外交青書・白書
第4章 国民と共にある外交

3 海外移住者や日系人との協力

日本人の海外移住の歴史は2015年で147年となった。北米・中南米を中心として、全世界に約360万人(推定)以上ともいわれる海外移住者や日系人が在住している。移住者や日系人は、政治・経済・教育・文化を始めとする各分野において各国の発展に寄与するとともに、日本と各在住国との「架け橋」として各国との関係緊密化に大きく貢献している。

外務省は国際協力機構(JICA)と共に、約213万人(推定)の日系人が在住している中南米諸国において、移住者の高齢化に対応する福祉支援、日系人を対象とした日本国内への研修員受入れ、現地日系人社会へのボランティア派遣などの協力を行っている。

また、北米や中南米においては、各国・地域の様々な分野で指導的立場にいる日系人を日本に招へいするプログラムが実施されているほか、例えば日系人指導者と在外公館長との間で二国間関係強化の方法を話し合う会合を開催したり、日本からの要人訪問の機会に日系人との接点を積極的に設けるなどの取組を通じて、日系人との関係強化を図っている。

10月、東京において、17の国・地域から約180人の移住者や日系人の代表者を迎え、公益財団法人海外日系人協会の主催による第56回海外日系人大会が盛大に開催された。歓迎交流会には高円宮妃殿下が御臨席になったほか、外務省も岸田外務大臣が歓迎レセプションを開催するなど交流の深化に貢献した。

今後も移住者や日系人に対する支援を行うとともに、若い世代との協力を推し進め、これらの人々と日本の間の絆を強めていく考えである。

COLUMN
移住80周年を迎える「地球の裏側の日本」:南米パラグアイ
~現地新聞特集号が報じる日本の文化~
駐パラグアイ特命全権大使上田 善久

南米のパラグアイ共和国は、天然資源・観光資源・消費市場のいずれにも恵まれず、また日本から空路30時間以上もかかるためなじみの薄い南米内陸国ですが、全土が広大な平原と丘陵で、豊富な河川や緑に恵まれ、明るく開けた穏やかな雰囲気が漂っています。この国への来訪者が感じることは、地球の裏側という最も遠くに位置するにもかかわらず、日本の存在感が想像がつかないほど大きなことでしょう。これは、日本人移住者が、農業を始め各分野で経済発展に大きく寄与し、また日本からの各種の有形無形の支援資産が現在までパラグアイ随所に蓄積されてきたことによります。1936年に始まったパラグアイへの日本人移住は2016年に80周年を迎えます。

政府による移住事業とはいえ、当初は森林で覆われていた入植予定地をゼロから開拓し、牧畜しかなかった国に大豆・野菜・果物栽培など、現在のこの国の主要産業である農業を築き上げるのは並大抵の苦労ではなかったはずです。この短い歴史の中で、無人の森林を立派な農場と街に変貌させた日本人移住者の誠実さ、勤勉さ、忍耐力は現地社会の信頼や敬意を集めています。また、日本人移住者・日系人は今やパラグアイ社会の重要な構成員として都市部各界でも活躍しながら、その一方でなんら矛盾なく日本人としての共同体・言語・文化を維持しています。このような現地社会における信頼と敬意、そしてそのバイカルチャー性が、日系社会の独特の存在感を醸し出しています。

2015年、当国の2大主要新聞の別冊付録で日系人の活躍ぶりについて相次いで特集が組まれました。ヒト《移住者80年間の開拓史》(写真1)、文化《公邸の茶室や和食》(写真2:表紙写真は公邸の日本庭園と茶室での本使夫妻)、《会席料理の魅力》(写真3)、スポーツ《ピラポ移住55周年記念南米相撲選手権大会》(写真4)を主題としたそれぞれ数ページにわたる記事で、改めて日本人移住者の軌跡とこの国にもたらした価値観や文化を再認識しようとしたものです。

写真1:UH紙5月号【帝国からの贈り物】
写真1:UH紙5月号【帝国からの贈り物】
写真2:ABC紙7月号【日本の料理】
写真2:ABC紙7月号【日本の料理】
写真3:UH紙7月号【味覚の外交】
写真3:UH紙7月号【味覚の外交】
写真4:UH紙8月号【東洋の力】
写真4:UH紙8月号【東洋の力】

これらの記事から読み取れるのは、パラグアイ社会における日本人移住者への敬意や、茶道といった伝統文化からマンガ・アニメなどの若者文化に至る日本文化への高い関心であり、この国が、親日国という表現を超えた独特の親近感を抱く「地球の裏側の日本」ともいえることが感じられます。

記事の詳細は、在パラグアイ日本国大使館ホームページ《パラグアイ便り》で紹介しています。僅か1万人弱と、絶対数でも、人口比でも数少ない日本人移住者及びその子孫である日系人が、この国でどう位置付けられ、どう存在感を発揮しているのかを知っていただけると思います。

このページのトップへ戻る
青書・白書・提言へ戻る