外交青書・白書
第2章 地球儀を俯瞰する外交

第4節 欧州

総論
〈欧州の重要性〉

欧州の大部分を占める28か国が加盟する欧州連合(EU)は、外交・安全保障、経済、財政等の幅広い分野で共通政策を採っており、国連安保理の常任理事国やG7等の主要な国際的枠組みの構成国を含むこともあり、国際社会での規範形成過程において大きな役割を果たしている。経済面でも、EUだけで世界の国内総生産(GDP)の約22%を占めており、言語、歴史、文化・芸術活動、有力メディアやシンクタンク等を背景に、国際世論に対しても大きな影響力を有している。現在交渉が行われている英国のEU離脱の影響については今後も注視していく必要があるが、英国のEU離脱後も欧州の重要性が減じるというものではない。

〈欧州が直面する諸課題〉

欧州にとって、2017年はかつての危機を脱して経済は緩やかに回復し、また、移民・難民流入数が大きく減少するなど、直面する課題に一定の前進が見られる一年となった。一方、南欧諸国では、債務残高及び失業率が高止まりするなど、経済の南北格差は改善されていない。また、EUの移民・難民政策に一部の東欧諸国が反発しており、多発するテロ事件やサイバー攻撃を含む複数の手段を組み合わせたハイブリッド脅威などにも直面しているほか、欧州の安全保障環境に大きな影響を与えているウクライナ問題は引き続き、欧州にとって重要な課題である。さらに、英国のEU離脱に向けた英EU間の交渉もあり、欧州内の諸課題への対応がEUにとって大きな課題となっている。

これらの諸課題に対し、欧州諸国及びEUは、北大西洋条約機構(NATO)を通じるものを含め移民・難民、テロ対策、安全保障分野での協力などを強化し、米国との同盟関係の維持・推進に努めている。また、EUは欧州連合条約上の防衛協力枠組みである常設の構造的協力(PESCO)を立ち上げるなど、安全保障面での連携を図るとともに、ローマ条約160周年を踏まえた欧州統合の新たな方向性に係る議論が進められている。

一方、EUや各国の既存政治勢力に対する有権者の不満が高まり、欧州各国ではポピュリズムの台頭も見られる。2017年にフランス、英国、ドイツ等欧州各国で実施された国政選挙においても、ポピュリスト勢力は一定の影響力を示しており、引き続き欧州情勢への影響を注視する必要がある。

〈テロの脅威〉

欧州各国で相次ぐ無差別テロは、引き続き脅威となっている。3月に発生したロンドン(英国)での襲撃事件から始まり、4月にストックホルム(スウェーデン)、5月にマンチェスター(英国)、8月にトゥルク(フィンランド)及びバルセロナ(スペイン)、そして9月には再びロンドンでテロ事件が発生した。2月16日に欧州議会によって採択された「テロリズムとの戦いに関する指令」に基づくEU加盟国の国内法令の整備が急務である。

〈対欧州外交〉

自由、民主主義、人権、法の支配等の基本的価値や原則を共有する日本と欧州は、自由で開かれた国際秩序の維持・強化に深くコミットし、協力関係を深めている。日本は、イタリアがG7、ドイツがG20の議長国を務めるなど国際社会を牽引(けんいん)する欧州各国と、首脳級や外相級を始めとして、自由で開かれた国際秩序の維持・発展のための連携を深めた。安倍総理大臣は、3月にドイツ、フランス、ベルギー(EU)、イタリアを、また、5月にはロシアに加えて英国を訪問するなど、G7メンバーと事前の会談を重ねた上で、5月末のタオルミーナ(イタリア)におけるG7サミットに臨み、その後、G7サミットに続いて、日本の総理大臣として史上初めてマルタを訪問した。また、7月初めにG20サミット出席のためハンブルク(ドイツ)、さらにその機会にベルギー(EU及びNATO)、スウェーデン、フィンランド及びデンマークを訪問した。さらに、2018年1月にエストニア、ラトビア、リトアニア、ブルガリア、セルビア及びルーマニアを訪問した。岸田外務大臣は、年始早々、フランス、チェコ、アイルランドを訪問し、2月にはG20外相会合のためボン(ドイツ)を、4月にはG7外相会合のためルッカ(イタリア)を、また7月にはベルギーを訪問して、日・EU経済連携協定(EPA)の交渉の大枠合意を確認した。河野外務大臣は、9月の第72回国連総会の機会にEU及び欧州各国との外相会談を行い、12月に気候変動サミット出席のためフランスを、また第3回日英外務・防衛閣僚会合(「2+2」)開催のため英国を訪問した。

こうした極めて活発な首脳級・外相級の往来を通じて、首脳間・外相間の信頼関係が強化されたほか、安全保障、経済、地域情勢、地球規模課題等各分野における日本の立場や取組について欧州各国の理解を促進するとともに、日欧間での具体的な協力を前進させた。また日本は、欧州各国との二国間協力に加え、EU、NATO、欧州安全保障協力機構(OSCE)等の地域機関やアジア欧州会合(ASEM)を通じ、アジアの民主主義国家と欧州との協力関係を一層強化するとともに、「V4(チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア)+日本」、「NB8(北欧・バルト8か国)+日本」、「GUAM(ジョージア、ウクライナ、アゼルバイジャン及びモルドバ)+日本」など欧州域内の地域的枠組みとの協力を推進しており、新たに「日バルト協力対話」及び「西バルカン協力イニシアティブ」を提唱するなど包括的かつ重層的に欧州との関係を発展させている。

例えば、安全保障分野では、英国、フランス及びイタリアとの間では、具体的協力が進展しているほか、NATOとの間でも、10月にストルテンベルグNATO事務総長が訪日し、日・NATO間、さらには日米欧の連携を一層強化することで一致している。

ストルテンベルグNATO事務総長と握手する安倍総理大臣(10月31日、東京 写真提供:内閣広報室)
ストルテンベルグNATO事務総長と握手する安倍総理大臣(10月31日、東京 写真提供:内閣広報室)

このほか、欧州等から学生を招へいする「MIRAIプログラム」という人的・知的交流事業や講師派遣などの対外発信事業を積極的に実施している。こうした取組を通じ、欧州各国・機関との間で、政治、安全保障、経済、教育、文化、科学技術など幅広い分野で多様なチャネルを構築し、日本やアジアに関する発信や相互理解等を促進することにより、緊密かつ重層的な関係の維持に努めている。

1 欧州経済共同体(EEC)設立条約及び欧州原子力共同体(EURATOM)設立条約。1957年にベルギー、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ及び西ドイツによって調印された。

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