外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

第3節 中南米

1 概観

(1)中南米情勢

中南米地域には、民主主義、法の支配、人権などの普遍的価値を日本と共有する国家が多い。同地域は、約6億4,000万人の人口と、約5兆5,000万米ドルの域内総生産(GDP)を抱え、鉱物、エネルギーなどの天然資源や食料の一大産出地であるとともに、巨大市場を擁するなど、大きな経済的潜在力を有している。2019年の中南米経済は、主要国における経済停滞が響き、全体として低調な動きとなった。

政治面においては、2019年には、ブラジルで自由主義的な経済改革を推進する政権が誕生した一方で、アルゼンチンにおいては平等な発展と弱者保護を重視する政権が発足した。また、ベネズエラでは政権側と野党側の対立が継続している。同国の経済社会情勢の悪化を受け、ベネズエラ人が避難民として周辺国に流出し、地域に大きな影響を与えている。さらに、エクアドルやボリビア、チリなどにおいて、情勢不安定化の動きが見られた。

また、中南米地域には、世界の日系人の約6割を占める約213万人から成る日系社会が存在している。日系社会は100年以上に及ぶ現地社会への貢献を通じ、中南米地域における伝統的な親日感情を醸成してきた。一方で、移住開始から100年以上を経て、日系社会の世代交代が進み、日本とのつながりが希薄な若い世代も増えている。

(2)日本の対中南米外交

日本の対中南米外交は、安倍総理大臣が2014年に提唱した「3つのJuntos!!(共に)」の指導理念の下で展開されてきた。2018年12月には、同理念の成果を地域全体として総括し、次なる協力の指針として日・中南米「連結性強化」構想を安倍総理大臣が公表した。本構想の実現に向け、中南米諸国との協力関係の深化が目指されており、2019年は、中南米諸国から首脳が延べ9回、外相が延べ13回訪日しており、日本からも外務省や関係省庁の大臣・副大臣・大臣政務官が延べ28か国を訪問し、二国間関係の強化や、基本的価値の共有に基づき、国際場裡(じょうり)における諸課題の解決に取り組むことを確認している。

経済分野においては、日本企業の中南米地域拠点が2011年の約2倍に達するなど、サプライチェーンの結び付きが強化されており、日本は、メキシコ、ペルー、チリが参加する環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)などを通じ、中南米諸国と共に自由貿易の推進に取り組んでいる。

中南米地域では、経済成長を遂げた被援助国からの「卒業国」、または「卒業」を控えた国々で南南協力が進められており、日本はこれらの国々との間の三角協力を推進している。一方で、気候変動や自然災害への対応を始め、引き続き支援が求められる分野においては、先方のニーズに即した協力を展開しており、9月にはハリケーン・ドリアンにより被災したバハマに対して緊急援助物資を供与した。

日・エルサルバドル首脳会談(11月29日、東京 写真提供:内閣広報室)
日・エルサルバドル首脳会談
(11月29日、東京 写真提供:内閣広報室)
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