外交青書・白書
第4章 国民と共にある外交

4 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)の実施状況

ハーグ条約は、国際結婚が破綻した場合等の子の監護権(親権)に関する手続は、子がそれまで居住していた国で行うことが望ましいとの考えの下、国境を越えて不法に連れ去られた子を、原則として元の居住国に返還することを定めた条約である。また、国境を越えた親子の面会交流の機会を確保するために、各国が援助を行う義務についても定めている。

この条約は、2014年4月1日に、日本について発効し、同日、国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律が施行された。現在、日本を含め93か国がこの条約に加盟している。

この条約は、各国において「中央当局」として指定された機関が協力して運用されている。日本においては外務省が中央当局として、様々な分野の専門家を結集し、条約の実施のため外国中央当局との連絡・協力や、子の所在の特定、問題の友好的な解決に向けた協議のあっせんなどの当事者に対する支援を行っている。条約発効後2015年12月末までの21か月間に、外務省は、子の返還を実現するための援助を求める申請を76件、子との面会交流を実現するための援助を求める申請を92件、計168件の申請を受け付けた。

(参考)ハーグ条約の国内実施法に基づく外務大臣に対する援助申請の受付件数(2015年12月末現在)
  返還援助申請 面会交流援助申請
日本に所在する子に関する申請 40 69
外国に所在する子に関する申請 36 23

同じ期間に、外国から日本への子の返還が7件、日本から外国への子の返還が13件実現した。これらの中には、面会交流についての援助を契機に、中央当局による支援等の結果、当事者間の合意が成立するなどして、子の元の居住国への返還が実現した例も3件含まれている。

また、離れて暮らす親子がオンラインで面会交流する際に、面会交流支援機関の専門家がオンラインで立ち会い、必要な支援を行う「ウェブ見まもり面会交流システム」の導入や、裁判外紛争解決(ADR)機関等におけるあっせん人に対する日豪合同研修の実施(P239コラム参照)など、問題の友好的な解決及び円滑な面会交流の実施を促進するための措置を講じた。加えて、在外公館において、海外に在住する日本人に対し、ドメスティックバイオレンス(DV)被害者支援団体、弁護士、通訳・翻訳者、調停機関、面会交流支援機関の紹介が行えるよう情報の整理・収集を行うなど、提供できる支援の内容の充実に努めた。

このほかにも、この条約が広く周知されることで、国境を越えた子の不法な連れ去りが未然に防止されることが期待されていることから、セミナーや講演会を通じた広報活動にも力を入れている。

COLUMN
「ハーグ条約に関する日豪合同あっせん人研修」に参加して
弁護士高瀬 朋子

2015年9月7日から11日までの5日間にわたり、横浜で行われた外務省主催の「ハーグ条約に関する日豪合同あっせん人研修」に参加させて頂きました。

あっせんとは、当事者の間に入って両者間の話し合いを進めて解決を図ることをいいます。ハーグ条約に関する事案では、異なる国籍の両親が当事者となることが多く、そのような当事者間の話し合いを促進し解決を目指すためには、その間に入って話し合いを進めるあっせん人が、各当事者の国の文化、法律、社会を理解することが大切であるとして、この研修が実現しました。この研修には、日本から弁護士や家庭裁判所の調停委員等10名、オーストラリアから弁護士、裁判官、家庭裁判所職員等14名が参加し、互いの法律だけでなく文化や慣習などに直接触れながら理解していくことを目指し、5日間、朝から長い時には夜の9時まで一緒に過ごしながら切磋琢磨いたしました。

今回の研修は、ハーグ条約に関する調停の経験豊富なドイツ人の2人の調停人が講師となり、日本とオーストラリアの参加者らに互いに理解を深めさせるというユニークな取り組みでした。日本またはオーストラリアの一方が他方を指導するという形ではなく、第三者の主導で研修が行われたことで、参加者全体に連体感が生まれたと思います。

研修の内容は、双方の家族観・離婚した家族を取り巻く社会環境等の紹介から、あっせん時に使用する合意書や合意内容を実現させるための方法、言語の問題など実践的なものに関することまで、二国間にまたがる事案の解決に必要な要素に一通り触れるものでした。加えて、日本側参加者とオーストラリア側参加者が一人ずつ共同あっせん人となり、モデル事案の解決に向けてロールプレイにも取り組みました。ハーグ条約締結後間もない日本にとって必要なノウハウが詰まっており、非常に有意義な研修であったと思います。

この研修を基盤として、今後日本人とオーストラリア人の夫婦の間でハーグ条約に関する紛争があった時は、可能であれば双方の国のあっせん人が共同で話し合いを進めていく実践を積み上げ、将来的にはより多くの日本人のあっせん人が他国のあっせん人と共同して当事者間の解決を図る一助となることができるように次につなげていきたいと思います。

弁護士 高瀬 朋子
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