中心として誕生しました。

本協定は、日米双方にとってウィン・ウィンでバランスのとれた協定となっています。日本の農林水産品については、全て過去の経済連携協定の範囲内に収まっており、また、米国にとっても、TPP11協定などが既に発効している中で、他国に劣後しない状況を実現するものとなりました。米国に輸出する自動車・自動車部品については「関税の撤廃に関して更に交渉」と協定の米国側附属書に明記し、その他の工業品についても、日本企業の輸出関心が高く貿易量も多い品目を中心に、早期の関税撤廃・削減が実現します。同時に、自動車への数量制限、輸出自主規制等の措置や厳しい原産地規則など、グローバル・サプライチェーンをゆがめるような措置を排除した点でも大きな意義があり、日米の貿易を安定的に発展させるものになりました。本協定は、日本経済の更なる成長に寄与するのみならず、自由で、公正なルールに基づく世界経済の発展にも大きく貢献するものです。

日米デジタル貿易協定

日米デジタル貿易協定は、デジタル分野における高い水準のルールを確立し、日米両国がデジタル貿易に関する世界的なルール作りにおいて主導的な役割を果たしていく基盤となるものです。電子的な送信に対して関税を賦課しないことやデジタル・プロダクトの無差別待遇などを定めたTPP協定電子商取引章と同様の規定に加え、アルゴリズムの開示要求の禁止、暗号の開示要求の禁止、SNSなどのサービス提供者に対する民事上の責任に関する規定などデジタル分野の最新の状況に対応した規定を含んだものになっています。

1 WTO:World Trade Organization

2 RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership

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